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4、アンジェリカの願い
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「真実?なんのことかわかりかねますわ。ローランド殿下があまりにも突拍子のないことを仰るので驚いてしまいましたの。うふふ、まだまだ未熟者ですわね。
その娘は我が家の使用人ですわね、少々素行が悪い娘ですので指導はしているのですが、なかなか身につかなくて。ローランド殿下にはそのことを大袈裟に言ったのでしょう。もしくは虚言癖でも有るのかもしれませんわね。我が家の使用人がご迷惑をおかけいたしましたわ。」
「そんなっ、使用人だなんて、お姉さまっひどいっ!」
その悲痛な声は、少女を被害者にアンジェリカを加害者に見せるのに十分なモノだった。また、アンジェリカの豪奢な衣装と比較するとみすぼらしくも見える少女の衣装もそれに輪を掛けた。
「はぁ、どうやら甘やかしすぎたようですわね。わたくしと年が近く、両親を失っているからかわいそうにと妹のように可愛がっていたのを仇で返されたようですわね。
身の程を弁えなさい!あなたは使用人の一人に過ぎないのですわ。早々にお客様の前から去りなさい!」
と出入り口のドアを指差す。キャロラインは厳しい声に怯えたように身を竦ませる。
アンジェリカは心の底からここで出て行ってくれと願っていた。それが叶わぬ願いとは感づいてはいたが、そう願わずにいられなかった。
「使用人やら虚言癖などと、そうやってキャロラインを虐げてきたのだろう。この場から去らせてどうするつもりだ?彼女をさらに虐げるつもりだろう!!
それに、身を弁えるのは貴様の方だアンジェリカ!私たちが何も知らないとでも思っているのか!?」
ローランドはキャロラインを自分の背に隠すとアンジェリカを責めた。
ドクンドクンとやけに心臓の音がうるさくなり始めた。彼らはあのことを知っていると言うのか、何故と思うも今はそれを確かめる場面では無い。
動揺しているのに気付いたのだろう、ローランドは勝ち誇った顔を浮かべる。言ってはだめだ、言っては全てが終わってしまう。
アンジェリカが止める前にローランドの口が開いてしまった。
「このキャロラインはこの国の前国王の忘形見。つまりは、王家の姫君だ。
アンジェリカや公爵家の面々はそのことを知りながら、キャロラインを使用人に貶め、虐げてきた。
自国の王族を虐げるような性根の腐った人間に、王家に入る資格はない。さらに、王族を虐げるなど万死に値する大罪だ。よってこの場でアンジェリカとの婚約を破棄させてもらう!
そして、私は愛しいキャロラインと結婚しこの国を繁栄に導こう!!」
堂々と言い切ったローランドに、動揺を隠しきれない顔が青ざめているアンジェリカ。その反応に、ローランドの言葉が真実なのだと会場中の人間が気付いてしまった。
言い切った後、キャロラインと手を取り合い、見つめあっていたローランドは反応のないアンジェリカを冷たい一瞥をくれると口を開いた。
「だから、早々に自分たちの罪を認めれば良かったのだ。そうすれば、温情のある対応もできたものを。」
「ローランド様はお優しいです。」
「キャロラインほどではない。今まで辛い思いをしたな、よく今まで耐えてくれた。これからは私が君のことを幸せにするよ。」
「ローランド様。」
アンジェリカには、凍えるほどの声を向けたのが嘘のように、ローランドのキャロラインへの言葉は優しく愛情が溢れるものだった。そして二人は周りを他所に二人だけの世界を作り始めた。
「本当によろしいのですか?」
そんな二人の世界を壊したのは、感情も何もかもが抜け落ちた声だった。その声を聞いたもの全てがゾッとするような、それを発したのがアンジェリカだとすぐには気づけないほどの声だった。
「キャロライン様本当にそれでよろしいのですね?
本気でローランド様と一緒になって、この国を治めると言うのですね?
今なら、戻れます。今までお父様が散々説明してきたはずです。それでも、決意を変えるつもりはないのですね?」
アンジェリカの声だけが会場に響き渡る。
二人は、そんなアンジェリカを恐ろしく感じたが、お互いに目を合わせると決意したかのようにアンジェリカに向き合った。
「ええ、亡くなったお父様とお母様に変わってローランド様と一緒にこの国を治めていくわ。」
「どうなってもその決意は変わらないと言うわけですね。」
「ええ、もちろんよ。」
「もちろんだ。」
キャロラインとローランドの目と言葉には覚悟と勝者の優越感が見えた。
その目を見たアンジェリカの瞳には、諦念と悲しみが浮かんでいた。
「国王陛下、隣国の国王夫妻、そして公爵閣下。申し訳ございません、どうやらわたくしには荷が勝ち過ぎたようです。」
それだけ言って、アンジェリカは頭を深く下げた。
国王と隣国の国王夫妻、そして公爵の目には悲痛な思いが浮かんでいた。
そして、ローランドとキャロラインは勝ち誇った態度を隠さずにいた。
公爵が静かにアンジェリカの元に向かうと、ローランドとキャロラインを隠すように体を滑り込ませると、そっと頭を下げ続けるアンジェリカを抱きしめた。
まるでそれが合図であったかのように、キャロラインの右腕が音も立てずに爆発した。
「え?」
キャロラインがそれを認識した途端次は左足が、左腕が、右足が、順番に爆発して行った。
「なん・・・」
両足を失い、胴体と頭だけになったキャロラインの体が地に着く前に、頭が吹き飛んだ。
その娘は我が家の使用人ですわね、少々素行が悪い娘ですので指導はしているのですが、なかなか身につかなくて。ローランド殿下にはそのことを大袈裟に言ったのでしょう。もしくは虚言癖でも有るのかもしれませんわね。我が家の使用人がご迷惑をおかけいたしましたわ。」
「そんなっ、使用人だなんて、お姉さまっひどいっ!」
その悲痛な声は、少女を被害者にアンジェリカを加害者に見せるのに十分なモノだった。また、アンジェリカの豪奢な衣装と比較するとみすぼらしくも見える少女の衣装もそれに輪を掛けた。
「はぁ、どうやら甘やかしすぎたようですわね。わたくしと年が近く、両親を失っているからかわいそうにと妹のように可愛がっていたのを仇で返されたようですわね。
身の程を弁えなさい!あなたは使用人の一人に過ぎないのですわ。早々にお客様の前から去りなさい!」
と出入り口のドアを指差す。キャロラインは厳しい声に怯えたように身を竦ませる。
アンジェリカは心の底からここで出て行ってくれと願っていた。それが叶わぬ願いとは感づいてはいたが、そう願わずにいられなかった。
「使用人やら虚言癖などと、そうやってキャロラインを虐げてきたのだろう。この場から去らせてどうするつもりだ?彼女をさらに虐げるつもりだろう!!
それに、身を弁えるのは貴様の方だアンジェリカ!私たちが何も知らないとでも思っているのか!?」
ローランドはキャロラインを自分の背に隠すとアンジェリカを責めた。
ドクンドクンとやけに心臓の音がうるさくなり始めた。彼らはあのことを知っていると言うのか、何故と思うも今はそれを確かめる場面では無い。
動揺しているのに気付いたのだろう、ローランドは勝ち誇った顔を浮かべる。言ってはだめだ、言っては全てが終わってしまう。
アンジェリカが止める前にローランドの口が開いてしまった。
「このキャロラインはこの国の前国王の忘形見。つまりは、王家の姫君だ。
アンジェリカや公爵家の面々はそのことを知りながら、キャロラインを使用人に貶め、虐げてきた。
自国の王族を虐げるような性根の腐った人間に、王家に入る資格はない。さらに、王族を虐げるなど万死に値する大罪だ。よってこの場でアンジェリカとの婚約を破棄させてもらう!
そして、私は愛しいキャロラインと結婚しこの国を繁栄に導こう!!」
堂々と言い切ったローランドに、動揺を隠しきれない顔が青ざめているアンジェリカ。その反応に、ローランドの言葉が真実なのだと会場中の人間が気付いてしまった。
言い切った後、キャロラインと手を取り合い、見つめあっていたローランドは反応のないアンジェリカを冷たい一瞥をくれると口を開いた。
「だから、早々に自分たちの罪を認めれば良かったのだ。そうすれば、温情のある対応もできたものを。」
「ローランド様はお優しいです。」
「キャロラインほどではない。今まで辛い思いをしたな、よく今まで耐えてくれた。これからは私が君のことを幸せにするよ。」
「ローランド様。」
アンジェリカには、凍えるほどの声を向けたのが嘘のように、ローランドのキャロラインへの言葉は優しく愛情が溢れるものだった。そして二人は周りを他所に二人だけの世界を作り始めた。
「本当によろしいのですか?」
そんな二人の世界を壊したのは、感情も何もかもが抜け落ちた声だった。その声を聞いたもの全てがゾッとするような、それを発したのがアンジェリカだとすぐには気づけないほどの声だった。
「キャロライン様本当にそれでよろしいのですね?
本気でローランド様と一緒になって、この国を治めると言うのですね?
今なら、戻れます。今までお父様が散々説明してきたはずです。それでも、決意を変えるつもりはないのですね?」
アンジェリカの声だけが会場に響き渡る。
二人は、そんなアンジェリカを恐ろしく感じたが、お互いに目を合わせると決意したかのようにアンジェリカに向き合った。
「ええ、亡くなったお父様とお母様に変わってローランド様と一緒にこの国を治めていくわ。」
「どうなってもその決意は変わらないと言うわけですね。」
「ええ、もちろんよ。」
「もちろんだ。」
キャロラインとローランドの目と言葉には覚悟と勝者の優越感が見えた。
その目を見たアンジェリカの瞳には、諦念と悲しみが浮かんでいた。
「国王陛下、隣国の国王夫妻、そして公爵閣下。申し訳ございません、どうやらわたくしには荷が勝ち過ぎたようです。」
それだけ言って、アンジェリカは頭を深く下げた。
国王と隣国の国王夫妻、そして公爵の目には悲痛な思いが浮かんでいた。
そして、ローランドとキャロラインは勝ち誇った態度を隠さずにいた。
公爵が静かにアンジェリカの元に向かうと、ローランドとキャロラインを隠すように体を滑り込ませると、そっと頭を下げ続けるアンジェリカを抱きしめた。
まるでそれが合図であったかのように、キャロラインの右腕が音も立てずに爆発した。
「え?」
キャロラインがそれを認識した途端次は左足が、左腕が、右足が、順番に爆発して行った。
「なん・・・」
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