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第2章 エルフの隠れ里〜
エルフの隠れ里にきたよ!
しおりを挟む少しの浮遊感を味わった後、妙に清々しい空気に包まれたと感じた途端に眩しすぎる光が収まりだした。
光が収まってから目を開けると、そこは部屋の中ではなく、森の中の屋敷の前だった。
俺は思わず握りしめてしまっていたルーシェさんの手を見て、そのまま辿り、ルーシェさんと見つめ合った。
「着きましたよ、シエルくん。ここがエルフの隠れ里の長老の家です。ほら、振り向いてみてください。」
俺はそう言われて、全身で振り向いた。
するとそこには森の中にある、かなり広い街が。
現在立っている長老の家はどうやら小高い丘の上にぽつんとあるらしく、街並みの遠くの方まで見下ろせる場所だった。
街は確かにルーシェさんが言っていたように、普通の街並みだ。
俺の想像していたような、森の中にある木に家を作って森と同化している……そんな家は1つもない。
やっぱりああいうのは造るのも大変なんだろうなと思った。
でも街中にも緑が一杯で、その街並みが森と調和が取られているのは一緒だな。
それぞれの家の壁はレンガだったり木造だったりと色々だが、全ての家の屋根だけは緑色で、上から見ると多分森と同一化しているんじゃないだろうか。
近くに見える家々の玄関先には様々な形のランプがあり、街の中の大きな通りも街灯にランプが使われているようだ。
夜にここから見る夜景はとても綺麗なんだろうなぁ……。
「……綺麗な街てすね。」
俺は思わず呟く。
それに対して、隣に立ったルーシェさんは嬉しそうに笑った。
「ああ、ここから見る夜景はとても美しいよ。今は昼前だけど、また夜にでも外に出てみようか。」
「はい、楽しみにしています!」
俺はそうルーシェさんに顔を向けて返事をした。
その時、ルーシェさんを挟んで反対側には、街並みを見てボーっとしているスノーホワイトのメンバーが見えた。
どうやら皆も無事に一緒に来れたらしい。
良かった、うっかり手を離してしまったら一緒に来れないんじゃないかとドキドキしていたんだよ。
「良かった、みんな欠けずに運べて。この人数を運ぶのはなかなか難しいからね。」
ルーシェさんが俺の視線を辿って振り向き、苦笑いしながらそう言った。
……やっぱり結構無理していたのかな?
それから俺達は改めて長老の家へ向かう。
代表としてルーシェさんが玄関のドアをノックした。
「こんにちは!ルーシェだよ!おじいちゃんいる~?」
するとルーシェさんより小柄な年老いたエルフの男性が中からドアを開けた。
「おお、ルーシェか。よく来たのぅ。後ろの人たちも一緒に中へどうぞ。」
エルフの長老がそう言って家の中へと案内する。
応接間のような場所へ着くと、長老は俺たちにソファーを勧めてくれた。
ソファーに座る前にスコットさんが長老にお土産のお酒を渡した。
長老は「ほぉ、外の街の酒ですな?ルーシェはめったに買ってこないので、久しぶりに飲めますわい。」とても喜んでいた。
それから長老は一旦部屋を出ていき、戻ってきた時にはワゴンの上にティーカップとティーポット、お茶菓子としてクッキーの盛り合わせを乗せて押してきた。
それをみんなの前に配ると、長老もソファーに座る。
「さて、これでやっと落ち着けるのぉ。改めまして、わしがこの街の長老のラーシェといいます。ちなみにルーシェはわしの孫なんですよ。君たちのことはルーシェから聞いておりますぞ。遠路はるばる、ようこそいらっしゃいました。この家には老人1人なもので、大したもてなしも出来ません。申し訳ないですな。」
長老……ラーシェさんはそう言って軽く頭を下げた。
「いえいえ、そんなもてなしなんてとんでもない!俺たちが押しかけたようなものなんで、逆に俺たちが長老やルーシェの分も食事を作りますよ!何か食べられないものとかありますか?」
スコットさんは慌ててラーシェさんにそう言った。
そうだよね、魔法を教わる少しの間とはいえ居候するんだから、俺たちが作らないと!
スコットさんにそう申し出されたラーシェさんは申し訳無さそうにしながらも食べられない物は何かあったか考えてくれたようだ。
「わしはほとんど何でも食べられるが、最近は少し歯が弱ってきておってのぉ。少しばかり柔らかいほうが助かるかのぉ。」
「ちなみに僕は肉でも魚でも野菜でも、何でも食べられるよ!」
なるほど、2人共なんでも食べられるんだね!
俺の勝手な想像の中ではエルフってベジタリアンで肉や魚は食べられないんだと思っていたけど、そんなことはないんだね!
それなら俺もいろいろ作れそうだよ!
時間的にはもうすぐお昼だから、まずはみんなの昼食作りから始めるかな?
俺がそんな事を思っていると、ラーシェさんが「お昼はもう作ってあるから、まずはゆっくりと部屋で休んでくだされ。」と言ったので、お言葉に甘えて少し休むことになった。
「そういえばちょうど今夜から1週間、1年でこの時期だけの『死者がこの世に戻って来る』とされる期間になります。夜に外に出て街を眺めると、とても幻想的な風景を見ることが出来ますぞ。」
思い出したかのようにラーシェさんが俺達に向かって言った。
「あっ、そうだね!ちょうどそんな時期だったかぁ……本当にちょうど良かったね!じゃあ今夜夕食食べたら皆で街に行ってみようか?ねぇおじいちゃん、街の皆にはシエルくん達のこと話してあるの?」
「そうさなぁ……お前が人族の友人を連れてやってくるということは話してあるが、それ以外は話してないぞ。どうするんだね、神竜種のユーリ殿が誕生なされた事はこのまま隠しておくのかの?」
「う~ん……どうするかなぁ、どうせこの里にいる連中は外に行こうとは思わない奴がほとんどだからなぁ……。おじいちゃんから固く口止めをしてもらえるなら、ユーリちゃんの事は教えても良いかな?」
「了解じゃ。皆の衆にはわしから口止めしておこう。そうと決まればシエルくんや、ユーリ殿を鞄から出しても大丈夫じゃ。それに街の中でも普通に過ごして構わないぞ?」
「えっ、良いんですか!?ユーリ、この街では普通に過ごしても大丈夫なんですか!?」
「ああ、この里のエルフはほとんどの者が街の外へは行かないが、その上で皆の衆には口止めしておくでな、安心して大丈夫じゃ。」
それを鞄からこっそり顔を出して聞いていたユーリは、『やったぁ~!!』と言って飛び出してきた。
そしていつもの定位置である俺の腹にしがみついた。
ラーシェさんとルーシェさんの2人はとても驚いていたが、さすがにこれをよく見るうちのメンバーは驚かなかったようだ。
「は、初めまして、神竜種のユーリ殿。わしはこの街の長老のラーシェと申します。今後とも長きに渡りよろしくお願いいたしまする。」
ラーシェさんはユーリを見ると突然ユーリに向かって土下座をした。
さすがにルーシェさんはそこまではしなかったが、胸に手を当て頭を垂れている。
『そんなにかしこまらなくて良いよぉ。僕はまだ産まれたばかりだしねぇ。ママにさえ危害を加えなければ僕は何もしないから安心してねぇ。』
「わかりました、シエル殿には危害が加わらぬよう配慮いたしまする。」
『うん、そうしてねぇ。あ、あと、僕がこの街で自由にしていいって言ってくれてありがとうねぇ!僕もママと一緒に街に出てみたかったんだぁ!』
ユーリはそう言うと腹にしがみついたまま、俺の胸にスリスリしてきた。
そうだよなぁ、いつも街に行くときには我慢させていたもんね。
この街では自由に行きたいところへ行ったり一緒にあちこち行こうね!
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