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俺たちの結婚を認めてくれ!
第一話 結婚しよう
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「うおおおおおおおお!」
短髪黒髪の青年が一人ラストダンジョンを駆け抜けていた。
胴にはドラゴンの皮で作られた胸当て、腰には妖精の意志を宿す魔法の剣を携え、押し寄せる敵をなぜか拳で吹き飛ばしていた。
彼の名は勇者太郎、王国から派遣された勇者だ。
その目的はこのラストダンジョンの主、世界の混沌をつかさどる神、ラスボスを倒すこと。
(見ていてくれ友よ!)
勇者太郎はグレーターデーモンを一本背負いで地面に叩きつけながら一人思う。
仲間たちは事情があって一緒には来れなかった。
(仲間の純朴可愛い系神官と結婚し、パーティを離れていった友よ!)
増援として湧き出てきた悪魔たちをバリツで圧倒しながら勇者太郎の決意は燃え上がる。
(しかも、俺の許嫁の幼馴染剣士までかすめ取った友よ! お前のことは忘れない決してなッ!!)
『勇者太郎、ごめん。あたし、あんたとは一緒に行けない……。だってあたし知っているの。このままあなたのルートを進めば、あたしはあなたをかばって上半身と下半身がバイバイしちゃうってことを。だからごめん勇者太郎、私痛いのいやなの』
勇者太郎の脳裏にラストダンジョン突入前夜、幼馴染剣士に告げられた言葉が蘇る。
許嫁であり、冒険仲間でもあった幼馴染剣士はその言葉のあと、魔法使いチャラ男に抱きかかえられて転移の魔法でどこかへ消えていった。
幼いころに木から落ちたのが原因だろうか『これはゲームだ』とか『太郎ルートが最推し、いやチャラ男ルートも』とか訳の分からないことを言っていた彼女の決断は勇者太郎に一つのモチベーションを与えていた。
「俺はこの哀と怒りと憎しみを糧にラスボスを倒し、リア充になる! そこをどけぇぇぇ!」
実際に勇者太郎が受けた深い悲しみは、どんな恐ろしい敵を前にしても恐怖に飲み込まれない冷静な心を生み出し、彼はいとも簡単に敵の攻撃を捌けるようになった。
また、勇者太郎から湧き上がる強い怒りは自身の攻撃力を二倍にし、嫉妬でそれは五倍に跳ね上がった。しめて10倍の攻撃力を手に入れ、彼は武器を使うまでもなく雑魚敵を一撃で倒すことができるようになった。
自身のストレスで良くも悪くも超強化を果たした勇者太郎は、文字通りラストダンジョンの敵を相手に無双した。どんなモンスターも彼を止められず、勇者太郎はいよいよラストダンジョンの最深部、ラスボスの間にやってきていた。
「ふん」
気合一閃、勇者太郎はラスボスの間の扉を壁ごと破壊した。
本来このダンジョンに隠されている封印を解かなければ、開けることができない扉だったが、彼の怒りと嫉妬の拳の前には無力だった。
そして、勇者太郎はラスボスの間に押し入った。
部屋は比較的広く、中央にはお約束とばかりに赤い絨毯を敷いた階段と玉座、その荘厳な雰囲気を盛り上げるようになんだかそれっぽい音楽も聞こえてくる。そしてその先に目的のラスボスがいた。
「さすが勇者……よくここまで来た」
綺麗で澄んだ声が響き渡った。あまりの綺麗さに逆に恐怖心が湧き出るような声だった。
勇者太郎が構えを作り、相手を見据える。
身の丈より大きなローブ、表情は無表情の仮面で隠されている。一見すると小柄な魔法使いか何かだ。
しかし勇者太郎は感じ取っていた。小柄な体格とは裏腹にありえないほどの強大な魔力。この相手がこれまでに戦ったことのないレベルの実力者だということに。
勇者太郎はラスボスを倒すために用意した、妖精の意思が宿る魔法の剣を構えた。
「お前がラスボス! お前を倒して俺はリア充になる! 覚悟しろ!」
「あ、音楽変えますね」
「はい?」
突然ピアノ調のまったりとした音楽が部屋に流れ始める。
戦う前の緊張感はどこかに消え去り、残念な言い方だが勇者太郎の気分は台無しになった。
「やめろよ。戦えなくなる」
「いいじゃないですか―――――」
そういってラスボスは仮面に手をかけ、それを外した。
その仮面は何かの制御装置だったのか、彼女からあふれ出ていた強力な魔力はさらに数倍に膨れ上がった。
だがそんなことよりも勇者太郎は自分の目を疑った。
そこには美少女がいた。
紅いルビーのような瞳に、白い肌。整った顔は精巧な人形を思わせる。
しかし彼女の表情は穏やかで暖かい。
彼女の柔らかそうな唇が開いた。
「世界の半分、あげますよ?」
その時、勇者太郎に電流が走った。
(彼女の持つ世界の半分、世界とはつまり人生、つまり彼女の人生の半分!!)
もはや、いろんなことに飢えていたこの男の脳は、都合の良い方向へ彼女の言葉を解釈し、あたかもプロポーズの言葉として聞き取っていたのである。
「よし、結婚しよう! 俺は勇者太郎」
「え? あ、はい。私はラスボス子」
そうして二人の間に婚約は結ばれた。
勇者太郎は気が付いていなかった。これが世界を揺るがす大きな流れの始まりだと。
短髪黒髪の青年が一人ラストダンジョンを駆け抜けていた。
胴にはドラゴンの皮で作られた胸当て、腰には妖精の意志を宿す魔法の剣を携え、押し寄せる敵をなぜか拳で吹き飛ばしていた。
彼の名は勇者太郎、王国から派遣された勇者だ。
その目的はこのラストダンジョンの主、世界の混沌をつかさどる神、ラスボスを倒すこと。
(見ていてくれ友よ!)
勇者太郎はグレーターデーモンを一本背負いで地面に叩きつけながら一人思う。
仲間たちは事情があって一緒には来れなかった。
(仲間の純朴可愛い系神官と結婚し、パーティを離れていった友よ!)
増援として湧き出てきた悪魔たちをバリツで圧倒しながら勇者太郎の決意は燃え上がる。
(しかも、俺の許嫁の幼馴染剣士までかすめ取った友よ! お前のことは忘れない決してなッ!!)
『勇者太郎、ごめん。あたし、あんたとは一緒に行けない……。だってあたし知っているの。このままあなたのルートを進めば、あたしはあなたをかばって上半身と下半身がバイバイしちゃうってことを。だからごめん勇者太郎、私痛いのいやなの』
勇者太郎の脳裏にラストダンジョン突入前夜、幼馴染剣士に告げられた言葉が蘇る。
許嫁であり、冒険仲間でもあった幼馴染剣士はその言葉のあと、魔法使いチャラ男に抱きかかえられて転移の魔法でどこかへ消えていった。
幼いころに木から落ちたのが原因だろうか『これはゲームだ』とか『太郎ルートが最推し、いやチャラ男ルートも』とか訳の分からないことを言っていた彼女の決断は勇者太郎に一つのモチベーションを与えていた。
「俺はこの哀と怒りと憎しみを糧にラスボスを倒し、リア充になる! そこをどけぇぇぇ!」
実際に勇者太郎が受けた深い悲しみは、どんな恐ろしい敵を前にしても恐怖に飲み込まれない冷静な心を生み出し、彼はいとも簡単に敵の攻撃を捌けるようになった。
また、勇者太郎から湧き上がる強い怒りは自身の攻撃力を二倍にし、嫉妬でそれは五倍に跳ね上がった。しめて10倍の攻撃力を手に入れ、彼は武器を使うまでもなく雑魚敵を一撃で倒すことができるようになった。
自身のストレスで良くも悪くも超強化を果たした勇者太郎は、文字通りラストダンジョンの敵を相手に無双した。どんなモンスターも彼を止められず、勇者太郎はいよいよラストダンジョンの最深部、ラスボスの間にやってきていた。
「ふん」
気合一閃、勇者太郎はラスボスの間の扉を壁ごと破壊した。
本来このダンジョンに隠されている封印を解かなければ、開けることができない扉だったが、彼の怒りと嫉妬の拳の前には無力だった。
そして、勇者太郎はラスボスの間に押し入った。
部屋は比較的広く、中央にはお約束とばかりに赤い絨毯を敷いた階段と玉座、その荘厳な雰囲気を盛り上げるようになんだかそれっぽい音楽も聞こえてくる。そしてその先に目的のラスボスがいた。
「さすが勇者……よくここまで来た」
綺麗で澄んだ声が響き渡った。あまりの綺麗さに逆に恐怖心が湧き出るような声だった。
勇者太郎が構えを作り、相手を見据える。
身の丈より大きなローブ、表情は無表情の仮面で隠されている。一見すると小柄な魔法使いか何かだ。
しかし勇者太郎は感じ取っていた。小柄な体格とは裏腹にありえないほどの強大な魔力。この相手がこれまでに戦ったことのないレベルの実力者だということに。
勇者太郎はラスボスを倒すために用意した、妖精の意思が宿る魔法の剣を構えた。
「お前がラスボス! お前を倒して俺はリア充になる! 覚悟しろ!」
「あ、音楽変えますね」
「はい?」
突然ピアノ調のまったりとした音楽が部屋に流れ始める。
戦う前の緊張感はどこかに消え去り、残念な言い方だが勇者太郎の気分は台無しになった。
「やめろよ。戦えなくなる」
「いいじゃないですか―――――」
そういってラスボスは仮面に手をかけ、それを外した。
その仮面は何かの制御装置だったのか、彼女からあふれ出ていた強力な魔力はさらに数倍に膨れ上がった。
だがそんなことよりも勇者太郎は自分の目を疑った。
そこには美少女がいた。
紅いルビーのような瞳に、白い肌。整った顔は精巧な人形を思わせる。
しかし彼女の表情は穏やかで暖かい。
彼女の柔らかそうな唇が開いた。
「世界の半分、あげますよ?」
その時、勇者太郎に電流が走った。
(彼女の持つ世界の半分、世界とはつまり人生、つまり彼女の人生の半分!!)
もはや、いろんなことに飢えていたこの男の脳は、都合の良い方向へ彼女の言葉を解釈し、あたかもプロポーズの言葉として聞き取っていたのである。
「よし、結婚しよう! 俺は勇者太郎」
「え? あ、はい。私はラスボス子」
そうして二人の間に婚約は結ばれた。
勇者太郎は気が付いていなかった。これが世界を揺るがす大きな流れの始まりだと。
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