ヒーローだって思春期だもんね!なんて思った私がお願いしたことは・・・

かぜかおる

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転生してたけど、俺TUEEEもNAISEIもできない所存

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いや、悪役令嬢転生かよ・・・

そう気づいた私が婚約者との初対面の場で顔が引きつらせてしまったのも仕方ないと思う。



私、ナロリス=バージェフ公爵令嬢が前世の記憶を思い出したのは5歳の頃。

貴族令嬢でありながらなぜか木登りをしていた私は、手を滑らせて頭を強く打ち気を失った。
そして目覚めたときには時任あかり、享年17歳の記憶を思い出していた。

あかりが前世だっていうのは自然と受け入れられた。

問題だったのは、17歳の記憶に引っ張られて、ナロリスとして純粋な5歳児の振舞いが難しくなったこと。
あかりの死の瞬間までも思い出してしまい、恐怖でうなされるようになってしまったこと。
そして、前世の家族や友人関係への未練などの思い。


そういった思いやらが重なり、情緒不安定になり行動もぎこちなくなっていたことにナロリスの家族はすぐに気がついていたらしい。
ナロリスの家族は貴族でありながら愛情に満ちた家庭だったからそれも当然かもしれない。

最初は私が言い出すまでは、と様子を見守っていた家族だったがそうはいかなくなった。
それは王家との婚約が内定してしまったからだ。

でも、それが逆に良かったのかもしれない。

ある日両親は私を呼び出し、最近の変化について優しく切り出した。
いっぱいいっぱいだった私は泣きながら転生のことやそれによって生まれてきた様々な感情について語った。もう、1人で抱え込むことができなかったのだ。

両親は全てを信じたわけでは無かったと思う。
それでも、嘘や狂言と決めつけることなく話を聞き受け入れてくれた。

あかりやあかりの生い立ち、家族への思いなども含めて、全てを包み込んでくれた。

そして、1人で抱え込まなくてよくなった私は、家族の愛情に包まれながら少しずつ落ち着きを取り戻していった。


さて、そのあかりの記憶についてだがこれは国に報告することとなった。
婚約を決めるにあたって、候補者たちは何度か王宮に招かれて国王陛下や重鎮たちと面談のようなことをした。

かつてのナロリスと、あかりの記憶と混じり合った結果大人びたナロリス。
この変化を説明する必要がある。

報告せずに子供のふりをするという案は即座に却下された。
数回といえども国を動かす重鎮達が自ら会話を交わし、人格を見極めたのだ。5歳児とたかだか17歳の小娘が混じったくらいの演技力で誤魔化せる相手ではない。

それに、これから王族に嫁ぐ娘として王宮で教育を受ける機会や、王妃様などと交流する機会も増える。そんな中でぽろっと何かヘマをしてしまい、問い詰められたりして対処が後手に回るくらいなら先に提示しておいた方がいいという方針だ。


報告をしてから、かなりの回数話し合いの場がもたれた。
あかりの記憶や、あかりの生きていた世界での知識などの聞き取りのためではあったのだが。


・・・正直に言っていいだろうか、内心ちょっとだけNAISEIとか期待した。
知識チートとか?

あかりはラノベとか、ネット小説とか結構読む方だったからさ、そういうのやれるんでない?とか思ったりしちゃったのよ、最初は。

でもいろいろ話して大人達の反応見て無理だと分かった。
NAISEIするにも、日本の制度をただ持ってくればいいってもんじゃないんだ。
内政をするには国やその土地の状況、歴史、思想、ときには宗教だって関わって理解して話を進めなくちゃいけない。領主だから領地を自由にするってことも許されてない。
いや、許されていても出る杭は打たれるって奴で簡単に話は進まない。

よくラノベのNAISEIで数年で領地発展とかあるけど、そんなに簡単でもない。
利権の調整だけでも話し合いに下手すれば何年もかかる。制度を理解してもらって浸透させてって、日本みたいに伝達手段が発達していない、教育の進んでいない環境でやるにはこれまた下手すれば年単位の時間がかかる。

現実は甘くないね。

それに私の知識も十分じゃ無かった。

例えばさ、保険。
日本では国民皆保険とか言われていて、制度化されていたけどね。

そういう制度の話をしたけど、じゃあ、実際にどうやって保険料は計算しているの?どこまでは保険適用で、どこまでは適用外?みたいなことわかるわけないじゃん。

そういう制度があったって話はできても、具体的な手段は分からない。

ほら、スマフォを使えても、どうやって動いてるのとか分からないじゃない?そんなかんじ。


ああ、でも今にして思えば、それ位だから私は危険分子と思われることもなく無事に生きていられたのだ。


あかりはごく普通の女子高生だった。ものすごく成績が良かったわけではないけど赤点取らない程度の成績はキープしてた。
一夜漬けばっかりだったけど、日本で一定水準の教育を受けてある程度身につけていた。

これがどういう意味を持つのか・・・。

様々な社会制度、政治思想、宗教、その他もろもろ。
この世界の先を行っていて、その知識がある。

国の上層部からしたら要注意人物だったと思う。
だって、私の知っている知識には今この国で行われている制度よりもっと耳ざわりいいものはたくさんあった。
それを利用して、国家転覆を狙うのも不可能ではないと思わせる程度には・・・。


ナロリスが排除されなかったのは、そういったことに対する危機感のなさと、危機感がないからこそ平気でペラペラと話をしてしまうところに国の上層部が危険性を強く見出せなかったからだろう。
下手に警戒などをしながら情報の出し惜しみなどをしていれば、多分、消されていた。

ナロリスの両親が国に報告をすることに決めたのはこういう面もあったのだと思う。
下手にぽろっと何かの思想や制度について口にした結果要注意人物になってしまったら大変だから。
日本で平和に暮らしていたあかりも、まだ5歳のナロリスもことの重要性がわかるような生き方はまだしていなかったしね。


いろいろな聞き取りなどを行なった結果、ナロリスの婚約は続行となった。
まあこれも、ナロリスの囲い込み兼監視がしやすいというところもあったのだと思う。


まあそんな、危ない橋を知らず知らずのうちに渡っていた私はやっとこさ婚約者とのご対面の機会がやってきた。


そして、冒頭に戻る。
ネット小説界隈で悪役令嬢ってのが流行っていたからついそう表現してしまった。
まあ、悪役令嬢なんだけどさ。

元ネタは乙女ゲームじゃなくてネット小説。ストーリーは悪役令嬢ものの元ネタの乙女ゲームの設定の定番ネタと同系統。

貴族を中心にハイソな方々が通う学校に、数年前まで平民としていきていた男爵令嬢が転入してくる。その明るさやら天真爛漫さに王子様が惚れて、王子の婚約者がいじめ倒し断罪される。

はい、ナロリスは王子の婚約者な。

そして、ぶっちゃけそこまでオリジナリティがない話なのになぜ王子の姿を見て思い出せたか?


その答えは王子の容姿にある。
彼は白髪に赤い瞳、つまりアルビノってヤツなのだ。

メインヒーローがアルビノって珍しいなあって思って覚えてた。
そうじゃ無かったらよっぽど好きな作品じゃないと思い出せなかった自信がある、結構読み漁ってたからね。


まあ、そんな感じで王子の容姿と名前から作品に気付き、自分の名前と容姿を改めて確認して、悪役令嬢転生だなと把握したのであったまる。


さて、悪役令嬢転生と気づいてしまったせいで動揺し、必死に取り繕ったもののぎこちないまま初対面は終了した。

帰りの馬車の中で両親に何があったのかと聞かれたのは言うまでもなく、あ、両親が心配していたのは王子の容姿に忌避感とか感じてしまったのではないかといったところ。
実際元ネタでは王子はアルビノであるため、周りから浮いていることが悩みになってたしね。それを気にせず接してくるヒロインに落ちてしまうのよ。

あー、でも、ちょっとわかる気がした。
別にこの世界ではアルビノそのものに対して偏見はない。アルビノ、確か色素がうまく作れないんだっけ?の原因が分からない時代であれば、下手すれば悪魔の子とか言われたり偏見に塗れることもあるだろうけど、それはない。

でも、白すぎる肌と髪の毛、そして赤い瞳は集団の中で明らかに浮いてしまうし、表現が悪いかもしれないけれど異端だ。
王族ゆえに蔑ろにされることはないけれど、近寄り難いし、集団って異端を弾きたがるものだと思うけど、その現象が起きてしまうのだろう。

実際、あかりの人生を含め直接会ったことはなかったものの、それも一つの個性と思っていた私でさえ、その姿を見た瞬間これは同じ人間だろうか、なんて頭によぎってしまったから。
知識も原因も知らない人が出会ったら言わずもがなって奴だろうなって思う。

だから王子の婚約者選定は大分慎重に行われたらしい。


あ、話がそれてしまったから戻すけど、両親には悪役令嬢転生やその関連の諸々について話をした。
あかりの話をしたとき以上になんとも言い難いって雰囲気がガンガンに出ていた。

まあ、そりゃそうですよね~としか言いようがないけど・・・。

とりあえず、この件に関しては保留になった。
知識が中途半端すぎてね、対策しようがないからね。

特にヒロインについては、キャラの名前は覚えていたのだけど家名は覚えていなかった。
正確には家名も薄らぼんやり覚えていたのだが、この国は男爵位を持つ家が多く似たような家名も多い、日本で言う佐藤、加藤、伊藤、後藤みたいに一文字違いとかね、本筋に関係ないヒロインの実家についてはほとんど触れられていなかったから特産品とか別の要素でも特定することができない。

他の登場人物に関しても、細かく描かれていたわけではないし、何かしら国家転覆とか関わる事件があるわけではない。学生の青春いざこざに下手に権力が絡んだせいで大事になったって感じ。だから何かしら対策を講じる必要性も出なかったって感じかな。




そんなこんなで年月は過ぎ、ナロリスは花の16歳、学校に入学する年になりました。
学校は二年制でストーリは2年目の中旬から始まって卒業式のタイミングで終わる。

入学ちょっと前にお呼び出しを受けて何かと思っていってみれば、ヒロインらしき人物が見つかったとのこと。
・・・調査してくれてたんだねって思ってしまった。

とある男爵家から養子縁組の申請がきて、その子供の名前が私が覚えていたヒロインの名前と一致、家名もこれなら私が伝えていたうろ覚えの感じになるだろうって家名だったらしい。


んで、呼び出されたのはそれを伝えるためと、ぶっちゃけどうしたい?と言うお尋ね。

相手男爵家だし、もしなんなら学園への入学を阻止することも、ここで養子縁組ですら拒否することも可能だ、と。

それを言われた私はちょっと悩んだ末、とあるお願いをした。



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