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アザーズ Side
わたくしのだいじなおもい
しおりを挟むそれから月日が過ぎ、その間にかの方々の件はご令嬢が魅了を使っていたことが原因だと突き止められたそうですの。そして魅了に負けてしまった方々に関しては各家に任せることになった、直接の影響がなかったわたくしが知っていたのはそこまでのことでしたわ。
そんなある日、わたくしはお父様に呼ばれましたの。お父様の書斎に行くとお兄さまとお二人難しい顔をしてそこにいましたわ。
挨拶もややそぞろに、わたくしが席についてもなかなか口を開いてくださいませんでしたわ。
沈黙が続いた後やっと重い口が開きましたわ、そしてその口から語られたことはにわかには信じがたい内容でしたの。
「ごめんなさい、お父様もう一回言ってくださいます?わたくし一瞬白昼夢を見てしまったみたいですの。」
「ああ、構わない。王家からお前を妃に迎えたいと打診が来た。」
はしたなくも眉間にシワが寄ってしまったのは、身内だけでしたし勘弁いただきたいですわ。
「・・・どういうことですの?マルガレータ様との婚約が解消になるというお話は聞いていませんけど・・・。」
そう尋ねると、お父様は顔をしかめておっしゃいました。
「いや、婚約の解消はないそうだ。」
「・・・つまり、え?わたくしを側妃に、と王家はお望みですの?」
「ああ。」
「そんな、こんな時に側妃の選定など王家は何を考えていますの!?マルガレータ様がお可哀想だわ!」
つい声を荒上げてしまいましたわ。でも仕方ありませんわ、だって王太子もかの令嬢の魅了に惑わされたお一人、婚約者のマルガレータ様も気丈にされていましたけれど、御心を痛めていたに違いありませんもの。
「いや、それが側妃の選定はそのエロラ公爵令嬢の希望らしい。」
憤るわたくしを落ち着かせたのはお兄さまのその言葉でしたわ。
「マルガレータ様のご希望?」
「らしい、婚姻と同時期に側妃を娶るよう願ったとの話だ。」
「・・・何を考えていらっしゃるのかしら?」
皆目見当がつきませんわ。
「さらに王家からは、数年間、マルガレータ様に王子ができたら一生、白い結婚でいて欲しいと言われている。」
あまりのお話に絶句してしまいましたわ・・・。
「・・・なんなんですの、それ?こじれにこじれた面倒な空気しか感じられないのだけど・・・。」
お父様もお兄さまも同じ考えなのだと、表情で語っています。
「それで、お前はどうしたい?」
「え?どうしたい、とは?そのお話お断りしたのですよね?」
「いや、話を聞けるだけ聞いた後に怒った体で返事もせずに部屋を出てきた。」
「あらまあ。」
話の内容が内容だから王家も何も言えないかも知れませんが、公爵家とはいえアウトな振る舞いですわねぇ。
「その場で断ることも考えたが相手が相手だ、お前の気持ちも聞いてから返事をしようと思ってな。」
「・・・、わたくしの気持ちを聞いてくださるのはありがたいのですが、公爵様としてはどうお考えなのです?」
親ではなく公爵家当主としての考えを問えば、少し悩んだ後お父様は口を開きました。
「そうだな、どちらでも構わない。もちろん、我が家の発展のためとなると答えは片方に定まるが、ではもう一方の選択をした時と劇的に差があるかというとそうでもない。ワシとしては十分な資産も権力もあるのだから、誰かを犠牲にしてより上を目指す必要はないと考えている。」
「ちなみにこれは次期当主である私も同意見だよ。これ以上力をつけるのであれば、他家との折衝も大変になるからね、そこまでの力は求めてないよ。」
お兄さまが肩を竦めながら、少し冗談めかして補足されましたわ。
「だから、お前の望む答えを出して構わん。ただ、もし側妃として王家に嫁すとなれば少し覚悟してもらわなくてはならない。
エロラ公爵令嬢の希望とはいえこのような意見が通ったのは結局エロラ公爵家への忖度だ。それで我が家がこの意見に従えば、エロラ公爵家より我が家が格下と思われかねない。もちろん、王家からも軽んじられていると思われてしまうかも知れぬ。
我が家とエロラ公爵家は対等であると知らしめなくてはならないし、王家から軽んじられていると思われるのは持ってのほか、だからお前にはそれ相応の立ち振る舞いをしてもらわねばならん。もちろん、ワシたちもだがな。」
お父様はいつになく真面目な声音でおっしゃっられた。
わたくしの選択次第で、家族の未来も変わりかねない。適当に決めるつもりはもちろんなかったけれど、自分が思っていたよりもしっかりと覚悟を決めて、答えを出さなくてはならないということですわね。
突拍子のない話が続いてしまったけれど、お父様とお兄さまのお言葉に甘えるならばわたくしが考えなくてはいけないのは案外と単純なのかも知れないですわ。
王家に嫁ぐか
その他の家に嫁ぐか
原因はともかくこの話は王家との縁談。それを断るのであれば、相応の相手を見つけて嫁がなくては格好がつかないわ。わたくしももう公爵家の令嬢としては婚約が決まっていないのがおかしい位の年齢になってしまいましたもの。
家族への影響も、縁談で家と家の結びつきができればそれ相応の変化は必ず起きるもの、わたくし自身に関していえば嫁ぐことになるのですから婚家に染まらなくてはなりませんから今のように自由に振舞うことができなくなるのはどちらにせよ変わりませんわ。
そう言ったことも含めて、わたくしの気持ちを聞いてくださっているのでしょう。
であればわたくしは
「このお話受けさせていただきたいですわ。」
「そう、か。」
「本当にいいのかい?そもそも白い結婚を望まれていることもだけれど、魅了の治療中の殿下の様子から察するに殿下の寵を得ることはまず無理だよ。」
お父様はやっぱりかという表情を浮かべ、お兄さまは心配をしてくださいましたわ。
「ええ、分かっておりますわ。」
そんなことはとっくの昔に、出会った時に理解しましたの。
それでもわたくしはわたくしの王子様の少しでも近くに行きたいわ。
我儘だってことは分かっているけれど、少しでもその視界に入ることができたならそれだけで幸せですわ。
「でも大切にはしていただけるでしょう?割り切った相手の方が案外幸せになれるかも知れませんわよ?」
わたくしは笑顔で伝えましたわ。
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