胸に咲く二輪の花

なかの豹吏

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17, 感情の衝突

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 凛が落ち着いてから、思い出の動物園を出た。まだ時間は夕方前だけれど、どうするか。

「これからはりんて呼んでね、こーくん」

「が、学校ではちょっと無理かも……」
「えー……」

 外なら兎も角、学校ではちょっとまだ抵抗があるな。りんは少ししょんぼりしているけれど、周りの目もあるし。


「これからどうする? もう帰るか?」

「まだ早いし、ちょっとお買い物付き合って欲しいな」

「ああ、分かった」

「やった!」


 買い物ぐらい付き合うよ、凛の機嫌も良くなったみたいだしな。



 電車に乗って、お互いの家に帰る途中に買い物出来る駅に降りた。

 やはりこの辺だとここになるのか。
 りんが買い物に選んだのは、ついこの前櫻と水着を買ったファッションビルだった。


 お目当ての階まで着くと、凛はトイレに行ったので俺は一人になった。
 その時、向こうから歩いて来る男女二人。その女の子は、


「……櫻?」

「こ、孝輝?  な、何してるの?」


 こんな所で俺に会うと思わなかったのだろう、櫻はかなり狼狽えている様子だ。
 それにしても、隣の男は誰だ?  背の高い、美形の男が櫻と一緒にいる。


「お前こそ何してるんだよ?」

「私は……」


 感情的になっていたからか、俺は口調を強めて櫻に問い掛けた。櫻は何だか答え辛そうにしている。その姿がまた俺を苛つかせていく。
 その時、


「ごめん待たせちゃって。……どーしたの? こーくん」


 戻ってきた凛が俺に話し掛けて来た。 りんはまだ櫻達に気付いてないみたいだ。


?」


「あれ、喜多川さん?」


 櫻は凛が俺に言った呼び方に眉を寄せている。 凛も櫻に気付いた様だ。


「今日は夏目さんとデートって事?」

「風邪の時世話して貰ったお礼だ、お前はどうなんだよ」

「こーくんって何?」

「……関係ないだろ」


 俺も櫻も感情的になっていて、お互い口調は棘だらけだ。


「そう、関係ないよね。  彼は前に話した中学の時の彼氏」

「ーー!?」

「それじゃ、こーくんも楽しんで」


 そう言って櫻は、その彼の手を引きすれ違って行った。


 櫻を昔振った彼氏と一緒に。あの公園で俺に話していた、櫻を変えるきっかけとなった彼氏と、何故一緒にいるんだ……。

 疑問や嫉妬心が心の中で渦巻く。 俺は立ったまま、考えを巡らせていた。


「こーくん……今日は、もう帰ろ?」


 そんな時、凛が話し掛けてきた。 上目遣いに、哀しそうな瞳で。 俺はきっと気を遣わせてしまう様な顔をしてたんだろう。 


「買い物するんだろ、行こう」


 そう言って凛の手を握り歩き出したが、凛は俺の手を引き、動かなかった。


「やっと手を取ってくれたのに、今は嬉しくないよ……。 こーくんが他の女の子に嫉妬してる顔見ながら、一緒にいるの、辛いな」

「……りん」


 弱々しい凛の声色に、自分勝手な感情で一緒にいる事に気付いた。 その時、自己嫌悪が襲ってきて、恥ずかしさすら感じた。


 結局買い物はせずに、凛と駅まで歩いていた。
 そして、


「最後はちょっとアクシデントがあったけど、私は今日楽しかったよ! こーくんに思い出してもらったし……」

「なんか、ごめん」

「ううん、いいの。 いつか、私が傍にいれば誰と会ってもこーくんが笑顔でいれる様に頑張るから」

「…………」


 俺は何も言えずに、凛は「じゃあ、またね!」と言って駅に消えて行った。
 それから俺は、一人で恐らくは昏い顔をしながら、電車に乗って家まで歩いていたんだろう。



 家に着いて、灯りもつけずにベッドに寝転んだ。
 俺だって凛とデートしてたんだ、櫻に文句を言える立場じゃない。 そもそも俺達は今、付き合っている訳じゃないんだから。

 でも、ある意味一番一緒にいて欲しくない男と櫻がいた。他の男ならまだしも、一度は櫻が好きになった男だ。 どうして一緒にいたのか、もしかしたらまた二人は……。

 悪い事ばかりが頭を過る。 ……逆に考えてみろ、一番一緒にいて欲しくない相手。 俺が一緒にいたのは凛だぞ。 櫻にとっても同じ事じゃないか? 

 くそ……また俺は自分勝手にしか考えてないじゃないか。 それで苛々して、一緒にいる凛にまで嫌な思いをさせて……。

 どうしようもない奴だ。

 櫻も、凛も、可愛くて優しい女の子だ。
 釣り合ってないのはお前だよ、徳永孝輝。

 俺なんかの為に二人を悲しませて、何様だ。


 ーーーー駄目だ、このパターンは……。


 どんどん気持ちが闇に埋もれていく。

 得意の寝落ちも出来ずに、暫く暗い部屋で、俺は自問自答を繰り返していた。


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