18 / 26
18,
しおりを挟む私の誕生日から十日が経った。
再度侵攻を懸念されていたデオシス軍は、信じ難い大敗に戸惑い動けずにいるみたい。
警戒は怠れない状況だけれど、今は平和な日々が続いていて、これが続けばと願わずにはいられない。
「今だから言えますが、劣勢でも民が明るかったのはお父様の存在があるからなのです」
「ジョルディ陛下……ですか」
アリーヤ様は寂し気に瞳を半分伏せて、秘めていた胸の内を聞かせてくれた。
「お父様が戻れば戦況は変わる、そう信じていたから民には希望があった。 ですが、私やお兄様、ガイタは知っていたのです」
語られたのは、王妃様が亡くなっての喪中の旅は本当だけれど、ジョルディ陛下ご自身も病に冒され長くはないだろう、というお話だった。
「それを知れば民は絶望するでしょう。 そしてお父様は、自分亡き後を考えて戻らず、お兄様にこの苦境を自らの力で乗り越えさせようとしている」
「そう……だったのですか」
「ですがお兄様は気弱なところがあるので、ヴァレリア様がいらした時も援軍を期待したりと、情けないことを言って困らせました。 許してやってください」
「そんな……」
マリウス様は立場もあるし、私なんかよりこの国への想いが強い筈だもの。 何に縋ってもみんなを助けたい、そう思っても仕方がない。
それに、私だってこの国の人間になるのだから、少しでもお力になれるように助力しなくては。
だというのに、意気込んでいた矢先―――。
「ヴァレリア様、長くお世話になりましたが、今日テオリカンに発とうと思います」
私の誕生日以来顔を見せなかったフェリクス様が、出発の挨拶に現れ最後に二人で少し話したいと言ってきた。
少し迷ったけれど、あの日に私とマリウス様を祝福してくれると言っていたし、何より城内で話すのだから何もないだろう、そう思い聞くことにした。
「今更言ってもご迷惑でしょうが、私はずっとヴァレリア様をお慕いしていたのです」
歩きながら、フェリクス様は私に想いを打ち明けてくる。 でも、その声色がもう終わった恋を語っているとわかるから、そんなに警戒はしなかった。
テオリカンに居た時は思わなかったけれど、ドミトリノまで追いかけてきてからの行動、言動からもしかしたら、と思っていた。 でも、
「どうして私を……」
パオラお姉様からの好意は気づいていたと思うし、年齢的にも合うのに。
「今思えば愚かですが、勝手にヴァレリア様は自分が守らなければ……などと勘違いをしていたのですよ。 それに、きっとヴァレリア様は数年後……いや、やめましょう」
―――私は気づかなかった。
「何を言っても未練がましくなりますし、大人しくテオリカンに帰ります」
何気無く歩いていたその道が、以前マリウス様と私、フェリクス様の三人で話した武器庫に向かっていることに。
「あなたと一緒にね」
「――ッ!?」
フェリクス様が、返したと言っていた避難経路の鍵を複製していたことも。
0
お気に入りに追加
204
あなたにおすすめの小説
夜半の月 ~目覚めたら平安時代の姫でした~
赤川エイア
恋愛
目覚めたら、そこは平安時代だった――
見事な長い黒髪に、華やかな着物。
鏡を覗きこめば、平安絵巻物で見た姫君の姿。
雅な世界がそこには広がっていた……
何がどうなっているのか分からない。
でも自分は姫になったらしい?
しかも、貴族の中の貴族、左大臣家の姫君だなんて。
令和の京都にいたはずなのに、なんで平安時代なんかにいるの?
「私」は古典が大好きな一学生だったはずなのに。
* * * * * * * * * * *
現代へ戻る方法を探して主人公が奔走する中、
公達の夜這い、天狗の出現、皇族からの結婚の申し込み……
次から次へとふりかかる問題が新たな出会いを生む、平安王朝風恋愛小説。
※この物語はフィクションです。人物名・作品名などは実在のものとは異なります。
※適宜ルビや注を施した箇所があります。
※恋愛はゆっくりめに進みます。
※更新スピードにつきましては、近況報告に記載の通りとなります。
★「小説家になろう」さんでも連載しております。
★監修/白木蘭様
【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、
ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。
家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。
十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。
次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、
両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。
だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。
愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___
『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。
与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。
遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…??
異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》
悪役令嬢のお姉様が、今日追放されます。ざまぁ――え? 追放されるのは、あたし?
柚木ゆず
恋愛
猫かぶり姉さんの悪事がバレて、ついに追放されることになりました。
これでやっと――え。レビン王太子が姉さんを気に入って、あたしに罪を擦り付けた!?
突然、追放される羽目になったあたし。だけどその時、仮面をつけた男の人が颯爽と助けてくれたの。
優しく助けてくれた、素敵な人。この方は、一体誰なんだろう――え。
仮面の人は……。恋をしちゃった相手は、あたしが苦手なユリオス先輩!?
※4月17日 本編完結いたしました。明日より、番外編を数話投稿いたします。
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
「これは私ですが、そちらは私ではありません」
イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。
その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。
「婚約破棄だ!」
と。
その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。
マリアの返事は…。
前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。
【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです
菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。
自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。
生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。
しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。
そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。
この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。
婚約破棄により婚約者の薬のルートは途絶えました
マルローネ
恋愛
子爵令嬢であり、薬士でもあったエリアスは有名な侯爵家の当主と婚約することになった。
しかし、当主からの身勝手な浮気により婚約破棄を言われてしまう。
エリアスは突然のことに悲しんだが王家の親戚であるブラック公爵家により助けられた。
また、彼女の薬士としての腕前は想像を絶するものであり……
婚約破棄をした侯爵家当主はもろにその影響を被るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる