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アザーズ Side
地獄の入り口はどこにでもあるのかもしれない
しおりを挟む「必ず、必ず迎えに行くから、待っていて欲しい。」
そんな約束を残して彼が姿を消したのは、私が12歳、彼が16歳の時だった。
けど17歳を迎えた今、彼はいまだに迎えにこない。
私のお母さんは商家の娘、父親は公爵家当主。身分を越えた大恋愛によってできたのが私・・・。
だったら私の人生はもっと違うものになってたのかな?
本当は奥様が妊娠している間に御当主様の欲望のはけ口にされてできたのが私。
お母さんは御当主様と関係を持ったことを侍女長に知られて、少しのお金だけ渡されて暇を言い渡されてしまった。その後実家を頼ろうとしたけど、恥知らずと罵られ門前払いをされてしまった。
お母さん一人ならまだ何か幸せになれる道があったかもしれない、でも、お母さんのお腹には私がいた。
なけなしのお金で私を産んで、どうしようもなくなったお母さんは生きるために体を売った。
お母さんが体を売っていたお店の人たちは私や、他の女の人の子供たちの面倒をよく見てくれて悪い人たちではなかった。けど、体を売る女性にとっていい環境かというとそれはきっと別の話だったのだと思う。
結局お母さんは私が5歳の時に病気を拗らせて死んでしまった。
その後どんなやりとりがあったのかは知らないけれど、気づけば私は父親に引き取られることになっていた。
そしてそんな経緯で生まれ引き取られた私がまともに扱ってもらえるはずもなく、地獄の様な日々が始まった。
引き取られたその日から、殴られ蹴られ、罵られた。一人残飯の様な食事が出され、それすら床に落とされ這いつくばって食べる様に言われることもあった。
そして引き取られてから数ヶ月たったある日のこと、その日はとてもいい天気で、奥様や姉妹たちは庭でお茶会を、兄弟たちはその近くで剣の鍛錬を、そして私は剣の鍛錬の的になっていた。
剣と言っても刃のあるものではなくて木剣ではあるものの、的にされそれまでの扱いの酷さも重なってボロボロになった私はついに倒れ込み、起き上がれなくなってしまった。
起き上がれない私に兄弟姉妹たちは水や、熱いお茶をかけたり、追い討ちをかける様に殴る蹴るの暴行を笑いながら加えていた。
「何をやっている!」
そんな声がその場に響いた。
怒りを含んだ声に、その場がしんっと静まり返る。
たす、かった?
ぼんやりとした頭で希望を見出しながら、痛みで重くなった顔を声の方に向ける。
そこに居たのは御当主様。
引き取られた日以来のその姿に、私は希望を見出した。
助けて、もらえる、お父さんに!!
そして、御当主様はこう続けた。
「傷跡でも残ったらどうするのだ!!出来るだけ高く売らなければならないのだから、価値を下げる様なことはするな!!!やるなら跡が残らない様にうまくやれ!!」
そして奥様や他の兄弟姉妹たちからの嫌がらせはますます陰湿になっていった。
御当主様に傷さえ残らなければいいとお墨付きをもらったのだから遠慮すらない。
地獄の先にはさらなる地獄があるのだと、初めて知った。
痛みで気を失えることが幸せだと思えるような生活だった。
そんな時に出会ったのが彼だった。
「どうしたの?大丈夫?」
あまり人の来ない庭の一角でうずくまっていた私に優しく声をかけてくれた。
後から知ったのだけど、私がいたところは使用人や出入りの業者の利用する出入り口のそばで、彼は浮浪者が入り込んでいるのではないかと思い声をかけたらしい。だから、この家の娘と知った時はすごく驚いてた。
幼いながらに商人のもとで奉公していて自由の時間がほとんどない彼と会えるのは商品の納入が早く終わった時の少しの時間。私もいつもその場所に行けるわけではないから、本当にたまにの逢瀬。
それでも少しずつ言葉を交わし、喋るのは彼がほとんどだったけど、お互いのことも知っていくことになった。
そして私の姿があまりにも哀れで同情していたのだろう、彼は会うたびにちょっとしたパンの残りとか、珍しくもらえたのだとお菓子だったりとかを持ってきてくれた。
同情でもなんでも、私はその優しい声音に、人間として接してくれる彼の優しさに、あっという間に堕ちていった。
そうして数年経ったあの日、待っていて、と約束だけ残し彼は私の元から去っていった。
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