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婚約破棄
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「リサ・アルベルト!貴様のミリーに行った悪事は分かっているぞ!貴様のような悪辣極まりない女と結婚など虫唾が走る!!
貴様と私の婚約を破棄する!」
何を言っているんだこいつは、流石に気を失ってでも逃げたくなった。
今日はアカデミーの交流会。普段は棟が異なるためなかなか交流できない種族とも交流できる日。ガーデンパーティー形式の会場には適度に着飾った者達が交流を深め会話を楽しんでいた。
リサ自身もいつもの4人で一緒に交流会を楽しんでいたのだ。そんな中、少し色の違うざわめきが聞こえてきたので嫌な予感が胸をよぎったところだった。
「リサ!リサ・アルベルト出てこい!!」
聞き覚えのある声で呼ばれてしまった。お互いに顔を見合わせ、諦めのため息を吐いたあと気合を入れて、声のした方へ向かう。
途中すれ違う事情を知る者たちの同情の目線がなんとも胸に突き刺さった。
「リサ・アルベルト参上いたしました。お呼びでしょうか?」
目の前にはリサの婚約者が件の女の腰を抱き、いつもの問題児たちがそれを守るように位置取っていた。
そして、その後すぐの婚約破棄宣言。
リサが倒れたいのを必死に踏ん張っている間に、彼らはリサが行ったと思っているミリー嬢への悪事、とやらを口々に叫んでいた。もちろん、リサは一ミリたりともやっていない。
周りを見渡せば、訝しげな顔をするも横から、ほらあれが例の、とそれだけで納得した顔になり同情を向けてくる。
人型棟の者だけではなく、例のだけで通じる彼らは随分と有名人になっていたようだ。
彼らはそんな周りの空気には一切気付いていない。
「ふっ、事実を指摘されて言葉も出ないか!?」
どうやら、悪事とやらを言い終えたらしい。
「いいえ、あまりにも身に覚えのないことを言い連ねられるので呆れてものも言えなくなっていただけですわ。それに、その話題はここでするのに相応しいものかしら?移動して話し合いませんこと?」
「逃げようとしても無駄ですよ。素直に認めれば潔いものを、やってないなどど嘘を重ねるなんて、相変わらず我が公爵家の人間として恥ずかしい限りですね、姉上。」
リサの弟がそう蔑みを隠さずに言う。
他の面々も同じようなことを口にする。口にするたびに、友人たちの笑みが深まり、周りの気温が下がっていく。
バチンと手に持った扇を閉じて、彼らの口も閉じさせる。
「この場でそのようなことを言うのであれば、それ相応の証拠もございますのよね?」
そんなものあるはずがないと思い話を投げてみれば、嫌に自信満々の顔を浮かべている。
「そんなものあるに決まっているだろう!ミリーが貴様に虐められたと泣きながらに訴えた。これ以上ない証拠だろう!」
あまりに堂々とした物言いに気圧され、会場が一瞬納得してしまいそうになる。
「いや、それは証拠ではなく証言でしょう。」
どこからともなく、ボソリと呟かれた言葉に会場中がはっとなった。
彼ら以外の空気が気まずくなる。
「証拠もあるから貴様が悪事を働いていたのは確実。父上たちに婚約破棄の許可も貰っているからな。自分のしたことを悔い改めるといい!」
「は?陛下方がお認めになったのですか?」
「そうですよ、姉上。父上からも、大事な婚約をダメにするような恥ずべき娘は公爵家にはいない、と公爵家と絶縁する正式な書類が届いています。」
「お父さまも?」
「はははっ、流石にこうなれば自分がどれほどのことをしたのか身にしみてわかるだろう。」
あまりの事態に今までの余裕を失い呆然とするリサに、周りはかける言葉が見つからず、彼らはしてやったりと勝利の笑みを浮かべていた。
「貴様のような混ざり者との結婚など始めから嫌だったのだ。」
「やっと我が家の恥部である混ざり者の姉上を追い出せて、嬉しい限りですよ。」
婚約者と弟は追い討ちをかけるように言った。
その言葉に、もうダメだと思った。
混ざり者、異種族の夫婦の間にできた子供を蔑む言葉。純血主義者や高位貴族などが使う差別用語だ。
リサの両親は人族だったが、リサは耳が長く幼い時は成長が遅かったためエルフの血が混ざっているのだと推測されている。リサの国はかつて異種族を積極的に受け入れていた関係もあって、どこかで血が混じっていてもおかしくは無い。しかしリサの父親はそうは見なかった。
長く同盟に加入しておらず、人族以外との交流を制限していた隣国出身の父親は純血主義者で、混ざり者を産んだリサの母を疑い混ざり者のリサを蔑んだ。続けて生まれた弟が普通の人族であったことからそちらだけを可愛がり、リサの母が亡くなってからはリサを虐げていた。
これはリサの婚約者もリサの弟も同様だった。リサの婚約者は、リサの父親の出身国の王子である。人族の婚約者と思ってみれば混ざり者。たまの会う機会にはただ罵倒して蔑むだけだった。
蛇足だが、かつては異種族間の交流促進のための婚姻が推奨されていた時期がある。しかし、統計などにより異種族間では子供ができにくく、能力の低下や体が弱い子供が生まれやすくなるなどの可能性が示唆されたため現在は政略目的の異種族間の婚姻は避ける傾向にある。
閑話休題
リサは婚約者を愛していたわけでは無いが、自分の役割を理解し努力してきた。誰から蔑まれようとも、虐められようとも我慢して、役目を果たすため必死にしがみついてきた。
だがもうダメなのだと、理解した。
「ねえ、婚約破棄ってことは、婚約が無くなったってことだよね。じゃあ、リサのこと食べていい?」
突然、場違いに呑気な声が響いた。
「アレン様・・・」
「貴様っ誰だ!?」
婚約者の言葉にその場が騒然となる。
竜種は生き物の中で最上位種になる、同盟加入した以上対等であるという建前はあるものの、大概の種がそうと知らずともその力を感じ取り畏敬の念を抱くものだ。
それゆえに特に親しくもないのに竜種のアレンにそのような言葉遣いをするものはいない。
「アレンだよ。ねえ、リサのこといらないんだよね?食べていい?」
「は、食べる?」
アレンの呑気な声に、毒気が抜かれたのか婚約者が気のない声音で問う。
「うん、頭から。いい匂いがするからずっと食べたかったんだ。いいかな?」
「・・・ふっふははは!よかったじゃないか、リサ。役立たずで混ざり者のお前も最後の最後に立派な役目ができて。いいものを食べて育ってきたんだ、さぞかしいい栄養になるだろうよ!」
婚約者は大笑いし、弟もニヤニヤと笑いを浮かべている。
「我が公爵家としても問題ないですよ。そもそも絶縁していますしね。」
「じゃあ、もらうね。
ねえリサ、約束だよ婚約が無くなったら食べていいんだよね。」
アレンは期待たっぷりの目をして、リサをじっと見つめる。
ふっと笑みをこぼす。ここまで望まれているのであれば、それが食べようとしている(物理)であってもいいんじゃないか。リサは自分が少しやけになっているのを感じていたが、それすらももういいやと思ってしまっていた。
最初からここまで真っ直ぐ望んでくれたのはアレンだけだ。
「いいですわよ、優しくしてくださいませ?」
そうリサが答えた瞬間、会場に咆哮が響きアレンの本当の姿、竜が姿を表した。
そうしてリサを頭から一飲みにするとそのままどこかへ飛び立っていった。
************
閲覧ありがとうございます。
予約投稿ちゃんとできているか確認しに行ったらお気に入りが15超えていてドキドキしてます(^^;
拙い文章ですが楽しんでいただけたら幸いです。
貴様と私の婚約を破棄する!」
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そして、その後すぐの婚約破棄宣言。
リサが倒れたいのを必死に踏ん張っている間に、彼らはリサが行ったと思っているミリー嬢への悪事、とやらを口々に叫んでいた。もちろん、リサは一ミリたりともやっていない。
周りを見渡せば、訝しげな顔をするも横から、ほらあれが例の、とそれだけで納得した顔になり同情を向けてくる。
人型棟の者だけではなく、例のだけで通じる彼らは随分と有名人になっていたようだ。
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他の面々も同じようなことを口にする。口にするたびに、友人たちの笑みが深まり、周りの気温が下がっていく。
バチンと手に持った扇を閉じて、彼らの口も閉じさせる。
「この場でそのようなことを言うのであれば、それ相応の証拠もございますのよね?」
そんなものあるはずがないと思い話を投げてみれば、嫌に自信満々の顔を浮かべている。
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「そうですよ、姉上。父上からも、大事な婚約をダメにするような恥ずべき娘は公爵家にはいない、と公爵家と絶縁する正式な書類が届いています。」
「お父さまも?」
「はははっ、流石にこうなれば自分がどれほどのことをしたのか身にしみてわかるだろう。」
あまりの事態に今までの余裕を失い呆然とするリサに、周りはかける言葉が見つからず、彼らはしてやったりと勝利の笑みを浮かべていた。
「貴様のような混ざり者との結婚など始めから嫌だったのだ。」
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その言葉に、もうダメだと思った。
混ざり者、異種族の夫婦の間にできた子供を蔑む言葉。純血主義者や高位貴族などが使う差別用語だ。
リサの両親は人族だったが、リサは耳が長く幼い時は成長が遅かったためエルフの血が混ざっているのだと推測されている。リサの国はかつて異種族を積極的に受け入れていた関係もあって、どこかで血が混じっていてもおかしくは無い。しかしリサの父親はそうは見なかった。
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これはリサの婚約者もリサの弟も同様だった。リサの婚約者は、リサの父親の出身国の王子である。人族の婚約者と思ってみれば混ざり者。たまの会う機会にはただ罵倒して蔑むだけだった。
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それゆえに特に親しくもないのに竜種のアレンにそのような言葉遣いをするものはいない。
「アレンだよ。ねえ、リサのこといらないんだよね?食べていい?」
「は、食べる?」
アレンの呑気な声に、毒気が抜かれたのか婚約者が気のない声音で問う。
「うん、頭から。いい匂いがするからずっと食べたかったんだ。いいかな?」
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婚約者は大笑いし、弟もニヤニヤと笑いを浮かべている。
「我が公爵家としても問題ないですよ。そもそも絶縁していますしね。」
「じゃあ、もらうね。
ねえリサ、約束だよ婚約が無くなったら食べていいんだよね。」
アレンは期待たっぷりの目をして、リサをじっと見つめる。
ふっと笑みをこぼす。ここまで望まれているのであれば、それが食べようとしている(物理)であってもいいんじゃないか。リサは自分が少しやけになっているのを感じていたが、それすらももういいやと思ってしまっていた。
最初からここまで真っ直ぐ望んでくれたのはアレンだけだ。
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そうリサが答えた瞬間、会場に咆哮が響きアレンの本当の姿、竜が姿を表した。
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