愛を疑ってはいませんわ、でも・・・

かぜかおる

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アザーズ Side

地獄の誘い手は近くにいるのかもしれない

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・・・きっと、彼の思いは同情でしかなく、外の世界を知った彼にとって私は、迎えに来るほどの価値もなかったのだと思う。
現実を見れば、ただの商家の奉公人でしかない彼が一応は貴族の娘の私を連れ出すなど不可能でしかないのだから。

彼との逢瀬をしていた庭の片隅に立ち物思いに耽る。
あの頃とは違う、美しく立派なドレスを纏っている私を彼が見たらきれいだねの一言くらいかけてくれるかな?



数ヶ月前、御当主様に呼び出された。
本当に珍しいことに、なんだろうかと思いながら執務室に向かうと家族みんなが揃っていた。

「これの買い手が見つかった。納品してから文句を言われても敵わんから、これ以降手出しするな。」

部屋に入ってすぐに御当主様から発せられた言葉の意味を理解する間も無く、執事に部屋を連れ出された。
そしてそのまま、御当主様一家の部屋がある区画の一部屋に連れていかれ、これからこの部屋で暮らすのだと説明された。
そして、まるで貴族のご令嬢のように風呂に入らされ身体中を磨かれ、きれいなドレスを着て、よく分からない勉強をさせられる生活が始まった。

その日が私の17回目の誕生日だなんて誰も知らないし、興味もないだろうけど、なんて皮肉なことなんだろう。

前よりもうんといい生活だけど、それが出荷準備のためと分かっているから喜べない。
部屋もお綺麗な部屋だけど窓が開けられないようになっていて、美しいだけの牢獄でしかない。


そうして数ヶ月過ごして出荷の日が目前に迫ったある日、少しだけできた隙間の時間に、ふと思い立ってその場所に、思い出の場所に向かった。

今思えば虫の知らせというやつだったのかもしれない、そんなもの、いらなかったけど。



カサリ

その音にハッとなって、そちらを向くと、若い男性が立っていた。
驚きで息が止まってしまう。

その男性は、今私が思い出していたその姿をさらに成長させたような姿だったから。

「お待たせ。」

そう言って、不安げに伸ばされた彼の手を、私は








パシンっ




振り払った。

「触らないで!ねえ、見て分からない?私はね、変わったの。あの頃みたいな惨めな私じゃなくなったのよ!!
お待たせ?待ってたわけないじゃない!!むしろ存在すら忘れてたわ!それくらい素晴らしい生活を送ってるのよ!
出てって!出て行きなさいよ!!」

私はそれだけ言い捨てて、その場を走り去った。


だって、だってしょうがないじゃない。
どうしようもないクズたちばかりかもしれないけれど、この家は侯爵家、ただの平民じゃ勝ち目なんてない。
出荷先は決まっているのだから、今更来られても、もうどうしようもない。

私は部屋に駆け込んで、涙を流す。

蓋をしていた想いとささやかだけど幸せだった記憶が溢れ出す。

人生を、全てを諦めることで見ないようにしていたそれが一度でも溢れかえれば、再び見ない振りなんてできなくて。

ああ、どうしてくれよう、なんてひどい人なんだ。

今更、今更!!


ぐちゃぐちゃな思いを抱えたまま静かに涙を流し続けていたら、気づけば眠ってしまっていたようで、よくもまあいつもならメイドなりが叩き起こしそうなものを。

窓から外を見れば、満月が真上に来ていてもう皆が寝静まっている時間。


私はフラフラと歩き出した。



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