あなたを、守りたかった

かぜかおる

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8、キャロラインの真実(ローランド視点)

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しばらくして戻ってきた侍従は食事を持ってきていた。4日も眠りっぱなしだった私に配慮してか、消化に良いものが並んでいた。それを目にして初めて自分の腹がすいている気がつき、あっという間に平らげてしまった。
そして、少したった後、アンジェリカが私の部屋を訪ねてきた。

「ご機嫌よう、ローランド様。お加減はいかがですか?」

「ああ、悪くない。」

アンジェリカを前に、気まずさといいようない感情がこみ上げてきてつい素っ気ない対応をしてしまう。
覚悟を決めて対峙するアンジェリカは、相変わらず美しく凛としていた。
ああ、こうやってきちんと向き合うのは久々かもしれない。ここ何年かはキャロのことがあり、会話すら事務的なこと以外まともにしていなかった気がする。

「ローランド様とあの子とは、どうやって出逢われたのですか?来客がある時は使用人の区画から出ないように言い聞かせていたのですが。」

知りたいと言うよりは、会話のきっかけを探るような聞き方だった。
そして、気づく、アンジェリカのとった距離感に。
ロリーでも、ローランドと呼び捨てるでもなく、ローランド様と。
敬語、それでいて身内に対する声色と程度が、生々しく私たちの関係の変化を物語っていた。
それを淋しく感じるのは、自分勝手がすぎるだろうと自嘲する。

「何年か前、土砂崩れで滞在を延ばしたことがあっただろう。あの時一人で過ごす時間ができて護衛を撒いて使用人の区画を探検したんだ。キャロとはその時に出会った。」

「なるほど、そうでしたか。」

「キャロの、キャロラインのことを教えて欲しい。・・・アンジェリカ嬢の話せる全てを。」

面食らったような顔に一瞬、淋しそうな色が浮かんだのは私の願望が見せたものではなかったと思いたい。
あれだけのことをしておきながら、私からも距離をとったことを淋しく思って欲しいなどそんな権利はないと言うに。

「そうですね、あの子のことを、なにから話せば良いやら・・・。
先に言っておきます、ここから話すことは全て事実です。
ローランド様、貴方が信じられようと信じられまいと関わらず。」

そこから、アンジェリカは覚悟を決めてキャロの話を始めた。

「まず、あの子は先日貴方が言ったように我が国の先の国王夫妻の実の娘です。
公爵軍が先代国王夫妻を討った時、あの子は生後半年ほどの赤ん坊だったそうです。
世話係もまともにつけられる事なく王宮の一室に押し込められていたあの子は、発見された当初、ガリガリに痩せていたそうです。

国王一家を生かしてはおけないと考えていたとはいえ、なんの罪も無い打ち捨てられた赤ん坊を殺すのは忍びないと思いました。けれど、殺してしまうべきだと言う声しか上がらなかったそうです。。
最終的に最大の功労者である父が、わたくしの婚約と引き換えに、あの子を引き取り面倒みる了承を得ました。

あの子は我が家の一員として引き取られました。公爵一家の末の娘としてわたくし達と同じように教育と愛情を与え育てられてきました。
ですが父はあの子が表に出ることだけは絶対に許しませんでした。お客様がいる時は使用人区画で過ごさせ、公爵家の城から一歩も外に出ることを許しませんでした。それに、わたくしたちに外であの子のことを話題にすることすら禁止したのです。

そう言ったことに不満があったせいか、いつの頃からかあの子は軍の男性に手を出すようになりました。それも、公爵軍ではなく、他領の軍人で一時的に公爵軍で預かり鍛えているような者を狙って。
いつ頃からあの子がそう言ったことをしていたのかはわかりません。恥ずかしながら、わたくし達家族はあの子の行動に気づけなかった。そして気づいた時にはすでに何人もの男性と深い関係になっていました。

気がついたわたくし達はあの子を問い詰めました。なぜ、そのようなことをするのかと。
答えは、チヤホヤしてくれて、欲しい物を買ってもらえるから、それに気持ちいい思いができるからだと外部の人間を狙ったのは後腐れがないし、もし上手くいけば外に連れ出してくれると思ったからだといっていました。
急いであの子の部屋を確認させれば、確かに買った覚えのない、わたくし達があの子に渡すには不釣り合いなほど粗悪なワンピースとアクセサリーが大量に見つかりました。

ローランド様はご存知でしょう?
我が公爵家は非常時のために自分のことは自分でできるよう着替えや掃除は普段から自分たちで行います。言い訳にもできませんが、だからこそあの子の持ち物が増えていることに気づけなかった。

わたくしには母から伝わる様々な宝石がありましたし、社交のために定期的にドレスなどの新調もしていました。
でもあの子にはそう言った物がなかった。
表に出ることのないあの子に与えられるのは普段使いのワンピースばかり、母も居らず、男ばかりの環境でわたくしも女性が一般的に好むようなドレスや宝石などにあまり関心を抱いておりませんでしたから、誰もあの子がわたくしを妬み、そう言った物を欲していると気づけなかった。
少し考えれば分かったのかもしれません。公爵家の中でたった二人の女児、一見すると差別でしかない、あの子が与えられているばかりのわたくしを妬むのも当然でした。

わたくし達は心から後悔し、謝りました。
そして、なぜ父があの子を表に出さないのか、あの子の生まれの真実も含めて教えてもらいました。
それ以来、わたくしがドレスを新調する時には一緒にあの子も仕立てるようにして、お祝い事の時には家族の食事を豪華にするだけだったのを晩餐会のようにして着飾る機会を作るようにしました。

しかし、あの子は変わりませんでした。
その後もわたくし達の目を盗んでの逢瀬は続きました。」

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