警視庁の特別な事情2~優雅な日常を取り戻せ~

綾乃 蕾夢

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タイミング悪りぃ!

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「カエちゃんに会いに来たんだけどな」
 動揺を誘うように、拳を繰り出す合間合間にキバが口を開く。
「待ち伏せして驚かせてやろうと思ったのに、来たのがお前じゃ何の面白みもねえな」

 左側から襲う蹴りを上腕で受け止め、
「ぶつぶつうるせぇっ」
 睨みつけるキバの顔に拳を放つ。
 態勢を崩しつつも避けるキバが、サイドに距離をとった。

いっでっ」
 カウンターに背中をぶつけたキバは並ぶ写真立てを押し倒し、弾き飛ばす。
「やり合うには狭すぎるな」
 にらみつけるカウンターから、倒れた写真立てを手に取った。

「お。全部で5人だな。まだ見てねぇ顔がいるぞ。おっと、可愛いおねーさんがもう1人いるじゃん。よっ!」
 フローリングを蹴るイチに向かい、写真立てを続けて投げつけてくる。

 顔をかばい、写真立てを弾きながら放つ上段蹴りに、キバが身をひねりイチの開けたガラス戸に身体を向けた。

 キバには戦う気が見られない。逃げることに終始しつつも立ち去るのはためらっている。

 近づくパトカーのサイレンが気にならないはずはない。
 巽か、ジュニアを乗せた平野か。どちらにせよイチのマイナスになることはない。
 このまま逃したくはないが、倒れたままのせりかも気にかかる……。

「カエちゃんの顔を見てから帰りたかったな」
 ニマニマとふざけた笑みを浮かべるキバを睨みつける。
 カエとキバ。
 この2人の接触は絶対に避けたい。

「俺さ、昔からそうなんだけど、誰かが大事にしている宝物が無性に欲しくてたまらなくなるんだよね。
 取り上げられたときの相手の顔とか、目の前でそれを壊してやるあの優越感」
 キバの顔が恍惚こうこつに歪む。
「お前の大事なものは奪い甲斐がありそうだ」

「そんな事でっ」
 怒りを含んだイチの声もキバのモチベーションを上げるだけ。

 ガラス戸に手を掛けたキバが外を気にし出す。
「残念だけど、そろそろタイムリミットだな。カエちゃんによろしく」
 外に出ようとした身体が耳をすます。

 ローファーがアスファルトを蹴る音にキバの顔が笑い、イチの顔には影が落ちた。
「イチっ!」

(タイミング悪りぃ!)
 息を切らせたカエが、庭先に走り込んできた。
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