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93 互いの意地
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俺は《竜王旗》を地面に突き刺し、《ブーステッド》を握りしめる。
魔王に小手先の魔法は通じない。《マグナフォール》は《獄炎》によって防がれ、《フォールディング・エア》の防御力では《魔弾》を防ぎきれない。
唯一傷を負わせられる精霊王の剣がない今、攻撃では一手遅れる。
ならば自己強化による力押しと、自らの技量。
それで魔王の力量を上回るしか手がない。
「こうして宣戦布告で挑発すれば、自ら乗り込んでくると思っていたぞ」
魔王はじりじりと足を運びながら言った。
「やはりお前の作戦だったか、魔王よ。お前にとっては、レジスタンスの活動などどうでもいい。俺をおびき出すための出汁にすぎなかった」
「そういうことだ!」
魔王が踏み込み、剣を振るう。俺はそれを防ぐ。
そのまま距離を置いた魔王は、近くにいた魔族を切り捨てて魔力を補充する。
魔王を消滅させるには、魔法や精霊剣などのダメージで、その魔力を余すことなく枯渇させなくてはならない。
その魔力を補充できるすべを手に入れた魔王は、たしかに無敵だ。倒そうとしても魔力を補充し、傷を回復する。
「だが、この俺が絶望すると思ったか!」
俺は踏み込んで、魔王に切りかかる。
魔王は胸から腹にかけて斜めに切りつけられるが、すぐさま傷を再生し、反撃する。俺はそれを防ぐ。
剣は俺の領域だ。で、あれば、まずは剣術で上回り、魔剣を破壊するか魔王の手から離す。
その後、ブーステッドで魔力切れになるまで切り刻めば、魔力で勝てなくても勝つことができる。
「ふん、軽いな。剣が軽すぎる。今の貴様の状態では!」
魔王は俺の手首を狙って剣を突いてくる。俺はとっさに《フォールディング・エア》を召喚し、籠手で剣をいなして反撃を返す。
「お前こそ、剣を扱い切れていないのではないか!? 剣術を学んでから俺に挑むべきだったな!」
俺の反撃によって魔王に傷をつけられるが、すぐに再生し、魔王は《魔弾》で俺を牽制しながら後退、レジスタンスの魔族を切って魔力を補充する。
お互いに接近し、剣を合わせる。
「よくもそこまで減らず口を聞けるものだ。貴様なぞその辺に売っているカレーでも腹に入れて食い倒れていればいいのだ!」
魔王が剣を振るい、俺が反撃する。
「お前こそ大人におごってもらってお子様ランチでも唐揚げでも食っていろ! 今の姿より似合いだぞ!」
魔王が魔力を回復し、俺に切りかかる。
魔剣を防ぎながら、睨み合う。
「…………」
どうにも、手ごたえが薄い気がする。
いや、常人ならば一撃で屠れるような魔王の剣と魔法ではあるのだが、かつての圧倒的な覇気による脅威は、あまり感じられない。
「…………」
魔王も俺をにらみながら、煮え切らない様子だ。
この魔王とこの剣筋――俺は感づいて、魔剣をはじいて一旦距離を取った。
「魔王、お前迷っているのか?」
魔王の剣には迷いがある。それが剣筋を曇らせている。魔法にも、何か勢いがない。
「……それはこちらのセリフだ。五百年前の剣呑な空気は、貴様からは感じられない」
魔王は返した。こいつも俺と同じような感想を抱いたらしい。
「はっきり言うが、弱い。その魔剣を手にしているというのに、五百年前より強いはずなのに、俺を殺しきれないのはなぜだ」
「貴様こそ何だ、その腑抜けた剣は。かつての魔王軍の幹部にだって殺せそうだ」
「お前、ここで死ぬ気か?」
「貴様こそ、死にに来ているな?」
「…………」
「…………」
かつて飽くなき殺し合いをしていた人間と魔族が、仲良くしている。
殺して壊して手に入れるための俺の力は、この時代には不似合いだ。
ゼビカは、魔族も人間も関係なく笑いあえるのなら、と言った。魔王を説得できるならそれでもいいと。それはとても幸せなことなんだろう。だが、そんなことができる時代に、俺は必要ない。
互いに譲り合いながら助け合いながら、関係し合い、変わっていく。
そんな生き方、昔を生きてきた俺には無理だ。
「だが!」
「それでも――」
グッドフェロウの光景を目にしてから、心の引っかかりはずっと感じていた。
それでも、魔王に対する闘争心は、俺の胸にはある。
「お前にだけは、負けるわけにはいかん!」
「貴様にだけは、負けたくはないな!」
目の前のこいつに負けるくらいなら、俺は死んだ方がましだ。
ゆえに、俺は魔王に剣を振るう。平和も和平もレジスタンスも今の世の中もすべて関係ない。もはや俺と魔王の意志しか介在していない、完全な私闘。迷いがあっても、剣を振るう。
「お前にだけは!」
「貴様にだけは!」
何度目かの剣戟。お互いに剣を受けきったところで――
「――!」
にわかに空が明るくなった。
魔王に小手先の魔法は通じない。《マグナフォール》は《獄炎》によって防がれ、《フォールディング・エア》の防御力では《魔弾》を防ぎきれない。
唯一傷を負わせられる精霊王の剣がない今、攻撃では一手遅れる。
ならば自己強化による力押しと、自らの技量。
それで魔王の力量を上回るしか手がない。
「こうして宣戦布告で挑発すれば、自ら乗り込んでくると思っていたぞ」
魔王はじりじりと足を運びながら言った。
「やはりお前の作戦だったか、魔王よ。お前にとっては、レジスタンスの活動などどうでもいい。俺をおびき出すための出汁にすぎなかった」
「そういうことだ!」
魔王が踏み込み、剣を振るう。俺はそれを防ぐ。
そのまま距離を置いた魔王は、近くにいた魔族を切り捨てて魔力を補充する。
魔王を消滅させるには、魔法や精霊剣などのダメージで、その魔力を余すことなく枯渇させなくてはならない。
その魔力を補充できるすべを手に入れた魔王は、たしかに無敵だ。倒そうとしても魔力を補充し、傷を回復する。
「だが、この俺が絶望すると思ったか!」
俺は踏み込んで、魔王に切りかかる。
魔王は胸から腹にかけて斜めに切りつけられるが、すぐさま傷を再生し、反撃する。俺はそれを防ぐ。
剣は俺の領域だ。で、あれば、まずは剣術で上回り、魔剣を破壊するか魔王の手から離す。
その後、ブーステッドで魔力切れになるまで切り刻めば、魔力で勝てなくても勝つことができる。
「ふん、軽いな。剣が軽すぎる。今の貴様の状態では!」
魔王は俺の手首を狙って剣を突いてくる。俺はとっさに《フォールディング・エア》を召喚し、籠手で剣をいなして反撃を返す。
「お前こそ、剣を扱い切れていないのではないか!? 剣術を学んでから俺に挑むべきだったな!」
俺の反撃によって魔王に傷をつけられるが、すぐに再生し、魔王は《魔弾》で俺を牽制しながら後退、レジスタンスの魔族を切って魔力を補充する。
お互いに接近し、剣を合わせる。
「よくもそこまで減らず口を聞けるものだ。貴様なぞその辺に売っているカレーでも腹に入れて食い倒れていればいいのだ!」
魔王が剣を振るい、俺が反撃する。
「お前こそ大人におごってもらってお子様ランチでも唐揚げでも食っていろ! 今の姿より似合いだぞ!」
魔王が魔力を回復し、俺に切りかかる。
魔剣を防ぎながら、睨み合う。
「…………」
どうにも、手ごたえが薄い気がする。
いや、常人ならば一撃で屠れるような魔王の剣と魔法ではあるのだが、かつての圧倒的な覇気による脅威は、あまり感じられない。
「…………」
魔王も俺をにらみながら、煮え切らない様子だ。
この魔王とこの剣筋――俺は感づいて、魔剣をはじいて一旦距離を取った。
「魔王、お前迷っているのか?」
魔王の剣には迷いがある。それが剣筋を曇らせている。魔法にも、何か勢いがない。
「……それはこちらのセリフだ。五百年前の剣呑な空気は、貴様からは感じられない」
魔王は返した。こいつも俺と同じような感想を抱いたらしい。
「はっきり言うが、弱い。その魔剣を手にしているというのに、五百年前より強いはずなのに、俺を殺しきれないのはなぜだ」
「貴様こそ何だ、その腑抜けた剣は。かつての魔王軍の幹部にだって殺せそうだ」
「お前、ここで死ぬ気か?」
「貴様こそ、死にに来ているな?」
「…………」
「…………」
かつて飽くなき殺し合いをしていた人間と魔族が、仲良くしている。
殺して壊して手に入れるための俺の力は、この時代には不似合いだ。
ゼビカは、魔族も人間も関係なく笑いあえるのなら、と言った。魔王を説得できるならそれでもいいと。それはとても幸せなことなんだろう。だが、そんなことができる時代に、俺は必要ない。
互いに譲り合いながら助け合いながら、関係し合い、変わっていく。
そんな生き方、昔を生きてきた俺には無理だ。
「だが!」
「それでも――」
グッドフェロウの光景を目にしてから、心の引っかかりはずっと感じていた。
それでも、魔王に対する闘争心は、俺の胸にはある。
「お前にだけは、負けるわけにはいかん!」
「貴様にだけは、負けたくはないな!」
目の前のこいつに負けるくらいなら、俺は死んだ方がましだ。
ゆえに、俺は魔王に剣を振るう。平和も和平もレジスタンスも今の世の中もすべて関係ない。もはや俺と魔王の意志しか介在していない、完全な私闘。迷いがあっても、剣を振るう。
「お前にだけは!」
「貴様にだけは!」
何度目かの剣戟。お互いに剣を受けきったところで――
「――!」
にわかに空が明るくなった。
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