上 下
9 / 15

きっかけ

しおりを挟む


冬休みが明けて、私の苗字は母方のものに変わっていた。
引っ越しをして学校までの距離が少し遠くなったものの転校することもなかった私は、冬休み明け最初に先生にお願いして苗字が変わったことを伝えてもらった。

引っ越した事もその理由、両親が離婚したこともすぐに知れ渡ると思いお願いしたのだが、少し失敗したかも知れなかった。

クラスの中に、気遣わしげな空気が漂うようになってしまったから。
普段あまり関わらない人は、遠巻きになるか、慰めの言葉をかけてくる。
普段一緒に過ごす子は、どう接すればいいのか分からない、もしくは普通にしようとするせいで、どちらもどこかぎこちない。

そんないたたまれない教室で私自身、普通に過ごそうとするせいでどこかぎこちなかったかも知れない。

それがまた、周りの気遣いを誘っていた。


そんな風に過ごしながらも、少しずつ周りも私も慣れてきてぎこちなさが減り始めていたある日のこと。

「なあ、吉野、お前の名前ってさコレと一緒なんだな。」

クラスの男子の1人が急に声をかけてきた。
ソイツは小学校から一緒で家も近かったからよく遊んでいた、いわゆる幼馴染というやつ。

「ん?何?」

返事をすると、なぜかソイツの周りの男子が慌て出す。

「おいっ、やめろよ。」

「このバカがふざけてるだけだから、気にしないでいいよ。」

「なんだよお前ら、別に変なことは言ってないだろ?」

ソイツは不思議そうにしていた。

「どうしたの?」

私は周りの態度に訝しげな顔をしてソイツらに近づいた。
すると周りは余計に慌てるものの、ソイツはそれが不思議だという体を崩すことなく言い放った。

「吉野の名前ってさ、〇〇〇と一緒なんだな。」

そう言いながらソイツは今まで見ていたものを差し出してきて、それを見て理解した途端、私はソイツの顔をぶん殴っていた。

とはいえ、帰宅部で特に鍛えてもいない私に対して、成長期に運動部で体格の良かったソイツの顔をぶん殴ったところで、殴ったところが赤くなるくらいのはずだった。

しかし、運悪くというか、ソイツは机のヘリに座っていて、私が殴ったことでバランスを崩したソイツが掴んだ椅子の背もたれはソイツの体を支えきれなかった。
ソイツは周りの机や椅子を巻き込みながら倒れ、全治3週間の怪我を負ってしまった。

唯一の幸運は、ソイツ以外に巻き込まれた人がいなかったことか。


その日はさすがのお母さんも早々に仕事を切り上げて帰ってきた。
お母さんが会社帰りに買ってきた菓子折と、お金を入れた封筒を持ってソイツの家に謝罪に行く。


「いいのよいいのよ、気にしないで。ごめんなさいねぇ、うちのバカ息子が無神経なこと言ったみたいで。そちらも今大変なんでしょう?うちの子は体が丈夫なだけが取り柄なんだから、このくらいの怪我なんてすぐに治るわよ。吉野ちゃんもごめんなさいねぇ、うちのこのバカ息子が変なこと言ったせいなんでしょう。」

ソイツの母親、私もよくお世話になった顔なじみのおばさんは、玄関から顔を出した途端、いつもの弾丸トークを開始した。
ソイツの背をバンバンと叩きながら話すのはいつもと同じ、でもその言葉に哀れみとか同情とか、そんな感情を感じてしまうのは私がひねくれているせいなのだろうか。

さすがに全面的に私が悪いと思って謝罪をしにきたはずなのに、私は不貞腐れたようにそっぽを向き謝ろうとしなかった。
ソイツも拗ねたようにそっぽを向いていて、親同士が謝り倒している中、当事者の私たちは無言で向き合う事もしなかった。


最終的には、お互いの親に無理やり頭を下げさせられ、心のこもらないごめんなさいが交わされた。


そして、その次の日から、私は学校に行かなくなった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

亡国の姫と財閥令嬢

Szak
ライト文芸
あることがきっかけで女神の怒りを買い国も財産も家族も失った元王女がある国の学園を通して色々な経験をしながら生きていくものがたり。

エルナとミサキ 二人の約束は果たされる

八神獅童
ライト文芸
西暦6010年になっても、人は変わらない。 愚かさも、優しさも。 これは二人の少女の、ありふれた約束の物語。 百合×サイバーパンクみたいな作品です。 かなり短い小説になると思います。 「小説化になろう」にも掲載しています。 ジャンルは「ライト文芸」として設定していますが「恋愛」にするか迷っています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

忘れさせ屋~あなたが忘れたい事は何ですか~

鳳天狼しま
ライト文芸
あなたは忘れたいことはありますか? それはだれから言われた言葉ですか それとも自分で言ってしまったなにかですか その悩み、忘れる方法があるとしたら……?

月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま
ライト文芸
「タク、この前の続き聴かせてよ、月のやつ」 主人公の女子高生、早貴に対して親友以上の気持ちを持つ千代。 早貴を意識し始めた幼馴染の多駆郎。 この二つの恋が三人に関わるキャラ達を巻き込む。 気持ちをぶつけ合い、喜びも悲しみも経験として乗り越えてゆく。 登場人物それぞれの生き様をご覧ください。 そして、そんな中にも少しのロマンで味付けは忘れていません。 トキメキを求めている方々にお届けします。 ツイッターにて、作品紹介PVを公開しております。 よろしくお願い致します。 (小説家になろう、カクヨム、ノベルアッププラスへも投稿中) ※この作品は全てフィクションです。それを前提にお読みくださいませ。  © 2019 沢鴨ゆうま All Rights Reserved.  転載、複製、自作発言、webへのアップロードを一切禁止します タグ: 女子高生 年上 大学生 学園 高校 高校生 中学生 キス 学校 姉妹 姉弟 鈍感

処理中です...