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アザーズ Side

馬鹿な人なんてお粗末なもの

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「・・・馬鹿だと思うか?」

顔をうつむけた男の表情は分からない、知ろうとも思わない。

「馬鹿にしにきたと言ったでしょう?」

「ははっ、そうだったな。」

男はひとしきり笑うと、何かを思い出す様に穏やかな表情を浮かべた。

「正直、本当に好きだったのかはよく分からない。もう彼女への思いは微塵も残って無い。
・・・ただ、認めてくれたんだ。俺自身のことも、俺がしている努力のことも。」

「・・・それだけ?」

「ああ、それだけ。たったそれだけの事に俺は救われたんだ。その救われたことを無かった事にしたくない。」

馬鹿、か?
ああ、馬鹿だ、そうだ馬鹿だったのだ。

そんなモノ、あんな女に求めなくとも与えられていたのに。


確かにこの元婚約者は認められずに生きてきた。
なぜなら次期当主として求められる基準を尽く満たせなかったから。
そして当主夫妻は基準を満たしていない以上、そんな元婚約者を認めることも誉めることもできなかった。

でもそれは当主として、親としての二人はこの元婚約者の努力を認めていた。

当主の仕事を代行することを期待し私を婚約者に据えながら二人がいつも私に求めるのは、元婚約者を支えることだった。

元婚約者が騎士という道にに逃げても、反対はしたが、手を回せば騎士団に入れない様にもできたのにそれをしなかったのは次期当主の責任を理解して必ず戻ってくると信じていたから。

実際に元婚約者は陰ではずっと学ぶことをやめていなかった。

馬鹿だ、本当に馬鹿。

逃げずにちゃんと向き合っていれば、答えは自ずと見つかるはずだったのに。

自分の定めから逃げて、たどり着いた先が底無し沼だったなんて本当に馬鹿で憐れだ。

もう少し時間があれば、囚われたのが彼女では無かったら、もっとマシな未来も選び取れたのに・・・。


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