あなたを、守りたかった

かぜかおる

文字の大きさ
上 下
6 / 10

6、キャロラインの邂逅(ローランド視点)

しおりを挟む
私はとある国の第二王子として生を受け、そして幼い頃に王位につくことが決まった。
別に兄に問題があったとかではなく、隣国の王位につくことが決まったのだ。先代の王に問題があり、王の直系が絶えたことで先王の伯父が王位についたのだが、伯父の唯一の子が私の母だったことから、隣国の公爵家の娘と結婚し王位につくことになったのだ。

公爵家の娘、アンジェリカとは幼い頃から交流があり、女の中では1番の友人だった。
公爵家は武を重んじる家系だったこともあり、アンジェリカは女でありながら外でかけっこをしたり、剣で打ち合ったりと一緒に過ごすのがとても楽しかったのだ。
公爵家の領地は我が国に一番近い位置にあったこともあり、隣国でありながら頻繁に行き来をして交流を深めていた。



そして、忘れもしない13歳のあの日、公爵家で彼女と出会ったのだった。

その日私は一人暇を持て余していた、公爵家に遊びに来て2週間滞在し帰る予定だったのだが、帰りに通る予定の道の途中で土砂崩れが起きて安全のため滞在を伸ばすことになったのだ。
普段であれば、アンジェリカやその二人の兄と一緒に遊んだり勉強できるように予定が組まれているのだが、予定外の事態に私だけ体が空くことになってしまったのだ。

そして私は勝手知ったる我が家とばかりに、護衛を撒いて一人公爵家を探検することにした。
一人で護衛を撒くのは難しく、気付いたらあまり入ったことの場所にいた。この辺りは使用人が利用するエリアで、私たちが使用人のエリアにいては迷惑だろうと普段は近寄らないようにしていた場所。一人であればそう迷惑をかけないだろうと、普段とは違うそのエリアを探検することにしたのだ。

元々公爵家はその家柄からか、私が暮らす王宮に比べ最低限の装飾しかなく質実剛健と言った体だが、この使用人のエリアはさらに装飾が減り簡素な空間だった。しかしきちんと手入れがなされていることもあってか、明るく清潔感のある空間だった。
しばらく歩き回っていると、中庭のような空間に出た。そこには沢山の布が干してあって、ひらひらと風にあおられていた。それが面白くて、布の間を歩き回っていると一陣の強い風がふいた。その瞬間きらりと光るものが目に入る。気になってそちらの方に足を向けた。

そこには、光を反射してキラキラと光るピンクゴールドの髪を持つ少女がいた。

「君は?」

「えっ誰?」

少女が怯えたようにこちらを見ていた。

「ああ、ごめん。突然で驚かせちゃったね。僕はローランド、君は?」

「私はキャロライン、キャロって呼んで。あなたお姉さまのお客様よね?」

「僕のこと知ってるの?君のお姉さんって?」

「あなたは、アンジェリカお姉さまのお客様でしょ。いっつもお姉さまたちからお話を聞いていたの。だからあなたのこといろいろ知っているわ。」

笑顔で話していたキャロラインはそう言ったところではっとした表情を浮かべる。

「あっ、ごめんなさい、わたしお客様の前に出てはいけないと言われているの。失礼します。」

「ちょっと待って。」

なぜか引き留めてしまった。初めての感情だった、まだ出会って少ししか言葉を交わしていないのにもっと話したいともっと彼女のことを知りたいと思ってしまった。

それから彼女との隠れた逢瀬が始まった。
とは言っても、私が公爵家に遊びに行った時のさらにその少しの空いた時間しか会うことはできない。手紙を届けることはできないし、彼女は私から完全に隠されていた。それとなく尋ねてみても、ただの使用人の娘と返ってくるだけで会わせることはできないとやんわりと断られた。
不思議だった、使用人の娘と言いながら公爵家の人間はキャロにお姉さま、お兄さま、お父さまと家族のように呼ぶことを許しているようだ。それほど仲の良い関係なのに一切表に出ないキャロ。
自分でもキャロのことを調べてみたが、不自然なほどに情報が入って来なかった。

そうやって数年経ったある時、キャロから衝撃的な事実が告げられた。
彼女は先王の実の娘で、本来なら王位を継ぐ立場の人間であるのだと。公爵家の人間はそれを隠し、キャロのことを使用人としてコキ使いあまつさえ虐められているのだと。

それが真実なら、公爵家は大きな罪を犯している。
私とアンジェリカとの婚姻と王位継承に関しても考え直さなくてはならない。

私は王宮に帰ると、自身の持つ全てのつてを使い真実を追い求めた。
そして、見つけたのだった、キャロが先王の娘であるという証拠を。

その情報に私は歓喜した。その頃には私がキャロに抱いている思いがなんなのかはっきりと分かっていたのだから。だが、自分に課せられた義務を思うとキャロと結ばれる道はないと諦めていた。しかし、キャロが先王の娘であるのであれば話は別だ、アンジェリカより正しい王家の血統。これを公表すればキャロと結ばれることが可能だ、とその時の私は浮き足立っていた。

そしてあの日、キャロラインにプロポーズをして、OKをもらえた。私たちは公爵家で開かれたパーティーで真実を公表し公爵家を断罪して、キャロとの婚姻を皆に認めてもらおうと行動を起こした。


「キャロライン様本当にそれでよろしいのですね?
本気でローランド様と一緒になって、この国を治めると言うのですね?
今なら、戻れます。今までお父様が散々説明してきたはずです。それでも、決意を変えるつもりはないのですね?」

真実を、罪を明らかにされたアンジェリカはゾッとするような声でそう言った。
何か、犯してはならない間違いを犯した気分にさせられた。いや、気のせいだ、アンジェリカの負け惜しみに過ぎない。そう自分に言い聞かせて、キャロラインに目を向けると、彼女も決意を込めた目を返してきた。

「ええ、亡くなったお父様とお母様に変わってローランド様と一緒にこの国を治めていくわ。」

「どうなってもその決意は変わらないと言うわけですね。」

「ええ、もちろんよ。」

「もちろんだ。」

「国王陛下、隣国の国王夫妻、そして公爵閣下。申し訳ございません、どうやらわたくしには荷が勝ち過ぎたようです。」

それだけ言って、アンジェリカは頭を深く下げた。
勝ちを確信した。勝ち負けという言葉は正しくないかもしれないが、これでキャロラインは使用人などではなく、正しく王の娘として扱われるようになるのだ!美しいキャロラインと一緒に、一生隣で生きていけるのだ!
喜びに胸が震えた。キャロラインと見つめ合い、喜びを分かち合っていると、目の端が真っ赤に染まった。

「え?」

キャロラインが声を上げる。

「なん・・・」

そして、キャロラインが視界から下の方に向かって消えていった。
私が覚えているのはここまでだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

巷で噂の婚約破棄を見た!

F.conoe
ファンタジー
婚約破棄をみて「きたこれ!」ってなってるメイド視点。 元ネタはテンプレだけど、なんか色々違う! シナリオと監修が「妖精」なのでいろいろおかしいことになってるけど逆らえない人間たちのてんやわんやな話。 謎の明るい婚約破棄。ざまぁ感は薄い。 ノリで書いたのでツッコミどころは許して。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

その国が滅びたのは

志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。 だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか? それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。 息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。 作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。 誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

処理中です...