異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ

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第3章 スノービーク〜

……誰だ?

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巨大な黒い球体から聞こえた『その声』は、まともに聞いてしまった俺の心を恐怖で震わせる。

一体、今の声の主は誰だ……?

……何で、こんなに恐怖で心が塗りつぶされている?

何だか嫌な予感がして、俺はその場から少し距離をとった。

すると球体の中から『その声』が聞こえ、悍ましい雰囲気を纏った魔力が溢れてきた。

「そこにいるのは、誰だ……?」

俺はその声を聞いた瞬間に黒い球体の周囲をかなり魔力を込めた結界で覆う。

そこまですると少しは体が楽になったが、まだ不安感は残っている。

どうしたら良いだろうかと思っていると、黒い球体の周りにいる魔物が俺を襲ってきた。

俺はずっと付きまとっているその恐怖を振り払うかのように、次々と魔物を屠っていく。

そして俺の周囲から魔物がいなくなった時、ふと嫌な予感がして黒い球体の方を振り向く。

すると、その中から女性の腕のようなものが出てきていた。

それを見た瞬間、無意識で俺はほぼ全力の魔力を刀に注ぎ、結界を解くとその腕に向かって振り下ろした。

するとその腕は黒い球体との境目からスパッ!と簡単に切れたが、切れた方の腕は地面に落下すると何やら変な動きをしだした。

勝手に指先を動かし、その場から移動し始めたのだ。

「うっわ、気持ち悪っ!!」

俺はそう言うと改めて結界を張ろうとしたが、自分の魔力がもうあまり無いことに気づき、張るのを迷った。

あまり強力な結界を張れないからだ。

すると上空から羽ばたきが聞こえ、徐々に近づいてきているその腕から目を離して上を向いた。

『ママ、そこをどいて!』

俺はすぐさま全力でその場を離れると、次の瞬間、黒い球体を中心にして広範囲に白く光り輝く柱が降り注いだ。

しばらくして辺りから光の余韻が消えると、あの巨大な黒い球体は跡形もなく消え去っていた。

俺はそれを見てホッとしていたが、そんな俺にユーリの鋭い声が届く。

『ママ!離れて!』

端的な言葉だったが、一瞬で俺はその場を離れた。

かなり離れてから見た俺の今までいた場所には、先ほどの切り落とした腕があった。

その腕はまるで目でもあるかのように、向きを変えて俺に向かってくる。

なるほど、あれは本体と切り離されても勝手に動くんだね。

それを見て俺の目の前にユーリが立ち塞がり、その腕から俺を守ろうとする。

『ねぇママ、魔力はどのくらいある?』

「ほとんどをさっきの一撃に込めたから、もうあまり残ってないよ。」

それを聞いたユーリは、迫りくる腕を睨みつけながら右手を差し出してくる。

俺は思わずその手を取った。

『しばらくそうしててね、今魔力を譲渡するから。』

そう言うとユーリは俺に向かって魔力を、握った手から流し込んできた。

「何をさせるつもりだ?」

『多分あの手、神聖法国の「女神様」と呼ばれている者の手だと思う。ママも感じたでしょ?あの黒い球体から禍々しくて悍ましい魔力が溢れ出してきている事を。あの気配、神様は「テネブル」と呼んでた。その人の弱点は神聖魔法なんだって言ってたけど、ホントかな?』

えっ、神聖法国では神聖魔法の使い手を集めていたはずじゃ?

じゃあ、何のために集めていた?

……自分の身を守るため?

そんな事を考えているうちに、ユーリからの魔力譲渡は完了していた。うん、半分まで回復したね!

『ママ、その刀に全力で神聖魔法を付与して、あいつを倒して!』

ユーリはそう言うと羽ばたいて俺に場所を譲ってくれたが……ユーリがどけた目の前には、今のユーリよりは小さい黒い竜がいた。

どうやらユーリが目の前をふさいでいる間に、あの腕が黒い竜へと変化していたようだ。

その黒い竜は一声吼えると、俺に向かって突進してきた。

俺はユーリに言われてから神聖魔法をずっと刀に注いでいたが、魔力のほとんどを注ぎ終わると刀を居合抜きの型で構える。

黒い竜が俺に肉薄して腕を振り下ろしてきた瞬間、俺は全力で刀を振り抜き、向って左下から左肩に向って腕ごと切り裂く。

さらに返しの刀で首を全力で切り落とした。

俺は荒い息をつき、膝から崩れ落ちる。

そんな俺の隣にユーリが来て抱きかかえて結界を張ると、上空から白い光の柱がバラバラになった黒竜に向って降り注いだ。

辺りは真っ白な光で埋め尽くされ……それが収まると、黒竜は塵すら残さずに消えていた。

辺りに充満していた禍々しい気配も全て、消えていた。

『ふぅ……やっといなくなったね!これでしばらくは安心かな?……ママ、大丈夫?』

ユーリは抱えている俺を見て、心配そうに話しかけてきた。

俺は力なく、頷く。

もう魔力はすっからかんで、体に力が入らない。

だが、大丈夫だ。もう戦わなくて良い。

「おい、大丈夫か、シエル!?生きてるか!?」

リッキーが慌てた様子で駆け寄ってくる。

ユーリに抱えられた俺を見て、焦った声でそう聞いてきた。

『大丈夫だよ、魔力と体力を使い切っただけだよ。しっかり寝れば、また元に戻るよ!』

「それなら良いが……シエル、もう他の魔物も心配いらないからな。残りは俺たちで討伐しておいたから安心しろ。」

リッキーはそう言うと、俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。……髪が乱れるんですけど!?

それからスコットさんやエミリーさん、リリーさんも集まってきた。

どうやら俺が渾身の力を使った後、自然に結界が解かれたようだ。

皆から頭を撫で回されていると、ミスト兄弟も近寄ってきた。

「お前……いや、あなたは一体何者ですか?それにその竜も。」

ミストは俺に向ってそう聞いてくる。

だが俺の意識はそろそろ限界だ。

代わりにリッキーが答えてくれる。

「コイツらは俺の大事な友人で、冒険者チームのメンバーだ。それ以上でも、それ以下でもない。」

「……。」

それを聞いたミストさんは黙って俺を見る。

そしてユーリを見て、胸に手を当てた。

「…こんな騒ぎを起こしてしまった私たちも救っていただき、ありがとうございました。……本当に…本当にっ!ありがとうございました!」

ミストさんは最後は泣きながら俺達に礼を言った。


俺はそれを聞いて微笑むと、それを最後に意識を手放した。
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