あなたを、守りたかった

かぜかおる

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5、アンジェリカの涙

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凄惨な状況に青ざめる者、気を失うものはいたが誰一人パニックになるものはいなかった。

「これでパーティーはお開きとする、今後どうするかは改めて話し合う。」

この国の王が静かに告げると、公爵がアンジェリカを抱きしめたまま指示を出す。
ローランドはあまりにショックだったのだろう、血肉塗れで茫然自失の体であった。


そして十分な時間が経ったのちに、会場には公爵とアンジェリカだけになった。

「お父様、もう大丈夫よ。
キャロラインの最後の姿をきちんと見ておきたいの、お願い、離して。」

公爵は躊躇いながらもアンジェリカからそっと体を離す。

「無理は、するなよ。」

「ええ。」

アンジェリカは一人、胴体だけになったキャロラインの元へ歩いていく。
数歩でたどり着いてしまった。
さっきまで生きていたはずのキャロライン。美しいピンクゴールドの髪をした、少しわがままな妹。美しくはないが、笑うと愛嬌があり、守ってあげたくなるような娘だった。
愛して、いたのだ。初めて出会った時に、守ってあげようと決意した。可愛い可愛い妹だったのだ。複雑な生まれに、境遇。全てから守ろうと必死だったのだ。

でも、守れなかった。

アンジェリカは、汚れるのも構わずパステルピンクだったドレスに包まれた体をそっと抱きしめ、その冷たさに堪えていた涙が、堰を切ったように流れ出した。

公爵は何も言わず、涙を流し続ける娘の背をそっと撫でた。

十分な時間が経ったのちに、徐にアンジェリカが口を開いた。

「愛していたの、二人とも。もっと早く話してくれていたら、説得できたのに、もっと早く気付いてさえいれば、守れたのに。
私は二人に一番近いはずだったのに、二人とも失ってしまった。」






************


この後ローランド視点が数話入ります。キャロラインに何が起こったのかはそこで説明されます。
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