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ほい、お疲れさん
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Rロイヤルホテル。
全く覚えがねぇ
憮然とするイチの隣でジュニアが口を開く。
「2年前の5月10日だ。白凰会がRロイヤルホテルの一室でベレッタM92F拳銃を中心とした銃の取引をしていた。
16時48分、踏み込んで来た警官隊によって一斉検挙」
そこに居たのか。いや。おかしい
顔を見られていたなら、それなりの騒ぎになったはず。でも報告書は問題なく処理されていた。
「白凰会?」
スーツも訝しげな顔をする。
「あれ。別口?」
なんだこいつ。
ことごとく期待を裏切ってくれるこの2人には、いい加減嫌気がさして来る。
「話は後だ。車に乗れ」
銃を強調するようにカチャリと振って、足元に伸びている頭悪男に視線を落とした。
ここ。
まさに待っていた一瞬。
踏み込んだジュニアが、真正面から構えた銃を蹴り上げる。
「ほい。お疲れさん」
クルクルと回転しながら落ちて来る銃を、待ち構えていたイチがキャッチした。
「はっ。なんんっ」
ほんの一瞬の出来事。
目の前で、自分に起きた出来事が信じられない。
向けられた銃を蹴り上げるなんて。
「おっさん、これ撃ったことある?」
構えた銃を向け、指紋がつかないように制服のネクタイを摘まむと、銃身の後方部にある小さなツマミを下から真横に回す。
「ここが安全装置。今、解除しておいたから」
不用意には近づかない。
ジュニアもすでにイチの真横まで後退して来ている。
さっきのジュニアからの合図。
立てた親指と人差し指はもちろん銃を示していた。
最後に折った人差し指は、銃身からは弾が出ない。
つまり安全装置が解除されていない事を伝えていた。
「俺たちがなんの仕事請け負ってるか教えてやるよ。要人の暗殺。カッコイイだろ?
俺たちの顔、見ちゃったもんなぁ。銃は脅しの道具じゃねぇんだよ。抜いた以上はてめぇも責任持って命かけろ」
もちろん嘘。
だが無駄な大声は出さない。冷たい目で淡々と伝えて、目標を絞るように腕を伸ばす。
「ま。まっ、待ってくれ!」
「ばあぁぁん」
ジュニアの口から出る棒読みの発砲音。
ちょっと根性が悪いかな。と思いつつ、再びネクタイを使って安全装置を施錠すると、銃を下ろした。
「今まで他人に向けて来た恐怖を、ちょっとは味わったか?」
尻餅をついたスーツを見下ろして、イチが冷たく言い放つ。
(んー。やっぱりイチはこういう人種に一種の恨みみたいな物があるのかも)
ジュニアは、顔面引きつるスーツの目の前にちょこんと座り込むと、にこっと微笑む。
「話は後でね。車はこっちで用意するからゆっくり寝てて」
人差し指の関節を尖らせた拳で両脇からこめかみを突く。
ぐるっと白目を剥いたスーツがクタッと倒れ込んだ。
「へぇ。そんな事出来んだ」
「ふふぅん。ちょっと前にカエに教えてもらったんだ。もちろん実験台はカイリね」
「何やってんだよ」
楽しそうなジュニアに、イチはちょっと感心して損した気分になる。
制服のネクタイで、倒れた2人の手を拘束してから細い路地に押し込むと、ジュニアが巽のスマホに向けて電話をかけた。
全く覚えがねぇ
憮然とするイチの隣でジュニアが口を開く。
「2年前の5月10日だ。白凰会がRロイヤルホテルの一室でベレッタM92F拳銃を中心とした銃の取引をしていた。
16時48分、踏み込んで来た警官隊によって一斉検挙」
そこに居たのか。いや。おかしい
顔を見られていたなら、それなりの騒ぎになったはず。でも報告書は問題なく処理されていた。
「白凰会?」
スーツも訝しげな顔をする。
「あれ。別口?」
なんだこいつ。
ことごとく期待を裏切ってくれるこの2人には、いい加減嫌気がさして来る。
「話は後だ。車に乗れ」
銃を強調するようにカチャリと振って、足元に伸びている頭悪男に視線を落とした。
ここ。
まさに待っていた一瞬。
踏み込んだジュニアが、真正面から構えた銃を蹴り上げる。
「ほい。お疲れさん」
クルクルと回転しながら落ちて来る銃を、待ち構えていたイチがキャッチした。
「はっ。なんんっ」
ほんの一瞬の出来事。
目の前で、自分に起きた出来事が信じられない。
向けられた銃を蹴り上げるなんて。
「おっさん、これ撃ったことある?」
構えた銃を向け、指紋がつかないように制服のネクタイを摘まむと、銃身の後方部にある小さなツマミを下から真横に回す。
「ここが安全装置。今、解除しておいたから」
不用意には近づかない。
ジュニアもすでにイチの真横まで後退して来ている。
さっきのジュニアからの合図。
立てた親指と人差し指はもちろん銃を示していた。
最後に折った人差し指は、銃身からは弾が出ない。
つまり安全装置が解除されていない事を伝えていた。
「俺たちがなんの仕事請け負ってるか教えてやるよ。要人の暗殺。カッコイイだろ?
俺たちの顔、見ちゃったもんなぁ。銃は脅しの道具じゃねぇんだよ。抜いた以上はてめぇも責任持って命かけろ」
もちろん嘘。
だが無駄な大声は出さない。冷たい目で淡々と伝えて、目標を絞るように腕を伸ばす。
「ま。まっ、待ってくれ!」
「ばあぁぁん」
ジュニアの口から出る棒読みの発砲音。
ちょっと根性が悪いかな。と思いつつ、再びネクタイを使って安全装置を施錠すると、銃を下ろした。
「今まで他人に向けて来た恐怖を、ちょっとは味わったか?」
尻餅をついたスーツを見下ろして、イチが冷たく言い放つ。
(んー。やっぱりイチはこういう人種に一種の恨みみたいな物があるのかも)
ジュニアは、顔面引きつるスーツの目の前にちょこんと座り込むと、にこっと微笑む。
「話は後でね。車はこっちで用意するからゆっくり寝てて」
人差し指の関節を尖らせた拳で両脇からこめかみを突く。
ぐるっと白目を剥いたスーツがクタッと倒れ込んだ。
「へぇ。そんな事出来んだ」
「ふふぅん。ちょっと前にカエに教えてもらったんだ。もちろん実験台はカイリね」
「何やってんだよ」
楽しそうなジュニアに、イチはちょっと感心して損した気分になる。
制服のネクタイで、倒れた2人の手を拘束してから細い路地に押し込むと、ジュニアが巽のスマホに向けて電話をかけた。
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