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しおりを挟むわたしがリオネルに手を挙げた数日前、部屋に閉じこもり、悲しみに塞ぎ込みんで……いる振りをしていた時の事。
「ダリアお嬢様、ダージリンをお入れしました」
様子を見に来たのは執事のロベルト。
「………」
返事もせず、枕に顔を埋め無言のわたしに、哀愁を含んだ声色は独り言のように話し始める。
「私は貴女のお父様、現当主のジルベール様と同じ歳。 幼少より同じ時間を過ごし、このノームホルン家に仕えてきました」
その声はわたしに予感させる、思っていた通りの。
「ジルベール様とアインツマン様の事、そして、当主をお継ぎになって、今はお嬢様も知るお二人が加護を授かる前の、当時の厳しいノームホルン家の状況も良く知っています」
わたしはベッドから紅茶の置かれたテーブルに行き、腰を下ろした。
「……おいしい」
穏やかな白髪は微かに微笑み、また語り出した。
「私がこの屋敷を出ようと思ったのは、これまで一度だけでした。 希望が見えず、衰退するノームホルン家を見たくなかった。 その時は、双子の天使が私を引き留めた」
あの頃、両親はいつも機嫌が悪かった。 それを出来るだけ見ないように、ロベルトが隠してくれていたんだ。 思えば、わたし達姉妹を育ててくれたのは、この人なのかもしれない。
「ですが、これで二度目です。 私の希望は絶たれるでしょう。 こんな事を言うのは罰当たりでしょうが、どうしても思わずにはいられません。加護なぞ、授からなければ……」
わたしとリオネルに、ロベルトはノームホルン家の希望を見ていてくれたのだろう。 その希望を、神の加護が邪魔をしたと。 そして、深読みすれば……
「ステラリアお嬢様とリオネル様のご婚約が決まり次第、ロベルトはお暇をいただきます」
育ての親は屋敷を、ノームホルン家から去ると言った。 わたしは目を瞑り、それから、したためておいた手紙をロベルトに差し出す。
「これは……」
「あなたにしか頼めない、大事な手紙です。 これをリオネルに」
「……かしこまりました。 ――? 二通、ございますが」
「一通はあなたへです。 ノームホルン家と縁を切った後、読んでください」
こうなる事はわかっていた、やり切れないわたしの表情にそれを感じ取ったロベルトは、何かを隠すように深くお辞儀をした。
「相変わらず、隠すのが得意ね」
◆
そして今日、わたしはロベルトの居なくなったノームホルン家から買い物に出掛ける。
――――ステラリアとリオネルの、婚約が成立したのだ。
さあ行きましょう、最高のプレゼントを用意してあげるわ。
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