45 / 51
番外編
⑨ ブリュエット Side マリールイーズの母
しおりを挟むコトが済んだ後、図ったように女性の悲鳴が響いた。
それに誘われ衆目が集まり既成事実が覆されえぬものとして広まっていった。
私は目をふさぎ、耳をふさぎ、全てを拒絶して、気付いたら自室でカジミールと向かい合っていた。
ただただ情けなくて、不甲斐なくて、申し訳なくて、そして恐怖と不快感がぶり返してきて、頭の中はもうグチャグチャだった。
そして、そんな私を優しく抱きしめてくれるカジミールにしがみ付きながら疲れ果てて寝てしまうまでずっと謝罪の言葉を口にしていた。
次の日目覚めると、カジミールはすでに屋敷にいなかった。
それ以来彼の訪れはなかった、手紙すら届かない中、ただ毎日届けられる送り主のわからない桔梗の花束だけが私の支えになった。
かの男はバルサン伯爵家の次男ウスターシュという名であったらしい、我が家としては醜聞になろうとも相手は伯爵家徹底抗戦のつもりで両親は動いていた。
しかし、王家より待ったがかかった。
ウスターシュとの婚姻を進めるようにとの王命が下った。
その知らせを持ってきたのは、あの日以来姿を見せなかったカジミールだった。
その日応接室に呼ばれ出向いてみるとお父さまとカジミールが向かい合って座っていた。お父さまに手招きされ横に座る。真正面に座るカジミールは随分とやつれて見えた。そんな私も、あれからまともに眠れない日々を過ごしているので人のことは言えないくらい顔色が悪い。
色々と聞きたいことがあったが難しい顔をする二人に気圧され何も言えなかった。
おもむろに口火を切ったのはカジミールだった。
「私は今日勅使としてここにいます、今から伝えることは王命となります心して聞くように。」
感情を一切排除した物言いに、緊張が走る。
「ブリュエット・ドーリッシュ公爵令嬢にウスターシュ・バルサン伯爵令息との婚姻を命ず。」
あまりの内容に固まってしまう。冗談だと言い出すのを期待してじっとカジミールを見つめるも、表情なくやつれた顔がじっと見返して来るだけだった。
助けを求めてお父さまの顔を見るも、首を横に振られる。
「これが正式な書状だ。」
そう言ってお父さまは目の前にあった書状を渡してきた。確かに書状にはウスターシュ・バルサンとの婚姻を命令する文言と国王のサインと玉璽が押されていた。
一気に心が絶望に染め上がった。書状を持つ手が震え、目の前が真っ暗になった。
気がつくと、目の前にいたはずのカジミールが横に座り片手を繋ぎながら私の肩を抱いていた。反対の手もお父さまの手に優しく包まれ、背中に添えられたお父さまの手の温もりを感じた。
「申し訳ありません、ウスターシュとの結婚をやめさせることができませんでした・・・。」
そう悔しさを滲ませて言った後、ポツリポツリと語り始めた。
************
うまくいったぜ
嬉|゚・*:ヾ(oゝ∀・)ノルンタッター ゚+。:゚.。.:*・゜
20
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる