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【新妻編】
124 ガールズトーク
しおりを挟むああ、家光様……!!
あなたは天女のようです……!
正勝の心の声が口を衝いて出そうになる。
「正勝……? ぼーっとしてどしたの……?」
おーい! と家光が正勝の前で手を振り振りするも、正勝はぼぅっとしたまま、ただ立ち尽くしていた。
「おーい! ……ダメだ、何か電池切れ起こしたみたい」
急に何があったの……。
家光は目を瞬かせ、どうする? とチラッと月花を見やった。
「……家光様、そろそろ御着替え致しましょうか(でんちぎれって何やろ……?)」
二人のやり取りを見守っていた月花ではあったが、彼女には彼女の仕事があるので正勝にずっと付き合っては居られず、そろそろ切り上げることにしたようだ。
「あ、うん、そだね」
「……正勝さま、そろそろ家光様を休ませて差し上げたいんですけど……(堪忍してや~!)」
月花は家光の手を引いて、部屋へと向かう。
と、
「あっ! 家光様っ! こちらをお持ちになって下さい!」
正勝は“はっ”と我に返って、家光の手に紅の容器を持たせた。
「あ、うん、ありがとう! じゃあ、また夜に!」
「はい! お酒をご用意してお待ち致しております!」
眩しいくらいの愛らしい笑顔で去る家光に、正勝も満面の笑みを返し、二人は別れたのだった。
◇
「……家光様、今宵は初夜で御座いますねぇ!」
「っ、何よ月花、やに嬉しそうね……」
部屋に入るなり月花が家光の白無垢を脱がせながら、今夜の話をし出す。
その瞳はきらきらと煌めき、興味津々の様子である。
「家光様は初めてで御座いましょう?」
「うっ、どうせ生娘ですよ……っていうか月花は経験あるの……?」
「はい」
家光の問い掛けに月花は口角を上げあっさりと肯定する。
「えぇっ!? 本当に!? いつ!?(そんなさらりと返事しちゃって……!)」
月花の答えに驚き、家光は大きな声を上げてしまった。
「……初めては痛いですよー……、まぁ、お相手次第なとこもあるんで上手なお相手なら慣らしてくれるのでそこまで痛くもないかと。私の場合は訓練も兼ねてたんで無理やりされちゃって痛かったですけど」
「……訓練て……、……月花ちゃん、あなた苦労してるのね……」
無理やりって……レイプじゃんっ!
それ、犯罪だよ!?
家光は脱がした白無垢を衣桁に掛ける月花の背を何とも言えない瞳で見つめる。
いつも明るい月花に、そんな過去があったとは思いも寄らなかった家光だった。
「はは……、敵地脱出の訓練中にちょっと……。ほら、私って可愛いじゃないですかぁ。忍びの里で結構人気があって……ですね。いやぁ~、盛りの付いた若い雄っていうのは見境なくて嫌なもんですよね~」
はははと、月花は目を細める。
古傷を抉るような事を聞いてしまったにもかかわらず、月花の顔は笑顔のままで、嫌な表情一つ見せる事はなかった。
きっと傷ついている筈なのに、そう訓練されているのだろう。彼女は笑顔で家光の長襦袢を脱がせていく。
(あ、これ聞いちゃいけなかったかも……!)
家光は月花を友達のように思い接してはいるが、月花からしたら家光は主君なわけで、家光の質問に答えないわけにはいかなかったのだと、月花の言葉で今、気付いてしまった。
「……月花ごめんね、嫌な事訊いたね。私無神経だったわ」
「なんのなんのっ! いいんですよぉ~! そいつ結構いい男だったんで!」
謝罪の言葉を家光が口にすると、月花は“てへっ!”と可愛く舌を出した。
そういや月花もイケメン好きだった……!
イケメンとなら良かったっていうの……!?
そうは思えないんだけど……。と家光は肌襦袢を脱がされながら月花の様子を眺める。
「あっ、そうなんだ……。けど、好きでもない相手となんて嫌じゃなかったの……?」
「んーー……。私好きな人っていなくってぇ……、そういうの、わかんないんですよね~。もう生娘でもないですし、今更どうでもいいかなぁ~」
月花は質問に答えつつ、「はい家光様、浴衣を着ましょうね~!」とにこにこしながら家光の肌に浴衣を羽織らせた。
「っ、ドライだね……」
「どらい? 何ですかそれ。ふふっ、家光様って本当、面白い! ……あっ、私の好きな人居ました!」
「ん?」
「家光さまっ! 大好きですよん☆」
「……ありがとう、月花。私も月花が大好きだよ」
「うふふ、私達相思相愛ですね! 正勝さまが知ったら私殺されちゃいますねぇ~!」
婚礼衣裳苦しかったでしょうから、浴衣の帯は少し緩めにしておきますね~。と月花は家光の身体に帯を巻き付けていく。
「え? 何で?」
「え? 何で?」
家光が首を傾げると、月花も同じ方向へと首を傾け、二人は顔を見合わせた。
「女同士の友情なんだし、正勝は関係ないでしょ……」
「ぁ、あ~……、え~っとぉ~……、…………、…………そうですよねぇ~!」
正勝さまお可哀想に……。
月花は帯を締めながら、化粧箱の上に置いた正勝から贈られた紅につい視線を移した。
あのような化粧目的でない特殊な紅は今までに見たことがない。
家光の為に拵えた特別なものなのでは……?
と、月花が推察すると正勝の愛は家光が将軍になっても、結婚しても変わらないのだと感心したのだった。
正勝は一途に家光を想っているというのに、当の本人はそれに気付く気配がない。
正勝の事は、嫌いではない筈なのだが……。
「……月花」
「はい、あ、着付け終わりましたよ~!」
「私はさ? 初めてはその……、さ? その…………」
家光は化粧落としの準備をする月花を呼び止め、ごにょごにょと何か言い辛そうに口篭もる。
「はい……? 何ですか?」
「初めては好きな人としたいな~って思ってるんだよね……。ほら、これから世継ぎを生まなきゃいけないから、側室とかも迎え入れるじゃない……?」
月花は家光に呼び止められ一度手を止めたものの、高温の湯と水を継ぎ足し、微温湯を桶に作るとそれに手拭いを浸した。
「はぁ……、まぁ、そうですよね……。家光様の一番の御仕事ですもんね」
「そうなのよ……。子作りが仕事とかマジ勘弁して欲しいんだけどね。でも私が産まないと徳川幕府が終わってしまうから、そこは受け入れてるのよ。たださ~、やっぱり初めては、ねぇ……」
ちゃぽん。
ちゃぽちゃぽ……、と月花が手拭いを桶から出し搾っていく中で、家光は腕組みしながら、眉間に皺を寄せていた。
「え……? でも、今夜……」
「っ、ここだけの話だけどさ……、……月花、ちょっと耳貸して」
「あ、はい……?」
手拭いを搾り終えやってくる月花を捕まえ、家光はこそこそと、今夜の計画を話したのだった……。
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