Formalisme──A Priori

朝倉志月

文字の大きさ
上 下
15 / 51
溽暑

2.

しおりを挟む
 経済雑誌の世襲の社長特集。

 写真でもわかる身仕舞のよさ、見間違えるはずがない。

 片桐秀貴。名はひでたか、か。明治から続く背広屋の、世襲社長四代目。ベンチャー系じゃあないとは思ってた。幾ら金をうならせたって、あんな物腰は一朝一夕には身に付くものじゃない。教育と、多分歴史しか磨き上げることのできない洗練。

 別にあいつ自身に興味があるわけじゃない。飛ばし読みしないで、一人一人、七光り社長の経歴やらコメントやらを、記事の最初からじっくり読んだ。

(当たり前だけど、世襲社長全員が目ぇ剥くような美男子ってわけでもないな)

 ───なんてくだらないことまで考えながら。

 途中で一旦戻った綿貫が鞄の中のファイルを取り出しながら片手で「悪い」と拝むのに、気にするな、と手を降って見せて、奴の記事に目を落とす。

 世襲社長も色々でやたら手を広げてビジョンを売りにする奴や、隠し切れない傲慢さを覗かせる中で、唯一人、将来の夢を諦めて、莫大な負債を抱えた会社を継いだ……。

 写真はそんなに大きく無いけど、何人か特集されているうち、一人だけ説明会だかの全身写真と、足先まで映った座り写真が入って、他の社長たちより写真が二枚多い。カメラマンか、編集者か───多分両方が視覚の誘惑に負けたんだろう。

「は。悪目立ちしてやんの」

 借金で。そう言う前に、自分の声の力無さに驚いた。

「わっり~。石澤っち、ホントわりぃ」

 綿貫が騒々しく帰ってきた。

「何だ。おまえのビールは抜ける前においしく飲んどいてやったぞ」

 空のジョッキを顎で指す。

「あ、ひでえ。
 ───おネエさん、お冷やちょうだい」

 二人分入れてくれたのを、両方とも一息で飲み干した。

「オレちょっと行かなきゃいけなくなってさ」

「ほー。で、気の毒な友人を放り出して行くから謝ってたわけか」

「ホント悪い。今度改めて奢るから」

「今日もお前持ちな」

「しっかりしてるよな。……そのつもりだったけどよ」

 綿貫がぐるりとテーブルを見渡して───俺がちゃんと食ったのか確認したらしい───立ったまま伝票を手にする。

 こちらも相手に合わせて立ち上がって、あ、と気付いたふりで。

「これ、面白いな。もう読んだ?」

 さり気なく、気負い無く。

「いや、まだ。けっこうつまんない月もあるんだけどな。こっちは読んだけど、それはさっき買ったばっか」

 自分でも意外な程がっかりした。ちょっと譲り受けづらい。

「どこで売ってる?」

「あ、やるよ。今日のお詫び」

「やっすい詫びだな。いいよ、おまえも読んで、ちゃんと学べ」

 まあまあ、と押し付けられて。

 ───苦虫を噛み潰すふりをして受け取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

昭和から平成の性的イジメ

ポコたん
BL
バブル期に出てきたチーマーを舞台にしたイジメをテーマにした創作小説です。 内容は実際にあったとされる内容を小説にする為に色付けしています。私自身がチーマーだったり被害者だったわけではないので目撃者などに聞いた事を取り上げています。 実際に被害に遭われた方や目撃者の方がいましたら感想をお願いします。 全2話 チーマーとは 茶髪にしたりピアスをしたりしてゲームセンターやコンビニにグループ(チーム)でたむろしている不良少年。 [補説] 昭和末期から平成初期にかけて目立ち、通行人に因縁をつけて金銭を脅し取ることなどもあった。 東京渋谷センター街が発祥の地という。

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

処理中です...