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ヴァルッテリ Side

ある男の後悔

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14歳の誕生日の後、メグと愛の言葉を交わし、たまにだけれど肌を重ねる日々を送ることで大分愛されていることに自信を持てるようになった。

成長期がきて、背が伸び、声が低くなり、体格も男らしさが出たことも自信に繋がった。

だから、油断していたのだと思う。
その油断でできた隙間に、エリナ・ハーヤネンを滑り込ませてしまった。


きっかけは、中庭でぶつかった事。
公開している庭とは違い、来る途中でしっかりとした身分証明が必要な区画にある。
逆に言うと身分証明さえできれば入れる程度なので、王宮で働く人間の家族などが届け物ついでにふらりと入り込むこともある場所。

彼女もその一人かと思った。

観賞用の花などはなく、見通しがきかないように木々が配置されているこの中庭はあまり利用する人がおらず油断していた。
彼女はぶつかると、

「きゃっ、あ、ごめんなさい、前を見てなくって。」

女性特有の高い声でそう謝ってきた。
道に迷ったから案内して欲しいと言われ、普段ならその辺りにいる衛兵に任せるのに、その時は自分で案内してしまったのは数日前にメグが言っていた可愛い女性そのものだと思ってしまったからだろう。

髪の毛はフワフワの猫っ毛で、可愛らしい顔立ち、華奢な体にはパステルピンクのドレスがきっと似合うだろう、そんな可愛さ。
案内している道中に彼女の口から出てくる話題は、政治や外交の話ではなく、中身のない飼っている犬が寝転んでいる様子が可愛かったなどの他愛のない話。
歩く姿勢や立ち振る舞いを見ても、全く洗練されていない、ヒョコヒョコしてひよこのようだった。

確かに可愛い女の子だ、とほほえましく思ってしまった。
だけど、俺の隣に立つには軽すぎる。やっぱり、メグがいい。

案内して、あっさりと別れ名前を名乗ることがなかったし、もう二度と会うこともないだろうなとその時は思っていた。


案外あっさりと再会の機会がやってきた。
その日は珍しく、貴族公開エリアを散歩していた。

「あのっ、この間はありがとうございました。私、エリナ・ハーヤネンって言います。」

そう声をかけてきたのはこの間の女性だった。
こちらも挨拶して、俺が王子だと知るとえらく驚いていた。

そして、この間のお礼がしたいと断っても食い下がられ、いつの間にやら次に会う約束をしてしまった。


こんな風に何かと理由をつけて会う約束をさせられてひと月も経たないうちに、なぜか彼女のことが気になるようになっていた。

そして決定打になったのは、彼女が従兄弟と共に歩いている時に遭遇した時である。


誰にも渡したくない、と思ってしまった。


この時、自分の感情の動きのおかしさに気づければ、この感情が本当は誰に向いているのか気づければ、あんなことにはならなかったのに。


そのあと、幾人かの高位貴族の令息と同じように付き合いがあると知り、全員でお互いに抜け駆けされないように牽制し合いが始まった。

誰も彼も熱に浮かされたように、彼女に溺れて行った。

この間、メグのことが嫌いになったわけではなかった。
それでもエリナ・ハーヤネンを別の男に取られまいと、メグのことを蔑ろにしてしまった。
エリナ・ハーヤネンを優先する罪悪感から、メグにきつい口調になってしまう事もあった。

さらに罪深いことに、メグを気にするエリナ・ハーヤネンに、関心を引くためと罪悪感から心無い悪口を言ってしまうことがあった。

本人が聞いているとも知らずに。

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