異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ

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第4章 ネシア国〜

大会3日目 1

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翌日の朝も俺たちは早めに朝食を食べ、闘技場へと向かう。
今日は朝一番の試合にリッキーが出るので早いのだ。


闘技場まで来ると案内係の人がいて、前回と同じくリッキーと一緒に俺は控室に向かった。

皆はそのままチケット売り場でチケットを購入し、俺たちの分も席を取ってもらう手はずになっている。


係の人と控室で別れて中に入ると、中には3人の獣人がいた。

どうやらまだクーガーは来ていないようで、俺はちょっとホッとした。

「……大丈夫たって、昨日あいつの兄さんを助けたんだし、心象は変わっているさ!」

「だと良いけど……。なんだか何とも言えない胸騒ぎがするんだよね……。」

「なんだよ~、変なこと言うなよ?俺まで気になっちゃうじゃねぇか。」

「……。」

そう、実は朝から俺は、何とも言えない胸騒ぎがするんだ。

これが悪いことを指しているのか、それとも良いことを指しているのか……でも、『何かがある』と感じてしまっている。

そんな会話をしていると、噂をしていたクーガーがやってきた。
彼は俺たちの方をチラッと見ると、冷かな目で見てきた。

そして椅子に座ると目を瞑って腕を組み、まるで「誰も話しかけるなよ?」と言っているようなオーラを醸し出している。

「……なぁ、多少は態度が軟化したような気もしないではないけど、相変わらず冷たい感じがしないか?」

俺はとても小さな声でリッキーに話しかけた。

リッキーは「ちょっと聞けるかやってみるかな?」と言うと目を瞑って集中しだした。

暫く黙っていたが、急に目を開けると険しい顔で「あいつの俺たちに対する態度なんだが、感情は『八つ当たり』が一番近い気がするぞ?」と呟いた。

八つ当たり……?
なんだ、八つ当たりって?
俺たちに対する憎しみの感情はお兄さんのことだけじゃないのか?

俺はちょっと戸惑いつつ、リッキーと目を合わせる。

「まあ、頑張るしかないな。あいつは強いだろうから、負ける可能性もあるし。」

「……もしなんかあっても、この前みたいに出口のところで見ているから、すぐ駆けつけるからな。」

俺がそう言うとリッキーはフッと笑い、頭をグシャっと撫でた。

「それは心強いな!お前がいれば死ぬことはない、ってな?」

そうリッキーが縁起でもないことを言った時、案内係の人が来た。

「ではそろそろ本日の第1試合が始まりますので、リッキー選手とクーガー選手、あとシエル選手も来てください。」

そう言って案内係の人は外に出た。

俺とリッキーが一緒に部屋の外に向かうのを見てクーガーは訝しげな顔をした。

外に出ると第一声「なんでこいつら一緒なんだ?」と案内係に聞く。

案内係は「シエル選手はまだ出番ではないので、リッキー選手が終わったら一緒に観客席に向かうそうです。」とクーガーに答えると、納得した感じではないまでも、黙って一緒に歩きだした。


暫く歩いて舞台入口の扉の前に着くと、中のアナウンスが薄っすら聞こえる。

「え~、そろそろ本日の第1試合が始まりますので、観客席にお戻りくださ~い!」

すると案内係の人が扉から中を少し覗き、俺たちの方を振り向く。

「もう少ししたらアナウンスがあるので、そしたらクーガー選手から中に入っていただきます。その後、名前が呼ばれたらリッキー選手が入場してください。」


それからまもなく、またアナウンスが。

「そ~れ~で~はっ!これより大会3日目の第1試合を開始したいと思いま~す!第1試合は前回の勝者であるリッキー選手とクーガー選手の対戦となります!まずは、前大会の準優勝者、クーガー選手、入~場~!」

するとクーガーは冷たい目を和らげ、にこやかな表情で観客に手を振りながら舞台の中央へと向かった。

「……あれって、演技なのかな。」

俺は思わずポツリと呟く。

リッキーと案内係の人は苦笑いをしている。

そうだよね……観客に冷たい態度をとるより、ファンサービス?をしたほうが応援してもらえるもんね。

うん、あれは演技ではなく、ファンサービスなんだよ!……と、俺は思うことにした。

「それでは……お次は挑戦者!前回の試合では圧倒的な戦いを見せてくれたリッキー選手ですが、今回は前大会準優勝者ですので、頑張ってください!では……リッキー選手、入~場~!」

アナウンスでリッキーが呼ばれたので、入り口の方へ向かった。

リッキーは中に入る直前に振り向き、「頑張ってくるから、見てろよ?」と言うと、舞台中央に向かって歩きだした。

俺は暫くリッキーの後ろ姿をボ~っと眺めていたが、出口に向かわないといけないことを思い出し、案内係の人と速歩きで向かう。

できれば試合前に着きたかったが、それは距離的に無理だと思うので、できるだけ早めに出発しておきたかったのだ。

出口まで向かう通路の中にもアナウンスの言葉が聞こえてきているので、どういう状況かは把握することは出来た。

どうやら今回の試合、2人とも素手でやるようだ。

まぁ武器じゃないから、俺が出口に到着したら大怪我して倒れていた……なんてことはないよな!……無いよな?

一抹の不安がよぎったが、頭を振って道を急ぐ。


歩いていると、とうとう試合開始のアナウンスが流れた。

俺はさらに早足……というか、走って向かう。

案内係の人は苦笑いをしながら、どんどん遠ざかっていく俺の背中に向かって大きな声で「あとはこの通路を真っ直ぐ進んだ先ですから、ここで私は戻ります!」と言った。

俺はそれを聞くと、一直線に走り出す。

あと少しで出口に着く、というところで歓声が上がった。


どうなったんだ!?

早く……早く、行かなきゃ!
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