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 私の誕生日から十日が経った。 

 再度侵攻を懸念されていたデオシス軍は、信じ難い大敗に戸惑い動けずにいるみたい。
 警戒は怠れない状況だけれど、今は平和な日々が続いていて、これが続けばと願わずにはいられない。

「今だから言えますが、劣勢でも民が明るかったのはお父様の存在があるからなのです」

「ジョルディ陛下……ですか」

 アリーヤ様は寂し気に瞳を半分伏せて、秘めていた胸の内を聞かせてくれた。

「お父様が戻れば戦況は変わる、そう信じていたから民には希望があった。 ですが、私やお兄様、ガイタは知っていたのです」

 語られたのは、王妃様が亡くなっての喪中の旅は本当だけれど、ジョルディ陛下ご自身も病に冒され長くはないだろう、というお話だった。

「それを知れば民は絶望するでしょう。 そしてお父様は、自分亡き後を考えて戻らず、お兄様にこの苦境を自らの力で乗り越えさせようとしている」

「そう……だったのですか」

「ですがお兄様は気弱なところがあるので、ヴァレリア様がいらした時も援軍を期待したりと、情けないことを言って困らせました。 許してやってください」

「そんな……」

 マリウス様は立場もあるし、私なんかよりこの国への想いが強い筈だもの。  何に縋ってもみんなを助けたい、そう思っても仕方がない。

 それに、私だってこの国の人間になるのだから、少しでもお力になれるように助力しなくては。 

 だというのに、意気込んでいた矢先―――。



「ヴァレリア様、長くお世話になりましたが、今日テオリカンに発とうと思います」

 私の誕生日以来顔を見せなかったフェリクス様が、出発の挨拶に現れ最後に二人で少し話したいと言ってきた。

 少し迷ったけれど、あの日に私とマリウス様を祝福してくれると言っていたし、何より城内で話すのだから何もないだろう、そう思い聞くことにした。

「今更言ってもご迷惑でしょうが、私はずっとヴァレリア様をお慕いしていたのです」

 歩きながら、フェリクス様は私に想いを打ち明けてくる。 でも、その声色がもう終わった恋を語っているとわかるから、そんなに警戒はしなかった。

 テオリカンに居た時は思わなかったけれど、ドミトリノまで追いかけてきてからの行動、言動からもしかしたら、と思っていた。 でも、

「どうして私を……」

 パオラお姉様からの好意は気づいていたと思うし、年齢的にも合うのに。

「今思えば愚かですが、勝手にヴァレリア様は自分が守らなければ……などと勘違いをしていたのですよ。 それに、きっとヴァレリア様は数年後……いや、やめましょう」

 ―――私は気づかなかった。

「何を言っても未練がましくなりますし、大人しくテオリカンに帰ります」

 何気無く歩いていたその道が、以前マリウス様と私、フェリクス様の三人で話した武器庫に向かっていることに。

「あなたと一緒にね」

「――ッ!?」

 フェリクス様が、返したと言っていた避難経路の鍵を複製していたことも。

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