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12話 対等な、友人
しおりを挟む「ホームの仲間たちには君を魔力放出障害として紹介することになっているのを忘れていないか?」
昨日、ユーリの保護施設での私の設定を考えた際にそういうことになった。異世界人で超能力者であることは、できるだけ隠した方がいい。ユーリに明かしたのは協力者を得るためであって、私とて必要がない相手にぺらぺらと素性を漏らす気はない。自分が異質なのは理解している。
魔力がない私は魔法を使えない。そして超能力を封じれば私の身体能力は並以下になってしまう。そこで“怪力”になる魔力放出障害という設定を使うことにした。これなら念動力を使いながら重い物を持つなど力仕事をやっていても不自然ではないからだ。
『大丈夫です。超能力者であることを隠すのには慣れています』
「……本当か?」
『本当ですよ。両親以外にばれたことないんですから。……まあ、友達もいなかったっていうのも理由かもしれないですけど』
人との関わりはとても希薄だった。超能力者であることを隠しながら、普通の友人関係を築くのはどうも難しい。私と他の人間とでは出来ることに差がありすぎる。能力を隠し続ける限り、私は“できない”フリをし続けなければならないし、本音を明かすこともできない。それで対等な友人になれるだろうか。私がコミュ障な訳ではない、とそんな話をしてみる。ユーリはとても納得した様子だった。
「……そうだな。重大な秘密を抱えたまま、対等な友人にはなれないな」
『でしょう? だから私は友達がいないんですよ。あ、でもユーリさんには全部話しているので、友達になれたらいいなって思っています』
「そうだな。私も君とはいい友人になりたいと思っている」
お互いに友人になりたい、と思っていたようだ。……もうこれは、友達と言っても過言ではないのだろうか?
ちょっと機嫌がよくなって、自然と口角が上がった。人は嬉しいと笑うものだ。私は今、結構嬉しいと思っている。笑みが浮かんでくるくらい嬉しいと思ったのはいつ以来だろうか。
『かわいい』
その時伝わってきた意思に驚いて思わずユーリを見る。ユーリも驚いた顔をしていて、目が合ったまま数秒の間、どちらも動かなかった。……彼自身も自分に驚いている。なんだろう、この変な空気。
「……すまない。今の笑い方は可愛いと思ったんだ」
『それはどういう意味ですか。いつもの笑顔はお気に召さないんですか』
「…………君に満面の笑みを向けられるとなぜか背筋が冷たくなるからな」
……そうか。やっぱり私の笑顔は怖かったのか。あとでちょっと自然な笑顔の練習でもするとしよう。
その後、移動に時間がかからないこともあって、睡眠をとっていなかったユーリがしばらく休むことになった。と言っても横になる訳でもなく、木に寄りかかってまどろむ程度の仮眠をとるつもりらしい。
『ちゃんと寝た方がいいと思うんですけど……』
「深く眠ってしまって目が覚めた時に君がいなくなっていたら心配だからな。これでいい」
『さすがに起きてる時は間違って瞬間移動なんてしませんよ。……気になるならやっぱり手をつなぎます? ここは外だから寝室に誘うことにはなりませんし』
「……そういう問題じゃない」
男女がみだりに触れ合うものではない、という断固拒否の固い意思を伝えられたので、仕方がないなと諦めた。絶対にちゃんと眠った方がいいと思うのだけれども。さすがに、念動力で縛って寝袋に突っ込むわけにもいくまい。
木の根元に座って太い幹に体を預けたユーリは、ぼんやりと私を見ている。……視界から消えないか心配で目も閉じられないようだ。
(私が昨日いつ瞬間移動したか分からないけど……交代に起こされてないってことは結構早かったのかな)
それなら一晩中心配して気が気でない状態が続いていただろうから、不安になるのも仕方ない。手を繋げればよかったのだが、友人とはいえ異性でもある。挨拶として握手を交わすのはいいけど手を繋いで眠るのは彼の感覚としてあり得ないものらしく、この方法は使えない。
ならばこれはどうだろう、と彼の隣に腰を下ろした。触れるか触れないかくらいの距離だ。
「……ハルカ?」
『これなら触ってませんけど、隣にいるのが分かりません?』
「そう、だな。これならわかる。……ありがとう」
ユーリは気配に敏感だ。私が背後に現れれば、音を立てていなくても気づくくらいには。私が隣にいれば、彼はそれを感じ取れるだろう。
ほっとしているらしい感情が伝わってきて、それはすぐに眠気に襲われて消えていく。彼が眠るなら精神感応は必要ないので切っておいた。他人の夢まで覗く趣味はない。
彼が目を覚ましたら、ホームに移動する。それまでは千里眼であたりを探索したり、面白そうなものをアポートで取り寄せたりして待っていることにした。
(お、あれなんだろう。ちょっとこっちに引き寄せて……)
そんな感じで彼が起きるまで興味を引くものを集めて暇を潰していた。目を覚ました彼がまた目元を覆って「少し眠っただけでなぜ……」と呟くのは二時間後のことである。
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