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3巻
3-2
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その後、俺とメリアは、木こりのホークスさんの家へ向かった。
「久しぶりに二人でお出かけしますね!」
メリアは俺の手を握りながら上機嫌で言った。
「ああ、そういえば、マジッククラフト・マーケット以来だね」
「あのときはロッドさん、すぐいなくなっちゃいましたから、実質ノーカウントです。敵の攻撃を未然に防ぎに行くって、最初から言ってくれればよかったのに」
「言ったらついてきたんじゃない?」
「そこまで聞き分けが悪いわけじゃありません!」
……そう? 結局デモナイズ・モンスターを倒すときについてきちゃってたけど。
「でもあのとき、何もわからないまま守られて、わたし思ったんです。わたしも、なるべくなら問題にかかわりたかったって。そうするためには、まだまだわたしは、成長しなくちゃいけないって」
メリアは、首から下げているネックレスの魔法石を触りながら言った。お母さんの形見の《エア・バースト》の魔法石だ。
「日々をなんとなく生きているだけじゃ、きっと成長なんてしません。自分の思う理想のために考えて、動いて、考えて、動いて……その繰り返しの中で、少しずつ進むしかないんじゃないかって。だから、まずは、わたしのできることから」
「それで道案内を?」
「はい! ロッドさんのお仕事を近くで手伝いたいのが一番の理由ですが!」
彼女は大事に持ち歩くだけにしていたお母さんのネックレスを身につけていた。
それは理想とする自分になろうという、彼女の決意の表れなのだろうか。辺境伯として、領邦を取り巻く様々な問題に本気で向き合える人物になるための一歩を、メリアは踏み出そうとしている。
そうか。メリアは……成長しようとしているのか。
俺は泣きそうになる。
「いつでも力になるよ。俺でよければ」
「よろしくお願いします。言っておきますがロッドさんはまだ、わたしの臣下ですからね!」
話しながら、ウィッシュハート孤児院の近くを抜けて森の中へ入っていく。
郊外のさらに郊外というような、樹木しかないところである。人の足が踏み慣らした道をメリアの案内で進んでいく。
この先に、ホークスさんが普段仕事で使っている小屋があるらしい。切った木を一時的に置いたり、加工したりする作業小屋だ。
「もう少しです!」
メリアの言う通り、進んでいくと家のようなものが見えてきた。しかし、小屋というにはいささかでかい。
庭には……
「やっと成虫になれたねえ、うれしいよ、ドミニク……」
青く光る珍しそうなカブトムシに頬ずりをしている女の子がいた。
なんだろう、すごく変な子である。いや、すごく虫好きの女の子なのか。ホークスさんの知り合いだろうか。
カブトムシを持ってはしゃいでいた女の子は、俺とメリアの接近に気づき、
「誰!?」
カブトムシから目を離し、驚いたように飛びのいた。
片目を隠した女の子だった。なぜか右腕は後ろ手に隠している。
「…………」
そして女の子は、俺を見た瞬間、まるで幽霊にでも出くわしたかのように目を丸くした。
「?」
「げっ……」
げ、って何?
「あの、すみません。俺たちは怪しい者じゃなくて、お聞きしたいことが……」
「でっ、だ、え、う」
話しかけただけで、女の子は挙動不審である。
なんでこの女の子、俺を見た瞬間、汗を滝のように流しているんだろう。
……汗っかきなのかな?
‡
『時計塔』の魔法工房にいた片目を隠した少女――エスタは、不意にやって来た人物を警戒しながら飛びのいた。
あらためてその闖入者の顔を見たとき、エスタは思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ロッド・アーヴェリス。
サフィール魔法工房の魔法薬術師が、今まで自分たちの計画の邪魔をしてきた男が、なぜかそこにいた。
モンスター化しているワーム状の右腕には長い丈の手袋をしていたが、それでも怪しまれないように後ろへ隠す。
しどろもどろになりながら、エスタは家から出てきた獣人の男――クウバへ駆け寄った。
「おいエスタ、メシの支度ができ……なんだ、どうした」
「あれ!」
エスタはロッドを差して言った。
「ロッド! サフィール魔法工房の! メリア・クリムレットもいるじゃん! なんでいんの!?」
「知らん」
「あたしたちを捕まえに来たんじゃ?」
「ふむ……? いや、なら最初から戦闘する気で来ているだろう。それにあちらは我々を知らないはずだが……やつら、偶然ここにたどり着いたのか?」
「ここで殺しちゃおうか」
エスタのつぶやきに、クウバは首を横に振った。
「いや、やめておけ。クリムレットや辺境伯軍の出方を見るまでは様子見と決めていただろう。準備していないうちから軽はずみに動かない方がいい。それに、ここが拠点の一つと知られるわけにはいかん」
「じゃあどうすんの!」
「俺たちは善良な領民だ。そうだろう? ならばそうふるまえばいい」
サフィール魔法工房の排除は目的ではなく手段の一つにすぎない。求めているものが手に入るなら、避けてもいい障害だ。
エスタもそれはわかっている。しかし……みすみすやりすごすのか? 障害を取り除く機会が目の前に来ているのに?
心臓が緊張と高揚で高鳴っていくのをエスタは感じた。
クウバはああ言っているが――隙を見て殺し、『異邦』のモンスターの餌にでもすれば足がつかないのでは?
「……すみません、ここ、もしかして魔法工房なんですか?」
家の中がちらと見えたらしい。ロッドが、前に出たクウバに聞いた。
「ああ、そうだ」
「あ、えっと、すみません、それは本題じゃなくて。木こりのホークスさんの家ってこの辺にあります?」
「空き家になっていたのを我々が買い取ったんだが、周辺には誰も住んでいないな。少し町の方に戻ったあたりに孤児院があるみたいだが……近所の家といえばそれくらいだ」
「空き家だったんですか」
「かつて木こりの仕事小屋だったが、この間のオーク防衛戦に参加して死んだらしくてな」
「えっ!?」
「もしかしたら君の探している木こりは、その人だったのかもしれん」
「そ、そうだったんですか……」
「もしその木こりに用事があったのなら、残念だがあきらめるしかない。もっとも、薪くらいなら分けてやれるが?」
「ありがとうございます。でも薪が欲しいわけじゃないんです。キノコを栽培する原木が欲しくて……」
「ふむ?」
原木……? キノコの栽培……?
なんだ? また何か、こちらを追い詰めるための魔法道具やポーションを開発しようとしているのか?
もう少し情報を引き出したいクウバが考えていると、メリアが尋ねる。
「買い取られたということですが……どちらからいらしたんですか? わたし、お二人のお顔を拝見したことがないのですが、近場ではないですよね?」
クウバの大柄な背中に隠れていたエスタがまた渋い顔になる。
「な、なんか警戒されてる!? こいつ領民の顔、全部覚えてるわけ!?」
「知らん」
小声でささやきながら魔法を使おうとするエスタを、クウバはさりげなく制止した。
抗議の目を向けるエスタ。
「あ、変な意味じゃなくて、もし別の領邦から来たのでしたら、そこのお話とか聞きたいなと思いまして!」
「ああ、なるほど」
メリアにうなずいてから、クウバはエスタに向き直った。
「軽はずみに動くな。まだ警戒されていると決まったわけじゃない。今仲良くしておけば……内部の情報を漏らしてくるかもしれん。こちらは敵だとばれていない。安心しろ」
耳打ちされて、エスタはしぶしぶうなずいた。
なるほど、そういう見解もある。この場はクウバに任せて、コミュニケーションが苦手な自分とウィンターは口出ししない方がいいのかもしれない。
そのとき――
「うるっせえんだよ、ごちゃごちゃ! メシが冷めちまうだろうが! 早く来い! これだから下等種族は……」
怒鳴り散らしながら、金髪のエルフの少年――ウィンターが大股で工房から出てきた。
「出てくんなウィンター!」
とっさに叫ぶエスタ。
「ウィンター!?」
名前を聞いて、反応するロッド。
「あ、え、違、ウィンナーが焼けたかなぁー!? どうかなあー!?」
「……すみません、お食事中でしたか?」
「そうかもねえー!」
「うるっさいつってんだ! てめえらいい加減に――」
出てきたウィンターの喉に、
「ごふっ」
拳を打ち込むエスタ。そして訪ねてきた人物たちを見て、ウィンターは何か察したらしい。
「あー、お客さん?」
喉をつぶされ、妙にかすれ声になったウィンターは首を傾げた。
「あ、すみません、ちょっとここの前の住民の人に用があっただけで。もう帰ります」
ロッドが言うと、大柄な図体でエスタとウィンターを隠すように前に出るクウバ。優しげな表情である。
「最適な原木はキノコによって違う。山に登ってみればわかるが、生えているキノコはそれぞれ、植わっている木が違うはずだ。食用ならある程度知識があるのだが、どんなキノコだ? 力になれるかもしれん」
「食用といえば食用なんですが、少し特殊なので……」
食用だが特殊……やはりポーションの材料か?
「同じ魔法工房のよしみとして助言させてもらうが……特殊な原木を欲しているのなら、ドリアード族に聞いてみたらどうだ? 最適な原木が見つかるかもしれん」
「ドリアード族、ですか」
「異邦の民であり、樹木が人間化した種族だ。植物に関して造詣が深い。場所を教えるから行ってみたらいい」
「なるほど……ありがとうございます!」
どうやら敵を追い出せるらしい。エスタは安堵したような表情を浮かべた。
「…………」
しかしロッドは思案顔だ。
「あの……『同じ魔法工房のよしみ』って言いましたけど、なんで俺が魔法工房から来たことをご存知なんです? 言いましたっけ?」
「えっ!?」
エスタの心臓が跳ね上がる。やはり殺しておくか? 身構えるエスタとウィンター。
「何を言っている。君だってここを魔法工房とすぐに見抜いたろう。なら同業者なんじゃないかと思ったんだが、違うのか?」
「ああ、そういうことでしたか……お察しの通りです。うちの上司が薬膳に使えるキノコを栽培したいらしくて、それで俺がお使いに」
「なるほど」
「優しいんですけど、たまに無茶ぶりしてくるんですよね……」
薬膳? 少なくとも敵を倒すポーションの開発ではなさそうだ。
クウバはロッドたちにドリアードの集落の場所を教えた。
「……はー、あっぶな」
ロッドたちが立ち去るのを見送ってから、エスタは胸をなでおろした。
「事情はなんとなく察したが、しかし有益そうな情報を教えてよかったのか?」
「薬膳料理を作るらしいから、それほど影響はないだろうよ。それに、懇意にしていれば内情を話してくれるかもしれんぞ」
「ふん……それより、お前らさっき俺のことウィンナーっつったか?」
ウィンターが震える声で言うと、周囲が魔法で凍りついていく。
「言ったのはエスタだ。俺は言っていない」
「言ったかなぁ? 忘れた」
エスタはとぼけた顔で、冷気を避けるため青いカブトムシを懐に寄せた。
「そうだ。いいことを思いついたぞ、ウィンナー」
クウバが考えを説明すると、ウィンターはあからさまに嫌な顔になった。
「今度その名前で呼んでみろ。ぶっ殺すからな」
‡
木こりのホークスさんがいなかったのは予定外だったが、親切な魔法工房の人たちに教えられて、俺は異邦へ行くための準備を済ませた。
目指すはドリアード族の集落。
道はかなり過酷なので、メリアには帰ってもらうことにした。
メリアは最初一緒についていきたがっていたが、調達まで数日かかることをサフィさんに伝言してもらうように頼むと、しぶしぶ別れることを承諾してくれた。
辺境伯領フーリァンを出ようとすると、
「よかった、まだ出発してなかったか」
先ほどの獣人の男に呼び止められた。
「あ、さっきはどうも。おかげさまで、これから出発します」
「いや、すまない。いきなり危険地帯である異邦の中にある集落を紹介するのは、さすがに常識に欠けていた」
獣人の男は律儀に頭を下げた。
「いえ、全然いいんですよ! 行くのは苦ではないので」
「行くなら、せめてこいつを案内人として連れていってほしい」
獣人の男は背後にいたエルフの男を示して言った。
「名前はウィンナー。こいつの案内なら、迷いなく行けるはずだ」
「ああ、先ほどのあれはお名前でしたか」
エルフの男はかなり嫌そうな顔をしているのだが、ついてきてくれるのだろうか。たしかに案内があった方が迷わないし早そうだ。
「見ての通り半グレ気味だが害はない」
「もし案内していただけるのなら助かりますが……」
半グレなんだ。本人が行く気ないなら無理につけてもらわなくてもいいんだけど。
「よろしく頼む……」
エルフの男――ウィンナーさんはかすれた小さな声で言った。乗り気だった。
「少し危険かと思いますが、それも大丈夫でしょうか?」
念のため俺が聞くと、獣人の男はうなずいた。
「平気だ。百年前、魔族と人間が戦った戦争があっただろう。ああいう英雄譚にあこがれているんだ、こいつは」
「そうなんですか……」
俺は少し表情が固まってしまった。すぐに笑顔に戻す。
百年前、辺境伯領に魔族が攻めてきたときの話だ。エレイン・クリムレットやその右腕のディミトリアス・アスカム、それにザイン・ジオールとその弟子のアルフレッド夫妻――五人の英雄を中心に、異邦の向こうから攻めてきた魔族を追い払ったという英雄譚だ。
しかし実際は、禁忌の魔法《神格タキオナの召喚》を使い、魔族との戦いに敗北したという事実を勝利したという偽の歴史に改変した。魔法の発動には生贄が必要で、魔法石の《精神操作》で身体の自由と意志を奪われた魔力の高い者たちが多数犠牲になった。
歴史改変という、世界さえ壊しかねない効果を持った魔法は、現在クリムレット辺境伯の居館の地下に保管されている。羊皮紙に描かれているその魔法陣は真ん中と一部が黒くくすんで破損しており、使うことができない。
魔族は現在、スキアさんを除いてその存在を確認できていない。異邦の奥地『深淵方面』にいるという噂もあるが、真偽はわからない。
「冒険や探索はロマンがあるから好きらしい。危険があるのは承知だ。まったく問題ない」
「わかりました。まあ、モンスターに襲われたら俺が応戦して守りますので……」
俺はそう答えた。この返答を聞いて、ウィンナーさんはさらに俺のことをにらんできたのだが、なんだろう。嫌われるようなことしたかな。
フーリァンを出て、異邦の中を二人で歩く。ウィンナーさんが先行し、俺がそれについていく形だ。
異邦の風景は、巨大な森が無限に続いているように見えて、微妙に違う。
道しるべとなるようなものは、よく見てみればいろいろと目に入ってきた。
腕のように突き出た巨大な岩肌や、剣のようにそびえる一本の赤い針葉樹、巨大モンスターの通り道となった大きな獣道、闇の中で光るワームがうごめく洞窟など……おそらく異邦の民たちも目印にしているであろう特徴的な場所が点在している。
「こっちだ……」
ウィンナーさんは終始嫌そうな顔で俺を案内してくれる。
「なんというか、俺も異邦内の移動に慣れてきたのだろうか……」
良いのか悪いのか、心の余裕が保たれている。まあ数日滞在するくらいなら平気だろう、とか普通に考えるようになっている。
……これ、一人で異邦の中にある宿屋街エクスフロントまでいけるんじゃないか? まとまった休みをもらう必要はあるが、機会があればおねえさんと良いことをしに行ってみてもいいかもしれない。アララドさんと行ったときにくらった出禁が解除されていればだけど。
「大きな湖――あのへんだ」
ウィンナーさんは目印の一つを見つけた。周辺に巨大な樹がないか探してみる。
ここまでは巨大モンスターとの遭遇もほぼなく、順調だった。
ドリアード族は水辺や太陽の当たる場所を好むらしい。そして、集落には精霊の宿った巨木――精霊樹というものがある。見たことはないが他の木と全然違うらしい。
周辺を探してみると、集落はすぐに見つかった。
広場のような場所に、緑色の肌で緑色の髪の毛の子どものような人たちが、日向ぼっこしたり追いかけっこしたりして遊んでいる。みんな男なのか女なのかわからない中性的な見た目をしていた。
「一気になごやかな空間に出たな……」
中心には巨木が一本あり、ほのかに光を発していて、そこだけが妙に荘厳だった。
これがおそらく精霊が宿っている大樹――精霊樹だろう。大きいが、異邦によくある巨木と比べると、思ったより大きさに差がなかった。
自然を愛する者たちの聖域のように感じられる光景。
……これ、俺みたいなただの人間が勝手に入っていいところかな?
「ここまで来ればいいだろう。俺は戻る――」
ウィンナーさんがさっさと別れようとしたとき、ドリアード族の一人が俺たちを見つけて駆け寄ってきた。
「わー、『外』の人?」
中性的で子どものような見た目を持つそのドリアードは、好奇心旺盛な瞳で俺を見上げた。
異邦の民たちは、異邦や異邦周辺以外の場所のことを『外』と表現することがある。
俺はうなずいた。
「あ、はい。辺境伯領フーリァンから来ました。サフィール魔法工房のロッド・アーヴェリスといいます」
子どものようだが、見た目では判断できないので丁寧に名乗った。
「……ウィンナー」
ウィンナーさんが不機嫌そうに答える。すごく帰りたそうだ。
「魔法工房のロッド!」
「ウィンナー! ……それ名前?」
ドリアードが叫ぶと、他のドリアード族たちが次々に集まってくる。
「『外』からのお客さん!」
「こっち来なよ! 一緒に日向ぼっこする?」
ドリアード族は水と太陽の光さえあればとりあえずは死なないらしく、よく日向ぼっこをする。
そして精霊樹がモンスター除けになっているらしい。
平和的でのんびりとした種族で、俺は安心した。すごい戦闘民族みたいなのが出てきたらどうしようかと思った。
「えっと、じつは珍しいキノコを育てたくて、原木を探しに来ました」
「こんなところまで!?」
「無駄じゃない?」
「あきらめた方が楽なときってあるよ?」
ぐうの音も出ねえ。でも俺もキノコの栽培に興味があるし、ぜひ育ててみたい。俺は食い下がる。
「ラルトリア・トロンボーン茸っていう外国産のキノコなんですが」
言いながら、俺はサフィさんから借りてきた種駒をドリアードたちに見せた。
「知ってる?」
「知らなーい」
「貸して」
ドリアードの一人が、種駒をじっと観察しながら、
「どういうキノコかによって、最適な木も違ってくると思うけど……適した木がこの辺にあるかどうかはわかんないよ。何に使うの?」
「薬膳料理です」
「おくすり!?」
「そうですね。魔法薬術師なので」
「魔法薬術師!」
わー! わー! わー!
珍しい物を見て喜んでいるような感じでもてはやされた。
なんだろう、とても和む。
「ならさ、異邦の薬草とか興味ある?」
「それはとてもあります!」
「教えてあげる! この辺に生えてるやつで、いつも怪我とか風邪とかに使ってるやつ!」
「本当ですか!?」
「みんな詳しいよ」
思わぬ収穫だった。
異邦はいまだに謎が多く、モンスターの生態や植物なども解明されていない部分が多い。
俺のポーションの改良に使える薬草があるかもしれない。
案内してくれるドリアードに手を引かれたとき、
「――やあ、久しぶり、ドリアードさんたち」
後ろから来客があった。
黒い髪の人間の男だった。俺よりも一回り以上年を取っている。
微笑すると、生えている無精ひげが歪んだように吊り上がった。
ドリアード族はあまり人間と接することがないと聞いていたが……偶然来訪が重なったのだろうか。
「久しぶりに二人でお出かけしますね!」
メリアは俺の手を握りながら上機嫌で言った。
「ああ、そういえば、マジッククラフト・マーケット以来だね」
「あのときはロッドさん、すぐいなくなっちゃいましたから、実質ノーカウントです。敵の攻撃を未然に防ぎに行くって、最初から言ってくれればよかったのに」
「言ったらついてきたんじゃない?」
「そこまで聞き分けが悪いわけじゃありません!」
……そう? 結局デモナイズ・モンスターを倒すときについてきちゃってたけど。
「でもあのとき、何もわからないまま守られて、わたし思ったんです。わたしも、なるべくなら問題にかかわりたかったって。そうするためには、まだまだわたしは、成長しなくちゃいけないって」
メリアは、首から下げているネックレスの魔法石を触りながら言った。お母さんの形見の《エア・バースト》の魔法石だ。
「日々をなんとなく生きているだけじゃ、きっと成長なんてしません。自分の思う理想のために考えて、動いて、考えて、動いて……その繰り返しの中で、少しずつ進むしかないんじゃないかって。だから、まずは、わたしのできることから」
「それで道案内を?」
「はい! ロッドさんのお仕事を近くで手伝いたいのが一番の理由ですが!」
彼女は大事に持ち歩くだけにしていたお母さんのネックレスを身につけていた。
それは理想とする自分になろうという、彼女の決意の表れなのだろうか。辺境伯として、領邦を取り巻く様々な問題に本気で向き合える人物になるための一歩を、メリアは踏み出そうとしている。
そうか。メリアは……成長しようとしているのか。
俺は泣きそうになる。
「いつでも力になるよ。俺でよければ」
「よろしくお願いします。言っておきますがロッドさんはまだ、わたしの臣下ですからね!」
話しながら、ウィッシュハート孤児院の近くを抜けて森の中へ入っていく。
郊外のさらに郊外というような、樹木しかないところである。人の足が踏み慣らした道をメリアの案内で進んでいく。
この先に、ホークスさんが普段仕事で使っている小屋があるらしい。切った木を一時的に置いたり、加工したりする作業小屋だ。
「もう少しです!」
メリアの言う通り、進んでいくと家のようなものが見えてきた。しかし、小屋というにはいささかでかい。
庭には……
「やっと成虫になれたねえ、うれしいよ、ドミニク……」
青く光る珍しそうなカブトムシに頬ずりをしている女の子がいた。
なんだろう、すごく変な子である。いや、すごく虫好きの女の子なのか。ホークスさんの知り合いだろうか。
カブトムシを持ってはしゃいでいた女の子は、俺とメリアの接近に気づき、
「誰!?」
カブトムシから目を離し、驚いたように飛びのいた。
片目を隠した女の子だった。なぜか右腕は後ろ手に隠している。
「…………」
そして女の子は、俺を見た瞬間、まるで幽霊にでも出くわしたかのように目を丸くした。
「?」
「げっ……」
げ、って何?
「あの、すみません。俺たちは怪しい者じゃなくて、お聞きしたいことが……」
「でっ、だ、え、う」
話しかけただけで、女の子は挙動不審である。
なんでこの女の子、俺を見た瞬間、汗を滝のように流しているんだろう。
……汗っかきなのかな?
‡
『時計塔』の魔法工房にいた片目を隠した少女――エスタは、不意にやって来た人物を警戒しながら飛びのいた。
あらためてその闖入者の顔を見たとき、エスタは思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
ロッド・アーヴェリス。
サフィール魔法工房の魔法薬術師が、今まで自分たちの計画の邪魔をしてきた男が、なぜかそこにいた。
モンスター化しているワーム状の右腕には長い丈の手袋をしていたが、それでも怪しまれないように後ろへ隠す。
しどろもどろになりながら、エスタは家から出てきた獣人の男――クウバへ駆け寄った。
「おいエスタ、メシの支度ができ……なんだ、どうした」
「あれ!」
エスタはロッドを差して言った。
「ロッド! サフィール魔法工房の! メリア・クリムレットもいるじゃん! なんでいんの!?」
「知らん」
「あたしたちを捕まえに来たんじゃ?」
「ふむ……? いや、なら最初から戦闘する気で来ているだろう。それにあちらは我々を知らないはずだが……やつら、偶然ここにたどり着いたのか?」
「ここで殺しちゃおうか」
エスタのつぶやきに、クウバは首を横に振った。
「いや、やめておけ。クリムレットや辺境伯軍の出方を見るまでは様子見と決めていただろう。準備していないうちから軽はずみに動かない方がいい。それに、ここが拠点の一つと知られるわけにはいかん」
「じゃあどうすんの!」
「俺たちは善良な領民だ。そうだろう? ならばそうふるまえばいい」
サフィール魔法工房の排除は目的ではなく手段の一つにすぎない。求めているものが手に入るなら、避けてもいい障害だ。
エスタもそれはわかっている。しかし……みすみすやりすごすのか? 障害を取り除く機会が目の前に来ているのに?
心臓が緊張と高揚で高鳴っていくのをエスタは感じた。
クウバはああ言っているが――隙を見て殺し、『異邦』のモンスターの餌にでもすれば足がつかないのでは?
「……すみません、ここ、もしかして魔法工房なんですか?」
家の中がちらと見えたらしい。ロッドが、前に出たクウバに聞いた。
「ああ、そうだ」
「あ、えっと、すみません、それは本題じゃなくて。木こりのホークスさんの家ってこの辺にあります?」
「空き家になっていたのを我々が買い取ったんだが、周辺には誰も住んでいないな。少し町の方に戻ったあたりに孤児院があるみたいだが……近所の家といえばそれくらいだ」
「空き家だったんですか」
「かつて木こりの仕事小屋だったが、この間のオーク防衛戦に参加して死んだらしくてな」
「えっ!?」
「もしかしたら君の探している木こりは、その人だったのかもしれん」
「そ、そうだったんですか……」
「もしその木こりに用事があったのなら、残念だがあきらめるしかない。もっとも、薪くらいなら分けてやれるが?」
「ありがとうございます。でも薪が欲しいわけじゃないんです。キノコを栽培する原木が欲しくて……」
「ふむ?」
原木……? キノコの栽培……?
なんだ? また何か、こちらを追い詰めるための魔法道具やポーションを開発しようとしているのか?
もう少し情報を引き出したいクウバが考えていると、メリアが尋ねる。
「買い取られたということですが……どちらからいらしたんですか? わたし、お二人のお顔を拝見したことがないのですが、近場ではないですよね?」
クウバの大柄な背中に隠れていたエスタがまた渋い顔になる。
「な、なんか警戒されてる!? こいつ領民の顔、全部覚えてるわけ!?」
「知らん」
小声でささやきながら魔法を使おうとするエスタを、クウバはさりげなく制止した。
抗議の目を向けるエスタ。
「あ、変な意味じゃなくて、もし別の領邦から来たのでしたら、そこのお話とか聞きたいなと思いまして!」
「ああ、なるほど」
メリアにうなずいてから、クウバはエスタに向き直った。
「軽はずみに動くな。まだ警戒されていると決まったわけじゃない。今仲良くしておけば……内部の情報を漏らしてくるかもしれん。こちらは敵だとばれていない。安心しろ」
耳打ちされて、エスタはしぶしぶうなずいた。
なるほど、そういう見解もある。この場はクウバに任せて、コミュニケーションが苦手な自分とウィンターは口出ししない方がいいのかもしれない。
そのとき――
「うるっせえんだよ、ごちゃごちゃ! メシが冷めちまうだろうが! 早く来い! これだから下等種族は……」
怒鳴り散らしながら、金髪のエルフの少年――ウィンターが大股で工房から出てきた。
「出てくんなウィンター!」
とっさに叫ぶエスタ。
「ウィンター!?」
名前を聞いて、反応するロッド。
「あ、え、違、ウィンナーが焼けたかなぁー!? どうかなあー!?」
「……すみません、お食事中でしたか?」
「そうかもねえー!」
「うるっさいつってんだ! てめえらいい加減に――」
出てきたウィンターの喉に、
「ごふっ」
拳を打ち込むエスタ。そして訪ねてきた人物たちを見て、ウィンターは何か察したらしい。
「あー、お客さん?」
喉をつぶされ、妙にかすれ声になったウィンターは首を傾げた。
「あ、すみません、ちょっとここの前の住民の人に用があっただけで。もう帰ります」
ロッドが言うと、大柄な図体でエスタとウィンターを隠すように前に出るクウバ。優しげな表情である。
「最適な原木はキノコによって違う。山に登ってみればわかるが、生えているキノコはそれぞれ、植わっている木が違うはずだ。食用ならある程度知識があるのだが、どんなキノコだ? 力になれるかもしれん」
「食用といえば食用なんですが、少し特殊なので……」
食用だが特殊……やはりポーションの材料か?
「同じ魔法工房のよしみとして助言させてもらうが……特殊な原木を欲しているのなら、ドリアード族に聞いてみたらどうだ? 最適な原木が見つかるかもしれん」
「ドリアード族、ですか」
「異邦の民であり、樹木が人間化した種族だ。植物に関して造詣が深い。場所を教えるから行ってみたらいい」
「なるほど……ありがとうございます!」
どうやら敵を追い出せるらしい。エスタは安堵したような表情を浮かべた。
「…………」
しかしロッドは思案顔だ。
「あの……『同じ魔法工房のよしみ』って言いましたけど、なんで俺が魔法工房から来たことをご存知なんです? 言いましたっけ?」
「えっ!?」
エスタの心臓が跳ね上がる。やはり殺しておくか? 身構えるエスタとウィンター。
「何を言っている。君だってここを魔法工房とすぐに見抜いたろう。なら同業者なんじゃないかと思ったんだが、違うのか?」
「ああ、そういうことでしたか……お察しの通りです。うちの上司が薬膳に使えるキノコを栽培したいらしくて、それで俺がお使いに」
「なるほど」
「優しいんですけど、たまに無茶ぶりしてくるんですよね……」
薬膳? 少なくとも敵を倒すポーションの開発ではなさそうだ。
クウバはロッドたちにドリアードの集落の場所を教えた。
「……はー、あっぶな」
ロッドたちが立ち去るのを見送ってから、エスタは胸をなでおろした。
「事情はなんとなく察したが、しかし有益そうな情報を教えてよかったのか?」
「薬膳料理を作るらしいから、それほど影響はないだろうよ。それに、懇意にしていれば内情を話してくれるかもしれんぞ」
「ふん……それより、お前らさっき俺のことウィンナーっつったか?」
ウィンターが震える声で言うと、周囲が魔法で凍りついていく。
「言ったのはエスタだ。俺は言っていない」
「言ったかなぁ? 忘れた」
エスタはとぼけた顔で、冷気を避けるため青いカブトムシを懐に寄せた。
「そうだ。いいことを思いついたぞ、ウィンナー」
クウバが考えを説明すると、ウィンターはあからさまに嫌な顔になった。
「今度その名前で呼んでみろ。ぶっ殺すからな」
‡
木こりのホークスさんがいなかったのは予定外だったが、親切な魔法工房の人たちに教えられて、俺は異邦へ行くための準備を済ませた。
目指すはドリアード族の集落。
道はかなり過酷なので、メリアには帰ってもらうことにした。
メリアは最初一緒についていきたがっていたが、調達まで数日かかることをサフィさんに伝言してもらうように頼むと、しぶしぶ別れることを承諾してくれた。
辺境伯領フーリァンを出ようとすると、
「よかった、まだ出発してなかったか」
先ほどの獣人の男に呼び止められた。
「あ、さっきはどうも。おかげさまで、これから出発します」
「いや、すまない。いきなり危険地帯である異邦の中にある集落を紹介するのは、さすがに常識に欠けていた」
獣人の男は律儀に頭を下げた。
「いえ、全然いいんですよ! 行くのは苦ではないので」
「行くなら、せめてこいつを案内人として連れていってほしい」
獣人の男は背後にいたエルフの男を示して言った。
「名前はウィンナー。こいつの案内なら、迷いなく行けるはずだ」
「ああ、先ほどのあれはお名前でしたか」
エルフの男はかなり嫌そうな顔をしているのだが、ついてきてくれるのだろうか。たしかに案内があった方が迷わないし早そうだ。
「見ての通り半グレ気味だが害はない」
「もし案内していただけるのなら助かりますが……」
半グレなんだ。本人が行く気ないなら無理につけてもらわなくてもいいんだけど。
「よろしく頼む……」
エルフの男――ウィンナーさんはかすれた小さな声で言った。乗り気だった。
「少し危険かと思いますが、それも大丈夫でしょうか?」
念のため俺が聞くと、獣人の男はうなずいた。
「平気だ。百年前、魔族と人間が戦った戦争があっただろう。ああいう英雄譚にあこがれているんだ、こいつは」
「そうなんですか……」
俺は少し表情が固まってしまった。すぐに笑顔に戻す。
百年前、辺境伯領に魔族が攻めてきたときの話だ。エレイン・クリムレットやその右腕のディミトリアス・アスカム、それにザイン・ジオールとその弟子のアルフレッド夫妻――五人の英雄を中心に、異邦の向こうから攻めてきた魔族を追い払ったという英雄譚だ。
しかし実際は、禁忌の魔法《神格タキオナの召喚》を使い、魔族との戦いに敗北したという事実を勝利したという偽の歴史に改変した。魔法の発動には生贄が必要で、魔法石の《精神操作》で身体の自由と意志を奪われた魔力の高い者たちが多数犠牲になった。
歴史改変という、世界さえ壊しかねない効果を持った魔法は、現在クリムレット辺境伯の居館の地下に保管されている。羊皮紙に描かれているその魔法陣は真ん中と一部が黒くくすんで破損しており、使うことができない。
魔族は現在、スキアさんを除いてその存在を確認できていない。異邦の奥地『深淵方面』にいるという噂もあるが、真偽はわからない。
「冒険や探索はロマンがあるから好きらしい。危険があるのは承知だ。まったく問題ない」
「わかりました。まあ、モンスターに襲われたら俺が応戦して守りますので……」
俺はそう答えた。この返答を聞いて、ウィンナーさんはさらに俺のことをにらんできたのだが、なんだろう。嫌われるようなことしたかな。
フーリァンを出て、異邦の中を二人で歩く。ウィンナーさんが先行し、俺がそれについていく形だ。
異邦の風景は、巨大な森が無限に続いているように見えて、微妙に違う。
道しるべとなるようなものは、よく見てみればいろいろと目に入ってきた。
腕のように突き出た巨大な岩肌や、剣のようにそびえる一本の赤い針葉樹、巨大モンスターの通り道となった大きな獣道、闇の中で光るワームがうごめく洞窟など……おそらく異邦の民たちも目印にしているであろう特徴的な場所が点在している。
「こっちだ……」
ウィンナーさんは終始嫌そうな顔で俺を案内してくれる。
「なんというか、俺も異邦内の移動に慣れてきたのだろうか……」
良いのか悪いのか、心の余裕が保たれている。まあ数日滞在するくらいなら平気だろう、とか普通に考えるようになっている。
……これ、一人で異邦の中にある宿屋街エクスフロントまでいけるんじゃないか? まとまった休みをもらう必要はあるが、機会があればおねえさんと良いことをしに行ってみてもいいかもしれない。アララドさんと行ったときにくらった出禁が解除されていればだけど。
「大きな湖――あのへんだ」
ウィンナーさんは目印の一つを見つけた。周辺に巨大な樹がないか探してみる。
ここまでは巨大モンスターとの遭遇もほぼなく、順調だった。
ドリアード族は水辺や太陽の当たる場所を好むらしい。そして、集落には精霊の宿った巨木――精霊樹というものがある。見たことはないが他の木と全然違うらしい。
周辺を探してみると、集落はすぐに見つかった。
広場のような場所に、緑色の肌で緑色の髪の毛の子どものような人たちが、日向ぼっこしたり追いかけっこしたりして遊んでいる。みんな男なのか女なのかわからない中性的な見た目をしていた。
「一気になごやかな空間に出たな……」
中心には巨木が一本あり、ほのかに光を発していて、そこだけが妙に荘厳だった。
これがおそらく精霊が宿っている大樹――精霊樹だろう。大きいが、異邦によくある巨木と比べると、思ったより大きさに差がなかった。
自然を愛する者たちの聖域のように感じられる光景。
……これ、俺みたいなただの人間が勝手に入っていいところかな?
「ここまで来ればいいだろう。俺は戻る――」
ウィンナーさんがさっさと別れようとしたとき、ドリアード族の一人が俺たちを見つけて駆け寄ってきた。
「わー、『外』の人?」
中性的で子どものような見た目を持つそのドリアードは、好奇心旺盛な瞳で俺を見上げた。
異邦の民たちは、異邦や異邦周辺以外の場所のことを『外』と表現することがある。
俺はうなずいた。
「あ、はい。辺境伯領フーリァンから来ました。サフィール魔法工房のロッド・アーヴェリスといいます」
子どものようだが、見た目では判断できないので丁寧に名乗った。
「……ウィンナー」
ウィンナーさんが不機嫌そうに答える。すごく帰りたそうだ。
「魔法工房のロッド!」
「ウィンナー! ……それ名前?」
ドリアードが叫ぶと、他のドリアード族たちが次々に集まってくる。
「『外』からのお客さん!」
「こっち来なよ! 一緒に日向ぼっこする?」
ドリアード族は水と太陽の光さえあればとりあえずは死なないらしく、よく日向ぼっこをする。
そして精霊樹がモンスター除けになっているらしい。
平和的でのんびりとした種族で、俺は安心した。すごい戦闘民族みたいなのが出てきたらどうしようかと思った。
「えっと、じつは珍しいキノコを育てたくて、原木を探しに来ました」
「こんなところまで!?」
「無駄じゃない?」
「あきらめた方が楽なときってあるよ?」
ぐうの音も出ねえ。でも俺もキノコの栽培に興味があるし、ぜひ育ててみたい。俺は食い下がる。
「ラルトリア・トロンボーン茸っていう外国産のキノコなんですが」
言いながら、俺はサフィさんから借りてきた種駒をドリアードたちに見せた。
「知ってる?」
「知らなーい」
「貸して」
ドリアードの一人が、種駒をじっと観察しながら、
「どういうキノコかによって、最適な木も違ってくると思うけど……適した木がこの辺にあるかどうかはわかんないよ。何に使うの?」
「薬膳料理です」
「おくすり!?」
「そうですね。魔法薬術師なので」
「魔法薬術師!」
わー! わー! わー!
珍しい物を見て喜んでいるような感じでもてはやされた。
なんだろう、とても和む。
「ならさ、異邦の薬草とか興味ある?」
「それはとてもあります!」
「教えてあげる! この辺に生えてるやつで、いつも怪我とか風邪とかに使ってるやつ!」
「本当ですか!?」
「みんな詳しいよ」
思わぬ収穫だった。
異邦はいまだに謎が多く、モンスターの生態や植物なども解明されていない部分が多い。
俺のポーションの改良に使える薬草があるかもしれない。
案内してくれるドリアードに手を引かれたとき、
「――やあ、久しぶり、ドリアードさんたち」
後ろから来客があった。
黒い髪の人間の男だった。俺よりも一回り以上年を取っている。
微笑すると、生えている無精ひげが歪んだように吊り上がった。
ドリアード族はあまり人間と接することがないと聞いていたが……偶然来訪が重なったのだろうか。
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