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 華やかな婚約発表が一転、大広間は静まり返った。 世界で僅か数人の加護持ち、それも公爵令嬢、まもなく花嫁になるはずだったステラリアは石像と化した。

「なっ、なんてことだ……」
「石に……なった……?」

 周りは次第に状況を呑み込んでいき、これが悲劇だと認識する。

 わたしは立ち上がり、怒りなのか絶望なのか、震える父に向かって歩を進める。

「すみませんお父様、救えませんでした」

「こっ……この役立たずがッ!! 結局お前は何もノームホルン家に貢献しないではないかッ! お前なぞもう娘でも何でもないッ! この家から出ていけッ!!」

 今度はわかり易く顔を紅潮させ手を振り上げる。 それくらいは覚悟の上、これでさっぱりこの家と……

「――ぬっ!?」

 わたしは決別の痛みに目を瞑ったが、

「ジルベール様、それはとても痛いのですよ? 私も最近ある女性にぶたれましてね」

 その手は振り下ろされなかった。

「ぬぅ……! はっ、離せダラビットの伜がッ!」

 リオネルの手を振り解き、息を切らせるお父様にリオネルは言った。

「婚約するはずのステラリアは石像になってしまった、私は石と添い遂げる気はありません。 ジルベール様、この婚約は――――破棄させていただく」

「こっ……こんな時に恥知らずがッ!!」

「そうですね、私はとんだ恥知らずですよ。 何故なら……」

「――わっ」

 リオネルはわたしの肩を抱き寄せ、大広間に居る来客全てに向けて声を張り上げた。

「ダラビット家のリオネルは、婚約者を失ってすぐ心変わりをする恥知らずだッ! それも婚約者の姉であるこのダリアにね!!」

 ……ああ、やっと、やっと戻れた。 あなたの隣に……。

「フン! そんな病弱の役立たず勝手に持っていけ!」

 お父様……いえ、もう父ではありませんね。
 わたしの事は構いませんが、

「お言葉ですが、ダラビット家の方々に恥知らずはいません、本当の恥知らずというのは――――こういう者を言うんです!」

 わたしが指差した先には、石化した娘にではなく、金に変わらなかった石に縋り付く元お母様の姿があった。

「どうして……私の、私の金はどうなるのッ!」

 呆れて物が言えない、この人はそれしか頭に無いのか。

「……そういう事か。 思うところはあるが、やれやれ、恥知らずな息子を持ったものだ」

 ことの成り行きを見ていたアインツマン様は前に出て、

「これはダラビット家当主である私の責任だ! この愚息と追い出された娘も私が請け負おう!」

 自分の私情で苦しめたわたしを、ダラビット家へ迎えてくれると言ってくださった。


「アインツマン様……」


 さあ夜会は大詰め、あとは……


「お集まりいただいた皆様、そしてノームホルン家の方々にもお見せ致しましょう――――本当の加護の力をッ!!」


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