愛を疑ってはいませんわ、でも・・・

かぜかおる

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終章

優しい時間

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・・・気持ち悪い。
晩餐で食べたものは全て吐き出してしまった気がするのに、まだ吐き気が止まらない。


昨日あのまま泣き続けていた私を見て侍女たちはものすごく驚き困惑し、心配をしてくれていた。
何か言い訳をしようにもいい言い訳が思いつかず、かと言ってライサが妊娠したかもなんて公にされていない確認も取れていないことを勝手に口にすることなどもちろんできない。目にゴミが、なんて言い訳が通用するような涙の出かたでもないし、公爵家から付いてきてくれている付き合いの長い侍女もいるから変なごまかしもできない。結局、訳を話せないままに絶対に黙っていて欲しいと口止めをするしかなかった。


やっとのことで涙が止まってから、泣いていた跡が残らないように目元を冷やして、食欲もわかなかったからそのまま休んでしまった。
朝、起きてからのコンディションは最悪で、食べ物は見てるだけで気持ち悪くなりそうだったからフルーツを少し口にして公務に向かった。

少し前、そうひと月ほど前から実は体調がすぐれない、それはちょうどライサの妊娠を疑い出した頃。
酷い不調と言うわけではなかったから、取り繕うこともできたし、侍女にも気づかれてはいないと思う。
そろそろきちんと侍医に確認してもらったほうがいいと思いながらも、どうしてもそんな気にもなれずにずるずるときてしまった。

それが一気に爆発してしまったみたい。

お昼も結局食欲がわかずに食べずにそのまま公務に向かおうとしたけれど、侍女たちが私のそんな様子を見越していたようで、これだけはと食べてくださいと持ってきた簡単なフルーツとサラダを食べ終わるまで見張られながらなんとか押し込んで昼の公務をやり遂げた。


唯一まともに食べた食事は晩餐で、それも胃がムカムカして食欲は全くなかったけれど、異国の大使との交流会でもあったからそんなことおくびにも出さず無理やり口の中に詰め込んで、それとなく水や葡萄酒で流し込んで誤魔化した。

そんな風に無理やり食べたのが良くなかったようで、自室に戻って気が抜けた瞬間に一気に戻してしまった。


「マルガレータ様、侍医を呼びましょう。」

侍女が心配そうに声をかけてくる。

「いいえ、呼ばなくてもいいわ。」

「ですが・・・。」

「いいって言ってるでしょ!」

怒鳴ってしまってから、ハッと後悔する。

「大丈夫よ、少し休めば治るわ。」

少し気まずげに、出来るだけ落ち着いているように優しい声を心がけてそう言っても、侍女は変わらず心配そうな顔を向けてくる。
そんな侍女を安心させるように笑顔を浮かべる。

「ここのところ考えることが多かったから、少し疲れているだけよ。本当に大丈夫、ゆっくり休めば調子も戻るわ。」

そう言うけれど、侍女は信じきれないみたい。

「わかりました、今日はこのままお休みくださいませ。ですが、このまま不調が続くようならお嬢様が嫌がっても侍医を呼びますからね。」

「ええ、分かったわ。」

教師のような物言いと、久々のお嬢様呼びに、くすりと笑ってしまった。
公爵家から付いてきてくれているこの侍女は、私が幼い頃からずっと一緒で彼女が「お嬢様」と私を呼ぶ時は私を叱ったり、正しい道を示してくれる時。だからいまだに「お嬢様」と呼ばれた時は素直に言うことを聞いてしまう。

「休む準備をいたしましょうか。」

笑顔を見せた私の様子に少し安心したのか、次は優しい声でそう言ってくれた。




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