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第28話 告白はある日突然に……
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ベアトリスが不思議に思っていると、ユーリスは切れ長の目を見習いたちの方へ向けた。
視線をたどりテーブルの上を見れば、テキストに紛れて恋愛小説が置かれている。
「ハッ! それは……! 『恋の魔術師』と名高い大先生の新刊……!」
気付けばベアトリスはそう口走っていた。
「えっ、セレーナ様もこの先生の本がお好きなのですか?」
「ええ、大好き……! その『黒騎士と黄金聖女の許されざる恋』シリーズは特に! 貴女たちは何巻がお好き?」
「私は、ふたりが愛の逃避行をする三巻です!」
「わたしは今日発売されたこの最新刊が一番好きです! もしまだお読みになっていないのなら、お貸しいたしましょうか?」
「えっ、いいの? 嬉しいわ……! ありがとう……!!」
共通の話題で一気に会話が弾み、気付けばベアトリスたちは一時間近くもおしゃべりをしていた。
「この本、読み終わったら、すぐにお返しするわね」
「はい! あの、セレーナ様、また話しかけてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。それじゃあ、みなさん、お勉強がんばってね……!」
「ありがとうございます、セレーナ様!」
見習いたちとの距離は一気に縮まり、ベアトリスは恋愛小説を胸に抱いて、足取り軽やかに私室へ戻った。
ユーリスとふたりっきりになった瞬間「やった~!」と言って飛び跳ねて喜ぶ。
「私、人とこんなに楽しく話せたの初めて! すっごく楽しかったぁ~」
「それは良かった」
「全部、ユーリスのアドバイスのおかげだわ! 貴方って、本当にいい人ね! 大好き!!」
湧き上がる喜びのまま感謝を告げて、ベアトリスはさっそく借りた本を読み始めた。
✻ ✻ ✻
一方、突然『大好き!!』と言われたユーリスは不意打ちを食らい、その場で立ち尽くしていた。
驚きのあまり心臓がうるさいほど高鳴っている。
告白めいた言葉と可憐な笑顔を思い出すたび、じわりと頬が熱くなるのを抑えきれない。
常に冷静さを失わないよう己を律して生きてきたのに、ベアトリスの一言でいとも簡単に心を揺さぶられてしまう……。
(なんだ、この気持ち。まさか、俺は…………)
心の内にいつの間にか芽吹き、知らぬ間に花を咲かせていた感情にひどく戸惑う。
そんなユーリスの内心など知るよしもないベアトリスは、自分が無意識に告白をしたことにも気付かず、鼻歌を歌いながら小説の中のロマンスを堪能するのだった。
✻ ✻ ✻
その後、図書館での読書会以降もベアトリスと見習いたちの交流は続いた。
「セレーナ様、私たちも参加してよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん、どうぞ」
当初は少人数の集まりだったが、回を重ねるごとに希望者が増え、図書室の一角では収まりきらない人数になってしまった。
そこでベアトリスは神殿の談話室を貸し切り、定期的に講習会を開催するようになった。
当初は情報収集が目的だったが、慕ってくれる見習いたちが可愛らしく、授業の後はお茶会を開いておしゃべりしたり、悩んでいる子がいたら別室で相談に乗ったりしている。
「セレーナ様。実は私、先輩聖女様に嫌われているようで、試験の推薦状を書いてもらえないのです」
「聖女様は皆様ご多忙だと分かっているのですが、独学で聖魔法を身につけるのは難しくて、もう少し教えていただきたいな……と」
見習いたちは、師匠である先輩聖女との人間関係や昇格試験への不安、神聖力の修練不足についてなど、色々なことで悩んでいた。
特に、平民出身で後ろ盾のない見習いはあからさまに見下され、虐められている子もいる。
その結果、思い悩み、辞めていく者も多い……。
(神殿のブラック労働は、聖女の人手不足が原因だと思っていたけど、違ったわ)
聖女の卵である見習いの数は他国と比べても十分多い。
にもかかわらず、神殿のサポート体制が整っていないせいで、毎年多くの見習いが志半ばで去ってしまっている。
そのため人手は一向に増えず、ひとりあたりの仕事量は膨大に。聖女は後進を育てる余裕がなく、さらに見習いが辞めていくという悪循環に陥っている。
この負の連鎖を止めない限り、組織は衰退する一方。
なんとか手を尽くしているが、ベアトリスにはもうあまり時間がない。
(時間も自由も、権限もない。ないない尽くしね)
それでも、目の前に悩める後輩がいるのなら、悔いが残らないように今できる事を精一杯やろう。
そう決意したベアトリスは、今日も迷える見習いをひとりでも救うべく、講習会の壇上にあがるのだった。
「今日は、魔道具を作る練習をいたしましょう。これは魔水晶と呼ばれる、神聖力を込めやすい鉱物です。これに守護の聖魔法をかけると……」
ベアトリスが透明な水晶に手をかざして詠唱すると、まばゆいばかりの光を放ちながら虹色に輝き始めた。
「このように魔水晶が結界の魔道具に変化しました……。これを作って魔物から街を守るのも聖女の役目です。さぁ、みなさんもやってみましょう……!」
熱心に魔道具作成の修行にいそしむ見習たちを、微笑ましく見守る。
「セレーナ様、できました!」
「わたしもできました!!」
無邪気に慕ってくれる見習いたちが可愛らしくて、ベアトリスは「よくできました」と微笑み返した。
神殿の制度改革と後進の育成に邁進する日々は、忙しくも充実している。
毎日が夢のように幸せだけれど……。
(私の努力とみんなからの信頼は、全部セレーナのものになるのよね)
視線をたどりテーブルの上を見れば、テキストに紛れて恋愛小説が置かれている。
「ハッ! それは……! 『恋の魔術師』と名高い大先生の新刊……!」
気付けばベアトリスはそう口走っていた。
「えっ、セレーナ様もこの先生の本がお好きなのですか?」
「ええ、大好き……! その『黒騎士と黄金聖女の許されざる恋』シリーズは特に! 貴女たちは何巻がお好き?」
「私は、ふたりが愛の逃避行をする三巻です!」
「わたしは今日発売されたこの最新刊が一番好きです! もしまだお読みになっていないのなら、お貸しいたしましょうか?」
「えっ、いいの? 嬉しいわ……! ありがとう……!!」
共通の話題で一気に会話が弾み、気付けばベアトリスたちは一時間近くもおしゃべりをしていた。
「この本、読み終わったら、すぐにお返しするわね」
「はい! あの、セレーナ様、また話しかけてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。それじゃあ、みなさん、お勉強がんばってね……!」
「ありがとうございます、セレーナ様!」
見習いたちとの距離は一気に縮まり、ベアトリスは恋愛小説を胸に抱いて、足取り軽やかに私室へ戻った。
ユーリスとふたりっきりになった瞬間「やった~!」と言って飛び跳ねて喜ぶ。
「私、人とこんなに楽しく話せたの初めて! すっごく楽しかったぁ~」
「それは良かった」
「全部、ユーリスのアドバイスのおかげだわ! 貴方って、本当にいい人ね! 大好き!!」
湧き上がる喜びのまま感謝を告げて、ベアトリスはさっそく借りた本を読み始めた。
✻ ✻ ✻
一方、突然『大好き!!』と言われたユーリスは不意打ちを食らい、その場で立ち尽くしていた。
驚きのあまり心臓がうるさいほど高鳴っている。
告白めいた言葉と可憐な笑顔を思い出すたび、じわりと頬が熱くなるのを抑えきれない。
常に冷静さを失わないよう己を律して生きてきたのに、ベアトリスの一言でいとも簡単に心を揺さぶられてしまう……。
(なんだ、この気持ち。まさか、俺は…………)
心の内にいつの間にか芽吹き、知らぬ間に花を咲かせていた感情にひどく戸惑う。
そんなユーリスの内心など知るよしもないベアトリスは、自分が無意識に告白をしたことにも気付かず、鼻歌を歌いながら小説の中のロマンスを堪能するのだった。
✻ ✻ ✻
その後、図書館での読書会以降もベアトリスと見習いたちの交流は続いた。
「セレーナ様、私たちも参加してよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん、どうぞ」
当初は少人数の集まりだったが、回を重ねるごとに希望者が増え、図書室の一角では収まりきらない人数になってしまった。
そこでベアトリスは神殿の談話室を貸し切り、定期的に講習会を開催するようになった。
当初は情報収集が目的だったが、慕ってくれる見習いたちが可愛らしく、授業の後はお茶会を開いておしゃべりしたり、悩んでいる子がいたら別室で相談に乗ったりしている。
「セレーナ様。実は私、先輩聖女様に嫌われているようで、試験の推薦状を書いてもらえないのです」
「聖女様は皆様ご多忙だと分かっているのですが、独学で聖魔法を身につけるのは難しくて、もう少し教えていただきたいな……と」
見習いたちは、師匠である先輩聖女との人間関係や昇格試験への不安、神聖力の修練不足についてなど、色々なことで悩んでいた。
特に、平民出身で後ろ盾のない見習いはあからさまに見下され、虐められている子もいる。
その結果、思い悩み、辞めていく者も多い……。
(神殿のブラック労働は、聖女の人手不足が原因だと思っていたけど、違ったわ)
聖女の卵である見習いの数は他国と比べても十分多い。
にもかかわらず、神殿のサポート体制が整っていないせいで、毎年多くの見習いが志半ばで去ってしまっている。
そのため人手は一向に増えず、ひとりあたりの仕事量は膨大に。聖女は後進を育てる余裕がなく、さらに見習いが辞めていくという悪循環に陥っている。
この負の連鎖を止めない限り、組織は衰退する一方。
なんとか手を尽くしているが、ベアトリスにはもうあまり時間がない。
(時間も自由も、権限もない。ないない尽くしね)
それでも、目の前に悩める後輩がいるのなら、悔いが残らないように今できる事を精一杯やろう。
そう決意したベアトリスは、今日も迷える見習いをひとりでも救うべく、講習会の壇上にあがるのだった。
「今日は、魔道具を作る練習をいたしましょう。これは魔水晶と呼ばれる、神聖力を込めやすい鉱物です。これに守護の聖魔法をかけると……」
ベアトリスが透明な水晶に手をかざして詠唱すると、まばゆいばかりの光を放ちながら虹色に輝き始めた。
「このように魔水晶が結界の魔道具に変化しました……。これを作って魔物から街を守るのも聖女の役目です。さぁ、みなさんもやってみましょう……!」
熱心に魔道具作成の修行にいそしむ見習たちを、微笑ましく見守る。
「セレーナ様、できました!」
「わたしもできました!!」
無邪気に慕ってくれる見習いたちが可愛らしくて、ベアトリスは「よくできました」と微笑み返した。
神殿の制度改革と後進の育成に邁進する日々は、忙しくも充実している。
毎日が夢のように幸せだけれど……。
(私の努力とみんなからの信頼は、全部セレーナのものになるのよね)
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