異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ

文字の大きさ
上 下
127 / 196
第3章 スノービーク〜

……誰だ?

しおりを挟む
巨大な黒い球体から聞こえた『その声』は、まともに聞いてしまった俺の心を恐怖で震わせる。

一体、今の声の主は誰だ……?

……何で、こんなに恐怖で心が塗りつぶされている?

何だか嫌な予感がして、俺はその場から少し距離をとった。

すると球体の中から『その声』が聞こえ、悍ましい雰囲気を纏った魔力が溢れてきた。

「そこにいるのは、誰だ……?」

俺はその声を聞いた瞬間に黒い球体の周囲をかなり魔力を込めた結界で覆う。

そこまですると少しは体が楽になったが、まだ不安感は残っている。

どうしたら良いだろうかと思っていると、黒い球体の周りにいる魔物が俺を襲ってきた。

俺はずっと付きまとっているその恐怖を振り払うかのように、次々と魔物を屠っていく。

そして俺の周囲から魔物がいなくなった時、ふと嫌な予感がして黒い球体の方を振り向く。

すると、その中から女性の腕のようなものが出てきていた。

それを見た瞬間、無意識で俺はほぼ全力の魔力を刀に注ぎ、結界を解くとその腕に向かって振り下ろした。

するとその腕は黒い球体との境目からスパッ!と簡単に切れたが、切れた方の腕は地面に落下すると何やら変な動きをしだした。

勝手に指先を動かし、その場から移動し始めたのだ。

「うっわ、気持ち悪っ!!」

俺はそう言うと改めて結界を張ろうとしたが、自分の魔力がもうあまり無いことに気づき、張るのを迷った。

あまり強力な結界を張れないからだ。

すると上空から羽ばたきが聞こえ、徐々に近づいてきているその腕から目を離して上を向いた。

『ママ、そこをどいて!』

俺はすぐさま全力でその場を離れると、次の瞬間、黒い球体を中心にして広範囲に白く光り輝く柱が降り注いだ。

しばらくして辺りから光の余韻が消えると、あの巨大な黒い球体は跡形もなく消え去っていた。

俺はそれを見てホッとしていたが、そんな俺にユーリの鋭い声が届く。

『ママ!離れて!』

端的な言葉だったが、一瞬で俺はその場を離れた。

かなり離れてから見た俺の今までいた場所には、先ほどの切り落とした腕があった。

その腕はまるで目でもあるかのように、向きを変えて俺に向かってくる。

なるほど、あれは本体と切り離されても勝手に動くんだね。

それを見て俺の目の前にユーリが立ち塞がり、その腕から俺を守ろうとする。

『ねぇママ、魔力はどのくらいある?』

「ほとんどをさっきの一撃に込めたから、もうあまり残ってないよ。」

それを聞いたユーリは、迫りくる腕を睨みつけながら右手を差し出してくる。

俺は思わずその手を取った。

『しばらくそうしててね、今魔力を譲渡するから。』

そう言うとユーリは俺に向かって魔力を、握った手から流し込んできた。

「何をさせるつもりだ?」

『多分あの手、神聖法国の「女神様」と呼ばれている者の手だと思う。ママも感じたでしょ?あの黒い球体から禍々しくて悍ましい魔力が溢れ出してきている事を。あの気配、神様は「テネブル」と呼んでた。その人の弱点は神聖魔法なんだって言ってたけど、ホントかな?』

えっ、神聖法国では神聖魔法の使い手を集めていたはずじゃ?

じゃあ、何のために集めていた?

……自分の身を守るため?

そんな事を考えているうちに、ユーリからの魔力譲渡は完了していた。うん、半分まで回復したね!

『ママ、その刀に全力で神聖魔法を付与して、あいつを倒して!』

ユーリはそう言うと羽ばたいて俺に場所を譲ってくれたが……ユーリがどけた目の前には、今のユーリよりは小さい黒い竜がいた。

どうやらユーリが目の前をふさいでいる間に、あの腕が黒い竜へと変化していたようだ。

その黒い竜は一声吼えると、俺に向かって突進してきた。

俺はユーリに言われてから神聖魔法をずっと刀に注いでいたが、魔力のほとんどを注ぎ終わると刀を居合抜きの型で構える。

黒い竜が俺に肉薄して腕を振り下ろしてきた瞬間、俺は全力で刀を振り抜き、向って左下から左肩に向って腕ごと切り裂く。

さらに返しの刀で首を全力で切り落とした。

俺は荒い息をつき、膝から崩れ落ちる。

そんな俺の隣にユーリが来て抱きかかえて結界を張ると、上空から白い光の柱がバラバラになった黒竜に向って降り注いだ。

辺りは真っ白な光で埋め尽くされ……それが収まると、黒竜は塵すら残さずに消えていた。

辺りに充満していた禍々しい気配も全て、消えていた。

『ふぅ……やっといなくなったね!これでしばらくは安心かな?……ママ、大丈夫?』

ユーリは抱えている俺を見て、心配そうに話しかけてきた。

俺は力なく、頷く。

もう魔力はすっからかんで、体に力が入らない。

だが、大丈夫だ。もう戦わなくて良い。

「おい、大丈夫か、シエル!?生きてるか!?」

リッキーが慌てた様子で駆け寄ってくる。

ユーリに抱えられた俺を見て、焦った声でそう聞いてきた。

『大丈夫だよ、魔力と体力を使い切っただけだよ。しっかり寝れば、また元に戻るよ!』

「それなら良いが……シエル、もう他の魔物も心配いらないからな。残りは俺たちで討伐しておいたから安心しろ。」

リッキーはそう言うと、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。……髪が乱れるんですけど!?

それからスコットさんやエミリーさん、リリーさんも集まってきた。

どうやら俺が渾身の力を使った後、自然に結界が解かれたようだ。

皆から頭を撫で回されていると、ミスト兄弟も近寄ってきた。

「お前……いや、あなたは一体何者ですか?それにその竜も。」

ミストは俺に向ってそう聞いてくる。

だが俺の意識はそろそろ限界だ。

代わりにリッキーが答えてくれる。

「コイツらは俺の大事な友人で、冒険者チームのメンバーだ。それ以上でも、それ以下でもない。」

「……。」

それを聞いたミストさんは黙って俺を見る。

そしてユーリを見て、胸に手を当てた。

「…こんな騒ぎを起こしてしまった私たちも救っていただき、ありがとうございました。……本当に…本当にっ!ありがとうございました!」

ミストさんは最後は泣きながら俺達に礼を言った。


俺はそれを聞いて微笑むと、それを最後に意識を手放した。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

処理中です...