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うちの正義の味方

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 2年2組の教室をぐるりと見回す姿に、正面から声がかかる。
「烏丸くん、遅い」
「由美ちゃん。長谷川は?」
 腰に手を当てカイリを睨みあげる由美が残念そうに続ける。

「ついさっき、杉山先輩に拉致ラチられた」
 一瞬考えたカイリが、思い当たらず由美を見る。
「生徒会の3年生。細身で背が高くて、勉強出来て信頼がある。
 烏丸くん。頑張んないと勝ち目無いわよっ」

(勝ち目? 普通にやり合ったら、そうそう負けはしないと思うけど。そんなにひ弱そうに見えるかな?)
 むしろ鍛え上げた肉体は、学生には立ち向かう気さえ起こさせないだろうが、勝ち目の論点がすでにズレている。

「長谷川が戻って来たら、送って行くから待ってろって伝えてくれる?」
 由美の忠告を意にも返さず、伝言を頼むと教室を後にする。
「いいけど。理加子が誰を選ぶかは理加子次第だからね」


 ###

 2年生の階から3年生の階に降りる奥階段の踊り場、クラス別の教室に近い中央階段に比べて人気が無い。
 てっきり教室前で済む用事と思っていたら、こんな所まで先導されて来てしまった。

 窓ガラスから入る午後の光を通して、背の高い杉山の影が伸びる。
「ゴメンね、こんな所まで」
「いいえ」
 小さく答えて、少し照れ臭そうにしている杉山の顔を見上げる。

(身長はカイリとさほど変わらないかしら)
 ただ、身体つきのいいカイリと比べると、細身の杉山はどうしても軟弱に映ってしまう。
(高校生ならむしろ、こっちが普通よね)
 イチにしろジュニアにしろ、あまり普通でない男性環境に思わず笑いそうになる。
 まぁ、そもそもの生活環境からして問題山積だったりするが。

「体育で倒れたって聞いて。大丈夫だったか、気になっちゃってさ」
 ズレてしまった思考を戻して目の前の杉山に意識を向ける。

(あの騒動は掘り返して欲しくないんだけど)
「もう大丈夫です。ちょっと睡眠不足だったのがよくなかったみたいで」
 にっこり笑って、
 心配かけてすみません。
 と続けるが、

 一刻も早くこの場を立ち去りたい。

 笑顔の裏で気が焦りだす。
 自惚うぬぼれと言われればそれまでだけど、今のリカコにとってはこのシュチュエーションは遠慮願いたい。

 今は何よりも大切な物がある。
 カエ、カイリ、イチ、ジュニア。
 ここを守りたい。

(カエちゃんも私も、仕事をするからこそ養父母の所でお世話になってる。カイリ達だって、寮を与えられている。
 恋愛事に興味が無いわけじゃないけど、今の私じゃキャパシティ・オーバーだわ)

「頑張り過ぎな所あるからね、長谷川さんは。あんまり抱え込まないで、気を付けて休まないとダメだよ」
 微笑んでくれる顔に、この先輩が慕われる様子がよくわかるのだけど……。

 その顔がフッと引き締まる。
「その頑張りが心配だから、今日の帰りは送らせてくれないかな? その、出来ればこれからも……」

 パタパタパタパタ。

 唐突に、階段を駆け下りてくる音がして会話が中断される。

 その勢いの良さに、少し角に寄って場所を空けようとして、階段から出てきた顔に驚かされた。

(カイリっ)

「お。いた」
 リカコの顔を見て、そのまま話し出す。
「今日倒れただろ? 送って行くから用意しておけよ。教室で待ってるからな。
 じゃあ、失礼しました」
 最後の一言は先輩の杉山に向けて、一礼をして嵐の様に過ぎ去って行った。

「……えぇぇと」
 残された杉山が呆然と呟く。
(あっ)
「すみません。そういう事・・・・・なので」
 ぺこりと頭を下げて、リカコも足早にその場を去る。

(そういう事って、どういう事かしら)
 苦笑いで自分にツッコミを入れる。
 確実に勘違いされただろうが、今はとりあえずよし。
(極々まれに、満点の登場をするのよね。うちの正義の味方)
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