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終章
壊れたモノ
しおりを挟む「お休みなさいませ。」
休む準備を終え、侍女たちが静かに部屋を退室していく。
パタンと扉が閉じて、私一人になる。
腰掛けていたベッドにそのまま倒れ込むと、ふと、涙が溢れてきた。
「え、あれ?・・・ふふ、昨日から泣き過ぎね。ふふふ、情緒不安定みたい。」
どこか他人事のように考えそれを口にすると、なぜか笑いがこみ上げてきて一人笑ってしまった。
一人でひとしきり笑って、笑いが落ち着いても涙は止まらないままだった。
侍医に診てもらわなくてはならないな、と思うも、重い腰が上がらない。
侍医に診てもらうのが嫌なわけではないのだけど、あまり、話をしたくない。
正妃と側妃の診断を行うのは宮廷医の中でも長と言われる優秀な方。持病があるとその専門医に診てもらったり、正妃と側妃の仲が険悪だと互いの派閥などから信頼できる人間を迎えたりすることもあるけれど私たちはそうではないから、私を診る侍医と、側妃、いえライサを診る侍医は同じ。
そう思うと、侍医に診てもらう気になれない。
良くないのは分かってる。
診せないままで病状が悪化しても良くないし、もし感染するような病であれば目も当てられないことになる。
分かっているけれど・・・。
カチャリと音がして、私が入ってきた方とは逆側にある扉が開いた。
え、なんで?
音に反応しとっさに起き上がった体が強張るけれど、扉から入ってきたのは当然のことだけど、ヴァルで、その姿を確認して、でも体の強張りは取れないまま。
今日はハンナマリのところで夜伽はずじゃ・・・?
驚きでじっとヴァルのことを見つめていると、こちらを見るヴァルの顔が驚愕に染まっていく。
何かあったっけ?
原因が思い付かずに、自分の周りを見回してみるけれど、やっぱりおかしなところはない。
もう一度ヴァルの方を見ると、いつの間にか目の前にやってきていた。
「何があった?」
焦ったような、心配したようなそんな声で尋ねてくるけれど、心当たりがない。
「何がって?別に何もないわ?」
そう答えると、ヴァルはなぜか酷く傷ついたような顔をした。
なぜ?
さっきからヴァルの行動が良く分からない。
「そんなことないだろ!ちゃんと話して。」
ヴァルに両肩を掴まれ、体が強張る。
「別になにも・・・。」
訳がわからず、しどろもどろな言葉になる。
「無いことは無いでしょ!そんなに泣いてるんだから!!」
そう言われてやっと、私は涙を流し続けていたことを思い出した。
ヴァルが答えられないでいる私の目の下を優しくそっと拭う。
・・・触らないで、気持ち悪い。
ふと浮かん思いに、驚いてしまう。
でも、一度こぼれた思いは元に戻るどころか、堤防が決壊してしまったかのように溢れ出す。
「メグ?」
ねえヴァル
その瞳をあの子にも向けたの?
「どうして泣いてるの?」
その声であの子の名前を呼んだの?
「教えてくれないかな?」
その手であの子に触れたの?
「俺には、言えない?」
その唇を、触れ合ったの?
「ねえ、メグ?」
「・・・いで。」
「メグ?」
「近寄らないで!!気持ち悪いっ!!!」
叫びながら、ヴァルを突き飛ばしていた。
突き飛ばされたヴァルは、驚き、傷ついたような顔でこっちを見ている。
なんで?なんでヴァルがそんなに傷ついた顔をしているの?
あなたが裏切ったのに、私だけって言ってたのに!
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「出てって!!近寄らないで!どっかに行って!!」
気付いたら、そう叫んでいて。
「メグっ!」
近づいてくるヴァルに、近くにあったものを投げつける。
ヴァルに当たったそれは、枕だったからきっと痛くはなかっただろうけどヴァルはすごく痛そうな顔をしている。
「メグ・・・。」
「出てって!出てって!!私に近寄らないでよ!気持ち悪い!」
もう一度手元にあった枕を投げると、ヴァルはごめんと呟いて私に背を向けた。
行かないで!
一人にしないで!
気持ち悪い!
そばにいて!
出て行って!
抱きしめて!
近寄らないで!
一緒にいて!
ヴァル
ヴァルヴァルヴァルヴァルヴァル・・・・・・
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