さくらの花はおわりとはじまりをつげる花

かぜかおる

文字の大きさ
上 下
3 / 15

出会い①

しおりを挟む

その女の子は、真ん中よりも窓よりの席の一つに座って、頬杖をつきながら外を眺めていた。
なにかあるのかと私も窓の外を見てみるけど、心地良さそうな快晴が広がるばかりだった。

「おねえちゃん、だれ・・・?」

窓の外の空に目を奪われていた私を、好奇心いっぱいに目を輝かせた二つの瞳がじっと見ていた。

「・・・。」

とっさのことに、私は何も言えずにいた。
すると、その女の子は立ち上がって私の方に向かって歩いてきた。

女の子は多分小学校の低学年くらい、ショートボブの髪にシンプルなTシャツにスカートを着ている。

「わたしねサクラ、おねえちゃんは?」

たじろぐ私に、無垢な瞳が向いている。

「・・・、私は、吉野。大沢吉野。」

こんな小さな女の子の圧に負けて名前を言ってしまった。
とっさに出た言葉に胸が軋んだ。

「よしのおねえちゃん?」

「う、うん。」

「いっしょにあそぼう?」

にこっと満面の笑みが私に向かっていた。

私の返事を待たずに女の子、サクラちゃんは私の手を取り走り出した。

「えっ?ちょっと?」

引っ張られるままに、私は駆け出した。


校庭に出た私たちは、校庭で遊び始めた。
最初は躊躇していた私も、サクラちゃんの勢いと笑顔に押されて遊び始めると、最後には思いっきり楽しんでいた。

鬼ごっこから初めて、だるまさんが転んだ、色おに、とおりゃんせ、影ふみ、二人で花いちもんめまでした。

小さい子との遊びなんて余裕と、思っていた私も途中から甘かったと考えが変わった。
確かに走れば私の方が速いし、一つ一つは効率的に動けるが、全てに全力を注ぐサクラちゃんについていくのは思ったよりもずっと大変だった。

「ちょ、ちょっと待って、休憩しよ?」

大分経ったところで、私は音をあげた。
息を上げて座り込む私に、サクラちゃんは顔を向ける。

「よしのおねえちゃん、つかれたの?」

「うん、ちょっと疲れちゃった。」

息が上がっていても、どこか余裕そうなサクラちゃんに驚きが隠せない。
サクラちゃんが私の隣にちょこんと腰を下ろす。

その時、どこかから夕焼け小焼けが流れてきた。

ハッとして、空を見上げると空が茜色に染まっていた。

「・・・そろそろ、帰らなきゃね。」

思ったよりも遊びに熱中してたみたい。もうこんな時間になっていたなんて。
言葉にした通り、そろそろ帰らなきゃならないな、と思うとどこか心が重くなった。

「かえりたくないな・・・。」

心の声が口に出た!?
と一瞬驚いたものの、そんな事はなく、その声は隣から聞こえてきたのだった。

「おうちかえりたくない。」

「サクラちゃん・・・?」

隣を見れば、体育座りして顔を俯かせるサクラちゃんがいた。
さっきまでの元気いっぱいに走り回っていて明るいサクラちゃんから出たとは思えないくらい、寂しそうな声だった。

「そ、そんな事言わないの。お母さんがおうちで待ってるよ。」

慌てた私はとっさにそんな言葉をかけていた。
口に出してから、胸が痛むなんてなんて馬鹿らしい。

「まってないもん。」

「・・・。」

「おうちかえっても、だれもいないもん。おかあさんはもっとくらくならないとかえってこないの。おっきなおうちにひとりでいるのはやだよ・・・。」

拗ねたような、寂しさを全開に滲ませた声だった。

よく分かる感情に、何を言えばいいのか分からなかった。




私が小学校に上がるタイミングで、私の家族は建てたばかりの新築一軒家に引越し、母はフルタイムの仕事についた。
両親の長年の夢だったマイホーム。新築ならではのピカピカで家族みんなが一人一部屋持てる家は、両親が結婚前から同棲していた部屋にそのまま暮らして川の字で寝ていた小さな私にとって、お城のようだったのを覚えている。

でもそんな夢見心地でいられたのは一瞬だった。

それまでもお母さんはパートで働いていたけれど、私が幼稚園に通っている間の短い時間だけだった。だから私は家にひとりという事はほとんどなくて、遊びから帰っても明るい部屋でお母さんが待っている生活だった。

お母さんがフルタイムで働き出したから、私は鍵っ子というやつになった。
学校が終わって家に帰っても、大きな広い家にひとりきり。

ひとりで家にいるのが嫌だから、友達の家に行ったり、学童に行ったりしてた。
けどそれでも、フルタイムで働くお母さんが家に帰ってくるのは日が落ちきってからで、小学生の私をそんな時間まで預かってくれるところは無かったから、明かりがついていてもどこか暗くて寂しい家にひとりきりで過ごさなくちゃいけなかった。

いつも、お母さんが帰ってくるとパッと家の中が明るくなる気がしていた。
お母さんは帰ってくると、晩ご飯を作り始める。
お父さんが早く帰ってくる日には家族揃って食卓を囲み、今日あったことなどを楽しく話す、明るい食卓だった。
お母さんは再就職で、元々やりたかった仕事に就けたのもあって毎日生き生きと楽しそうに仕事の話をしていた。

両親が家族のために、家のために働いてくれていて、生き生きと仕事しているのを見れば

〇〇〇〇

なんて、口に出せなかった。



************

「体育座り」を最初「体操座り」と書いていて読み直した時に

あれ、体育座りじゃね?

と思い、どっちか分からなくなって調べると地域によって呼び名が違う様子。
他にも「三角座り」とか「体育館座り」とか色々ありました。
「体育座り」を使う地域が多いようなので、ここでは「体育座り」を使います。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

もうこれ以上 君を奪われたくないから

むらさ樹
ライト文芸
高校に入るまでの記憶がない、わたし だけどそんなわたしを、支えてくれる人がいる 「オレが…オレがひとみをずっと守っていくから。 だから、ひとみは何も心配するなよ」 兄妹なのにドキドキ淡い恋心を抱いているのは、誰にもナイショ 「身体を楽にしてごらん。ほら、目も閉じて…。 いいよ。不安な事は僕が何でも聞いてあげる」 いつも通っている精神科の先生は、わたしに安心を与えてくれる一番の相談相手 思い出せない 過去の記憶 時折襲う 頭痛と不安感 過去にわたしは、何があったの? わたしは、どうしたらいいの……?

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

処理中です...