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 広場に戻った私がまず見たのは、暇を持て余した不機嫌そうな令嬢達の顔だった。 その令嬢達の視線の先には人だかり、――くっ……遅かったか!


「ごっ、ごめんあそばせーっ!」


 令息達をかき分け、真ん中でオロオロと涙ぐんでいるレイアを保護。 とりあえず今日は撤退しましょう、初陣としては顔も売ったし十分よ。


「なんだエルマ、もう帰るのか?」

「レイアがもう限界みたいだからね、次の週末彼女に良い男紹介してよ、レオーネ」

「良い男ねぇ。 わかったよ」

「金持ちで誠実で頭の良い男よっ、うちの子は安くないんだから! じゃあねっ!」


「……なんていうか、ホント落ち着きの無い女だな」





 ◆◇◆





 初めてのパーティーから数日が経ち、今は午前の授業を終えてお昼休み―――、


「はぁー、大したもんだわ、ジータって何でも出来るのね」

「大袈裟よ、あなた達にだって出来るわ」

「わ、私お料理ダメだから……」


 今日はレイアとジータと三人で昼食、ジータが手料理を作ってきてくれた。


「サラはジャンと元の鞘に収まったみたい、随分元気になって授業にも出てるし。 エルマ、どんな手を使ったの?」

「別に、ちょっと大女優の片鱗を見せただけよ」

「……レイア、意味わかる?」

「さ、さぁ」


 レオーネにはバレたけど、自分では結構いい線いってたと思うのよね。 


「レオーネとは、その、別れちゃった……の?」


 レイア、そんなに聞きづらそうにしなくてもいいのよ。 だって、―――元々付き合ってなかったんだから。


「別れたわよ、というか私が勝手に恋人気分だっただけみたい。 彼にも悪いことしたわね」


 飄々と話す私を見て、レイアとジータは何か腑に落ちない顔をしている。


「どうしたの? 二人とも」

「何だかその、聞いてるとエルマらしいけど、エルマらしくないというか……」

「何よそれ」

「う、うん、ジータの言いたいこと、わかる」


 ……全然わからないけど、どういうこと?


「レオーネを恋人だっ、て自慢するのはエルマらしいけど、それをあっさり自分の勘違いだと認めるエルマはエルマらしくなくて、でも最近のエルマらしくて……」


 ―――まずい、どうやらこれは生活交換の不具合が出てきてるわね。


「う、うん。 なんていうか、上手く言えないけど……」

「そっ、そんな事より今週末のパーティーは三人で行きましょうよ! レオーネに良い男紹介してって言っといたからっ」


 必死に話題を変えたところ、ジータにビシッと指を差された。


「それが変なのよ、別れたレオーネとすぐ友達みたいに付き合える?」

「――うっ……そ、それは……」

「私の知ってるエルマだったら、当てつけに他の男見つけてレオーネに見せつけるとかすると思う」


 ……しそうね、エルマなら。


「ジ、ジータ、もういいよ。 私は……今のエルマが好きだし」

「レイア……」


 私も好きよ、出来れば誰にも渡したくないわ。


「……それもそうね。 でも、私はパーティーはいいわ。 少しそういう場から……」


「――ダメよ」


 逃げ腰のジータにダメ出しを切り込む。 

 何を腑抜けたこと言ってるの? 恋の傷は恋で埋める、それぐらいタフじゃないと貴族令嬢なんてやってけないわ。 経験値無いけどね。


「こんな時こそ前に出るのよ、花ざかりの時間を無駄にしちゃダメ」

「こんな時……って、ジータ何かあったの?」


 ―――はっ! レイアは知らないんだった!


「なっ、何もないけどっ! 消極的なのは良くないってことよ、わ、わかった?」


 苦しい言い分で切り抜けようとする私を見て、ジータは苦笑いの後、楽しそうに笑った。


「そうね、いつもより大胆なドレスにしようかしら」

「そっ、その意気よ!」


 もっと良い出会いがきっとあるわ。 今度は負い目の無い恋愛を思いっきりして欲しい。



 そして、三人で乗り込んだ週末のパーティーで、思いも寄らない出来事が起こった。



「――ダンテ、あなたとの婚約は破棄させてもらうわ!」



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