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第39話 全国指名手配ですって……!?
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「兄上、なにをどう解釈したらそうなるんですか?」
「だってほら、この前の手紙に『素直で愛らしくなったベアトリスに心がかき乱されている~』って書いていたじゃないか」
「確かに手紙には『改心して成長した』とは書きましたが、心を乱されているなんて言っていない!」
「じゃあ、乱されていないのかい?」
「………………」
「ほ~ら。それは、“ただいま絶賛かき乱され中”って顔だろ? 甘いなユーリス、兄の目は誤魔化せないよ」
ヒソヒソ話をする兄弟をベアトリスが困惑しながら見つめていると、ルーカスと目が合いニコリとほほ笑まれた。
「とりあえず、ふたりとも疲れただろう。今後のことは明日にでも話すとして。ひとまず今夜は、ゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます、ルーカス様」
食事と入浴を済ませベッドに寝そべると、すぐさま眠気がやってきた。
不安と心配は尽きないけれど、明日のことは明日考えよう……。
抗えない睡魔に捕らえられたベアトリスは、朝までぐっすりと眠った。
だが、ほっと安らいだのも束の間──。
翌日、今後について話し合っていたベアトリスとブレア兄弟の元に、早馬で驚くべき知らせがもたらされた。
「差出人は、フェルナン殿下だ」
書簡を読みながらルーカスが形の良い眉根を寄せる。
すかさずユーリスが「殿下はなんと言ってきているのです?」と兄に尋ねた。
「『罪人ベアトリス・バレリー元伯爵令嬢が脱走した。各領主はくまなく領内を捜索し報告すること。なお罪人が見つかるまで聖女の派遣は差し止める』と、フェルナン殿下が仰せだ」
「そんな……」
(聖女の派遣を止められたら、ブレア領の人々に迷惑がかかってしまう。私が、ここにいるせいで……)
罪悪感に駆られ青ざめるベアトリスの横で、ユーリスの部下が駆け寄ってきて告げた。
「ユーリス様のご指示通り、ヘインズ領に滞在しているフェルナン殿下とその周辺の動向を探って参りました」
「それで、なにか収穫はあったか?」
「はい。フェルナン殿下は、それと同じ内容の書簡を、敵対派閥の貴族に通達しております」
部下の報告を受けて、ユーリスは腕組みしながら「これはチャンスだな」と呟いた。
さらにルーカスも「そうだな。この機を利用しない手はないな」と相槌を打つ。
得心した様子でうなずき合うブレア兄弟。
その一方でベアトリスにはまだ事の全容が見えてこない。
「えっと、ごめんなさい、どういうことかしら?」
「殿下がこの手紙をブレア家と敵対貴族に出したのは、ふたつの目的があると俺は思う。ひとつ目は、逃げたベアトリスを捕まえるため。そしてもうひとつは、アラン第二王子を擁立する敵対派閥への警告と、その力を削ぐためだ」
ユーリスの説明に、ルーカスが補足して言った。
「聖女の派遣がなくなれば、聖診療所は機能しない。さらに、汚染された土地や呪具の浄化ができず、魔物が増えて領民の生活にも支障をきたす。だから、手紙を受け取った領主は、躍起になってベアトリス嬢を探し出し、王宮に連れてくると殿下は考えたのだろう。言うなれば、国内領主を巻き込んだ、全国指名手配のようなものだな」
(全国指名手配ですって……!?)
サラッと告げられたとんでもない言葉に絶句する。
青ざめるベアトリスを安心させるように、ユーリスが力強く言った。
「大丈夫。さっきも言ったが、これは大きな逆転のチャンスだ」
「全国指名手配されているのに……?」
「殿下は、ベアトリス逮捕と敵対派閥への制裁、どちらも達成できる良策だと思っているようだが、これは明らかに愚策だ」
ユーリスがあらかじめ各所に放っていた密偵が続々と部屋に入ってきて、状況を告げる。
「ご報告いたします。ヘインズ公爵が、本日行われるはずの議会を急遽取りやめ、邸宅に滞在していたフェルナン殿下とセレーナ聖女を半ば強引に追い出しました」
「さらに、公爵をはじめとした古参貴族が一斉に、フェルナン殿下と王室に対して猛抗議を行うとのことです」
「ベアトリス嬢の一件を皮切りに、フェルナン殿下と敵対貴族の対立が表面化したようだね」
ルーカスが冷静に、かつ端的に状況を説明してくれる。
セレーナの自作自演から始まった断罪劇が、気付けば国を巻き込んだ大騒動に発展してしまった。
しかし、なんにせよベアトリスが出頭しなければ、各所に聖女が派遣されず、領民は苦しむことになる。
「これ以上、迷惑をかけることは出来ません。殿下のお望みのとおり、出頭します」
ベアトリスが決意してそう告げると、ルーカスが「そんなに思い詰めなくても」とやんわり慰めてくれる。
だがその隣ではユーリスがしばし考え込んだ後、迷いを振り払うように言い放った。
「そうだな。ベアトリスはここにいるべきじゃない。王都へ送っていく」
「おい、ユーリス!?」
大人しくベアトリスを差し出すかのような発言にルーカスが驚き、まじまじと弟を見つめた。
「だってほら、この前の手紙に『素直で愛らしくなったベアトリスに心がかき乱されている~』って書いていたじゃないか」
「確かに手紙には『改心して成長した』とは書きましたが、心を乱されているなんて言っていない!」
「じゃあ、乱されていないのかい?」
「………………」
「ほ~ら。それは、“ただいま絶賛かき乱され中”って顔だろ? 甘いなユーリス、兄の目は誤魔化せないよ」
ヒソヒソ話をする兄弟をベアトリスが困惑しながら見つめていると、ルーカスと目が合いニコリとほほ笑まれた。
「とりあえず、ふたりとも疲れただろう。今後のことは明日にでも話すとして。ひとまず今夜は、ゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます、ルーカス様」
食事と入浴を済ませベッドに寝そべると、すぐさま眠気がやってきた。
不安と心配は尽きないけれど、明日のことは明日考えよう……。
抗えない睡魔に捕らえられたベアトリスは、朝までぐっすりと眠った。
だが、ほっと安らいだのも束の間──。
翌日、今後について話し合っていたベアトリスとブレア兄弟の元に、早馬で驚くべき知らせがもたらされた。
「差出人は、フェルナン殿下だ」
書簡を読みながらルーカスが形の良い眉根を寄せる。
すかさずユーリスが「殿下はなんと言ってきているのです?」と兄に尋ねた。
「『罪人ベアトリス・バレリー元伯爵令嬢が脱走した。各領主はくまなく領内を捜索し報告すること。なお罪人が見つかるまで聖女の派遣は差し止める』と、フェルナン殿下が仰せだ」
「そんな……」
(聖女の派遣を止められたら、ブレア領の人々に迷惑がかかってしまう。私が、ここにいるせいで……)
罪悪感に駆られ青ざめるベアトリスの横で、ユーリスの部下が駆け寄ってきて告げた。
「ユーリス様のご指示通り、ヘインズ領に滞在しているフェルナン殿下とその周辺の動向を探って参りました」
「それで、なにか収穫はあったか?」
「はい。フェルナン殿下は、それと同じ内容の書簡を、敵対派閥の貴族に通達しております」
部下の報告を受けて、ユーリスは腕組みしながら「これはチャンスだな」と呟いた。
さらにルーカスも「そうだな。この機を利用しない手はないな」と相槌を打つ。
得心した様子でうなずき合うブレア兄弟。
その一方でベアトリスにはまだ事の全容が見えてこない。
「えっと、ごめんなさい、どういうことかしら?」
「殿下がこの手紙をブレア家と敵対貴族に出したのは、ふたつの目的があると俺は思う。ひとつ目は、逃げたベアトリスを捕まえるため。そしてもうひとつは、アラン第二王子を擁立する敵対派閥への警告と、その力を削ぐためだ」
ユーリスの説明に、ルーカスが補足して言った。
「聖女の派遣がなくなれば、聖診療所は機能しない。さらに、汚染された土地や呪具の浄化ができず、魔物が増えて領民の生活にも支障をきたす。だから、手紙を受け取った領主は、躍起になってベアトリス嬢を探し出し、王宮に連れてくると殿下は考えたのだろう。言うなれば、国内領主を巻き込んだ、全国指名手配のようなものだな」
(全国指名手配ですって……!?)
サラッと告げられたとんでもない言葉に絶句する。
青ざめるベアトリスを安心させるように、ユーリスが力強く言った。
「大丈夫。さっきも言ったが、これは大きな逆転のチャンスだ」
「全国指名手配されているのに……?」
「殿下は、ベアトリス逮捕と敵対派閥への制裁、どちらも達成できる良策だと思っているようだが、これは明らかに愚策だ」
ユーリスがあらかじめ各所に放っていた密偵が続々と部屋に入ってきて、状況を告げる。
「ご報告いたします。ヘインズ公爵が、本日行われるはずの議会を急遽取りやめ、邸宅に滞在していたフェルナン殿下とセレーナ聖女を半ば強引に追い出しました」
「さらに、公爵をはじめとした古参貴族が一斉に、フェルナン殿下と王室に対して猛抗議を行うとのことです」
「ベアトリス嬢の一件を皮切りに、フェルナン殿下と敵対貴族の対立が表面化したようだね」
ルーカスが冷静に、かつ端的に状況を説明してくれる。
セレーナの自作自演から始まった断罪劇が、気付けば国を巻き込んだ大騒動に発展してしまった。
しかし、なんにせよベアトリスが出頭しなければ、各所に聖女が派遣されず、領民は苦しむことになる。
「これ以上、迷惑をかけることは出来ません。殿下のお望みのとおり、出頭します」
ベアトリスが決意してそう告げると、ルーカスが「そんなに思い詰めなくても」とやんわり慰めてくれる。
だがその隣ではユーリスがしばし考え込んだ後、迷いを振り払うように言い放った。
「そうだな。ベアトリスはここにいるべきじゃない。王都へ送っていく」
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