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第47話 ただひとりに捧げる尽きることのない愛
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行方不明になっていたバレリー卿が発見されたのは、セレーナの断罪劇のすぐ後のこと。
ユーリスが捕らえた暗殺傭兵を尋問し、伯爵が突き落とされた場所を特定。付近をくまなく捜索したところ、護送に同行していた騎士と共にバレリー卿が発見された。
彼らは怪我こそしていたものの命に別状はなく、ベアトリスは父親と無事に再会を果たせたのだ。
ユーリスは、嬉し泣きするベアトリスの様子を思い出しながら『本当に良かった』としみじみ思う。
その時ふいに、通りかかった聖女たちの会話が聞こえてきた。
「ねぇねぇ。アラン殿下の婚約者、誰になると思う?」
「『王太子は聖女を伴侶として迎えるべし』の王室の慣わしを考えると、第一候補は今代で最も力の強いベアトリス様よね?」
「そうだけど……ベアトリス様は一時期フェルナン殿下と婚約していたでしょう? アラン殿下だって、異母兄の元婚約者をめとるなんて、気まずいんじゃないかしら」
「う~ん。でも兄弟でひとりの女性を奪い合う……そういう展開、恋愛小説ではよくある話よね~!」
「ある~、ある~!!」
賑やかな話し声が徐々に遠ざかっていく。
内容を聞いていたユーリスは険しい表情になり、腕組みをして思案した。
アラン殿下の婚約者にベアトリスが選ばれる……?
(そんなのダメに決まっている)
焼け付く炎のように胸中で燃えさかる激情。これが”嫉妬”という感情なのか……と頭の片隅で冷静に分析しつつ、ユーリスは、アラン王子の婚約者問題に手を打つべく思考を巡らせた。
(あとはベアトリスの気持ち次第だが……アイツ、鈍感だから言わないと気付かねぇよな)
初心な彼女を驚かせないように、少しずつ慎重に関係を深めるつもりだったが、もはや悠長なことは言っていられない。
罪人として追放されていた時ならいざしらず、今やベアトリスは悪女セレーナの正体を暴いた『今代一の聖女』として人々に崇められる存在。
逆境にも負けず返り咲いた姿が多くの民心を掴み、巷では大変人気になっているようだ。
元々の可憐な容姿に加え、最近では素直になって性格も愛らしくなった。
実家のバレリー伯爵家には無事に爵位と領地が返還され、再興済み。
実力、人気、地位……すべてを兼ね備えた今のベアトリスを狙う男どもが増えてもおかしくない。
というか実際増えており、水面下でユーリスが粛々と排除している。
あれこれと考えていると、純白の聖女ローブからベージュのドレスに着替え、茶色のコートを片手に持ったベアトリスが満面の笑顔で近寄ってきた。
「お待たせ、ユーリス! あれ? 恐い顔して、どうしたの?」
「いや、なんでもない。行こうか」
「うん!」
ルンルンと鼻歌をうたいながら、神殿を出て歩き出すベアトリス。
その無防備で愛らしい横顔を眺めながら、ユーリスは想いを伝える決意を固めた。
だが、そんなユーリスの心の内など知るよしもない彼女は、夜空を指さして無邪気にはしゃぐ。
「見て見て。星がたくさん出ているわ!」
「あぁ、本当だ。綺麗だな」
ええ、本当に綺麗ね!と返事をするベアトリスは、空を見上げているため気付かない。
ユーリスが星ではなく、ベアトリスを見て言っていたことに。
「なんだか今夜はとても暖かいわね。ユーリス、私、馬車じゃなくて馬で行きたいのだけど、良いかしら?」
「いいよ。だけど、風邪を引いたら困る。ちょっと待って──ほら」
ユーリスは自分のマントを脱いでベアトリスの肩に掛けた後、以前と同じように彼女の身体をひょいと横抱きにして、馬に乗せた。そして自らもひらりと騎乗する。
「私はコート着てるから大丈夫よ。これを借りたらユーリスが寒いでしょう?」
「俺は鍛えているから問題ない。それにこうしていたら十分温かい」
そう言って、マントに包まったベアトリスの身体をすっぽり覆うように抱きしめると、彼女は「そう……」と言って大人しくなった。
うつむいた彼女の耳が赤く染まっている。頬もきっと、熟れた林檎のように色づいていることだろう。
ゆったりと馬が走り出し、静かな空間にパッカ、パッカと蹄の音が響く。
穏やかな雰囲気の中、ベアトリスが満天の夜空を眺めながら言った。
「私が暗殺傭兵団に襲われた夜も、こうやって馬に二人乗りしたわよね。あの時ユーリスに『俺にしがみつけ』って言われたけど、私どうしていいか分からなくて。ふふっ、まだそれほど時間は経っていないのに、なんだかすごく昔のことみたい」
腕の中で彼女が懐かしそうに語る。
愛する人が幸せそうに微笑する姿に、ユーリスはホッと安堵すると同時に、この先もずっと彼女の笑顔を守り続けたいと強く思った。
胸の奥から止めどなく湧き上がる想いは、やがて言葉となって口をついて出た。
「ベアトリス」
「ん?」
「好きだよ」
「うん、私も~。………………って、ええええっ!? なっ、ななななんで急に!?」
「ちょっ、暴れるな、落ちるぞ」
「だって、ユーリスが急に、こ、告白? みたいなこと言うから」
「告白”みたい”じゃなくて、告白だ。自覚したのは最近だが、俺はずっと君のことが好きだった」
大きな青い目を見開き、真っ赤になって狼狽えるベアトリス。
彼女の細い腰を抱き、ユーリスは尽きることのない愛を伝える。
「どんな逆境にも負けず、挫けず、未来を変えようと努力するベアトリスを、俺は心から尊敬している。そして、これからも一番近くで君を守りたい。──愛している、ベアトリス」
はっきりと想いを口にすれば、彼女は恥じらうように視線を彷徨わせた後、小さな声でこう言った。
「…………私も、ユーリスが好き」
瞬間、ユーリスの胸の内が甘酸っぱい感情で満たされる。
幸福感のまま、愛と忠誠を誓うよう額にキスを落とせば、愛しい少女は更に真っ赤になって慌て始めた。
「ちょっ、ちょっと待って! 一瞬まって! 気持ちの整理が……っ!」
「分かった」
──と言いつつ、ユーリスはもう一度キスを落とす。
今度は彼女の柔らかな唇に。
口づけの後、ベアトリスは数秒ぼうっとしてから、照れくさそうにユーリスの胸に顔を埋めた。
「もっ、もう。待ってって言ったのに……」
「待っただろう、三秒」
「みじかっ! もう! 貴方ってそういうイジワルな所があるわよね!」
「そんなイジワルな俺は、お嫌いですか? 聖女様」
ベアトリスは「うぐぐ」と涙目でこちらを見上げた後、観念したように叫んだ。
「嫌いだったら、キスなんてさせないわ! 私の唇はお高くってよ! ちゃんと責任は取って貰うんだから!!」
悪女の汚名を返上した聖女ベアトリスと、その忠実なる騎士ユーリス。
後の世で『最強の主従夫婦』と謳われる二人はその後も、王宮の権力闘争に巻き込まれたり、恋の邪魔者が現れたりと、波瀾万丈な人生を送ることとなるのだが──。
それはまた別の機会に。
~FIN~
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
完結までこぎ着けられたのは、感想やエール、お気に入り等で応援してくださった読者様のおかげです!心より感謝申し上げます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾✨
また別作品でもお会いできますように!
ユーリスが捕らえた暗殺傭兵を尋問し、伯爵が突き落とされた場所を特定。付近をくまなく捜索したところ、護送に同行していた騎士と共にバレリー卿が発見された。
彼らは怪我こそしていたものの命に別状はなく、ベアトリスは父親と無事に再会を果たせたのだ。
ユーリスは、嬉し泣きするベアトリスの様子を思い出しながら『本当に良かった』としみじみ思う。
その時ふいに、通りかかった聖女たちの会話が聞こえてきた。
「ねぇねぇ。アラン殿下の婚約者、誰になると思う?」
「『王太子は聖女を伴侶として迎えるべし』の王室の慣わしを考えると、第一候補は今代で最も力の強いベアトリス様よね?」
「そうだけど……ベアトリス様は一時期フェルナン殿下と婚約していたでしょう? アラン殿下だって、異母兄の元婚約者をめとるなんて、気まずいんじゃないかしら」
「う~ん。でも兄弟でひとりの女性を奪い合う……そういう展開、恋愛小説ではよくある話よね~!」
「ある~、ある~!!」
賑やかな話し声が徐々に遠ざかっていく。
内容を聞いていたユーリスは険しい表情になり、腕組みをして思案した。
アラン殿下の婚約者にベアトリスが選ばれる……?
(そんなのダメに決まっている)
焼け付く炎のように胸中で燃えさかる激情。これが”嫉妬”という感情なのか……と頭の片隅で冷静に分析しつつ、ユーリスは、アラン王子の婚約者問題に手を打つべく思考を巡らせた。
(あとはベアトリスの気持ち次第だが……アイツ、鈍感だから言わないと気付かねぇよな)
初心な彼女を驚かせないように、少しずつ慎重に関係を深めるつもりだったが、もはや悠長なことは言っていられない。
罪人として追放されていた時ならいざしらず、今やベアトリスは悪女セレーナの正体を暴いた『今代一の聖女』として人々に崇められる存在。
逆境にも負けず返り咲いた姿が多くの民心を掴み、巷では大変人気になっているようだ。
元々の可憐な容姿に加え、最近では素直になって性格も愛らしくなった。
実家のバレリー伯爵家には無事に爵位と領地が返還され、再興済み。
実力、人気、地位……すべてを兼ね備えた今のベアトリスを狙う男どもが増えてもおかしくない。
というか実際増えており、水面下でユーリスが粛々と排除している。
あれこれと考えていると、純白の聖女ローブからベージュのドレスに着替え、茶色のコートを片手に持ったベアトリスが満面の笑顔で近寄ってきた。
「お待たせ、ユーリス! あれ? 恐い顔して、どうしたの?」
「いや、なんでもない。行こうか」
「うん!」
ルンルンと鼻歌をうたいながら、神殿を出て歩き出すベアトリス。
その無防備で愛らしい横顔を眺めながら、ユーリスは想いを伝える決意を固めた。
だが、そんなユーリスの心の内など知るよしもない彼女は、夜空を指さして無邪気にはしゃぐ。
「見て見て。星がたくさん出ているわ!」
「あぁ、本当だ。綺麗だな」
ええ、本当に綺麗ね!と返事をするベアトリスは、空を見上げているため気付かない。
ユーリスが星ではなく、ベアトリスを見て言っていたことに。
「なんだか今夜はとても暖かいわね。ユーリス、私、馬車じゃなくて馬で行きたいのだけど、良いかしら?」
「いいよ。だけど、風邪を引いたら困る。ちょっと待って──ほら」
ユーリスは自分のマントを脱いでベアトリスの肩に掛けた後、以前と同じように彼女の身体をひょいと横抱きにして、馬に乗せた。そして自らもひらりと騎乗する。
「私はコート着てるから大丈夫よ。これを借りたらユーリスが寒いでしょう?」
「俺は鍛えているから問題ない。それにこうしていたら十分温かい」
そう言って、マントに包まったベアトリスの身体をすっぽり覆うように抱きしめると、彼女は「そう……」と言って大人しくなった。
うつむいた彼女の耳が赤く染まっている。頬もきっと、熟れた林檎のように色づいていることだろう。
ゆったりと馬が走り出し、静かな空間にパッカ、パッカと蹄の音が響く。
穏やかな雰囲気の中、ベアトリスが満天の夜空を眺めながら言った。
「私が暗殺傭兵団に襲われた夜も、こうやって馬に二人乗りしたわよね。あの時ユーリスに『俺にしがみつけ』って言われたけど、私どうしていいか分からなくて。ふふっ、まだそれほど時間は経っていないのに、なんだかすごく昔のことみたい」
腕の中で彼女が懐かしそうに語る。
愛する人が幸せそうに微笑する姿に、ユーリスはホッと安堵すると同時に、この先もずっと彼女の笑顔を守り続けたいと強く思った。
胸の奥から止めどなく湧き上がる想いは、やがて言葉となって口をついて出た。
「ベアトリス」
「ん?」
「好きだよ」
「うん、私も~。………………って、ええええっ!? なっ、ななななんで急に!?」
「ちょっ、暴れるな、落ちるぞ」
「だって、ユーリスが急に、こ、告白? みたいなこと言うから」
「告白”みたい”じゃなくて、告白だ。自覚したのは最近だが、俺はずっと君のことが好きだった」
大きな青い目を見開き、真っ赤になって狼狽えるベアトリス。
彼女の細い腰を抱き、ユーリスは尽きることのない愛を伝える。
「どんな逆境にも負けず、挫けず、未来を変えようと努力するベアトリスを、俺は心から尊敬している。そして、これからも一番近くで君を守りたい。──愛している、ベアトリス」
はっきりと想いを口にすれば、彼女は恥じらうように視線を彷徨わせた後、小さな声でこう言った。
「…………私も、ユーリスが好き」
瞬間、ユーリスの胸の内が甘酸っぱい感情で満たされる。
幸福感のまま、愛と忠誠を誓うよう額にキスを落とせば、愛しい少女は更に真っ赤になって慌て始めた。
「ちょっ、ちょっと待って! 一瞬まって! 気持ちの整理が……っ!」
「分かった」
──と言いつつ、ユーリスはもう一度キスを落とす。
今度は彼女の柔らかな唇に。
口づけの後、ベアトリスは数秒ぼうっとしてから、照れくさそうにユーリスの胸に顔を埋めた。
「もっ、もう。待ってって言ったのに……」
「待っただろう、三秒」
「みじかっ! もう! 貴方ってそういうイジワルな所があるわよね!」
「そんなイジワルな俺は、お嫌いですか? 聖女様」
ベアトリスは「うぐぐ」と涙目でこちらを見上げた後、観念したように叫んだ。
「嫌いだったら、キスなんてさせないわ! 私の唇はお高くってよ! ちゃんと責任は取って貰うんだから!!」
悪女の汚名を返上した聖女ベアトリスと、その忠実なる騎士ユーリス。
後の世で『最強の主従夫婦』と謳われる二人はその後も、王宮の権力闘争に巻き込まれたり、恋の邪魔者が現れたりと、波瀾万丈な人生を送ることとなるのだが──。
それはまた別の機会に。
~FIN~
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
完結までこぎ着けられたのは、感想やエール、お気に入り等で応援してくださった読者様のおかげです!心より感謝申し上げます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾✨
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ラストまでお読みくださり、温かな感想をお寄せくださいまして、ありがとうございます(,,>᎑<,,)⁾⁾🍀
私はいつも10万字前後ですべてを書き尽くしてしまい、これ以上はなにも広げられません(泣)状態になってしまうので、今回は少し余白のあるラストに挑戦してみました!
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コメントをくださり、ありがとうございました(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコリ💕
感想をお寄せくださり、ありがとうございます(,,>᎑<,,)⁾⁾✨
面白かったと言っていただけて、すごく嬉しいです!
数ある作品の中から本作をお手に取ってくださり、温かなお言葉をくださいまして、本当にありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコリ💕
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