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しおりを挟む国中の貴族が集められた決起集会で、欲まみれの王と、人攫いの嘘つき令息が熱弁を振るう。
お姉様の手引きで軟禁から脱出した私は、物陰に隠れて復讐の時を待っていた。
「陛下の想いを踏みにじり、畜生にも劣る非礼で返したドミトリノ王国を私は許さない! 必ずやご期待に応え、穢れたドミトリノ王家の血でヴァレリア様の屈辱を洗い流して見せようッ!」
猛々しい歓声と熱気の中、度を越したフェリクスの恥知らずに血の気が引く。
「よくぞ申した、若きテオリカンの騎士よ。 見事仇敵を討ち滅ぼした暁には望む褒美をとらせよう」
父がそう言うと、フェリクスは待っていたとばかりに醜悪な笑みを浮かべる。
「私の望みは、今傷心に心痛め部屋から出られずにいる我らが姫、ヴァレリア様を全力の誠意で癒して差し上げることです」
―――人攫いが、どこまでも白々しい……!
「フェリクス、お主はなんという……。 あいわかった! ならば褒美には我が娘、ヴァレリアをそなたにくれてやろう!」
……吐き気がする、もう限界。
今すぐ飛び出して、あなた達をその汚らしい我欲と共にこの世から消し去ってやる。 この、私の声と引き換え――、
「ああ、じゃあ逆にフェリクス殿を倒せばヴァレリアは俺のもの、ってことだよね?」
に……?
……ぁ……れ?
踏み出そうとした足が止まり、耳に届いた声を何度も、何度も高速で精査する。 すると、その声はやっぱりその人で、でもここに居るはずがない、それもこんな場所に。
「マ、マリウス……な、何故……」
亡霊でも見るようにフェリクスが呟く。
「何故こんなところに居るかって? それはこの持って生まれた美貌を使って口八丁手八丁――」
私は走り出していた。 もう懐かしくさえ感じるあのお喋りに目掛けて。
「神出鬼没の美男、ドミトリノ王国からただいま参――おわぁ!?」
初恋の王子様。 その胸に飛び込み顔を埋める。 これが戦争の為の集会だとか、誰の目がなんて気にもならなかった。 そんなことよりも、会えたのが嬉しくて。
「きっ、―――貴様こんなところで何をしている! ヴァレリア様から離れろッ!」
再会に水を差すフェリクスの汚い怒声、あまりに耳障りなそれを、
「黙れ」
「――ッ……!」
消してやった。
「フェリクス、あれがジョルディの倅とは真か?」
父が聞くも、
「――! ―――!」
「……どうした。 何故答えぬ」
フェリクスは私の力で声を失っている。 そして私も、悪意の言葉で口が重くなるのを感じる。 でもまだ、やるべきことは終わってない。
「まさか、これがヴァレリアの力……だと言うのか?」
フェリクスのおかしな様子に眉を寄せた父は、次第に顔を綻ばせて大笑いし出した。
「――何だこれは! 何でも思いのままだというのか!? この力でドミトリノは無傷で勝利したと? ならば、―――世界はテオリカンの、いやこのワシの思いのままというこよッ!」
まるで世界を手に入れたようにはしゃぐ父、なんて醜い愚王だろう。 そんな都合の良いことなんて出来ない、それどころか父よ、あなたの運命は……今日終わるの。
どうせこの状況では、王の首を取るでもしないとマリウス様と逃げられない。
力を見せつけ、誰にも邪魔させずにこの地を去りドミトリノへ二人で戻る。
「父よ、あなたのような人間はこの世……」
「――ああ、ダメダメ! ダメだよヴァレリア!」
………マリウス、様?
私の決死の声を遮り、マリウス様は悲しそうな瞳で両の手を私の頬に添える。
「せっかく可愛いんだから、そんな顔してほしくない。 いいかいヴァレリア」
マリウス様は父、フェリクス、そして集まった諸侯達に身を向ける。
「俺は、君が望みを言わなくてもいいほど叶えたいんだ。 だから、何も言わなくていいよ」
私の力を把握しているみたいに、それをさせないと言う。
それから私に向き直って、
「ただ、笑ってて」
君もそうして、と言うように、私の闇を振り払う笑顔が暗闇を照らした。
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