上 下
22 / 27

22,

しおりを挟む
 

 今日の記念日を祝福するかのような晴天、街には喜び合う人々の笑顔が溢れるが、それは仮面の奥だという奇妙な一日だ。


「ほらっ、簡単に取られてあげないよー?」


 仮面に手を伸ばしてくる子供と戯れるメリッサ。 1年に1度、この日だけは楽しみにしていた。


「おねーちゃん、だっこー」


 これが手の届かない子供の作戦、抱き上げられた時に仮面に手を伸ばす。 この日は抱き上げられる子供の光景がそこら中で見られる。


「えー?」


 疑いの目を向けながらも、メリッサがその子を抱き上げようと屈んだ時、


「――あっ」

「やった! とったーっ!」


 後ろからもう一人の子供が仮面を奪い取る。


「あ~、やられたぁ」


 見事な連携で子供達の勝利。 それを見て、付き添いの侍女二人がお菓子を入れたカゴを持って近付いて来る。


「わぁ……おねーちゃんキレイ」

「も~、沢山もらおうとして~」
「ちっ、ちがうよっ!」


 戦利品のお菓子を渡すと、子供達はそれをほおばろうとお面を外し、頭の上に乗せる。


「……良かったね」


 その様子を見て、メリッサの表情が微かに陰った。 嬉しそうな子供達の顔が見れたというのに、まるでお面をしていて欲しかったかのように。


 長い瞬きをして、メリッサはまた仮面を付ける。 





「……見つけたぞ、公爵令嬢様」


 その様子を見ていた、敵意の視線に気付かずに――――。





 ◇





「今日は中心部まで馬車は行けないからな、途中で降ろしてくれていい、メリッサの居る所は分かっている」

「はい、かしこまりました」


 まさに仮面の貴公子となったレオーネは、盛り上がりを見せる王都に少し遅れて邸を出発した。


 レイアはファビオと祭りを楽しみ、リリアナはリベンジマッチに闘志を燃やしていることだろう。 

 そして彼女は―――




「……来てるの、ダンテ」


 賑やかに飾り付けられた街の中、ジータは一人悪い予感が膨らんでいく。 最後に会った時、ダンテが諦めて項垂れているならまだ良かった。 


「お願い、ヤケにならないで……」


 その様子は自暴自棄にも感じたが、まだ何か奥底に秘めているように感じた、それが気になって仕方ない。


「――ッ!?」


 あてもなく歩いていると、どこかで子供の悲鳴が聞こえる。


「ちょ、ちょっとごめんなさい……!」


 人混みを掻き分け声の方に走る。 だが、今日はどこで子供が叫んでいてもおかしくない日だ。 そもそも、それが悲鳴だということさえ勘違いかもしれない。 

 ただの杞憂、そうであって欲しい。


「ど、どうしたの?」


 それらしき現場に辿り着くと、怯えた顔の子供が道の先を指差し、


「おっ、おねーちゃん、つれてかれちゃった……」


 この場所はやや裏道で人通りが少なく、追いかけてくれている大人は期待出来なそうだ。

 そして、嫌な予感は確信に近付く。


「あ、あなた達は……」


 よく見れば、突き飛ばされたのか倒れたメイド服が二人、その一人が目に涙を浮かべ、


「――メ、メリッサ様が……ッ!!」


「嘘でしょ……」


 青ざめるジータの脳裏にはいくつかの未来が映る。 


「くッ……!」


 男の子が指差す方向に走るジータ。 息を弾ませながら頭を過ぎるのは、そのどれもが望んでいない、最悪の未来だった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜

水都 ミナト
恋愛
 マリリン・モントワール伯爵令嬢。  実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。  地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。 「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」 ※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。 ※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

悪役令嬢ってこれでよかったかしら?

砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。 場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。 全11部 完結しました。 サクッと読める悪役令嬢(役)。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。 助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。 バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。 もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

処理中です...