愛を疑ってはいませんわ、でも・・・

かぜかおる

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ヴァルッテリ Side

ある男の焦燥

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俺には愛し合っている婚約者がいる。

エロラ公爵家の令嬢マルガレータ、愛称はメグだ。
物心つく前に、身分と家柄などで決められた完全な政略による婚約。

それでもお互いに愛を育んできた何よりも大切な、愛する婚約者だ。

どこが好きかと尋ねられ、即答で全部と言い、具体的にはと言われ、一つ一つあげているうちに数時間経っていて呆れられたこともあった。

それくらい、好きなんだ。

そんな彼女の初めて会った時の印象は?と尋ねられたことがあるが、正直よく覚えていない。
気付いた時には机を並べて、様々なことを一緒に学んでいた。

一を聞いて十を知るタイプの俺と、教師に二度三度尋ねてやっと理解できるメグ。
鈍臭いなと思いながらも、助けてあげなきゃいけない好きな子になるのはあっという間だった。


6歳位の頃だろうか、婚約者について教えられることがあった。
正直、結婚とかの実感もなく知識として頭につめるだけだったけれど、その後にメグが「ヴァルと一緒にいれるようにがんばるね。」と言って、より一層がんばる姿に愛おしさが増していった。

そして、好きが、特別な好き、になって行った。


10歳を過ぎた頃から、彼女の努力が目に見えるようになってきた。
幼い頃から一緒に身につけてきた知識に裏付けられた賢さが、方々に知れ渡って行った。

それまでは、世間の口に上る時も俺の添え物のようだったのに、メグ単体で語られるようになった。

人に注目されるようになると、彼女の美しさにも磨きがかかった。
本人は地味で華やかさがない顔だとコンプレックスを持っていたようだが、俺からすれば確かに華やかではないだろうが、凛として美しい大好きな顔だった。
その顔に賢さや真面目さが出るようになって、もっともっと美しくなって行った。

12歳ごろには一気に身長が伸び、体や顔に女性らしさが出てきて、男からの注目を一気に集めるようになってしまった。
この頃に、俺はメグがこの国の王太子の婚約者という特殊な人間であることを実感を伴って理解した。

普通、貴族における婚約者はよほどのことがない限り本人が嫌がっても結婚まで漕ぎ着ける。しかし俺たちの場合は違った。メグが嫌がれば、他の男を選べば結婚を拒否することができる。

敵は少し年上の男たち、背が高く、包容力があり、女性をリードすることができる、メグの価値を理解し、俺から奪えることを正しく知っている男たち。

この時ほどメグと同じ年であることを呪ったことはない。
成長期がまだ来ていなかった俺は、ガキで、背もメグより低く、声も高いお子様だった。

とにかく誰からも奪われないように、他の男どもから奪われないように牽制して、どこか気恥ずかしくて言えなかった、好きや愛してる、をことあるごとに言って、行動でも示した。

初めて好きだと口にして、メグから私も好きと返された日は夜ベッドで一人飛び跳ねたのはいい思い出だ。


それでも、俺の中の焦りは一向に消えず悶々と過ごしていた。

そしてとうとう14歳の誕生日の日、焦りと、そしていつしか抱くようになっていたメグへの劣情を押さえ切れず、王宮に泊まっていたメグに夜這いをかけた。

嫌がりはしなかったものの、痛がり涙を流すメグを気遣えぬまま、終わってから後悔に苛まれた。
嫌われてはいないだろうかとメグの顔を見れば、幸せだと、涙のあとの残る顔に笑顔を浮かべていた。


翌日には当然このことが知られ、父からはニヤニヤ顔でよくやったと言われ、母とメグの母の公爵夫人からは懇々と妊娠の危険性や体の負担の大きさなどを諭され、メグの父の公爵からは恨みがましい目で幸せにしろと約束させられた。

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