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第24話 これでもくらえ!必殺、泣き落とし作戦!!
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王妃を疑う言葉が喉まで出かかったが、もちろん迂闊に発言はしなかった。
いくらセレーナを嫁として認めていないからといって、正々堂々とした王妃が、こんなまどろっこしくて卑怯な手段を講じるとは考えにくい。
口を噤み思案していると、王妃が勝ち誇った笑みを浮かべた。
「では約束どおり、貴女とフェルナンの関係は終わりですわね」
「そんな……! あんまりです、母上! セレーナは立派に犯人を見つけたでしょう!」
「あれは実行犯。黒幕が野放しじゃあ、約束が果たされたとは言えませんわ」
「…………その黒幕というのは、実は母上なんじゃないですか?」
「なんですって?」
王妃が不愉快そうに片眉を跳ねさせるが、フェルナンは構わず続けた。
「母上は初対面の時からセレーナを嫌っていましたよね? わざと事件を起こし、短期間で真犯人を捕まえろという無理難題をふっかけ、破談の口実にした。違いますか?」
王妃がなにも言わず押し黙る。いや、言わずではなく、言えないのだろう。
……きっと、感情を抑えるのに精一杯で。
貴婦人の体裁を保つため、みっともなく泣いたり怒ったりせず、悲しみをこらえながら平静を装う王妃の姿に、ベアトリスは自身の母の面影を見た。
(私のお母様も昔よくこんな顔をしていたわ。実の息子に責められ疑われて、王妃様はひどく心を痛めているでしょうね)
だがそんな母親の苦しみを、フェルナンは少しも気付いていないようだ。
「セレーナは、俺が守ってやらねばダメなのです! たとえ母上といえども、俺の愛する人を傷つけるなら容赦しない!」
彼は感情に任せて怒鳴り、両手で机を叩いて立ち上がった。
「母上が犯人なのですか? 黙っていないで、答えてください!」
空気がビリビリ振動するほどの大声で、フェルナンが吠えた。
王妃の瞳が悲しみに揺れ、唇が細かく震えている。
「もう……おやめください……!」
これ以上、黙って見ていられなくなったベアトリスは、とうとう口を挟んだ。
「フェルナン殿下、もう、良いのです……。わたしのせいで、王妃様に、大切なお母上に……これ以上ひどいことをおっしゃらないでくださいませ」
「だが……」
王妃に背を向け、こちらを見たフェルナンが──余計な口を挟むな、とばかりに睨み付けてくる。だがベアトリスも負けじと目で訴えかけた。
──貴女の愛する優しくて慈悲深いセレーナなら、きっとこう言うでしょう?
「殿下を誰より愛していらっしゃる王妃様が、卑劣な手段でわたしたちの仲を引き裂こうとするはずがありません……! すべて……わたしが悪いのです……」
王妃は真意を探るように、ジッとこちらを見つめていた。
ベアトリスはその視線を真正面から受け止める。
「これまでのわたしは、弱く臆病で、殿下の婚約者にふさわしい人間では、ありませんでした……。この一週間、懸命に努力しましたが、ご期待に添える働きができず……申し訳ございません」
自らの未熟さを真摯に謝罪し、深々と頭を下げながら告げた。
「わたしは……愛する殿下のために……身を……引きます……!」
乾いた目元をハンカチで押さえながら、ベアトリスは小刻みに肩を震わせる。
(もうこれしか思い付かないわ)
──必殺! 泣き落とし作戦!!!
これまで読んだ恋愛小説の知識を総動員して、相手の同情心をかき立てる、憐れでいじらしい女性を必死に演じる。
シクシク、シクシク…………。
静かな空間に、ベアトリスのすすり泣き(真似)が響く。
しかし、相手は鉄の女ルイザ王妃。
泣き続けるベアトリスに慰めの言葉ひとつかけてくれない。
(あぁ、ダメだぁ~。やっぱり王妃に泣き落としは通用しないわぁ~)
任務失敗。私は再び大鉱山送りなんだわと、半ば諦めかけたその時──。
「顔をお上げなさい、みっともない」
ふいに、王妃のそんな声が聞こえてきた。
ベアトリスは驚き、ハンカチで目尻を押さえながら顔を上げる。
王妃は「仕方ないわね」と深く溜息をついた。
「……もう少し、様子を見ることにします」
「と、いうことは……」
「はぁ、察しの悪い子ね。破談の件は一旦保留、これからも励みなさい」
「王妃様……!」
「母上、ありがとうございます!」
喜びを露わに破顔する息子を、王妃は恨めしげに睨んだ。
「母親を疑うとは、なんてひどい息子なんでしょう。セレーナの言う通り、わたくしは人を使って毒虫をばら撒くような、そんなおぞましい嫌がらせはしなくってよ」
「疑ってすみません、母上……」
「今回だけは許してあげましょう。セレーナ、わたくしは今後も貴女を見ていますからね。次に能力不足だと判断した時には容赦なく婚約破棄を命じますので、そのつもりで」
「王妃様、ありがとうございます!」
何度もお辞儀をするベアトリスに、王妃は珍しく柔らかな笑みを浮かべた。
「それにしても、正直見直したわ。いつもオドオドしていた貴女が、先日の夜会ではわたくしに言い返して、今日は侍女の悪事を暴いてしまうなんて。ふふっ、意外に見どころがあるじゃない」
「お褒めにあずかり、光栄です……」
「侍女の自白を引き出す方法も見事だったわ。厳しく問い詰めた後、優しい言葉で諭す、飴と鞭を上手に使い分けられていたじゃない。やればできる子なんだから、これからも頑張りなさい」
ベアトリスは「頑張ります」とほほ笑みながら、内心「やり過ぎた……」と少し反省していた。
侍女マリアの罪を問い詰めた場面。自供させようとするあまり、セレーナの演技が少々おろそかになってしまっていた。
(バレなかったから良かったものの、危ないところだったわ)
「セレーナにも強かな一面があって安心したわ。今の貴女なら、王太子妃になっても、どうにかやれるでしょう」
王妃様はすっかりご満悦でセレーナの皮を被ったベアトリスを褒めちぎる。
(身代わりが終わったら大変なことになりそうね)
今回はなんとか凌げたが、根本的な解決には至っていない。
相変わらず『はい……すみません……』としか言えないセレーナに戻った時、再び婚約破棄騒動が勃発するんじゃないかしら?と思ったが、後は野となれ山となれ。
今後の嫁姑関係については、セレーナ本人が頑張るべきことだ。
場が和やかな空気に包まれたその時、部屋に慌ただしくポールが入ってきた。
「お話中、大変失礼いたします──!! 至急お伝えしたいことがあり、参上いたしました」
「報告なさい」
王妃が促すと、ポールは一拍おいて、重々しく告げた。
「先ほど、セレーナ様のお命を狙っていた真犯人が見つかりました」
いくらセレーナを嫁として認めていないからといって、正々堂々とした王妃が、こんなまどろっこしくて卑怯な手段を講じるとは考えにくい。
口を噤み思案していると、王妃が勝ち誇った笑みを浮かべた。
「では約束どおり、貴女とフェルナンの関係は終わりですわね」
「そんな……! あんまりです、母上! セレーナは立派に犯人を見つけたでしょう!」
「あれは実行犯。黒幕が野放しじゃあ、約束が果たされたとは言えませんわ」
「…………その黒幕というのは、実は母上なんじゃないですか?」
「なんですって?」
王妃が不愉快そうに片眉を跳ねさせるが、フェルナンは構わず続けた。
「母上は初対面の時からセレーナを嫌っていましたよね? わざと事件を起こし、短期間で真犯人を捕まえろという無理難題をふっかけ、破談の口実にした。違いますか?」
王妃がなにも言わず押し黙る。いや、言わずではなく、言えないのだろう。
……きっと、感情を抑えるのに精一杯で。
貴婦人の体裁を保つため、みっともなく泣いたり怒ったりせず、悲しみをこらえながら平静を装う王妃の姿に、ベアトリスは自身の母の面影を見た。
(私のお母様も昔よくこんな顔をしていたわ。実の息子に責められ疑われて、王妃様はひどく心を痛めているでしょうね)
だがそんな母親の苦しみを、フェルナンは少しも気付いていないようだ。
「セレーナは、俺が守ってやらねばダメなのです! たとえ母上といえども、俺の愛する人を傷つけるなら容赦しない!」
彼は感情に任せて怒鳴り、両手で机を叩いて立ち上がった。
「母上が犯人なのですか? 黙っていないで、答えてください!」
空気がビリビリ振動するほどの大声で、フェルナンが吠えた。
王妃の瞳が悲しみに揺れ、唇が細かく震えている。
「もう……おやめください……!」
これ以上、黙って見ていられなくなったベアトリスは、とうとう口を挟んだ。
「フェルナン殿下、もう、良いのです……。わたしのせいで、王妃様に、大切なお母上に……これ以上ひどいことをおっしゃらないでくださいませ」
「だが……」
王妃に背を向け、こちらを見たフェルナンが──余計な口を挟むな、とばかりに睨み付けてくる。だがベアトリスも負けじと目で訴えかけた。
──貴女の愛する優しくて慈悲深いセレーナなら、きっとこう言うでしょう?
「殿下を誰より愛していらっしゃる王妃様が、卑劣な手段でわたしたちの仲を引き裂こうとするはずがありません……! すべて……わたしが悪いのです……」
王妃は真意を探るように、ジッとこちらを見つめていた。
ベアトリスはその視線を真正面から受け止める。
「これまでのわたしは、弱く臆病で、殿下の婚約者にふさわしい人間では、ありませんでした……。この一週間、懸命に努力しましたが、ご期待に添える働きができず……申し訳ございません」
自らの未熟さを真摯に謝罪し、深々と頭を下げながら告げた。
「わたしは……愛する殿下のために……身を……引きます……!」
乾いた目元をハンカチで押さえながら、ベアトリスは小刻みに肩を震わせる。
(もうこれしか思い付かないわ)
──必殺! 泣き落とし作戦!!!
これまで読んだ恋愛小説の知識を総動員して、相手の同情心をかき立てる、憐れでいじらしい女性を必死に演じる。
シクシク、シクシク…………。
静かな空間に、ベアトリスのすすり泣き(真似)が響く。
しかし、相手は鉄の女ルイザ王妃。
泣き続けるベアトリスに慰めの言葉ひとつかけてくれない。
(あぁ、ダメだぁ~。やっぱり王妃に泣き落としは通用しないわぁ~)
任務失敗。私は再び大鉱山送りなんだわと、半ば諦めかけたその時──。
「顔をお上げなさい、みっともない」
ふいに、王妃のそんな声が聞こえてきた。
ベアトリスは驚き、ハンカチで目尻を押さえながら顔を上げる。
王妃は「仕方ないわね」と深く溜息をついた。
「……もう少し、様子を見ることにします」
「と、いうことは……」
「はぁ、察しの悪い子ね。破談の件は一旦保留、これからも励みなさい」
「王妃様……!」
「母上、ありがとうございます!」
喜びを露わに破顔する息子を、王妃は恨めしげに睨んだ。
「母親を疑うとは、なんてひどい息子なんでしょう。セレーナの言う通り、わたくしは人を使って毒虫をばら撒くような、そんなおぞましい嫌がらせはしなくってよ」
「疑ってすみません、母上……」
「今回だけは許してあげましょう。セレーナ、わたくしは今後も貴女を見ていますからね。次に能力不足だと判断した時には容赦なく婚約破棄を命じますので、そのつもりで」
「王妃様、ありがとうございます!」
何度もお辞儀をするベアトリスに、王妃は珍しく柔らかな笑みを浮かべた。
「それにしても、正直見直したわ。いつもオドオドしていた貴女が、先日の夜会ではわたくしに言い返して、今日は侍女の悪事を暴いてしまうなんて。ふふっ、意外に見どころがあるじゃない」
「お褒めにあずかり、光栄です……」
「侍女の自白を引き出す方法も見事だったわ。厳しく問い詰めた後、優しい言葉で諭す、飴と鞭を上手に使い分けられていたじゃない。やればできる子なんだから、これからも頑張りなさい」
ベアトリスは「頑張ります」とほほ笑みながら、内心「やり過ぎた……」と少し反省していた。
侍女マリアの罪を問い詰めた場面。自供させようとするあまり、セレーナの演技が少々おろそかになってしまっていた。
(バレなかったから良かったものの、危ないところだったわ)
「セレーナにも強かな一面があって安心したわ。今の貴女なら、王太子妃になっても、どうにかやれるでしょう」
王妃様はすっかりご満悦でセレーナの皮を被ったベアトリスを褒めちぎる。
(身代わりが終わったら大変なことになりそうね)
今回はなんとか凌げたが、根本的な解決には至っていない。
相変わらず『はい……すみません……』としか言えないセレーナに戻った時、再び婚約破棄騒動が勃発するんじゃないかしら?と思ったが、後は野となれ山となれ。
今後の嫁姑関係については、セレーナ本人が頑張るべきことだ。
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「お話中、大変失礼いたします──!! 至急お伝えしたいことがあり、参上いたしました」
「報告なさい」
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