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お絵かき③

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「怖かったなぁ、あの頃はお父さんもお母さんも家にいるといつも怒鳴ってた。
私に向けられてる訳じゃ無いって分かってても、怒っている人がいると怯えちゃうよね。
イライラしてるからか、普通に話しててもどこか物言いがきついし。」

私はじっとサクラちゃんの描いた絵を見ながら呟く。
きっと、あの頃の私が家族の絵を描いたらこんな絵になってただろうな。
この絵を見ているとそんな風に思える。

「もっと仲良くしたかったのに、怒ってばっかりで、仲良くしようって言う勇気もなくって。
喧嘩なんてやめてって言う事もできなくて、部屋に篭ってばっかりだった。
お父さんとお母さんが何にそんなに怒っているのも分からなくて、分からないままにしちゃった。
そうやって逃げたまんまで、何も言わないまんまでいたら、家族だけじゃなくて友達にも何を言えばいいのか分からなくなっちゃった。」

再び、じっとサクラちゃんの描いた家族の絵をみる。
そこに描かれているのは家族の絵。
どんなに傷つき傷つけられても、確かな家族が、そこには描かれている。

「違うね、怒ってるお父さんとお母さんが怖いなんて、怒ってる理由が分からないなんて言い訳でしかないや。
本当は、お父さんとお母さんがなんで喧嘩してたのか知りたかった。
だって私だって家族だもん、一緒に乗り越えていきたかった。
でも、聞いて知ったら何かが壊れそうで怖かった。
違う、聞いて知って、それでも壊れていく家族になにも出来ないかもしれない自分から逃げたかった。
耳をふさいで、目を瞑って、なにもわからない、知らない子供のままでいれるように。
私は逃げたんだ。」

ああ、自分はこんなこと思ってたんだ。
まるで他人事のように、口からこぼれ落ちる言葉を聞く私がいる。

「それになにより、家族に背を向け許される自分が、背を向けることを許すお父さんとお母さんがなによりも大嫌いだった。」

その結末が、私の描いた家族の絵。
真っ白な、なにも描かれていない、画用紙。


ぽたり、と手にしている絵に水滴が落ちる。

「あれ?」

一瞬の疑問の後に、自分が泣いているのに気がついた。

「あれ?なんで泣いてるのかな?ははっ、はっずいわ。」

泣くのなんて何年ぶりだろう?
そんなことを考えたのは最初だけで、段々と人前で泣く恥ずかしさがこみ上げてくる。

止めようとしても止まらない涙に途方にくれていると、どこかから夕焼け小焼けが流れてきた。
窓の外を見れば、茜色の空。

「・・・どうしよう。」

まるで、迷子になった気分。
帰らなきゃ、でも、どこに?

止まらない涙と、決まらない決断。

ふわりと、私の手を何かが包んだ。
目を向けると、サクラちゃんが私の手を握っていた。

サクラちゃんの手に引かれるまま歩き出す。

ついた先は、昨日も休んだ、一階のベッドがある部屋。

「保健室で、ゆっくり休んで、傷を癒そう。」

ああそうか、ここは保健室だったのか。
学校でベッドがある部屋なんて、確かに保健室くらいだな。

今まで気づかなかったことが不思議とおかしくて、くすりと笑う。


ああ、なんか体が重いな、ベッドに倒れ込んだ私は、そのまま深い眠りについた。

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