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結婚が認められた国

第二話 先輩の過去と勇者太郎の国

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先輩記者。――彼の人生は生きるため妥協の連続であった。
彼の母は、昔、獣の王と呼ばれるモンスターの生贄に捧げられ、子を孕み、先輩記者を産んだ。
その後異種族の結婚を禁ずる法律により母は焼かれ、先輩記者自身も炎で命を落とすところだった。
しかしその時、彼に獣の王の力が発現した。それに目を付けた旧王の忠臣は、彼の命を救い、私兵としての教育を施した。
そうして彼は命の保証を手にする代わりに、要人の暗殺を請け負うことになったのだった。

(まったく、既に不可侵条約の締結から三年。情勢は決しているのに何を考えているのやら)

服従の呪いがかけられたチョーカーを触り、先輩記者はため息をついた。
このチョーカーには呪いが付与されており、所有者である旧王の忠臣のみ外すことができるようになっている。さらには所有者の命令を無視した場合や、命令が実行不可能と呪いが判断した時、装着した者を絞め殺すようになっている性質の悪い代物だった。

(まあ、僕には選択肢はないわけだけど……)

無事入国審査を終えた先輩記者と後輩記者は、門兵がオススメしてくれた宿を目指し馬車を歩かせていた。
街並みを見渡せば、石造りを基調とした建物が並び、道もきれいに舗装されている。
明日が祭りというだけあって、道の端々には出店の用意をしている商人の姿をちらほら見かけ、明日の建国祭への期待感を盛り上げている。
行きかう人々に目を移せば、同性愛者、スライムをべったり体に張り付かせているおっさん、イケメンの悪魔にべったりしているおばさん、人間、魔族、モンスターがより取り見取り、中には上半身が人間、下半身クモのモンスターとデートする若者の姿もあった。

「うっはーーー、見てください、見てくださいよ先輩! 噂には聞いてましたがこれはパンチがありますね!」

先輩記者の隣に座っている後輩記者が目を輝かせながら声を上げた。
先輩記者は馬車に気を配りながら後輩記者をたしなめた。

「あまり失礼にならないように、それとそんなにはしゃぐと落ちるよ」
「がってんであります!」

手の甲を額に当て謎のキメポーズをとる後輩記者。先輩記者は後輩記者を戒めるために彼女のキャスケット帽に無言のチョップを入れた。

「あう」
「はしゃぎすぎ、ちょっとは落ち着い――」

『俺はぁぁぁぁぁぁ、デッドリィハーピィさんがぁぁぁぁ、大好きなんだぁぁぁぁ!』

突然なんの前触れもなく、城下町一帯に大声が響いた。
先輩記者はその声に反応して、条件反射で馬車を止めた。

「わ、わわ!? 何、何事!?」

後輩記者もビックリしたようであちこち見回した。

(何だ……?)

先輩記者はあたりを見渡し、住人の様子を観察する。皆城の方を見上げているものの、取り立てて驚いている様子はない。
どちらかというといつものことなのだろう。先輩記者はふとこの国について調べたこと思い出した。

「そういえば、この国、できたばかりのころ王様が妃様への想いをバルコニーで叫んだことがあるんだそうな。それにちなんだ何かだろうね」

先輩記者は思い出した情報と先ほどの出来事を照らし合わせ、それを後輩記者に伝えた。

「さっすが先輩、予習ばっちりですね」

感心したように後輩記者は手を叩いた。

「関心しているようじゃ、まだまだだよ」
「えへへ」

ニコニコと笑う後輩記者に毒気を抜かれ、先輩記者はため息を吐き、馬車を再び走らせた。

『俺はメタルスライムくんと結婚するんだぁぁぁぁぁぁ!!』

「お、ほかの人も叫んでますね」
「内容は深掘りしないほうがよさそうだね」

慣れてきたのか二人とも今度は落ち着いて感想を言い合う。
何となくだが、先輩記者はこの街の雰囲気をつかめてきていた。

(基本的に恋愛脳が多いと見た。溶け込むためにも後輩くんに来てもらったのは案外正解だったかもしれない)

その後、無事紹介された宿屋に着いた二人は、馬車を預け部屋を借りることができた。
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