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【上洛の旅・窮地編】
051 救世主現る
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たかって、何だっけ?
頭の中がぐるぐるする。
考えが全く纏まらない。
昨日より酒の量は少ないし、眠くも無い。
けれど、脳が考えるのを拒否している。
というか、さっきから手足に全く力が入らないんですけどー!?
何コレ、怖っ!!
家光は恐怖を感じ始め、何とか思考を纏めることに努める。
「……お前って本当、可愛い顔してるよなぁ……昔お前のこと、あ、さっきもか、醜女って言って悪かったな、あれはその……照れ隠しだ」
孝が優しく髪を解きながら見つめてくるが、家光は孝を認識出来ていないようで、この人誰だったっけと記憶の中を探す。
「孝」
そうだ、孝だこれ! と、自分の浴衣を脱がそうと(というかもうほぼほぼ開けてる)している孝の顔が記憶の断片と一致する。
「ん?」
孝は首を傾げて、家光の眼が真っ直ぐに自分を見ていることに気付く。
「っ……何してるっ!?」
声はかろうじて出せるようなので、家光はなるべく大きな声で怒鳴るが、その声は普段より響かなかった。
「あ、気付いたのか、大丈夫だ、照れなくても俺に任せておけば、心配ないから」
孝は自分の浴衣の袖から両腕を抜き襟を緩めて上半身裸になる、家光の両股を挟むように膝を褥につけると覆い被さった。
「やめてっ!」
(ちょっと待って! 何この超展開!!
ついていけないんですけどっ!!
そりゃ、あんたは私の旦那になるんだからこういうことにいつかはなるんだろうけど、それは今じゃないんじゃない!?)
現状を把握した家光の頭は混乱した。
「何言ってんだ? お前俺の妻になるんだろ?」
家光を跨いだままの格好で孝は上体を起こす。
「やだやだやだーっ!! イケメンで嬉しいけどでもやだー!!」
手足が動かないので開かれた胸を隠すことも出来ない家光は形のいい胸を僅かに震わせながら叫ぶ。
「嬉しいならいいだろうが、何言ってんだお前……ほら、優しくするから」
孝は再び家光に覆い被さると、ちゅっと、首筋に唇を宛がい、軽く吸い上げた。
「うっ! ひっ……! くすぐったぃ!!」
手足が動かないだけで、きちんと感じることが出来る身体はびくりと反応してしまう。
「……っ、あ、あの酒! 何飲ませたのよっ!?」
抗議する家光の手足の指先が僅かに動く。
思考が安定してきたお陰か、薬が切れ始めたのか、手足に少しだけ力が入るようになってきた。
家光は目線を仰向けのまま見えない動かない手へと向ける。
「ん? あー、そういや効き目短いんだっけ……そうだ」
家光の目が手に注がれたのを見逃さなかった孝は、何か思いついたように取り去った家光の帯を手にすると、家光の手元を見る。
「な、何するつもり!?」
孝の目付きが怪しく光り、家光の顔に怯えた表情が現れる。
そんな家光に気付くことも無く孝は彼女の両手を取ると、その手首に帯を巻き始めた。
しゅっ、しゅっ、と幾重にも手首に帯を巻きつけると、外れないようにきつく結ぶ。
「これでよしっと……悪い、俺、お前見てるとたまらない」
孝が満足気に微笑んで、結ばれた手の甲に軽く口付ける。
「っ、痛いっ!! 帯、痛いってば!! きつく縛り過ぎ!」
両手を頭上に縛り上げられ、家光の顔が引き攣る。
「邪魔されたくないんだ」
家光の額や首元から汗が噴出し、孝はそれに吸い付くように口付けを落とした。
家光の汗からフェロモン的何かが出ているのか、孝は操られたように何度も何度も家光の肌に口付けを落としていく。
「っ、ちょ、冗談でしょ、ホントにするつもり!? っていうか、目ぇ据わってる!! 嫌っ!! っつうっ!!」
家光が抗議するも、今度は家光の脇を舐め上げるのだった。
「ん、ちょっとしょっぱいな。夏だもんな」
薄ぼんやりした灯りの中、孝の舌がぬらぬらと輝いている。
何かに取り憑かれたような爛々とした熱い目付きで家光を見つめる。
「ヒーッ!! あんたそんなキャラなんかいぃぃ!!!」
ぞわぞわとした感触に涙目で家光は叫ぶと、先程よりも更に足に少し力が入って来た気がした。
(いや、確かに孝はイケメンで色っぽいとは思うよ、でもね、今しなくてもいいと思うんだ! 心の準備ってものが!)
喪女時代など思い出す暇も無く、必死で足を動かそうと力を込める。
「なぁ、家光、俺は素直じゃないと思う」
「いや正直者だと思いますがっ!! んんっ!!」
家光は抗議するが孝に顎を掴まれ無理やり自分の唇に孝の熱く火照った唇が重なる。
(欲に忠実、ってか素直過ぎじゃないかー!!)
重なった唇から孝の熱い舌が滑り込み、家光の口腔内を這いずり回る。
歯列をなぞって拒否して奥に引っ込めた舌を強引に絡め取られ、頬の内側を擦って、犯され、侵食されていく。
時々唇を汲まれたり、つんつんと舌を突かれたり、また舌を絡めたり。
ちゅ、くちゅっと普段聞きなれない水音が部屋に響いて、家光の頭がぼうっとしてくる。
気持ちが悪いわけではない、それでもやはり受け入れる気持ちがないのか、家光の瞳から涙の粒がぽろぽろと零れた。
「うううんんっ、んはっ……んう……」
「……うん、甘い」
「や、やめてよもっ、っ……!」
孝が執拗に家光の唇を弄びながら、その内抵抗の度に揺れるたわわな果実に触れる。
「っ、んんっ!! やだっ!! っうっ、痛いっ!!」
「柔らけー……」
ぎゅうっと、孝が乱暴に果実を一掴みして家光が痛がる中、孝は触れた胸の柔らかさに感動し、それに触れた自分の手を見下ろす。
そして再び乳房に触れようとすると、家光は激しく抵抗をするように身を捩った。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
家光は混乱気味に連呼し、その数だけ頭を振る。
「怖いだけだろ? 大丈夫だって優しく……」
上体を起こし、孝は家光を見下ろし、再び触れようと柔らかな果実に手を向けた。
「嫌だっ!!」
涙目で抗議する家光に、孝はふと気付く。
(あれ? 家光が泣いてる。照れてただけじゃないのか? ……俺が泣かせてるのか?)
孝はふと立ち上がり家光から離れ襖の方に向かう。
「……なぁ、家光嫌がってるのか?」
「そんなことないですよ、初めてできっと緊張しているのでしょう」
「だよなぁ……あいつ素直じゃないし」
「ふふっ、孝様と似てらっしゃいますね」
襖越しに先程の従者が居るのか二、三言交わすと、家光の元に戻るが、家光は自由にならない足で反対側へと逃げ出そうとしていた。
「あっ、おい、大丈夫だって」
孝の声に振り返ると、家光の瞳には絶望の色が差していた。
「これのどこが大丈夫なのっ、ふざけろぉ!!」
家光は這うようにして何とか逃げようとしてはいるが、手首は縛り上げられ、足も感覚は戻り始めていたものの痺れているような感覚に陥っているからかあまり進まなかったため、反対側の襖にたどり着くまでに孝に追いつかれてしまう。
「そこじゃ背中痛いだろうが」
まだやる気らしいのか、孝は褥に戻そうと家光を追う。
「やっ!! まさかつぅ、助けてよぅ……正勝――!!」
孝が這い蹲る家光に手を掛けようとした刹那。
がたがたがたっ、ばたんっと、遠くで襖が倒れる音が聞こえ、次々に同じ音がし始める。
途中寝入っていたであろう人々の叫び声も聞こえる。
それが段々とこちらに近付いて来る。
「ん? なんだ?」
その音は家光が目指す襖に向かっていて、ついには目の前まで。
ばんっ、ばきっばりばりばりばりっ。
和紙と木の骨組みが壊される音が聞こえる。
刀の切っ先が二人の目の前の襖を斜めに裂いていく、木の継ぎ目を引っかきながら。
重く、重く、深くそれを裂いていった。
「失礼いたしますっ!!」
襖が裂かれた向こうから、普段柔和な瞳をしているはずの正勝が見たことも無い鋭い目と形相で、刀を振り上げ立っていた。
「……ま、まさっ」
家光は正勝の姿を確認すると、縋るように少しずつ這って近付く。
「家光様っ」
正勝は家光の姿を確認すると刀を素早く納め、自分の足元に縋る家光をしゃがんで抱き起こした。
「……おま……」
孝はあまりのことに呆気に取られたまま動けない。
無理も無い。
襖の奥は他の部屋が幾つかあるのだが、この部屋まで一直線で突っ切って来たのか、全ての襖が壊されていた。
「……孝様、申し訳ありませんが、本日家光様はお疲れのご様子ですので連れて行きます、構いませんよね?」
正勝の背後に何やら近寄ることのできない雰囲気が感じられる。
「……あ、ああ……」
正勝の纏うどす黒いオーラに呑まれたのか、孝は動けなかった。
「さ、家光様、参りましょう」
「ん」
泣き腫らした顔で、怯えた視線で孝をちらりと見ると、家光は正勝にくっつく。
その身体は僅かに震えていた。
「……ちょっと失礼しますね」
家光の様子を見て正勝は乱れた浴衣の前身頃をさっと合わせて、家光を軽々と肩に持ち上げる。
「わっ!」
そのまま正勝は家光を担いでさっそうと部屋から去っていったのだった。
部屋には呆然とする孝と、何事かと駆けつけ襖を開けた従者が残った。
「……あれ? 俺、悪者?」
「……失敗したようですね」
ふぅと、従者は孝を見て苦笑いを浮かべるのだった。
こうして、家光の操は守られたのであった。
ちなみに、正勝が刀を振り翳してはいたが、主に襖をぶった切っただけなので怪我人はゼロである。
おそらく正勝の腕の方が痛く、刀は刃毀れしていることだろう。
それよりも、襖は誰が弁償するんだろうか……。
頭の中がぐるぐるする。
考えが全く纏まらない。
昨日より酒の量は少ないし、眠くも無い。
けれど、脳が考えるのを拒否している。
というか、さっきから手足に全く力が入らないんですけどー!?
何コレ、怖っ!!
家光は恐怖を感じ始め、何とか思考を纏めることに努める。
「……お前って本当、可愛い顔してるよなぁ……昔お前のこと、あ、さっきもか、醜女って言って悪かったな、あれはその……照れ隠しだ」
孝が優しく髪を解きながら見つめてくるが、家光は孝を認識出来ていないようで、この人誰だったっけと記憶の中を探す。
「孝」
そうだ、孝だこれ! と、自分の浴衣を脱がそうと(というかもうほぼほぼ開けてる)している孝の顔が記憶の断片と一致する。
「ん?」
孝は首を傾げて、家光の眼が真っ直ぐに自分を見ていることに気付く。
「っ……何してるっ!?」
声はかろうじて出せるようなので、家光はなるべく大きな声で怒鳴るが、その声は普段より響かなかった。
「あ、気付いたのか、大丈夫だ、照れなくても俺に任せておけば、心配ないから」
孝は自分の浴衣の袖から両腕を抜き襟を緩めて上半身裸になる、家光の両股を挟むように膝を褥につけると覆い被さった。
「やめてっ!」
(ちょっと待って! 何この超展開!!
ついていけないんですけどっ!!
そりゃ、あんたは私の旦那になるんだからこういうことにいつかはなるんだろうけど、それは今じゃないんじゃない!?)
現状を把握した家光の頭は混乱した。
「何言ってんだ? お前俺の妻になるんだろ?」
家光を跨いだままの格好で孝は上体を起こす。
「やだやだやだーっ!! イケメンで嬉しいけどでもやだー!!」
手足が動かないので開かれた胸を隠すことも出来ない家光は形のいい胸を僅かに震わせながら叫ぶ。
「嬉しいならいいだろうが、何言ってんだお前……ほら、優しくするから」
孝は再び家光に覆い被さると、ちゅっと、首筋に唇を宛がい、軽く吸い上げた。
「うっ! ひっ……! くすぐったぃ!!」
手足が動かないだけで、きちんと感じることが出来る身体はびくりと反応してしまう。
「……っ、あ、あの酒! 何飲ませたのよっ!?」
抗議する家光の手足の指先が僅かに動く。
思考が安定してきたお陰か、薬が切れ始めたのか、手足に少しだけ力が入るようになってきた。
家光は目線を仰向けのまま見えない動かない手へと向ける。
「ん? あー、そういや効き目短いんだっけ……そうだ」
家光の目が手に注がれたのを見逃さなかった孝は、何か思いついたように取り去った家光の帯を手にすると、家光の手元を見る。
「な、何するつもり!?」
孝の目付きが怪しく光り、家光の顔に怯えた表情が現れる。
そんな家光に気付くことも無く孝は彼女の両手を取ると、その手首に帯を巻き始めた。
しゅっ、しゅっ、と幾重にも手首に帯を巻きつけると、外れないようにきつく結ぶ。
「これでよしっと……悪い、俺、お前見てるとたまらない」
孝が満足気に微笑んで、結ばれた手の甲に軽く口付ける。
「っ、痛いっ!! 帯、痛いってば!! きつく縛り過ぎ!」
両手を頭上に縛り上げられ、家光の顔が引き攣る。
「邪魔されたくないんだ」
家光の額や首元から汗が噴出し、孝はそれに吸い付くように口付けを落とした。
家光の汗からフェロモン的何かが出ているのか、孝は操られたように何度も何度も家光の肌に口付けを落としていく。
「っ、ちょ、冗談でしょ、ホントにするつもり!? っていうか、目ぇ据わってる!! 嫌っ!! っつうっ!!」
家光が抗議するも、今度は家光の脇を舐め上げるのだった。
「ん、ちょっとしょっぱいな。夏だもんな」
薄ぼんやりした灯りの中、孝の舌がぬらぬらと輝いている。
何かに取り憑かれたような爛々とした熱い目付きで家光を見つめる。
「ヒーッ!! あんたそんなキャラなんかいぃぃ!!!」
ぞわぞわとした感触に涙目で家光は叫ぶと、先程よりも更に足に少し力が入って来た気がした。
(いや、確かに孝はイケメンで色っぽいとは思うよ、でもね、今しなくてもいいと思うんだ! 心の準備ってものが!)
喪女時代など思い出す暇も無く、必死で足を動かそうと力を込める。
「なぁ、家光、俺は素直じゃないと思う」
「いや正直者だと思いますがっ!! んんっ!!」
家光は抗議するが孝に顎を掴まれ無理やり自分の唇に孝の熱く火照った唇が重なる。
(欲に忠実、ってか素直過ぎじゃないかー!!)
重なった唇から孝の熱い舌が滑り込み、家光の口腔内を這いずり回る。
歯列をなぞって拒否して奥に引っ込めた舌を強引に絡め取られ、頬の内側を擦って、犯され、侵食されていく。
時々唇を汲まれたり、つんつんと舌を突かれたり、また舌を絡めたり。
ちゅ、くちゅっと普段聞きなれない水音が部屋に響いて、家光の頭がぼうっとしてくる。
気持ちが悪いわけではない、それでもやはり受け入れる気持ちがないのか、家光の瞳から涙の粒がぽろぽろと零れた。
「うううんんっ、んはっ……んう……」
「……うん、甘い」
「や、やめてよもっ、っ……!」
孝が執拗に家光の唇を弄びながら、その内抵抗の度に揺れるたわわな果実に触れる。
「っ、んんっ!! やだっ!! っうっ、痛いっ!!」
「柔らけー……」
ぎゅうっと、孝が乱暴に果実を一掴みして家光が痛がる中、孝は触れた胸の柔らかさに感動し、それに触れた自分の手を見下ろす。
そして再び乳房に触れようとすると、家光は激しく抵抗をするように身を捩った。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!」
家光は混乱気味に連呼し、その数だけ頭を振る。
「怖いだけだろ? 大丈夫だって優しく……」
上体を起こし、孝は家光を見下ろし、再び触れようと柔らかな果実に手を向けた。
「嫌だっ!!」
涙目で抗議する家光に、孝はふと気付く。
(あれ? 家光が泣いてる。照れてただけじゃないのか? ……俺が泣かせてるのか?)
孝はふと立ち上がり家光から離れ襖の方に向かう。
「……なぁ、家光嫌がってるのか?」
「そんなことないですよ、初めてできっと緊張しているのでしょう」
「だよなぁ……あいつ素直じゃないし」
「ふふっ、孝様と似てらっしゃいますね」
襖越しに先程の従者が居るのか二、三言交わすと、家光の元に戻るが、家光は自由にならない足で反対側へと逃げ出そうとしていた。
「あっ、おい、大丈夫だって」
孝の声に振り返ると、家光の瞳には絶望の色が差していた。
「これのどこが大丈夫なのっ、ふざけろぉ!!」
家光は這うようにして何とか逃げようとしてはいるが、手首は縛り上げられ、足も感覚は戻り始めていたものの痺れているような感覚に陥っているからかあまり進まなかったため、反対側の襖にたどり着くまでに孝に追いつかれてしまう。
「そこじゃ背中痛いだろうが」
まだやる気らしいのか、孝は褥に戻そうと家光を追う。
「やっ!! まさかつぅ、助けてよぅ……正勝――!!」
孝が這い蹲る家光に手を掛けようとした刹那。
がたがたがたっ、ばたんっと、遠くで襖が倒れる音が聞こえ、次々に同じ音がし始める。
途中寝入っていたであろう人々の叫び声も聞こえる。
それが段々とこちらに近付いて来る。
「ん? なんだ?」
その音は家光が目指す襖に向かっていて、ついには目の前まで。
ばんっ、ばきっばりばりばりばりっ。
和紙と木の骨組みが壊される音が聞こえる。
刀の切っ先が二人の目の前の襖を斜めに裂いていく、木の継ぎ目を引っかきながら。
重く、重く、深くそれを裂いていった。
「失礼いたしますっ!!」
襖が裂かれた向こうから、普段柔和な瞳をしているはずの正勝が見たことも無い鋭い目と形相で、刀を振り上げ立っていた。
「……ま、まさっ」
家光は正勝の姿を確認すると、縋るように少しずつ這って近付く。
「家光様っ」
正勝は家光の姿を確認すると刀を素早く納め、自分の足元に縋る家光をしゃがんで抱き起こした。
「……おま……」
孝はあまりのことに呆気に取られたまま動けない。
無理も無い。
襖の奥は他の部屋が幾つかあるのだが、この部屋まで一直線で突っ切って来たのか、全ての襖が壊されていた。
「……孝様、申し訳ありませんが、本日家光様はお疲れのご様子ですので連れて行きます、構いませんよね?」
正勝の背後に何やら近寄ることのできない雰囲気が感じられる。
「……あ、ああ……」
正勝の纏うどす黒いオーラに呑まれたのか、孝は動けなかった。
「さ、家光様、参りましょう」
「ん」
泣き腫らした顔で、怯えた視線で孝をちらりと見ると、家光は正勝にくっつく。
その身体は僅かに震えていた。
「……ちょっと失礼しますね」
家光の様子を見て正勝は乱れた浴衣の前身頃をさっと合わせて、家光を軽々と肩に持ち上げる。
「わっ!」
そのまま正勝は家光を担いでさっそうと部屋から去っていったのだった。
部屋には呆然とする孝と、何事かと駆けつけ襖を開けた従者が残った。
「……あれ? 俺、悪者?」
「……失敗したようですね」
ふぅと、従者は孝を見て苦笑いを浮かべるのだった。
こうして、家光の操は守られたのであった。
ちなみに、正勝が刀を振り翳してはいたが、主に襖をぶった切っただけなので怪我人はゼロである。
おそらく正勝の腕の方が痛く、刀は刃毀れしていることだろう。
それよりも、襖は誰が弁償するんだろうか……。
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