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しおりを挟む馬車に揺られ、こうして街に出るのも久しぶり。 妹のせいでいつも具合が悪かったし、必要な物は買ってきてもらってたから。
でも、今日の買い物は特別な物だ、誰かには任せられない。
「ここでいいわ、待っていて」
馬車を止め、付き添いのメイドと街へ降りると、人々の注目を感じる。
「ノームホルン家の……」
「加護持ち、ステラリア様だ」
……まあ、そうなるわよね。
華々しく世に出ているのは妹で、やつれているとはいえ、双子なんだから当然似ている。
「王宮から追い出されたらしいぞ」
「加護を持ってもあのジルベールの娘だ、王子妃になんか……」
追い出された、そうなっているみたいだけど、本当はもっと情けない。 辛抱出来ずに逃げ出したのよ。
「恥知らずにも、もう今度はダラビット家に言い寄っているらしい」
「いくら加護持ちとはいってもな、受けるならあそこも卑しい家だ」
……知らないでしょうけど、もう婚約は成立してるのよ。 まあ、お父様や我が家をどう言おうと構わない。 でもね、
「せっかく街に来たのだから、偶には羽を伸ばしてきなさい」
「えっ、ですが……――わっ、こんなに……」
わたしはメイドに金貨を握らせた。 これからする事を見られたくないから。
「買い物は一人で大丈夫、いいから行きなさい」
「は、はい」
ロベルト以外は妹のご機嫌取り、信用は出来ない。
メイドの姿が見えなくなってから、わたしは一人の男に向けて足を進めた。
「――っ……こ、これはステラリア様、今日は何か、その、買い物ですか……?」
「ええ、そうなんです」
笑顔で応えてから、道に転がる小さな石を拾って掌に乗せる。
男は、身なりからしてどこかの貴族か商家の令息だろう。 そんな事はどうでもいいけど。
「何か誤解があるようですが……」
加護は、授かった時に自分に何が出来るかを教えてくれる。 ステラリアが粗悪な金しか作れないのは、やはり正当な加護持ちではないから。
本物はね……
「――ひっ」
小石は鋼になり、膨張して三本の剣となって男の身を貫く、手前で止まった。
「ひぃいいいッ……!!」
―――こんな事も出来るのよ。
「ダラビット家は、高潔な名家ですよ」
我慢出来ない、ダラビット家を悪く言われるのだけは――――
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