ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~

Mikura

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6話 冒険者採用試験…?

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 ジジから聞いた魔法の説明を思い出しながらリュカに説明する。闇魔法なので私も原理などはよく分かっていないが、闇の精霊にお願いすれば実行可能なのだ。
 闇の精霊へと語り掛けることさえできれば私でなくても可能なはずである。別に注目されるほどのことではないと懸命に伝えた。


「闇属性の魔法で、物を壊すことなく小さくしています。潰すのではなくすべてを小さくする……性能低下デバフ魔法の一種だと教わりました。ただの闇魔法なので誰でも使えるはずです」

「……なるほど。貴方の祖父は相当な魔法の使い手だったようですね。エルフなら独自の魔法を作り出しても公表しないことは珍しくありません。そして孫にだけ伝授した、ということですか」


 どうやら納得してくれたらしいリュカにほっと胸をなでおろした。自然とヒトの中に溶け込みたい私としては、妙な目立ち方はしたくないものだ。

(もしかしてアイツはヒトじゃないのか……なんて思われたら大変だからね)

 ジジは竜である私に優しく接してくれたけれど、恐怖と憎悪に染まった目と武器を向けられた時の悲しみは鮮明に覚えている。もしかしたら受け入れてくれる人は他にもたくさんいるかもしれないが、それを見定めるためにもしばらくは目立たずヒトの常識を覚えていかねばならない。


「けれどスイラ、闇魔法は誰にでも使える訳ではありません」

「……そうなんですか?」

「ええ。闇、そして光の魔法の適正者はとても少ないんですよ。貴女は……全属性に適正がある時点でかなり特殊です」


 彼の翠玉色の目が私の背後へと向けられる。私の周りには契約中の七体の精霊の他、この地域に住み着いている精霊たちが寄ってくるので今でも十体以上は傍を漂っているのだ。
 エルフのように精霊が見える人種は少ないのであまり騒ぎにならないだけで、結構異様な光景であるらしい。……精霊の個体識別までは出来ないから、常に同じ精霊がついて回っているとまでは気づかれていないようだ。場所によって傍にいる数も増減しているし、そういうものだと思ってくれているのだろう。

(ジジは魔法狂って感じの変わり者だったみたいだし……ジジに教えて貰った魔法はヒトの常識じゃないんだね。契約魔法についてもきっと言わない方がいいんだろうなぁ……)

 まあそもそも「七体もの精霊と一体何の魔法を契約しているんですか?」と訊かれたら大変困ることになるのでやはりこれは知られるべきではないだろう。

 
「こちらの毛皮は全て売るつもりですか?」

「はい。元からそうするつもりで集めていたものです。……売れますか?」


 私はこちらの人間の常識が分からない。元の世界でお金になりそうなものと思って毛皮類ばかり集めていたが、ファンタジーな世界なら他の部位の方が価値があるかもしれないし、毛皮にはそれ程価値がないかもしれない。
 受付嬢に買取ができるのか尋ねたところ、呆けていた彼女はハッと意識を取り戻した。


「え、ええ。ギルドで買い取らせていただきます。……ところでこの毛皮の氷狼はご自分で仕留められたんですか? 群れで活動をしている危険な魔物のはずですが」

「はい。一匹を仕留めていたら他の氷狼はみんな逃げてしまって……」

「……事実でしょう。彼女が魔物を狩る場合、粉砕してほとんど素材が残らないか、素手で絞めるので丸ごと手に入るかのどちらかでした」


 リュカは現場を見てはいないものの、過ごした時間の中で私が魔物と戦っている姿を知っている。こうして説明を聞くと私はまともな戦い方をしていない気がする。……力が強すぎるから武器を使うのも難しいんだよね。素手の方が武器より強いし。
 有名な冒険者であるリュカの言葉には説得力があるのか、受付嬢は納得したように頷いた。


「……なるほど。ではこちらは査定のために預かりますのでしばらくおまちください」

「お願いします。……登録料には足りそうでしょうか?」


 問題はそこだ。この素材を売ったお金が登録料である一万ゴールドに足りるかどうか。足りなければ急いで魔物を狩りに戻るつもりでいたのだが、受付嬢からなんとも言えない視線を向けられた。


「彼女は特殊な環境で育ったため、物の価値を知らないだけです。スイラ、これで足りないことはないので心配しないでください」

「そうですか、それならよかったです!」


 これで一安心だ。リュカに金銭的な迷惑をかけずにすんでほっとした。
 そういう訳でしばらく素材の査定が終わるのをギルド内で待っていたのだが、冒険者であろう人間から次々に声を掛けられる。


「アンタ、加入先が決まってないなら俺のパーティーにこないか?」

「いやいや俺のパーティーに来るといい。可愛がってやるぞ」


 体が大きく、力自慢と言った様子の冒険者たちから仲間として勧誘されて、舞い上がった。ああ、あんなに怯えと憎悪の目を向けてきたヒトから、仲間に誘われるなんて。
 これで人間の輪の中に入れると喜んで返事をしようとしたのだが、それをリュカが間に割って入って止めた。


「彼女はまだ新人指導が終わっていませんよ」

「うっリュカさん……そ、そうですよねすみません」


 どうやら新人指導も終わっていない新入りは、冒険者のパーティーには入れないらしい。私に声をかけてくれた者たちはあっという間に去っていってしまった。……残念だがそれがルールなら仕方ない。指導が終わったら、また誘ってくれるかもしれない。


「スイラ、気を付けてください。新人はよく狙われます」

「? 何を狙われるんですか?」

「……いえ、なんでもありません。貴女の仲間を探すのは私も手伝いますから、妙な交渉は受けない方がいいですよ」


 リュカはなんだか心配そうに私を見ている。いったい私は何を狙われていたのだろう。もしかして新人狩り、というものがあるのだろうか。
 これから活躍しそうな新人に追い抜かれないように、囲い込んで成長を邪魔するとか――なんて、そんなことはないだろう。だってギルドで犯罪行為は許されない訳だし。

(ん……? でも犯罪の定義って国によって違うよね。この国に営業妨害ってあるのかな)

 ジジから人間の法など聞いていなかった。人間の世界のルールを何も知らない私では、いつの間にか罪を犯すことがあるかもしれない。……何かあればかならず誰かに訊くことにしよう。ひとまず、しばらくはリュカに尋ねるべきかな。
 それからまた数分待って、受付まで呼ばれたのでリュカと共に向かう。


「査定が終わりました。……査定料や手数料を差し引かせていただいて、合計五十万ゴールドになります」

「ありがとうございます! じゃあここから登録料を払ってもいいでしょうか?」

「……もちろんです」


 登録料を引いた残り四十九万ゴールドとして渡されたのが、小さな金貨九枚とそれよりも大きな金貨が四枚だ。小さい方が一万ゴールド、大きい方が十万ゴールドの価値があるのだろう。
 それらを受け取って腰の袋にしまいながら、冒険者になるための試験があると言われたことを思いだした。


「じゃあ登録をよろしくお願いします。あ、そういえば試験はどんなことをするんですか?」

「必要ございません」

「……え?」

「貴女が冒険者として活躍できることはもう充分証明されました。試験は必要ございません」


 ……何故か試験がいらなくなったらしい。

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