逆転!? 大奥喪女びっち

みく

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【新妻編】

127 初夜の身支度

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 ――半刻後……。


「あぁ……、もぉ……」


 ガラッと、木の戸が開き、ぐったりした様子の家光が出て来る。


「家光様……。ご無事で御座いますか……?」

「うん……痛いのもあったけど……、六割気持ち良かったから……、はぁ……」


 ――ああ、振ちゃんの優しい笑顔、癒されるぅ……。


 振が心配そうに優し気な笑顔で窺って来るので、家光は弱り目で微笑み返した。


 全身隈なく最終チェックっていったい何なのさ……。
 なんで私があいつなんかの為に身体を磨く必要があるの……!?


 ――どうせ部屋なんか暗いんだからわかるわけないじゃん!


 家光は最終確認として、今朝取り零したムダ毛を引っこ抜かれ、血流の良くなるマッサージを受けていたのだった……。


「そうですか……」


 不謹慎にも家光のぐったりした様子が艶めかしく見え、振の鼓動が強く跳ねる。


「振ちゃん、お部屋に戻ろう……。身支度しなきゃ」

「はい、家光様」




 陽は少し傾き始めていた。









 部屋に家光を送り届けると、振は会釈して去って行った。
 振は湯浴みの案内の為に来ていただけだったのだが、部屋へと戻る間に家光は会話を楽しみ、彼女は彼の柔らかな雰囲気に癒されすっかりリラックスしたようだ。

 家光が自室に入ると、いつの間にか月花が戻っており、化粧道具を出して待っている。
 部屋の奥には今夜着る真っ白な寝間着が衣桁に掛けられていた。






「ふぅ……、えっと、で、何だっけ……?」

「ですから、御伽坊主と御添寝役ですっ」


 家光は月花に薄化粧を施されながら、ちらと衣桁に掛けられている寝間着を見やる。


 ――なんかめっちゃ艶々した着物ね……。


 今まで寝間着など浴衣や襦袢で代用していたのだが、将軍ともなると専用の寝間着があるのだなと感心してしまった。
 衣桁に掛けられている寝間着は光沢のある生地で出来ているようだ。


 ――あれ、絹じゃないの……?


 なるほど、将軍の寝巻は最高級品なんだなと、気持ち良く眠れるなら拘りなどない家光はなるべく初夜のことを考えないように努める。


 が。


「御伽坊主と御添寝役ね……。あー……福が言ってたやつね……」


 月花の言葉に“昨日、福がそんなことを云っていたな……”と嫌でも思い出してしまった。

 なんということだろうか、将軍の閨事は監視される……。
 現代にそんなシステムがあっただろうか。

 既婚友達の同居姑が壁越しに聞き耳を立てている……なんてことを聞いたことはあるが、さすがに衝立の左右向こう側に添寝する人間がいるというのは……。


 ――うん、悪趣味だな……!


 それだけで、家光のテンションはだだ下がりである。


「あ、嫌そうなお顔ですねえ……」

「そりゃあ……ね……。二人きりでさえ恥ずかしいのに、誰かの監視の下そういうことするのって……普通に頭おかしいでしょ……」


 家光は羞恥にぽっと頬を染め、顔を両手でもって覆ってしまう。
 以前なら平気で人前で脱ぐことも厭わなかった彼女が、今や話だけで頬を染めるようになってしまっていた。

 ある種催眠術に掛かっていたと言ってもいいのだろう、“しゅ”とは恐ろしいものである。


「家光さまは将軍でございますからねぇ……。きちんと事がなされたのか確認するためにも必要みたいですよん」


 月花は家光に同情しつつ化粧を終えると、今度は彼女の浴衣を脱がせていく。


「……マジか……。気持ちはわからなくもないけど……つまり、ドMじゃないと耐えられないってことね…………っ……(真っなんですけど……)」


 ――ブラもパンツもどこいった……!?


 家光は慣れているとはいえ、月花に浴衣を脱がされ ほんのり頬を染めていた。
 普段はお手製のブラに紐パンを穿いているというのに、今は湯上り。
 湯殿に下着を持って行くのを忘れた為に浴衣の下は素っ裸なのである。

 ここが湯殿ならばともかく、一方的に脱がされ裸を見られるのは同性同士でも恥ずかしい家光であった。

 そもそも京都から戻ったばかりで、大奥から中奥に引っ越しが完了していようとは思わず、自分の作った下着類は一体どこに仕舞ってあるのか。

 後で月花に捜索を頼もうと思った家光だった。


「どえむ? 何ですか?」


 ――はぁ……家光さまの肌は玉のお肌やなぁ……。ムダ毛一つあらへんわぁ……。


 女である月花から見ても、家光の身体は魅惑的だった。
 家光の裸体を眺め小さな溜息を漏らし、月花は衣桁から寝間着を外して家光の腕に袖を通していく。


「マゾヒズム。被虐性欲ってやつよ……。肉体的、精神的苦痛を与えられてそれを性的興奮や快感に変えちゃうっていう……。そういう人は追い詰められれば追い詰められる程、気持ち良くなったりするみたい」

「あら……。家光さまがそうなのですか?」


 袖を通し終えた家光が両腕を水平に保ちながら月花に説明すると、彼女は帯を締めつつ訊ねていた。


「えっ!? な、何で!? したことないし、わかんないよっ!?」


 急に狼狽える家光。
 経験が無いのだから、わかるわけなどない。

 今はむしろ嫌悪感が強い。


「そうですか……。家光さまもそうだったら、宜しかったなと思っちゃいました。私なら監視されてなんて絶対っ!! ぜぇーーったい! イヤですもんっ!!」


 ――同情するわぁ、家光さま……。


 月花は家光の性的趣向が所謂“ドM”であるならば、監視もまた喜びになるのではと思ったのだった。


「月花……あのね……」

「……頑張って下さいませっ!」

「が、頑張るものなのかな……(って、今日は逃げる予定だけどね……!)」


 きゅっ、と帯を締め終え月花が晴れやかな笑顔を家光に送ると、家光は苦笑いを浮かべる。




 それから四半刻もしない内に、迎えの者がやって来て襖を叩く。


「……あ。正勝! 白橿しらかし!」


 自室の襖を開けると、家光を迎えに来た正勝と白橿の両名が家光の姿を見るなり座礼をしていた(二人共白い着物を着ている)。
 それと薄暗くなった為、灯りを持つかみしも姿の女が二人立っている。


「家光様、今宵、御添寝役を仰せつかった稲葉正勝でございます」

「家光様、今宵、御伽坊主を仰せつかった白橿にございます」


 二人は首を垂れたまま、家光の声が掛かるのを待っていた。


「うん、よろしくね。二人共、顔を上げて立って頂戴」

「はっ……、では……」

「はい……」


 正勝と白橿が顔を上げると立ち上がる。
 正勝が何だか余所余所しい気がしたが、まあ、それは後でいい。家光は随分久しぶりに会った乳母、白橿に目を細めていた。
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