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2巻
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‡
そんなこんなで精霊をあらかじめ下着に擬態させて、オズにほかの洗濯物と一緒に干してもらった。
触れれば電撃がバチン、だ。
俺たちの魔法が曲がっていたのは、変態が《重力》の魔法を使っていたからだ。魔法を使っていないときは、攻撃は有効だということである。
たとえば犯行に及ぶ瞬間、盗む対象に対して魔法を使うことなんてあるまい。絶対に手で触れなければならないだろう。つけ入る隙は、そこしかないと思っていた。
俺たちが変態のもとまでたどり着く。隠れていたオズにも出てきてもらった。
変態は黒焦げになって倒れている。アララドさんは、傍らに落ちていた魔法石つきの懐中時計を拾い上げた。
「本当、迷惑で不埒な男ですわね! 最低!」
オズは黒焦げの男に吐き捨てた。
「この嬢ちゃんが少女怪盗オジサンと同じ魔法を使えるのには驚いたが……しかし新品でおびき出せなかったのに精霊でおびき出せたのはなんでだ?」
そういえばアララドさんはオズの正体を知らないんだった。アララドさんに質問されて、俺は答えた。
「犯人は下着を干すところから品定めをしていたのではないかと思ったんです。だから、新品だからというよりも、アララドさんが自ら仕掛けた罠だから、引っかからなかった。いや、俺は下着泥棒ではないので、行動原理とかに関して確証はないですけど」
もし犯人が生活の様子まで観察していたのだとするなら、アララドさんが女の子のパンツを干しているのを見たら警戒するだろう。
だからこそ、今回はオズ本人に洗濯物を干してもらったのだ。
「なるほど……いきなり連れてこられて下着泥棒を捕まえるとか言われても、戸惑いしかなかったですが」
「無理させてごめんね、オズ」
「いえ、その、お役に立てたならよかったですわ……」
貴族や役人の不正を許さないのが少女怪盗オジサンのモットーなので、この変態は不埒な貴族ということでオズ向けではあった。
「あの電撃はやべえからな。マジで」
「そういや食らったことあるんですよね、アララドさん。たしかにあれはやばい」
俺もやられたときは手加減されたとはいえ、死ぬかと思ったからな。防御も貫通するし、ほぼ一撃必殺である。
「見事だ……」
黒焦げになって倒れている方向から、耳に心地よい低い声が聞こえてきた。
すげえ、まだ意識保ってる。死なない程度の電撃だったとはいえ、かなりのダメージを負っているはずなのだが。
「パンツ男爵、お前……」
アララドさんは驚きを隠せない。けど何そのあだ名。
「がはっ!」
変態はにわかに体を押さえると、口から血を吐き出した。
「大丈夫か!? 今手当を……」
俺が慌てて言うと、変態は否定する。
「いや、違う。電撃のダメージではない。これは、副作用である」
「副作用?」
魔法石を使った際の副作用ってことか?
「お前、まさか……」
「ああ、使うたびに、寿命が縮んでいる」
「!」
「吾輩の魔法《重力》は、強力すぎて人間には扱いきれない。使えば体にかかる負荷は計り知れず、ゆえにその命を縮めることになる」
「…………」
スウゥゥゥーーーっ。俺は深呼吸する。
寿命縮めて規格外の力を使ってまでしたことが下着泥棒ってお前……
世界征服しろよ、そこまで強いなら。なんでパンツ盗んでんだ。リスクとリターン合わなすぎだろ。
「お前みたいな馬鹿な男は初めて見たよ……」
俺は収納の魔法石からポーションを取り出して、変態に渡した。
「これは?」
「ポーションだ。飲んでくれ。縮んだ寿命は元に戻らないだろうけど、今日受けた傷くらいは回復できる」
「なんと……敵である私に施しを。恩に着る」
もっとひどい悪事に使わないというのは、まあ救いではある。
彼には生きて罪を償ってほしいものである。
「一つ聞いていいか、我が友よ……」
「それ俺のこと?」
「友よ、吾輩は、ちゃんと変態を全うできたかな」
「ああ、あんたは変態だよ。とんでもないド変態だ」
「よかった……」
なにこれ。そもそも友じゃねえ。
「ま、まあ、あんたがいてくれて良かったとは思うよ。本当に」
悪意のあるほかのやつがこの魔法石を使ってたら、今頃大変なことになっていただろうしな。世界が。女の子のパンツに危機が生じただけで済んだのはある意味僥倖だ。
いや、良くはないな。何が良くて何が悪いのか、よくわからなくなってきた。
「もういい?」
サフィさんたちも出てきて言う。
「あ、はい。どうぞ」
俺はあっさりと変態を引き渡した。
第二章 最上級を超えろ!
キノコと根菜でスープを作る。味付けはわずかな塩だけで、あとはキノコと野菜の出汁に任せる。
「…………」
味見で一口。うまい。具材の旨味が味を引き立てている。食べ物がおいしいのは、辺境伯領の良いところの一つだ。
「ロッドくん、お昼ごはんまだー?」
「余はおかわり百杯食うぞ! さあメシを出せ後輩!」
サフィさんもスキアさんも空腹すぎてテーブルの上でぐでぐでになっている。
「今できましたよ。百杯おかわりできるほどないですが」
つくづく思うのだが、この人たち、俺と出会う前はどうやって生きていたんだろう。果物でもかじって飢えをしのいでいたのだろうか。
「なんかぼくらのこと、かわいそうな目で見てない?」
「気のせいじゃないですかね……?」
察知されそうなので俺は顔をそらすことにする。
「やあ、サフィちゃんいるかい? ……おいしそうなにおいだね」
スープを鍋ごとテーブルに置くと、ノックとともに入ってきた人物がいた。
その人物を見て、俺は立ち上がって背筋を正す。腰につけた短剣が、ベルトの留め具とこすれて金属音が鳴った。すらっとしたシルエットが流れるように近づいてきて、できたスープを見下ろしながらご機嫌そうに髭をなでている。
クリムレット卿だった。
「あ、普段通りでいいよ、ロッドくん。おかまいなく。私も食べていっていいかい?」
俺は慌ててうなずいた。
「ク、クリムレット卿のお口に合うかどうかはわかりませんが!」
「そんなかしこまらなくてもいいよ」
と、クリムレット卿ではなくサフィさんが言った。いや、かしこまるわ。領主様だぞ。
それから俺たちはクリムレット卿を交えて、食事をすることになった。
「クリムレット、お前お昼の時間を見計らって来たな!? 余のスープを取るんじゃない!」
スキアさんもこのうえなく不届きなことを言うが、クリムレット卿はニコニコである。
「ばれた? 前々からロッドくんの料理の手並みが気になっていてね。いや、おいしいよ。ロッドくん、うちの厨房に来る?」
「うちの魔法薬術師を料理人としてスカウトしないでくれる?」
いつもこんなノリなのか。緊張しているのは俺だけである。
二人とも領主にため口なんですが……いや、俺も領主の娘にため口だからなんとも言えないけど。
「で、今日はどんな無茶振りをしに来たの?」
いきなりサフィさんが本題に入る。
「……二か月ほど先になるんだけど、大規模なイベントを開く予定でね」
クリムレット卿が変わらぬ笑顔で答えた。
「それ関連か!」
スキアさんが反応する。
「『マジッククラフト・マーケット』――というのを聞いたことがあるかい? 王国内で毎年開催されているんだけど」
「マジッククラフト・マーケット……話だけは」
ファムサン王国所領内で毎年場所を変え、定期的に開催しているイベントだ。魔法使いがオリジナルの魔法道具を作って、そのイベントで発表したり売り込んだりするのだ。
一般の人もお金を出せば買うことができる。ときには売り手に対して、金持ちがスポンサーになってくれることだってあるのだとか。
かなり大規模なイベントで、参加者は売る側買う側ともに相当な数に上る。……俺は一度も行ったことはなかったが。
「ようは魔法道具の大規模な販売会だね。今年はうちが主催なんだけど」
「そうなんですか」
しかし良いのだろうか。
王都と辺境がオークに襲われた事件はまだ記憶に新しい。俺個人はあの出来事によって得たものもあったが、王都はまだ復興しているとは言えない。
この国にそんなことをしている余裕はあるのか?
「無知ですみませんが、この状況で開催できるんですか?」
「王都が襲撃される前から計画していたことだからね。今さら、中止なんてできない。マジッククラフト・マーケットは伝統的なイベントだ。王国外からも参加客が大勢やってくる。利益のためだ」
「王都はまだオーク襲撃から立ち直っていない……だからこそ」
「そう、だからこそ、金の力が必要だ」
出店は、個人での参加のほかに、領主や領主お抱えの貴族や魔法工房からも参加がある。公式ブースというやつだ。
売り手は、個人での参加であれば主催者に出店料を支払う。
出店料以外に売り手からお金はもらわないが、他国からの参加者も多いので、観光分野の刺激にもなる。
このイベント絡みで出た利益を王都復興に回す計画らしい。
「うちの臣下たちも多数出店する予定なんだ。そこで何か目玉がほしくてね」
「目玉、ですか」
「そう」
クリムレット卿はうなずいた。
「サフィちゃんたちには、裏方として何か人目を引くような出し物を考えてほしいんだ」
サフィさんもスキアさんもげんなりした顔になる。あからさまに面倒そうだ。
「『エルフ焼き』とかそういう、エルフ族がパンケーキみたいなの焼くとかじゃだめですか」
「それはそれで面白そうだけどねぇ。サフィール魔法工房ならではのものがいいね」
となると、ポーション関連だろうか。
「そこで提案だが、普段納品してもらっているポーションの改良版を作るというのはどうだろう?」
「いや、むちゃだよ。ぼくたち毎回一番いい品質のものを作ってるんだよ?」
俺たちが納品しているのは、品質を測定する鑑定器でいつも最上級の判定が出ているものだ。最上級品質は、最高評価ゆえにそれ以上いいものは作れない。
だというのに……それを改良しろとクリムレット卿は言った。
「最上級品質をさらに改良したポーション――その試飲なんて、けっこうな目玉になると思わないか? なんかいい感じのやつ頼むよ」
「ざっくりしてるなぁ……」
軽い口調でとんでもないハードルを設定したクリムレット卿は、爽やかな笑顔のまま、
「ごちそうさま。おいしかったよ。大満足だ。じゃ、よろしく」
満足して帰っていった。
「よろしくじゃないんだよなあ」
サフィさんは閉口。
「余はポーションの専門家じゃないからこの件はパスだ。エルフ焼きのレシピでも考えていたほうがマシだな」
スキアさんは早々に匙を投げた。
実際、何をどうすればいいのか俺もわかりかねていた。現状の最上級品質を出すだけでは不十分なのだろうか。そして、最上級の品質を超えるものなど、作れるのだろうか。
それこそ俺が子どものころに思い描いた、あらゆる病気や怪我を治し、体を強靭に保つ『万能薬』が開発できればいいのだが……二か月で俺の夢物語が実現できたら苦労しない。
どうにも、解決の糸口が見えない。
「お困りのようだね」
「うわあ! びっくりした!」
頭をひねっていたら、いきなりここにはいないはずの人物の声が聞こえてきて、俺はとび上がる。
サフィさんの兄でエルフの長、ウェルトランさんがいつの間にか背後に立っていたのだった。
「私はエルフ族のウェルトラン・ガルニック・ウィンザルド・ユグドラシル。普段はそのへんをフラフラ遊び歩いている。フラフラ遊び歩くためなら知り合いの建物へも不法侵入する構えだ」
その自己紹介、毎回するつもりか?
「また来たのか」
サフィさんは身構える。
「事情は聞かせてもらったよ。お困りのようだからね。少しアドバイスをしてあげようと思って」
「アドバイス、ですか?」
いつの間に話を聞いていたんだ。神出鬼没すぎるぞ、この人。
「何ゆえクリムレット卿は現状の品質のものでなく、改良版を作れと命じたのかよく考えるんだよ」
「ただの気まぐれじゃないのか?」
スキアさんが答えたけど、クリムレット卿はそんな思いつきで俺たちに無茶な指示を出すような人物ではない。少なくとも俺はそう思う。
「もしかして、今のポーションにはまだ改良の余地があるとクリムレット卿は考えているからですか……?」
考えながら言うと、
「おしいね」
ウェルトランさんは答えた。
「一言で言うと、物足りないんだよ」
「……は?」
頬杖をついて気を抜いていたサフィさんは、一転ウェルトランさんを睨みつけた。
「聞こえなかったかい? 今のままでは物足りないって言ったんだ。自分で使ってみて、そう思わないのかい?」
「…………」
サフィさんは無言で自分の作っていたポーションを飲み干す。
「何も問題はない」
「今のままが最高到達点。そんな考えじゃ、到底改良なんてできっこないよ。今からでもクリムレット卿に指示を取り消してもらうよう頼みに行くんだね」
ウェルトランさんはなおも挑発する。この人、もしかして俺たちを奮い立たせるためにあえて挑発的なことを言っているのだろうか。
「……研究者舐めるなよ、ゴミトラン」
サフィさんは飲み干した魔力回復ポーションのビンを勢いよくテーブルに置いて言った。
「ウェルトランだよ。つらいな、あだ名で呼ばれるのは」
誇り高い種族であるエルフは、略称やあだ名を嫌う。サフィさんは気にならないようだけど。
「絶対改良してやる」
「改良なんて絶対できっこない。賭けてもいいね」
「へえ?」
「もし改良できたら、私は転売屋をやめてもいい」
ウェルトランさんは普段、安価で仕入れたものを貴族に高値で売りつけているらしい。
「個人的に今年のマジッククラフト・マーケットにも出店しようと思っているが、それもあきらめよう」
「悪質な転売はそもそもやめたほうがいいんじゃなかろうかと思いますが」
俺の言葉をスルーして、ウェルトランさんは続ける。
「しかしもしできなかったら、私に君たちのポーションを特別価格で卸してもらうよ」
なんか本音が出てきた。ウェルトランさんの狙いはこれか。まだ俺たちのポーションを売ってもらうことをあきらめていなかったらしい。
完全に乗せられてるんだけど、
「もう撤回するなよ。お前の商売つぶしてやる」
「やってみせてくれ。できないだろうけど」
「やってみせます!」
俺はサフィさんの横で断言した。
もともとそんな賭けがなくても、俺の胸には火がついていた。
最上級のさらに上の品質。もしできる可能性があるのなら、黙ってはいられない。間違いなく、万能薬を作るという俺の夢への一歩になるはずだ。
俺は燃えたぎるような熱がわき上がってくるのを感じた。
‡
ウェルトランさんが去ったあと、俺たちは改良型ポーションを作るため――山登りをすることになった。
「いや、なんで山に!?」
山の中を歩きながら、俺は言った。同じように歩いていたメリアが笑う。
「みんなでお出かけするの楽しいです!」
むしろ辺境伯のご令嬢がよくこの山登りについてきたなと思ったが、木登りして落ちて足の骨を折るほど彼女はワイルドだったことを思い出した。
「よい魔法薬を作るためにはよい材料と道具が必須だ。触媒で使う魔法石をクソいいものにする」
ポーションを作るには触媒となる魔法石と、水、薬草類の調合、それに魔力が必要だ。
調合する薬草の種類によって、魔力が回復したり傷が治ったりする。
魔法の効果をもたらすものもあるので、ざっくり魔法薬とも呼ばれている。
触媒として使われる魔法石の質はピンキリで、質のいいものほど良い魔法薬になりやすい。
質は鑑定器があれば鑑定可能だ。
そして、魔法石のもとになっている魔石は、モンスターの身体の一部分。倒して採取するのが一般的だった。
「モンスターを倒しに行くということですか?」
「いや、そうじゃない。いい魔法石をもらいに行く」
「もらいに?」
「うん。知り合いに山籠もりしてる仙人がいるんだけど、そいつが趣味で作ってる魔法石をもらう」
「えっと、仙人……趣味で……え?」
ああ仙人ねハイハイ、ってならないだろ。
何? 仙人って。
「会ってみればわかるけど、人間の魔法使いだよ」
「人間なんですか」
「そう――かつて『賢者』とか『稀代の大魔法使い』と言われていた人間」
「そんな人が」
聞いたことないけど……辺境の英雄なのかな。
「まあ、ざっくり百年くらい前の話だから、近所のおじいちゃんおばあちゃんなら知ってる人は稀にいるかもしれない。ロッドくんは知らないのも無理ないよ」
「そのころに有名だった大魔法使いですか」
そういやこの人、命の長さに定評があるエルフ族だった。
話題の時間軸がすごい長めだよな。
そうこうしているうちに山の頂上についた。
そこには木々に隠れるように、簡素な小屋と庭のようなところと焚き火跡があった。
「ついたよ」
意外に普通に生活してるのかな。
というか、百年前ですでに賢者と呼ばれていたんなら、実年齢はもっと高齢ということだよな。
よぼよぼのおじいさんとかだろうか。
「作戦はこうだ」
とサフィさんは収納の魔法石から酒ビンを取り出しながら言った。
「作戦いるんですか」
「やつを酒で酔いつぶしたところを盗みに入る」
「けっこうガチなやつじゃないですか!」
むしろ普通にそのお酒と交換でよくない?
「冗談だよ。普通に酒と引き換えに交渉する」
「それはよかった」
「だが、いざとなれば……ためらわないように」
何?
殺すの?
「――聞こえているぞサフィール」
突然、野太い男の声がした。
「!」
声のしたほうに目を向けると、そこにはアララドさんに負けないほど筋骨隆々なおじいさんがいた。
頭の白髪は長く、髭は伸ばし放題。
上半身裸で腰に布を巻いているだけなんだが、その体には無数の傷跡が刻まれている。
俺よりでかい長身に、ただ者じゃなさすぎるオーラ。
「人? 握りつぶせますよ」と、やすやすと言えるくらいのたくましい肉体を持つおじいさんだった。
しかも小屋を囲む木の枝の上に、直立していた。
「あれだよ」
サフィさんがおじいさんを指差して言った。
「う、うわああああああ!」
賢者……大魔法使い……よぼよぼ……あれ!?
そんな言葉からは何一つイメージできない姿なんですが!
ムキムキだし賢者というより武術の老師じゃん。
「――我に何用か」
おじいさんは静かに俺たちに問う。
サフィさんは臆さず答える。
「お酒やるから魔法石くれよ」
「笑止!」
おじいさんは家より高い位置の木の枝から飛び下りると、軽やかに地面に着地した。
「上がれ」
そして家のドアを開けてくれる。
「いい感じだよ、ロッドくん!」
「あの反応で!?」
笑止! って言ってたじゃん。
「ツンデレなんだよ。老人だから頭固いんだ」
「すみませんが、もっと混乱するような情報を増やすのやめてください」
この人が魔法石を作っているという老師……いや、かつて賢者と呼ばれていた大魔法使い。
いや、家の中に入ってみればわかるよな。
俺たちはおじいさんに促されるまま、小屋の中へ入っていった。
そんなこんなで精霊をあらかじめ下着に擬態させて、オズにほかの洗濯物と一緒に干してもらった。
触れれば電撃がバチン、だ。
俺たちの魔法が曲がっていたのは、変態が《重力》の魔法を使っていたからだ。魔法を使っていないときは、攻撃は有効だということである。
たとえば犯行に及ぶ瞬間、盗む対象に対して魔法を使うことなんてあるまい。絶対に手で触れなければならないだろう。つけ入る隙は、そこしかないと思っていた。
俺たちが変態のもとまでたどり着く。隠れていたオズにも出てきてもらった。
変態は黒焦げになって倒れている。アララドさんは、傍らに落ちていた魔法石つきの懐中時計を拾い上げた。
「本当、迷惑で不埒な男ですわね! 最低!」
オズは黒焦げの男に吐き捨てた。
「この嬢ちゃんが少女怪盗オジサンと同じ魔法を使えるのには驚いたが……しかし新品でおびき出せなかったのに精霊でおびき出せたのはなんでだ?」
そういえばアララドさんはオズの正体を知らないんだった。アララドさんに質問されて、俺は答えた。
「犯人は下着を干すところから品定めをしていたのではないかと思ったんです。だから、新品だからというよりも、アララドさんが自ら仕掛けた罠だから、引っかからなかった。いや、俺は下着泥棒ではないので、行動原理とかに関して確証はないですけど」
もし犯人が生活の様子まで観察していたのだとするなら、アララドさんが女の子のパンツを干しているのを見たら警戒するだろう。
だからこそ、今回はオズ本人に洗濯物を干してもらったのだ。
「なるほど……いきなり連れてこられて下着泥棒を捕まえるとか言われても、戸惑いしかなかったですが」
「無理させてごめんね、オズ」
「いえ、その、お役に立てたならよかったですわ……」
貴族や役人の不正を許さないのが少女怪盗オジサンのモットーなので、この変態は不埒な貴族ということでオズ向けではあった。
「あの電撃はやべえからな。マジで」
「そういや食らったことあるんですよね、アララドさん。たしかにあれはやばい」
俺もやられたときは手加減されたとはいえ、死ぬかと思ったからな。防御も貫通するし、ほぼ一撃必殺である。
「見事だ……」
黒焦げになって倒れている方向から、耳に心地よい低い声が聞こえてきた。
すげえ、まだ意識保ってる。死なない程度の電撃だったとはいえ、かなりのダメージを負っているはずなのだが。
「パンツ男爵、お前……」
アララドさんは驚きを隠せない。けど何そのあだ名。
「がはっ!」
変態はにわかに体を押さえると、口から血を吐き出した。
「大丈夫か!? 今手当を……」
俺が慌てて言うと、変態は否定する。
「いや、違う。電撃のダメージではない。これは、副作用である」
「副作用?」
魔法石を使った際の副作用ってことか?
「お前、まさか……」
「ああ、使うたびに、寿命が縮んでいる」
「!」
「吾輩の魔法《重力》は、強力すぎて人間には扱いきれない。使えば体にかかる負荷は計り知れず、ゆえにその命を縮めることになる」
「…………」
スウゥゥゥーーーっ。俺は深呼吸する。
寿命縮めて規格外の力を使ってまでしたことが下着泥棒ってお前……
世界征服しろよ、そこまで強いなら。なんでパンツ盗んでんだ。リスクとリターン合わなすぎだろ。
「お前みたいな馬鹿な男は初めて見たよ……」
俺は収納の魔法石からポーションを取り出して、変態に渡した。
「これは?」
「ポーションだ。飲んでくれ。縮んだ寿命は元に戻らないだろうけど、今日受けた傷くらいは回復できる」
「なんと……敵である私に施しを。恩に着る」
もっとひどい悪事に使わないというのは、まあ救いではある。
彼には生きて罪を償ってほしいものである。
「一つ聞いていいか、我が友よ……」
「それ俺のこと?」
「友よ、吾輩は、ちゃんと変態を全うできたかな」
「ああ、あんたは変態だよ。とんでもないド変態だ」
「よかった……」
なにこれ。そもそも友じゃねえ。
「ま、まあ、あんたがいてくれて良かったとは思うよ。本当に」
悪意のあるほかのやつがこの魔法石を使ってたら、今頃大変なことになっていただろうしな。世界が。女の子のパンツに危機が生じただけで済んだのはある意味僥倖だ。
いや、良くはないな。何が良くて何が悪いのか、よくわからなくなってきた。
「もういい?」
サフィさんたちも出てきて言う。
「あ、はい。どうぞ」
俺はあっさりと変態を引き渡した。
第二章 最上級を超えろ!
キノコと根菜でスープを作る。味付けはわずかな塩だけで、あとはキノコと野菜の出汁に任せる。
「…………」
味見で一口。うまい。具材の旨味が味を引き立てている。食べ物がおいしいのは、辺境伯領の良いところの一つだ。
「ロッドくん、お昼ごはんまだー?」
「余はおかわり百杯食うぞ! さあメシを出せ後輩!」
サフィさんもスキアさんも空腹すぎてテーブルの上でぐでぐでになっている。
「今できましたよ。百杯おかわりできるほどないですが」
つくづく思うのだが、この人たち、俺と出会う前はどうやって生きていたんだろう。果物でもかじって飢えをしのいでいたのだろうか。
「なんかぼくらのこと、かわいそうな目で見てない?」
「気のせいじゃないですかね……?」
察知されそうなので俺は顔をそらすことにする。
「やあ、サフィちゃんいるかい? ……おいしそうなにおいだね」
スープを鍋ごとテーブルに置くと、ノックとともに入ってきた人物がいた。
その人物を見て、俺は立ち上がって背筋を正す。腰につけた短剣が、ベルトの留め具とこすれて金属音が鳴った。すらっとしたシルエットが流れるように近づいてきて、できたスープを見下ろしながらご機嫌そうに髭をなでている。
クリムレット卿だった。
「あ、普段通りでいいよ、ロッドくん。おかまいなく。私も食べていっていいかい?」
俺は慌ててうなずいた。
「ク、クリムレット卿のお口に合うかどうかはわかりませんが!」
「そんなかしこまらなくてもいいよ」
と、クリムレット卿ではなくサフィさんが言った。いや、かしこまるわ。領主様だぞ。
それから俺たちはクリムレット卿を交えて、食事をすることになった。
「クリムレット、お前お昼の時間を見計らって来たな!? 余のスープを取るんじゃない!」
スキアさんもこのうえなく不届きなことを言うが、クリムレット卿はニコニコである。
「ばれた? 前々からロッドくんの料理の手並みが気になっていてね。いや、おいしいよ。ロッドくん、うちの厨房に来る?」
「うちの魔法薬術師を料理人としてスカウトしないでくれる?」
いつもこんなノリなのか。緊張しているのは俺だけである。
二人とも領主にため口なんですが……いや、俺も領主の娘にため口だからなんとも言えないけど。
「で、今日はどんな無茶振りをしに来たの?」
いきなりサフィさんが本題に入る。
「……二か月ほど先になるんだけど、大規模なイベントを開く予定でね」
クリムレット卿が変わらぬ笑顔で答えた。
「それ関連か!」
スキアさんが反応する。
「『マジッククラフト・マーケット』――というのを聞いたことがあるかい? 王国内で毎年開催されているんだけど」
「マジッククラフト・マーケット……話だけは」
ファムサン王国所領内で毎年場所を変え、定期的に開催しているイベントだ。魔法使いがオリジナルの魔法道具を作って、そのイベントで発表したり売り込んだりするのだ。
一般の人もお金を出せば買うことができる。ときには売り手に対して、金持ちがスポンサーになってくれることだってあるのだとか。
かなり大規模なイベントで、参加者は売る側買う側ともに相当な数に上る。……俺は一度も行ったことはなかったが。
「ようは魔法道具の大規模な販売会だね。今年はうちが主催なんだけど」
「そうなんですか」
しかし良いのだろうか。
王都と辺境がオークに襲われた事件はまだ記憶に新しい。俺個人はあの出来事によって得たものもあったが、王都はまだ復興しているとは言えない。
この国にそんなことをしている余裕はあるのか?
「無知ですみませんが、この状況で開催できるんですか?」
「王都が襲撃される前から計画していたことだからね。今さら、中止なんてできない。マジッククラフト・マーケットは伝統的なイベントだ。王国外からも参加客が大勢やってくる。利益のためだ」
「王都はまだオーク襲撃から立ち直っていない……だからこそ」
「そう、だからこそ、金の力が必要だ」
出店は、個人での参加のほかに、領主や領主お抱えの貴族や魔法工房からも参加がある。公式ブースというやつだ。
売り手は、個人での参加であれば主催者に出店料を支払う。
出店料以外に売り手からお金はもらわないが、他国からの参加者も多いので、観光分野の刺激にもなる。
このイベント絡みで出た利益を王都復興に回す計画らしい。
「うちの臣下たちも多数出店する予定なんだ。そこで何か目玉がほしくてね」
「目玉、ですか」
「そう」
クリムレット卿はうなずいた。
「サフィちゃんたちには、裏方として何か人目を引くような出し物を考えてほしいんだ」
サフィさんもスキアさんもげんなりした顔になる。あからさまに面倒そうだ。
「『エルフ焼き』とかそういう、エルフ族がパンケーキみたいなの焼くとかじゃだめですか」
「それはそれで面白そうだけどねぇ。サフィール魔法工房ならではのものがいいね」
となると、ポーション関連だろうか。
「そこで提案だが、普段納品してもらっているポーションの改良版を作るというのはどうだろう?」
「いや、むちゃだよ。ぼくたち毎回一番いい品質のものを作ってるんだよ?」
俺たちが納品しているのは、品質を測定する鑑定器でいつも最上級の判定が出ているものだ。最上級品質は、最高評価ゆえにそれ以上いいものは作れない。
だというのに……それを改良しろとクリムレット卿は言った。
「最上級品質をさらに改良したポーション――その試飲なんて、けっこうな目玉になると思わないか? なんかいい感じのやつ頼むよ」
「ざっくりしてるなぁ……」
軽い口調でとんでもないハードルを設定したクリムレット卿は、爽やかな笑顔のまま、
「ごちそうさま。おいしかったよ。大満足だ。じゃ、よろしく」
満足して帰っていった。
「よろしくじゃないんだよなあ」
サフィさんは閉口。
「余はポーションの専門家じゃないからこの件はパスだ。エルフ焼きのレシピでも考えていたほうがマシだな」
スキアさんは早々に匙を投げた。
実際、何をどうすればいいのか俺もわかりかねていた。現状の最上級品質を出すだけでは不十分なのだろうか。そして、最上級の品質を超えるものなど、作れるのだろうか。
それこそ俺が子どものころに思い描いた、あらゆる病気や怪我を治し、体を強靭に保つ『万能薬』が開発できればいいのだが……二か月で俺の夢物語が実現できたら苦労しない。
どうにも、解決の糸口が見えない。
「お困りのようだね」
「うわあ! びっくりした!」
頭をひねっていたら、いきなりここにはいないはずの人物の声が聞こえてきて、俺はとび上がる。
サフィさんの兄でエルフの長、ウェルトランさんがいつの間にか背後に立っていたのだった。
「私はエルフ族のウェルトラン・ガルニック・ウィンザルド・ユグドラシル。普段はそのへんをフラフラ遊び歩いている。フラフラ遊び歩くためなら知り合いの建物へも不法侵入する構えだ」
その自己紹介、毎回するつもりか?
「また来たのか」
サフィさんは身構える。
「事情は聞かせてもらったよ。お困りのようだからね。少しアドバイスをしてあげようと思って」
「アドバイス、ですか?」
いつの間に話を聞いていたんだ。神出鬼没すぎるぞ、この人。
「何ゆえクリムレット卿は現状の品質のものでなく、改良版を作れと命じたのかよく考えるんだよ」
「ただの気まぐれじゃないのか?」
スキアさんが答えたけど、クリムレット卿はそんな思いつきで俺たちに無茶な指示を出すような人物ではない。少なくとも俺はそう思う。
「もしかして、今のポーションにはまだ改良の余地があるとクリムレット卿は考えているからですか……?」
考えながら言うと、
「おしいね」
ウェルトランさんは答えた。
「一言で言うと、物足りないんだよ」
「……は?」
頬杖をついて気を抜いていたサフィさんは、一転ウェルトランさんを睨みつけた。
「聞こえなかったかい? 今のままでは物足りないって言ったんだ。自分で使ってみて、そう思わないのかい?」
「…………」
サフィさんは無言で自分の作っていたポーションを飲み干す。
「何も問題はない」
「今のままが最高到達点。そんな考えじゃ、到底改良なんてできっこないよ。今からでもクリムレット卿に指示を取り消してもらうよう頼みに行くんだね」
ウェルトランさんはなおも挑発する。この人、もしかして俺たちを奮い立たせるためにあえて挑発的なことを言っているのだろうか。
「……研究者舐めるなよ、ゴミトラン」
サフィさんは飲み干した魔力回復ポーションのビンを勢いよくテーブルに置いて言った。
「ウェルトランだよ。つらいな、あだ名で呼ばれるのは」
誇り高い種族であるエルフは、略称やあだ名を嫌う。サフィさんは気にならないようだけど。
「絶対改良してやる」
「改良なんて絶対できっこない。賭けてもいいね」
「へえ?」
「もし改良できたら、私は転売屋をやめてもいい」
ウェルトランさんは普段、安価で仕入れたものを貴族に高値で売りつけているらしい。
「個人的に今年のマジッククラフト・マーケットにも出店しようと思っているが、それもあきらめよう」
「悪質な転売はそもそもやめたほうがいいんじゃなかろうかと思いますが」
俺の言葉をスルーして、ウェルトランさんは続ける。
「しかしもしできなかったら、私に君たちのポーションを特別価格で卸してもらうよ」
なんか本音が出てきた。ウェルトランさんの狙いはこれか。まだ俺たちのポーションを売ってもらうことをあきらめていなかったらしい。
完全に乗せられてるんだけど、
「もう撤回するなよ。お前の商売つぶしてやる」
「やってみせてくれ。できないだろうけど」
「やってみせます!」
俺はサフィさんの横で断言した。
もともとそんな賭けがなくても、俺の胸には火がついていた。
最上級のさらに上の品質。もしできる可能性があるのなら、黙ってはいられない。間違いなく、万能薬を作るという俺の夢への一歩になるはずだ。
俺は燃えたぎるような熱がわき上がってくるのを感じた。
‡
ウェルトランさんが去ったあと、俺たちは改良型ポーションを作るため――山登りをすることになった。
「いや、なんで山に!?」
山の中を歩きながら、俺は言った。同じように歩いていたメリアが笑う。
「みんなでお出かけするの楽しいです!」
むしろ辺境伯のご令嬢がよくこの山登りについてきたなと思ったが、木登りして落ちて足の骨を折るほど彼女はワイルドだったことを思い出した。
「よい魔法薬を作るためにはよい材料と道具が必須だ。触媒で使う魔法石をクソいいものにする」
ポーションを作るには触媒となる魔法石と、水、薬草類の調合、それに魔力が必要だ。
調合する薬草の種類によって、魔力が回復したり傷が治ったりする。
魔法の効果をもたらすものもあるので、ざっくり魔法薬とも呼ばれている。
触媒として使われる魔法石の質はピンキリで、質のいいものほど良い魔法薬になりやすい。
質は鑑定器があれば鑑定可能だ。
そして、魔法石のもとになっている魔石は、モンスターの身体の一部分。倒して採取するのが一般的だった。
「モンスターを倒しに行くということですか?」
「いや、そうじゃない。いい魔法石をもらいに行く」
「もらいに?」
「うん。知り合いに山籠もりしてる仙人がいるんだけど、そいつが趣味で作ってる魔法石をもらう」
「えっと、仙人……趣味で……え?」
ああ仙人ねハイハイ、ってならないだろ。
何? 仙人って。
「会ってみればわかるけど、人間の魔法使いだよ」
「人間なんですか」
「そう――かつて『賢者』とか『稀代の大魔法使い』と言われていた人間」
「そんな人が」
聞いたことないけど……辺境の英雄なのかな。
「まあ、ざっくり百年くらい前の話だから、近所のおじいちゃんおばあちゃんなら知ってる人は稀にいるかもしれない。ロッドくんは知らないのも無理ないよ」
「そのころに有名だった大魔法使いですか」
そういやこの人、命の長さに定評があるエルフ族だった。
話題の時間軸がすごい長めだよな。
そうこうしているうちに山の頂上についた。
そこには木々に隠れるように、簡素な小屋と庭のようなところと焚き火跡があった。
「ついたよ」
意外に普通に生活してるのかな。
というか、百年前ですでに賢者と呼ばれていたんなら、実年齢はもっと高齢ということだよな。
よぼよぼのおじいさんとかだろうか。
「作戦はこうだ」
とサフィさんは収納の魔法石から酒ビンを取り出しながら言った。
「作戦いるんですか」
「やつを酒で酔いつぶしたところを盗みに入る」
「けっこうガチなやつじゃないですか!」
むしろ普通にそのお酒と交換でよくない?
「冗談だよ。普通に酒と引き換えに交渉する」
「それはよかった」
「だが、いざとなれば……ためらわないように」
何?
殺すの?
「――聞こえているぞサフィール」
突然、野太い男の声がした。
「!」
声のしたほうに目を向けると、そこにはアララドさんに負けないほど筋骨隆々なおじいさんがいた。
頭の白髪は長く、髭は伸ばし放題。
上半身裸で腰に布を巻いているだけなんだが、その体には無数の傷跡が刻まれている。
俺よりでかい長身に、ただ者じゃなさすぎるオーラ。
「人? 握りつぶせますよ」と、やすやすと言えるくらいのたくましい肉体を持つおじいさんだった。
しかも小屋を囲む木の枝の上に、直立していた。
「あれだよ」
サフィさんがおじいさんを指差して言った。
「う、うわああああああ!」
賢者……大魔法使い……よぼよぼ……あれ!?
そんな言葉からは何一つイメージできない姿なんですが!
ムキムキだし賢者というより武術の老師じゃん。
「――我に何用か」
おじいさんは静かに俺たちに問う。
サフィさんは臆さず答える。
「お酒やるから魔法石くれよ」
「笑止!」
おじいさんは家より高い位置の木の枝から飛び下りると、軽やかに地面に着地した。
「上がれ」
そして家のドアを開けてくれる。
「いい感じだよ、ロッドくん!」
「あの反応で!?」
笑止! って言ってたじゃん。
「ツンデレなんだよ。老人だから頭固いんだ」
「すみませんが、もっと混乱するような情報を増やすのやめてください」
この人が魔法石を作っているという老師……いや、かつて賢者と呼ばれていた大魔法使い。
いや、家の中に入ってみればわかるよな。
俺たちはおじいさんに促されるまま、小屋の中へ入っていった。
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