異世界超能力だより!~魔法は使えませんが超能力なら使えます~

Mikura

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4話 それは、唐突にやってきた

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「あの二人の思惑は分かってるか? お前にできないことを押し付け、罰として酷いことをする腹積もりだ。……だから、できないことがあったら俺を頼れよ」


 二人が離れている今なら逃げ出せそうではあるが、そうしてしまうと私は職務放棄と逃亡という罪を被ることになる。それこそ死ぬような目に遭う罰を与えられても文句が言えなくなるから、私を連れ出したくてもユーリは逃亡の提案はしない。
 私をサポートしながらこの仕事を無事に終え、その後に私をどこかに連れて行こうと思っている。……どこか遠くの田舎の方で、魔力の少ない者を保護している場所らしい。彼の思考を読む限り、ひとまずそこで生活するのは悪くなさそうだ。是非連れて行ってもらいたい。衣食住の確保は最優先事項だ。


「まずは薪集めだな。……おい、一人でいくな、危ないぞ」


 薪を集めるためにそのあたりの茂みに向かおうとしたが、森には魔物やそれ以外の獣がいて危険だと思ったユーリもついてこようとしたのでそれは必要ないと片手で制した。
 薪集めはさっさと念動力を使って終わらせるつもりだし、いつ二人組が戻ってくるか分からない状況で深い話はできないから二人きりでいる必要もない。私の素性について明かすのは確実に邪魔が入らない時がいい。


「そうか、お前は身体能力が高いんだったな。じゃあ、せめてこれを持っていけ」


 長いコートの内側をごそごそと漁った彼はベルトと鞘が一体になっているナイフを差し出してきた。自分が身に付けていたものをわざわざ外してくれたらしい。面倒見のいいユーリはそのままベルトのつけ方まで教えてくれる。
 しかし、それにしても。ジャージ姿で腰に無骨なベルトとナイフを巻いているのは結構珍妙なのではないだろうか。ユーリも私の服装を変だと思っているのが伝わってくる。


『随分変わった服だが……どこか辺鄙な場所の出身なんだろうか。両親の姿もないし、声も出せない。きっと大変な身の上なんだろう』


 服については多少疑問があるようだが、同情してくれているしなんとかしてやらなければと思ってくれている。私が薪を探しに行ったあと、少し距離をおいてこっそり後をつけて護衛しようなどと考えているくらいだ。初対面の人間によくもここまで親切にしようと思えるものだと感心してしまう。……私はこの世界の最底辺にあたる存在とされているのに。


(こんなにいい人を巻き込むのは気が引けてき……いやいや、でもこれ以上親身になってくれそうな人もいない。ごめんねユーリさん、私のために巻き込まれてください)


 私には協力者が必要なのだ。私の状況を理解し、この世界のことを教えてくれて、私を見捨てず、手助けしてくれる誰かが。生きていくためになりふり構ってなどいられない。
 これから先、彼以上のお人よしに出会えるとは思えないし、協力者を得るならチャンスは今しかないのだ。どうしても彼を味方につけて、手助けしてもらわなければ――暗い未来しか想像できない。……未来予知は全然働いてくれないし。こういう時こそ活躍してほしいのだが。


(でも、話すのはまだだ。あの二人組の邪魔が絶対に入らない時じゃないと。さっさと燃えるものを集めてこよう)


 話す前に超能力を使う姿を見られては面倒なことになりそうなので、茂みに入ってユーリの視界から外れたところで瞬間移動を使って適当に森の深い場所に移った。千里眼でパッと見た時に枝が大量に落ちていた場所である。
 手あたり次第よさそうな枝や葉を念動力で集め、そして私を見失ったと慌てているユーリの背後に瞬間移動で戻ってきた。戻ってきた瞬間、勢いよく彼が振り返ったので私もちょっと驚いた。……音は立てなかったというのに、随分気配に敏感だ。


「っ!?! い、いつからそこに……いや、それよりもうそんなに集めたのか? 随分、早かったな……?」
『この子は一体、何者だ……? 気配も先ほどまではなかったはずだが……?』


 超能力が使えるだけの人間なのでそんなに驚かないでほしい。この世界の人間だって魔法が使えるのだから、似たようなものだろうに。
 ユーリは先ほどから私の予想外の行動に混乱気味である。普通の人間にはできないことをやっているのだから当然の反応だが、後できっちり説明するので許してほしい。今はただこの仕事をこなし、あの二人組ときっちりお別れするのが優先なのだ。

 そしてなにより、そろそろ超能力を使いっぱなしで疲れてきたし食事が摂りたい。二人組は昼食の準備で火起こしをさせると言っていたから、あの二人が帰ってきたら焚火を使って食事を作ることになるのだろう。


(それならさっさと火を起こして待っておこう。順調に仕事をしているのに食事を抜かれるなんてことはさすがに……ないだろうし)


 たぶん。きっと、さすがに。いくら私が魔力なしの人権すら危うい存在だとしても、理由もなく虐げてはいけないという法律はあるようだから大丈夫だろう。……理由があったら虐げてもいいらしいけれど。

 河原の石を適当に組んで、その中心に拾ってきた枝を積んだ。そして集めてきた太い木を掴んで、先程ユーリに借りたナイフを取り出し、加工を始める。そう、火起こし器を作るのだ。
 私には発火能力パイロキネシスというどこでも火を扱える力があるけれど、魔力のない私が何もない場所から火を出したら不自然だ。そこで火起こし器で火をつけるフリをして、発火能力を使うことにした。
 ユーリに事情を話すのはこの仕事を終えてからの予定なので、それまでは一応魔力のない人間ができなくはない程度でいなければならない。……いや、まあ、面倒で瞬間移動を使って薪集めをした時点でちょっと怪しいだろうけれど。見られていない範囲なのでギリギリセーフ、ということにしておきたい。


「その木で何をするつもりだ? ……え? 火を起こす? それで?」


 加工中の木と積みあげた枝を指さして火を起こすつもりであることを伝えたら、ユーリはとてつもなく驚いた様子だった。この世界は魔法が発展しすぎて、何をするにも魔力と魔法を必要としているせいで原始的な能力が失われているらしい。そんなもので火を起こせるのかととても疑問に思われている。
 私の代わりに火をつけようとしたユーリの手には火の魔石が握られていて、私がやろうとしていることを見てみたいという興味と、あの二人が戻ってくる前に火をつけなくてはと思う心配の間で揺れているのが分かった。


「……見ていろ、と?」


 もう一度木を指さし、尋ねられた言葉に頷く。心配しなくてもあの二人はまだ帰ってくる気配はない。千里眼で確認したが、この後の予定の打ち合わせに盛り上がっているようだった。時間はまだまだありそうである。


(本当は火起こし器を作るのにも火をつけるのにも時間がかかるものだけど)


 私は超能力者である。ナイフを使って(いるように見せながら大体は念動力で)木を加工し、原始的なきりもみ式の火起こし器を作りあげた。ここまで十分程度しかかかっていないので本来ならあり得ないのだが、そもそも火起こし器を知らない人間しか見ていないし「やけに器用だな」としか思われていない。うん、問題ないだろう。……ないはずだ。


「これで火がつくのか?」


 ユーリの言葉に頷いてさっそく火起こし器を使う。くぼみの部分によく乾燥した細かな葉を入れてあとはひたすら摩擦するだけだ。……これも本来は根気のいる作業だが、この世界の物理法則が元の世界と同じとは限らない訳だし、それらしく見えればいい。適度なところで発火能力を使えば――。


(……あれ?)


 その時、不思議な現象が起きた。元の世界でならこの程度で火がつくはずもない程度の摩擦。時間にして一分程度棒を手の平で挟んで葉っぱをこすっただけ、それで煙が上がり始めたのだ。
 よく意識を集中してみると、微弱な力が集まっているのが分かる。人間が発するものより弱いが、多分魔力だ。


(……この世界のものは何でも魔力を含んでいるのかな。枯葉には火属性でもついてるの?)


 この世界の法則を知らないので詳しくは分からないが、発火能力に頼らずとも火はつけられた。火種が出来ればあとはそれを消さないように気を付けて枯葉や細枝などを追加して火を大きくし、積み木の方に移すだけだ。ついでに街でもらった名刺も投げ入れておいた。紙なだけあってすぐに燃えたが、まあ、多少は役に立っただろうか。
 この作業を見守っていたユーリは一言も発さなかったが、内心は驚きの連続だったようだ。私が使い終わった火起こし器の棒部分を薪として火にくべた時は「勿体ない!!」と思わず叫ぶほどに動揺していた。


「すまな、いや悪いな。驚いて……そんなもので火をつけられるとは思ってなかった。魔法を使わなくてもこんなことが……」


 すごいのは私ではなくこういう方法で火を起こしてきた大昔の人間と、やたら燃えやすいこの世界の植物だと思う。山火事などは起きないのかと心配になるくらいにはよく燃えた。
 とりあえず、ユーリは火起こし器に強い興味を抱いたようなので作り方から教えて時間を潰すことにした。一応、あの二人組の様子も覗いてみるかと千里眼を使って、そして。


「あ……」

「…………お前、声が出せるのか?」


 思わず声が漏れるくらい驚く光景が見えてしまい、ユーリが驚いたようにフードで見えない顔をこちらに向けたがそれどころではない。たった今、あの二人組は命を落とした。それをやった存在は、凄い勢いで私達のいる方向へと向かってきている。
 鳥の群れが騒ぎながら一斉に飛び立ち、漂い始めた異様な空気感にユーリもハッと立ち上がる。次第に大きくなる地響きと、腹の底が震えるような低い唸り声。木々をなぎ倒しながらうっそうと生い茂る森の奥から姿を現したそれは、川を挟んだ向こう側から私たちを淀んだ黄色い瞳で睨んでいた。

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