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第一章 出会い〜旅の始まり

山田の休日 4

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応接室のドアが開き、お兄さんが1人の女性を連れて帰ってきた。

「じゃあさっきの続きを……と言いたいところだが、まだ自己紹介もしてなかったな。俺は紫惠琉の兄で沖 悠騎だ。そして隣にいるのが俺の妻で、惠美だ。よろしくな。」

お兄さんはそう言って自分とその女性の自己紹介をする。

ペコリと頭を軽く下げた女性は、黒髪が似合う綺麗な女性だった。

「俺は紫惠琉の勤めていた会社の同僚で、山田といいます。よろしくお願いします。」

俺も自己紹介を軽くしておく。

とりあえず4人で席につくと、悠騎さんはみんなにお茶と茶菓子を配った。

「……それで、『勤めていた会社』ってさっきも言っていたが、それはどういうことだ?紫惠琉に何かあったのか?」

「そうなのよ、兄さん!しーちゃんがね、しーちゃんが……うぅ……。」

友梨佳さんが話し始めたのだが、やっぱり泣き出してしまったか……。

家族にとってはショックだろうからなぁ。

「俺が話しますよ、友梨佳さん。紫惠琉なんですが、急にいなくなってしまったんですよ。ただ、この世界ではなく、違う世界にいますが。いわゆる『異世界転移』っていうやつになるといいますか……。」

俺がそこまで言うと悠騎さん達は「こいつ、何言っているんだ?」という顔で俺を見てきた。

まぁ、普通ならそう思うよなぁ。

俺は苦笑いをしながら続きを話す。

「何を馬鹿なこと言っているんだとお思いでしょうが、これは事実です。証拠を見せますので、驚かないでくださいね?」

俺は証拠として『自称神様』から貰った鞄の中から冷蔵庫をソファーの横に取り出した。

すると2人は目を見開き、驚きのあまり声さえ出せないようだ。

「この鞄は紫惠琉を異世界へと連れ去ってしまった『自称神様』…俺は奴を神とは認めたくないので、あえてそう呼ばせてもらいます。ともかくそいつから貰った鞄なんですが、ご覧の通り鞄の口に見合わない物でも入れることができ……そして、これは紫惠琉の鞄と繋がっています。しかも『生き物』も入れることができるんですよ。」

俺が一気にそこまで説明をすると、悠騎さんのほうが気づいたようだ。

「と、いうことは、人も入れる……ということだな?」

「ええ、そうなんです。現にこの鞄からは紫惠琉の従魔であるユーリが出入りしているので、生き物が出入りするのは実証済みです。」

「なるほど……。ちなみに、何か条件でもあるのか?」

「そうですね、この鞄の中は時間停止しているので、向こうから紫惠琉が取り出してくれないと向こう側へは自力ではでれないと思われます。なので、事前に紫惠琉と時間を合わせておく必要があるでしょう。」

俺がそこまで話した時、ようやく涙が止まったらしい友梨佳さんが話し出した。

「だからね、今夜、紫惠琉のところに行けるかを試したいのよ。それで夜までここにいていい?」

すると悠騎さんは少し考えたあと、奥さんの惠美さんを見る。

「なぁ、俺も紫惠琉に会いに行っても良いか?」

「そういうと思っていたわよ。大丈夫、もしあなたに何かあったら、こっちは私がなんとかするわ。」

「じゃあ、決まりだな。」

そう言うと悠騎さんはニヤリと笑う。

「あら、兄さんも行くの?」

「当たり前だろう?兄弟なんだから。この目で無事な姿を見ないことには安心できないからな。」

「それはそうよねぇ~、私も本人から異世界にいるって昨日聞かされたんだけど、不安で全然寝つけなくて。」

「……まさか紫惠琉と連絡つくのか!?」

「ええ、なぜか電話が使えるのよ!あ、電話っていってもSNS経由のほうね!普通の電話は試してみたけど無理よ?」

試してみたのかよ!と言いたかったが、この場では静かにしていたほうが正解だろう。

なので俺は、今のうちに冷蔵庫を鞄の中に戻すことにした。

ちなみに鞄に戻す前にちょっと冷蔵庫を開けてみたら中から冷気が流れ出てきて、しかも中は空っぽのはずが赤身の何らかの肉が入っていた。
……俺はそれらを見なかったことにして、こっそりと鞄にしまった。

「とにかく、夜までここにいさせてね!」

友梨佳さんがそう言って、この話は終わりになった。

とりあえずそういう事で、しばらくこの家に滞在することになったんだが……友梨佳さんは自分の部屋でのんびりすると言って部屋を出ていったので、残ったのは俺と紫惠琉の兄夫妻……。

一体俺にどうしろというんだ、友梨佳さん!

この数時間でわかったけど、ホント、あの人自由人だな!

そんな心の中で友梨佳さんに憤慨していると、時間を持て余している俺に悠騎さんは紫惠琉の小さい頃の写真を見せてくれた。

なるほど、確かに小さい子供の頃は天使みたいにめちゃくちゃ、かわいいな!

そして今現在の紫惠琉と同じ年頃の写真を見て、今と全く同じ顔で妙に納得した。

ホントに若返っちゃったんだな。

そうやって紫惠琉の昔の話や写真を見ながら夕方まで過ごしていたら、当の本人からは連絡があった。

紫惠琉の作ったハンバーグが鞄の中にあるから夕飯に食べてくれとのこと。

惠美さんがちょうど夕飯の為に席を立っていたのでこの事を伝えてもらい、とりあえず確認のために鞄からソースのかかっているハンバーグの乗った大きな皿を取り出すと、まだ出来立てのような熱さだった。

さすが時間停止機能のある鞄だと感心したよ。

まだ温かかったのですぐに友梨佳さんを呼んで夕飯を4人で食べた後、俺は紫惠琉に連絡を取り、ゆっくりできる時間ができたら連絡をくれと送っておく。

するとすぐに返事があり、これから夕飯を食べに行ってくるからその後で紫惠琉から連絡をしてくる手はずになった。

はぁ……どんなことになるのか、向こうに行かないのに俺もすっごく緊張するんだけど!
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