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2巻
2-2
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‡
サフィさんの工房で、俺は鈍色に光る鉱石を見つめる。スキアさんからもらったアダマンタイトである。
「きれいな石ですね!」
工房に遊びに来たメリアが、隣で目を輝かせた。
「そうだねえ」
アダマント鉱石とも言われる加工前の原石だ。
短くて太い水晶のような結晶の形でありながら暗い色の金属質。磨いてもいないのに光の具合で俺の顔が反射して見える。
手のひらに載るほどしかないが、魔法石の台座などにするには十分な量。純度も高そうだ。
初めての希少金属に、俺はほっこりする。これは、使わず大事に飾っておいてもいいかもしれない。
「精錬前の原石のほうがきれいだろう! 標本として収集している者もたくさんいる美しさで、実用品としてもコレクターアイテムとしても優秀な一品! 余も観賞用として一部取っておくつもりだ!」
スキアさんは自慢げだった。
「スキア、ぼくにはおみやげないの?」
「もちろんあるぞ! ドワーフ謹製のドワーフみたいな白いつけ髭」
「ありがとー! うれしい!」
モジャモジャしている髭をもらってサフィさんはご満悦だった。
「メリアにも」
「ありがとうございます、スキアさん!」
ていうか何その工芸品。ドワーフの町そんなおみやげ売ってるの? 髭売ってるの?
しかもけっこうリアルに作られているモジャモジャのつけ髭だった。どう考えてもドワーフの技術力の無駄遣いである。
「ちなみに買ってきたアダマンタイトは何に使うんですか? 新しいゴーレムの材料に?」
「いい質問だな後輩。今回、アダマンタイトはゴーレムに使えるほどの量を確保できたわけじゃないのだ。高すぎて予算オーバーだった」
「そうだったんですか」
「だから、これでなんか新しい魔法道具を作るのだ!」
ガターンと興奮したスキアさんが勢い余って立ち上がる。この人、盛り上がると椅子から立ち上がるらしい。
「ゴーレムのパーツに活用するんですか?」
「いや、別の魔法道具の材料として活用する。ゴーレムとは本来、半永久的に動く土人形だ。金属製というわけではない」
「そうなんですか」
「次にゴーレムを作るときは、製法を解明して、粘土製の完全なるゴーレムを作りたい!」
「いいですね」
「いずれ人が乗れるような巨大ゴーレムも作りたい」
「それはめちゃくちゃいいですね!」
ガターンと椅子を揺らしながら俺は立ち上がった。くつろいでいたメリアとサフィさんがびくりとなる。
「わかってくれるか後輩!」
「最強じゃないですか!」
「テンション上がるよな!」
でかいだけでなく人が乗れるゴーレムとか、ワクワクせざるを得ない。そんなことを考える人がいたなんて。
「ところで後輩、その白い毛玉はなんなのだ?」
スキアさんはニアを指して首を傾げた。ニアは、俺の陰に隠れてスキアさんを警戒している。
「猫です」
「猫じゃあないだろ!」
「猫的な何かです」
「その白い毛玉、余はどこかで見た気がするぞ」
「そうなんですか? どこで?」
「……思い出せん」
やはり、『異邦』あたりのモンスターなのだろうか。成長して巨大モンスターみたいになったらどうしよう。
ちなみに異邦とは、恐ろしいモンスターがはびこる危険な山岳地帯だ。
亜人が多く住んでおり、異邦出身の彼らは『異邦の民』と呼ばれる。
フーリァンの亜人はだいたい異邦の民らしい。
「うーん、お前、もっとよく見せろ。思い出すかもしれん」
スキアさんがニアに言ったが、当のニアは俺の後ろに隠れたままだ。けっこう人見知りするからな、ニアは。
「あ、見たことがあるって、これでは?」
俺はおみやげの白髭を指さして言った。
「それかもしれん。いや、そんな最近のことだったらまだ覚えてるだろ」
それもそうか。
――話していると、いきなりバァンと工房の扉が開いた。
「邪魔するぜ!」
入ってきたのはアララドさんだった。そしてスキアさんに気づく。
「おお、なんだ、帰っていたのかスキア」
「久しぶりだなアララド! お前にもこの白いつけ髭をやろう!」
人数分買ってきてたんだ。
「いや、なんだこれ。なんの役に立つんだ?」
アララドさん! 俺と同じ気持ちの人がいてよかった!
「せっかくだからもらっておくが……いや、それよりも」
「どうしたんですか?」
「突然ですまん。すまんが、お前らしか頼りにできねえ事態なんだ。力を貸してほしい」
アララドさんはいつになく深刻そうだ。よほど火急の用件で焦っているのか、少し汗ばんで、表情も穏やかではない。
この人ほどの達人がうろたえる事態……?
なんだろう、とにかくのっぴきならないことなのは間違いなさそうだ。
「話すと長いんだが……」
「由々しい事態なんですか? 俺たちにできることであれば、もちろん手伝いますよ」
「ありがてえ。じゃあ取り急ぎ――」
「はい」
「――オレにパンツを分けてくれ」
由々しくねえ!
何言ってんだこのおっさん。
なんか巷では下着泥棒が出没しているらしく、その泥棒の退治依頼がアララドさんのほうに来てしまったらしい。
「はあ、下着泥棒ですか」
アララドさん、なんでもかんでも仕事回されるな。モンスター退治じゃないものも頼まれるんだ。
「主に十代から二十代くらいの若い女の下着を狙った泥棒だ」
「はあ」
しょうもな。
「で、盗まれても別段問題のない下着を囮にして泥棒をおびき出そうと思ったんだが――」
アララドさんが臆面もなく言ったら、サフィさんとスキアさんにスパーンと頭をひっぱたかれた。
この二人のパンツくれよって意味で押しかけてきたのか。そりゃあ怒られるよ。
「どこまでアホなの?」
普段温厚なサフィさんも、これにはプンプンだった。デリカシー皆無で、俺もフォローのしようがない。
「だってしょうがねえだろ、頼れるのがお前らしかいなかったんだから!」
「いや、そのへんの服屋で新しいのを買ってくればいいじゃん」
「やったさ」
やったんだ。
「しかし新品だと反応しなかったんだ。別の家の下着が盗まれてた」
クソしょうもな。
「いや、待てよ……」
俺は顎に手を当てて考える。
最近出没し始めた下着泥棒……
最近帰ってきた工房の先輩……
偶然というにはタイミングが合いすぎている。
「……まさか」
スキアさん?
「んなわけあるか!」
「すべての状況が物語ってます」
「偶然に決まってるだろ!」
……さすがに違った。被害は、スキアさんが帰ってくる前からあったらしい。
「厄介なのは、オレにこの依頼が回ってきたことだな」
とアララドさんは言った。
「どういうことです?」
「オレに来る厄介事は、基本的に自警団や辺境伯軍が太刀打ちできないことってのが多いからよ。もしかしたら今回もそのパターンなんじゃねえかって心配なんだよ」
面倒くさい難題が毎回アララドさんのほうに回ってくるわけか。
「下着泥棒なのに?」
「そういうことだ。大規模な犯罪組織がからんでいる可能性がある」
平和だな、辺境伯領。
「頭脳戦は苦手だからよ……なんかいいおびき出し方を考えてくれねえか?」
「わたしの下着を提供しましょうか!」
メリアが提案したが、
「「「だめです!」」」
俺たちは猛反対した。
そのとき――
「誰か来て! またあの下着泥棒が出たわ!」
外から女性の悲鳴が聞こえた。
「!」
「こんな白昼堂々!?」
しかも『また』ってことは、もう住民に認知されてる……
メリアに工房から出ないように言って、俺たちは急いで外に出て、悲鳴の聞こえた方向に向かう。
俺たちが現場に向かうと、そこには燕尾服を着た痩せた中年の男が――パンツに乗って空を飛んでいた。
幻だと思って二度見した。
でも、男がパンツに乗って空を飛んでいた。
「もう、帰っていいかな……?」
俺は膝をついた。
どうやってパンツに乗って空を飛んでいるのかもわからないし、そもそもそうする必要があるのかわからないし……
そりゃ住民も覚えるよ。一回で覚えるよ、こんなの出たら。
けど、おびき出すまでもなく現れてくれたのはラッキーだったかもしれない。
ターゲットは……数軒先の家に干してある洗濯物に違いない。
まだ犯行に及ぶ前に捕まえられる。
「ロッド! 魔法届くか!?」
「やってみます」
アララドさんに言われ、俺は無詠唱で《火》を発動。燕尾服を着た変態男へ向けて飛ばした。
「!?」
炎の魔法は変態の手前で大きく曲がり、明後日の方向へ飛んでいく。
「なんだ!?」
「魔法が曲がった――いや、曲げられた!?」
初めて見る挙動だ。魔法が途中でコントロールできなくなった。
俺の魔法を途中で操ったのか?
「ぼくがやるよ!」
サフィさんは光で縛りつける拘束の魔法《レーザーバインド》を発動。
しかしそれも、途中で曲がっていってしまう。
「ちっ!」
今度は《障壁》の魔法を変態の周囲に展開して、閉じ込めて抑え込もうとする。
が、囲い込んだ瞬間、《障壁》が歪んで砕け散る。
「嘘でしょ……!?」
「サフィさんの魔法でも無理なのか!? なんなんだあいつ!?」
ちょっと待て。変態のくせに強くないか……!?
気のせいだと思いたい。
「余の出番だな!!!」
スキアさんは、いつの間にか工房の屋根にのぼっていた。仁王立ちし、大声を上げている。位置的には、パンツに乗って空中浮遊する変態に一番近い。
「――ふむ」
変態は鼻の下に蓄えた髭を触りながらスキアさんを見た。
ダンディな、無駄にいい声だった。
「いでよ! 我がゴーレム!」
スキアさんは魔法陣を展開。《転移魔法》で、工房の中にあるゴーレムを呼び寄せた。
「《転移魔法》!? 詠唱なしで!?」
ゴーレムは魔法で移動させていると以前言っていたが……《転移魔法》を使っていたのか。
いや、詠唱なしで《転移魔法》を使えるなんて、スキアさんも人間じゃないのだろうか。
何者だ?
「なるほど、君たちは吾輩を止めに来たのだな?」
変態はとてもいい声で言ってから、胸に入れていた銀の懐中時計を手にし――
「しかし無駄である」
「!」
取り出した銀の懐中時計の蓋。そこについていた石が、輝かしい光を放った。
――魔法石だ。
思ったときには、上から何かがのしかかってきた。
「!」
違う!
何も、のしかかってはいない。自分の体重が、何倍にも重くなったようだ。動けなくなるほどに、上から圧力がかかっているような感じだった。
「なんだ、これ!? 重っ!」
サフィさんが《障壁》を張るが……無意味だった。
「ぬおおお!?」
「余が動けんだと!?」
アララドさんとスキアさんも同じである。立っていられない。押しつぶされそうな力で地面に押さえつけられる。
「吾輩の名はヴェンヘル・イオニアス・フォン・シャルンホルスト。以後、お見知りおきを」
空に浮いたままの変態は名乗り、うやうやしく頭を下げた。
「なっ、なんか偉そうな名前だ!」
「そう、吾輩は男爵だった。吾輩は吾輩の性癖のために、隣国である帝国の貴族家を追放されてしまった」
「元貴族!?」
「そして様々な国々をめぐり――この辺境伯領へたどり着いた」
「変態が最後にたどり着く居場所みたいになってる!」
俺が言うと、サフィさんは目からうろこが落ちたような顔でこちらを見た。
「ロッドくんも追放されてこの辺境伯領へたどり着いた……」
「つまり俺は変態! じゃないですよ! 異次元のつじつま合わせやめて!」
変態はうなずいた。
「認めよう。君たちはなかなかやる。だが、吾輩ほどではない」
動けなくなっている俺たちを後目に、変態は空を飛びながらターゲットの家のほうへ。
「てめえ、待ちやがれ!」
アララドさんが根性で進み、あとを追う。
……が、重みがあるせいで非常に動きが遅い。
変態はターゲットの家へ降り立つと、堂々と下着をつかんで再び空をパンツで飛んで逃走した。
それから、動けるようになった俺たちは被害状況を確認して工房に帰ってきた。
俺は拳を握った。
「くそっ、なんで変態があんなに強いんだ! おかしいだろ辺境伯領!」
「辺境伯領のせいにしないでくれる、ロッドくん?」
こちらに来てから今まで、少しは強くなり成長したと思っていたが、思い上がりだった。
変態の一人にもなすすべがないなんて、俺はいったい今まで何をしていたんだ。
アララドさんは腕を組んで眉間にしわを寄せる。
「あれに勝てるか?」
「勝てなくはないかもしれないけど、フーリァンの真っ只中でぼくらが本気を出すわけにはいかないよ。被害が広がりすぎる」
「そもそも魔法が効かないんじゃどうしようもねえよな」
「そう、そこが問題……今まで現れた中で、間違いなく最強の敵だね」
サフィさんさえ匙を投げるならもう捕まえるのは無理では?
いや、だめだ。心が負けてしまうと、もうどうやっても勝てなくなる。何より、変態なんかに負けたくはない。
「余は生理的にちょっとだめだ」
スキアさんは青ざめた表情で肩をすくめた。それはここにいる誰もが思っていることだろう。
「ちょっとどんな姿かだけでも見てみたかったです……」
メリアが残念そうに言った。
「あんなの見ても何も成長できないよ、メリア」
さすがにあれは彼女には見せられない。教育に悪いどころじゃない。クリムレット卿に怒られてしまう。
「……ロッド、どうにかならんか?」
アララドさんが俺を見た。
「ロッドくん」
「後輩!」
サフィさんも、スキアさんも、同じように俺を見る。
「……いや、俺が考えるの!?」
もちろん俺もなんとかしたいとは思うけど……
「そ、そうですね、えーと」
知恵を絞る前に、まず状況を整理しよう。
魔法は当たる前に曲げられてしまい当たらない。重みで押さえつけられ、行動もままならない。しかも変態自身は空を飛んでいる。
仕掛けは――銀の懐中時計についている魔法石だ。それは間違いなさそうだが、どんな魔法かは見当がつかない。わかるのは、あの魔法石が規格外に強力だということだ。
今まで遭った異邦のモンスターより確実に強い。魔法使いにとっても、剣士にとっても相性の悪い強敵だ。タネや仕掛けがわかったところで、正面から対抗できるとは思えない。
勝てる見込みはあるか?
「……作戦がいりますね」
アララドさんの言葉と今日の出来事に鑑みるに――やれる手は、あるはずだ。
集中して考える。あの規格外の変態を捕まえる、なんらかの方法。正面切って戦うだけでは勝てない。有効なのは搦め手だ。
「では、一つ、アイデアとして――」
と前置きをしながら、俺は打倒策を提案した。
‡
数日後――
俺たちは考えた策に従って準備をし、そして待ち伏せた。サフィさんとスキアさんは工房の中で待ち、俺とアララドさんが外で見張る。
今回はニアも一緒である。
「本当に来るのかロッド。やつに囮は効かん。ということは敵を見分ける目も持ってるんじゃないのか?」
「それは、来るまで毎日見張るので大丈夫です」
地道だが、見張りをしなければならないので仕方がない。
太陽が傾いてきた昼下がり。
「きゃあああっ」
急に、空を悲鳴がつんざいた。やはり来たか。
空を見ると、パンツに乗って空を飛んでいる燕尾服の意味不明な男が姿を現した。
ヴェンヘル・イオニアス・フォン・シャルンホルスト。
……いや、長いから変態でいいや。
「野郎、来たか!」
「行きますよ、アララドさん!」
俺たちは走って変態の下までやってくる。
走りながら詠唱を始める。はじめから全力でいこう。
「《ブラスト・エクスプロージョン》!」
掲げた手から巨大な魔法陣を展開して放つ。一度は投げた上級魔法書から得た、俺の使える最大火力の魔法だ。
――が、前と同じように魔法が曲がり、変態には着弾しない。
変態のさらに上空に行ってから、ようやく《ブラスト・エクスプロージョン》は大爆発を起こした。
直撃はしなかったが――熱と爆風は届く!
「――ふむ」
しかし爆風さえ、変態を避けて通っている。無傷だ。
胸元の懐中時計が光っている。やはりすべての仕掛けは懐中時計についている魔法石か。
「どらああああっ!」
爆風に紛れて、アララドさんが家の屋根を蹴って跳躍する。変態の背後。片手で振り回すような大太刀の一閃が変態を捉える。
しかし大太刀もアララドさん自身も途中で軌道が曲がって、アララドさんは空振りする形で地面まで落ちた。
空中でアララドさんほどの巨体が進行方向を曲げられる……やはりあれは、ただの魔法じゃない。
「ちいっ、死角からでもだめか!」
すぐにアララドさんは体勢を立て直す。
「君たちは、この間も見たな」
変態は俺たちに視線を向け、言った。
「なかなかやるな。今のコンビネーションは、吾輩も少し焦った」
少しだけか。せっかく打ち合わせをしてまで仕掛けたのに。
「――そして、その生物」
変態が、しっぽを立てて威嚇するニアに気づいた。
「いい毛並みのモンスターだな。よし、それで女児のパンツを作ろう」
「やめろおお! ニアを女児パンツの素材にしないでくれ!」
不穏な気配を感じたニアが俺の足元に隠れる。
変態は、こらえきれず笑った。
「ふふっ、長らく強者に出会っていなくて退屈していたところだ」
「ニアッ」
ニアが察知して鳴き、飛びのくのと同時、俺とアララドさんも後退する。
胸元の懐中時計についている魔法石が、ひときわ大きく光った。
「認めよう。君たちこそが好敵手だと」
「――!」
またあの重みが身体を襲う。ニアは無事だったが、俺とアララドさんが避けたところにも魔法がおよんでいた。ニアの察知力なら避けられると思ったが、それでも避けきれない!
「我が《重力》の魔法石に相応しき敵だ」
「そ、そんな魔法聞いたことないぞ……!」
「ものが地面に落ちるときにかかるのが重力。我々を大地に押しつけ続けているのも重力。夜中に時折見られる流れ星も重力。そして、その重力を操れば、光や空間さえ曲げることができるのだという。理論自体は古代の文献にも記述されている世界の法則である。この魔法石は、その法則を捻じ曲げることができるのだ」
「なんで、そんな力を……!」
「そろそろティータイムの時間だ。失礼する」
変態は浮遊しながら、俺たちに背を向ける。
「では、また会おう好敵手よ。次はさらによき手を期待している」
「待て!」
そして変態は、近くにあったターゲットになっているらしい家に着地し、
「ふむ」
干してあった黒い下着に手をかけた。
――瞬間。
「うほおおおおおおッ!」
凄まじい電撃が変態を襲った。
‡
少し前の出来事である。
俺たちはスギル伯領にいる少女怪盗オジサンことオズを呼び出し、サフィさんの工房に来てもらった。
「つ、つまりわたくしのパ、パン……下着を?」
事情を話すと、オズは顔を耳まで真っ赤にする。
「いくらロッド様といえど、その、とても恥ずかしいのですが……でもどうしてもと言うのなら、わたくしのをお使いくださ――」
「いや、いつもオズが使役している精霊のドロシーって服に擬態できるんだよね? だから下着になって変態をおびき寄せられないかなって」
「…………」
オズの精霊は彼女のドロワーズにも擬態することができるのである。
つまり囮兼トラップとして有効なのではないだろうか?
「ロッド様のエッチ!」
「ぐえっ、なんで!?」
詳しく説明したらビンタされた。
サフィさんの工房で、俺は鈍色に光る鉱石を見つめる。スキアさんからもらったアダマンタイトである。
「きれいな石ですね!」
工房に遊びに来たメリアが、隣で目を輝かせた。
「そうだねえ」
アダマント鉱石とも言われる加工前の原石だ。
短くて太い水晶のような結晶の形でありながら暗い色の金属質。磨いてもいないのに光の具合で俺の顔が反射して見える。
手のひらに載るほどしかないが、魔法石の台座などにするには十分な量。純度も高そうだ。
初めての希少金属に、俺はほっこりする。これは、使わず大事に飾っておいてもいいかもしれない。
「精錬前の原石のほうがきれいだろう! 標本として収集している者もたくさんいる美しさで、実用品としてもコレクターアイテムとしても優秀な一品! 余も観賞用として一部取っておくつもりだ!」
スキアさんは自慢げだった。
「スキア、ぼくにはおみやげないの?」
「もちろんあるぞ! ドワーフ謹製のドワーフみたいな白いつけ髭」
「ありがとー! うれしい!」
モジャモジャしている髭をもらってサフィさんはご満悦だった。
「メリアにも」
「ありがとうございます、スキアさん!」
ていうか何その工芸品。ドワーフの町そんなおみやげ売ってるの? 髭売ってるの?
しかもけっこうリアルに作られているモジャモジャのつけ髭だった。どう考えてもドワーフの技術力の無駄遣いである。
「ちなみに買ってきたアダマンタイトは何に使うんですか? 新しいゴーレムの材料に?」
「いい質問だな後輩。今回、アダマンタイトはゴーレムに使えるほどの量を確保できたわけじゃないのだ。高すぎて予算オーバーだった」
「そうだったんですか」
「だから、これでなんか新しい魔法道具を作るのだ!」
ガターンと興奮したスキアさんが勢い余って立ち上がる。この人、盛り上がると椅子から立ち上がるらしい。
「ゴーレムのパーツに活用するんですか?」
「いや、別の魔法道具の材料として活用する。ゴーレムとは本来、半永久的に動く土人形だ。金属製というわけではない」
「そうなんですか」
「次にゴーレムを作るときは、製法を解明して、粘土製の完全なるゴーレムを作りたい!」
「いいですね」
「いずれ人が乗れるような巨大ゴーレムも作りたい」
「それはめちゃくちゃいいですね!」
ガターンと椅子を揺らしながら俺は立ち上がった。くつろいでいたメリアとサフィさんがびくりとなる。
「わかってくれるか後輩!」
「最強じゃないですか!」
「テンション上がるよな!」
でかいだけでなく人が乗れるゴーレムとか、ワクワクせざるを得ない。そんなことを考える人がいたなんて。
「ところで後輩、その白い毛玉はなんなのだ?」
スキアさんはニアを指して首を傾げた。ニアは、俺の陰に隠れてスキアさんを警戒している。
「猫です」
「猫じゃあないだろ!」
「猫的な何かです」
「その白い毛玉、余はどこかで見た気がするぞ」
「そうなんですか? どこで?」
「……思い出せん」
やはり、『異邦』あたりのモンスターなのだろうか。成長して巨大モンスターみたいになったらどうしよう。
ちなみに異邦とは、恐ろしいモンスターがはびこる危険な山岳地帯だ。
亜人が多く住んでおり、異邦出身の彼らは『異邦の民』と呼ばれる。
フーリァンの亜人はだいたい異邦の民らしい。
「うーん、お前、もっとよく見せろ。思い出すかもしれん」
スキアさんがニアに言ったが、当のニアは俺の後ろに隠れたままだ。けっこう人見知りするからな、ニアは。
「あ、見たことがあるって、これでは?」
俺はおみやげの白髭を指さして言った。
「それかもしれん。いや、そんな最近のことだったらまだ覚えてるだろ」
それもそうか。
――話していると、いきなりバァンと工房の扉が開いた。
「邪魔するぜ!」
入ってきたのはアララドさんだった。そしてスキアさんに気づく。
「おお、なんだ、帰っていたのかスキア」
「久しぶりだなアララド! お前にもこの白いつけ髭をやろう!」
人数分買ってきてたんだ。
「いや、なんだこれ。なんの役に立つんだ?」
アララドさん! 俺と同じ気持ちの人がいてよかった!
「せっかくだからもらっておくが……いや、それよりも」
「どうしたんですか?」
「突然ですまん。すまんが、お前らしか頼りにできねえ事態なんだ。力を貸してほしい」
アララドさんはいつになく深刻そうだ。よほど火急の用件で焦っているのか、少し汗ばんで、表情も穏やかではない。
この人ほどの達人がうろたえる事態……?
なんだろう、とにかくのっぴきならないことなのは間違いなさそうだ。
「話すと長いんだが……」
「由々しい事態なんですか? 俺たちにできることであれば、もちろん手伝いますよ」
「ありがてえ。じゃあ取り急ぎ――」
「はい」
「――オレにパンツを分けてくれ」
由々しくねえ!
何言ってんだこのおっさん。
なんか巷では下着泥棒が出没しているらしく、その泥棒の退治依頼がアララドさんのほうに来てしまったらしい。
「はあ、下着泥棒ですか」
アララドさん、なんでもかんでも仕事回されるな。モンスター退治じゃないものも頼まれるんだ。
「主に十代から二十代くらいの若い女の下着を狙った泥棒だ」
「はあ」
しょうもな。
「で、盗まれても別段問題のない下着を囮にして泥棒をおびき出そうと思ったんだが――」
アララドさんが臆面もなく言ったら、サフィさんとスキアさんにスパーンと頭をひっぱたかれた。
この二人のパンツくれよって意味で押しかけてきたのか。そりゃあ怒られるよ。
「どこまでアホなの?」
普段温厚なサフィさんも、これにはプンプンだった。デリカシー皆無で、俺もフォローのしようがない。
「だってしょうがねえだろ、頼れるのがお前らしかいなかったんだから!」
「いや、そのへんの服屋で新しいのを買ってくればいいじゃん」
「やったさ」
やったんだ。
「しかし新品だと反応しなかったんだ。別の家の下着が盗まれてた」
クソしょうもな。
「いや、待てよ……」
俺は顎に手を当てて考える。
最近出没し始めた下着泥棒……
最近帰ってきた工房の先輩……
偶然というにはタイミングが合いすぎている。
「……まさか」
スキアさん?
「んなわけあるか!」
「すべての状況が物語ってます」
「偶然に決まってるだろ!」
……さすがに違った。被害は、スキアさんが帰ってくる前からあったらしい。
「厄介なのは、オレにこの依頼が回ってきたことだな」
とアララドさんは言った。
「どういうことです?」
「オレに来る厄介事は、基本的に自警団や辺境伯軍が太刀打ちできないことってのが多いからよ。もしかしたら今回もそのパターンなんじゃねえかって心配なんだよ」
面倒くさい難題が毎回アララドさんのほうに回ってくるわけか。
「下着泥棒なのに?」
「そういうことだ。大規模な犯罪組織がからんでいる可能性がある」
平和だな、辺境伯領。
「頭脳戦は苦手だからよ……なんかいいおびき出し方を考えてくれねえか?」
「わたしの下着を提供しましょうか!」
メリアが提案したが、
「「「だめです!」」」
俺たちは猛反対した。
そのとき――
「誰か来て! またあの下着泥棒が出たわ!」
外から女性の悲鳴が聞こえた。
「!」
「こんな白昼堂々!?」
しかも『また』ってことは、もう住民に認知されてる……
メリアに工房から出ないように言って、俺たちは急いで外に出て、悲鳴の聞こえた方向に向かう。
俺たちが現場に向かうと、そこには燕尾服を着た痩せた中年の男が――パンツに乗って空を飛んでいた。
幻だと思って二度見した。
でも、男がパンツに乗って空を飛んでいた。
「もう、帰っていいかな……?」
俺は膝をついた。
どうやってパンツに乗って空を飛んでいるのかもわからないし、そもそもそうする必要があるのかわからないし……
そりゃ住民も覚えるよ。一回で覚えるよ、こんなの出たら。
けど、おびき出すまでもなく現れてくれたのはラッキーだったかもしれない。
ターゲットは……数軒先の家に干してある洗濯物に違いない。
まだ犯行に及ぶ前に捕まえられる。
「ロッド! 魔法届くか!?」
「やってみます」
アララドさんに言われ、俺は無詠唱で《火》を発動。燕尾服を着た変態男へ向けて飛ばした。
「!?」
炎の魔法は変態の手前で大きく曲がり、明後日の方向へ飛んでいく。
「なんだ!?」
「魔法が曲がった――いや、曲げられた!?」
初めて見る挙動だ。魔法が途中でコントロールできなくなった。
俺の魔法を途中で操ったのか?
「ぼくがやるよ!」
サフィさんは光で縛りつける拘束の魔法《レーザーバインド》を発動。
しかしそれも、途中で曲がっていってしまう。
「ちっ!」
今度は《障壁》の魔法を変態の周囲に展開して、閉じ込めて抑え込もうとする。
が、囲い込んだ瞬間、《障壁》が歪んで砕け散る。
「嘘でしょ……!?」
「サフィさんの魔法でも無理なのか!? なんなんだあいつ!?」
ちょっと待て。変態のくせに強くないか……!?
気のせいだと思いたい。
「余の出番だな!!!」
スキアさんは、いつの間にか工房の屋根にのぼっていた。仁王立ちし、大声を上げている。位置的には、パンツに乗って空中浮遊する変態に一番近い。
「――ふむ」
変態は鼻の下に蓄えた髭を触りながらスキアさんを見た。
ダンディな、無駄にいい声だった。
「いでよ! 我がゴーレム!」
スキアさんは魔法陣を展開。《転移魔法》で、工房の中にあるゴーレムを呼び寄せた。
「《転移魔法》!? 詠唱なしで!?」
ゴーレムは魔法で移動させていると以前言っていたが……《転移魔法》を使っていたのか。
いや、詠唱なしで《転移魔法》を使えるなんて、スキアさんも人間じゃないのだろうか。
何者だ?
「なるほど、君たちは吾輩を止めに来たのだな?」
変態はとてもいい声で言ってから、胸に入れていた銀の懐中時計を手にし――
「しかし無駄である」
「!」
取り出した銀の懐中時計の蓋。そこについていた石が、輝かしい光を放った。
――魔法石だ。
思ったときには、上から何かがのしかかってきた。
「!」
違う!
何も、のしかかってはいない。自分の体重が、何倍にも重くなったようだ。動けなくなるほどに、上から圧力がかかっているような感じだった。
「なんだ、これ!? 重っ!」
サフィさんが《障壁》を張るが……無意味だった。
「ぬおおお!?」
「余が動けんだと!?」
アララドさんとスキアさんも同じである。立っていられない。押しつぶされそうな力で地面に押さえつけられる。
「吾輩の名はヴェンヘル・イオニアス・フォン・シャルンホルスト。以後、お見知りおきを」
空に浮いたままの変態は名乗り、うやうやしく頭を下げた。
「なっ、なんか偉そうな名前だ!」
「そう、吾輩は男爵だった。吾輩は吾輩の性癖のために、隣国である帝国の貴族家を追放されてしまった」
「元貴族!?」
「そして様々な国々をめぐり――この辺境伯領へたどり着いた」
「変態が最後にたどり着く居場所みたいになってる!」
俺が言うと、サフィさんは目からうろこが落ちたような顔でこちらを見た。
「ロッドくんも追放されてこの辺境伯領へたどり着いた……」
「つまり俺は変態! じゃないですよ! 異次元のつじつま合わせやめて!」
変態はうなずいた。
「認めよう。君たちはなかなかやる。だが、吾輩ほどではない」
動けなくなっている俺たちを後目に、変態は空を飛びながらターゲットの家のほうへ。
「てめえ、待ちやがれ!」
アララドさんが根性で進み、あとを追う。
……が、重みがあるせいで非常に動きが遅い。
変態はターゲットの家へ降り立つと、堂々と下着をつかんで再び空をパンツで飛んで逃走した。
それから、動けるようになった俺たちは被害状況を確認して工房に帰ってきた。
俺は拳を握った。
「くそっ、なんで変態があんなに強いんだ! おかしいだろ辺境伯領!」
「辺境伯領のせいにしないでくれる、ロッドくん?」
こちらに来てから今まで、少しは強くなり成長したと思っていたが、思い上がりだった。
変態の一人にもなすすべがないなんて、俺はいったい今まで何をしていたんだ。
アララドさんは腕を組んで眉間にしわを寄せる。
「あれに勝てるか?」
「勝てなくはないかもしれないけど、フーリァンの真っ只中でぼくらが本気を出すわけにはいかないよ。被害が広がりすぎる」
「そもそも魔法が効かないんじゃどうしようもねえよな」
「そう、そこが問題……今まで現れた中で、間違いなく最強の敵だね」
サフィさんさえ匙を投げるならもう捕まえるのは無理では?
いや、だめだ。心が負けてしまうと、もうどうやっても勝てなくなる。何より、変態なんかに負けたくはない。
「余は生理的にちょっとだめだ」
スキアさんは青ざめた表情で肩をすくめた。それはここにいる誰もが思っていることだろう。
「ちょっとどんな姿かだけでも見てみたかったです……」
メリアが残念そうに言った。
「あんなの見ても何も成長できないよ、メリア」
さすがにあれは彼女には見せられない。教育に悪いどころじゃない。クリムレット卿に怒られてしまう。
「……ロッド、どうにかならんか?」
アララドさんが俺を見た。
「ロッドくん」
「後輩!」
サフィさんも、スキアさんも、同じように俺を見る。
「……いや、俺が考えるの!?」
もちろん俺もなんとかしたいとは思うけど……
「そ、そうですね、えーと」
知恵を絞る前に、まず状況を整理しよう。
魔法は当たる前に曲げられてしまい当たらない。重みで押さえつけられ、行動もままならない。しかも変態自身は空を飛んでいる。
仕掛けは――銀の懐中時計についている魔法石だ。それは間違いなさそうだが、どんな魔法かは見当がつかない。わかるのは、あの魔法石が規格外に強力だということだ。
今まで遭った異邦のモンスターより確実に強い。魔法使いにとっても、剣士にとっても相性の悪い強敵だ。タネや仕掛けがわかったところで、正面から対抗できるとは思えない。
勝てる見込みはあるか?
「……作戦がいりますね」
アララドさんの言葉と今日の出来事に鑑みるに――やれる手は、あるはずだ。
集中して考える。あの規格外の変態を捕まえる、なんらかの方法。正面切って戦うだけでは勝てない。有効なのは搦め手だ。
「では、一つ、アイデアとして――」
と前置きをしながら、俺は打倒策を提案した。
‡
数日後――
俺たちは考えた策に従って準備をし、そして待ち伏せた。サフィさんとスキアさんは工房の中で待ち、俺とアララドさんが外で見張る。
今回はニアも一緒である。
「本当に来るのかロッド。やつに囮は効かん。ということは敵を見分ける目も持ってるんじゃないのか?」
「それは、来るまで毎日見張るので大丈夫です」
地道だが、見張りをしなければならないので仕方がない。
太陽が傾いてきた昼下がり。
「きゃあああっ」
急に、空を悲鳴がつんざいた。やはり来たか。
空を見ると、パンツに乗って空を飛んでいる燕尾服の意味不明な男が姿を現した。
ヴェンヘル・イオニアス・フォン・シャルンホルスト。
……いや、長いから変態でいいや。
「野郎、来たか!」
「行きますよ、アララドさん!」
俺たちは走って変態の下までやってくる。
走りながら詠唱を始める。はじめから全力でいこう。
「《ブラスト・エクスプロージョン》!」
掲げた手から巨大な魔法陣を展開して放つ。一度は投げた上級魔法書から得た、俺の使える最大火力の魔法だ。
――が、前と同じように魔法が曲がり、変態には着弾しない。
変態のさらに上空に行ってから、ようやく《ブラスト・エクスプロージョン》は大爆発を起こした。
直撃はしなかったが――熱と爆風は届く!
「――ふむ」
しかし爆風さえ、変態を避けて通っている。無傷だ。
胸元の懐中時計が光っている。やはりすべての仕掛けは懐中時計についている魔法石か。
「どらああああっ!」
爆風に紛れて、アララドさんが家の屋根を蹴って跳躍する。変態の背後。片手で振り回すような大太刀の一閃が変態を捉える。
しかし大太刀もアララドさん自身も途中で軌道が曲がって、アララドさんは空振りする形で地面まで落ちた。
空中でアララドさんほどの巨体が進行方向を曲げられる……やはりあれは、ただの魔法じゃない。
「ちいっ、死角からでもだめか!」
すぐにアララドさんは体勢を立て直す。
「君たちは、この間も見たな」
変態は俺たちに視線を向け、言った。
「なかなかやるな。今のコンビネーションは、吾輩も少し焦った」
少しだけか。せっかく打ち合わせをしてまで仕掛けたのに。
「――そして、その生物」
変態が、しっぽを立てて威嚇するニアに気づいた。
「いい毛並みのモンスターだな。よし、それで女児のパンツを作ろう」
「やめろおお! ニアを女児パンツの素材にしないでくれ!」
不穏な気配を感じたニアが俺の足元に隠れる。
変態は、こらえきれず笑った。
「ふふっ、長らく強者に出会っていなくて退屈していたところだ」
「ニアッ」
ニアが察知して鳴き、飛びのくのと同時、俺とアララドさんも後退する。
胸元の懐中時計についている魔法石が、ひときわ大きく光った。
「認めよう。君たちこそが好敵手だと」
「――!」
またあの重みが身体を襲う。ニアは無事だったが、俺とアララドさんが避けたところにも魔法がおよんでいた。ニアの察知力なら避けられると思ったが、それでも避けきれない!
「我が《重力》の魔法石に相応しき敵だ」
「そ、そんな魔法聞いたことないぞ……!」
「ものが地面に落ちるときにかかるのが重力。我々を大地に押しつけ続けているのも重力。夜中に時折見られる流れ星も重力。そして、その重力を操れば、光や空間さえ曲げることができるのだという。理論自体は古代の文献にも記述されている世界の法則である。この魔法石は、その法則を捻じ曲げることができるのだ」
「なんで、そんな力を……!」
「そろそろティータイムの時間だ。失礼する」
変態は浮遊しながら、俺たちに背を向ける。
「では、また会おう好敵手よ。次はさらによき手を期待している」
「待て!」
そして変態は、近くにあったターゲットになっているらしい家に着地し、
「ふむ」
干してあった黒い下着に手をかけた。
――瞬間。
「うほおおおおおおッ!」
凄まじい電撃が変態を襲った。
‡
少し前の出来事である。
俺たちはスギル伯領にいる少女怪盗オジサンことオズを呼び出し、サフィさんの工房に来てもらった。
「つ、つまりわたくしのパ、パン……下着を?」
事情を話すと、オズは顔を耳まで真っ赤にする。
「いくらロッド様といえど、その、とても恥ずかしいのですが……でもどうしてもと言うのなら、わたくしのをお使いくださ――」
「いや、いつもオズが使役している精霊のドロシーって服に擬態できるんだよね? だから下着になって変態をおびき寄せられないかなって」
「…………」
オズの精霊は彼女のドロワーズにも擬態することができるのである。
つまり囮兼トラップとして有効なのではないだろうか?
「ロッド様のエッチ!」
「ぐえっ、なんで!?」
詳しく説明したらビンタされた。
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